『こちら前線司令部。イニシャルズ・クリーチャー達の殲滅完了を確認。皆さま、お疲れ様でした』
レッドゾーンBSRの撃破、そして超次元の穴の封鎖完了に伴い、イニシャルズ達は全て消滅した。後は事後処理を終えればDGAの作戦行動は終了となる。
「都庁庁舎と周辺に戦闘の被害がありますが、そちらは?」
『最後の最後に派手に壊してくれたようですが……問題はありません。デュエルフィールド内における建造物破壊は自動修復されるようアップデートが行われております』
「それは良かった。明日以降の仕事にも支障が無さそうで何よりです」
Jack-Potの護衛を終えた陽野テルタカは本部からの連絡を受け、ようやく一息吐く。ここまで大規模な作戦は久々であり、中々に神経を使ったようだった。
「陽野さんだったわね、皆を守ってくれてありがとう。とても助かったわ」
「任務で皆さんを護衛できて、こちらとしても光栄です」
「ふーん……もしかして、アタシ達のファン?」
「まあその、ファンの端くれでして……あ、今回上から指名されたのはそことは無関係のはずではあります」
「へー、よその学校の生徒にもオレらのファンがいるなんて、ちょっと嬉しいな」
そう、彼は彼女達Jack-Potのファンであった。栗茶fes以降、学校外に名が知れ渡った彼女達の歌に魅了された者の1人である。今回の作戦に指名された事は当人も驚いたが、結果として気が引き締まり良い動きが出来たと言えるだろうか。
「あの……!助けてくれて、ありがとうございました!」
「いえ、最初から間に合っていればあのように危険に晒す事も無かったはずですから。お2人には不手際で恐ろしい思いをさせてしまい、申し訳ない」
「でも、助けて貰ったのは事実だもの。……ヒーローみたいで、とても格好良かったわ!」
「……恐縮です」
少しばかり照れが入ったような表情で謙遜する。こうして彼女達に褒められるとは思っていなかったのだろう。
「お仕事だとしても、助けて貰った事にはお礼をしたいから……ご連絡先とか、いただけるかしら?」
「え、そんな他のファンに悪いですし……」
「大丈夫よ、バンドとファンではなく、あなたと私達個人としての事だもの。そうでしょう?」
「は、はあ…………ともあれ、本日はお疲れ様でした。機会が合えば皆さんの次の校外でのライブに行かせていただきますね」
「ええ、楽しみにしていて!」
かくして、ドラゴン娘達と新たな決闘者の縁がここに結ばれる。今後どのように育まれるかは……今は誰も知ることは無い。
* * *
「ふぅ、どうにか無事終わったようです」
「最後の方はホンマどうなるか思ったわ……」
北側タワー展望室にて、アーシュ達も作戦終了の連絡を受けて床にへたり込んでいた。最後の戦いでタワーを足場にサキトとレッドゾーンが激突していた際は、レッドゾーンの着地時にタワー自体が大きく揺れ生きた心地がしなかったようだ。
「まー、あーしたちがいたのあっちの南側展望室じゃなくてよかったよね」
「強敵だったのは分かるんですが、余裕が無いからって護守先輩もだいぶ無茶苦茶をやりましたよね……」
「流石にタワーの壁面に敵を押し付けたまま落下して斬るとは思わんわー!」
最後の一撃を食らわせる際、サキトはタワー最上部の壁にレッドゾーンを叩き付けた後、そこから壁面に押し付けたまま90m垂直落下してレッドゾーンを叩き斬った。よって当然南塔の壁面はズタボロである。
「あ、見てください。その壁が修復されてくのが分かりますよ。それにこの展望室の窓ガラスも」
「おおー、DGA凄いねー!」
「アフターフォローもバッチリなのネ。これは凄いデス!」
「人間の世界への被害を抑えるよう、どんどん技術を進歩させておるのだな……」
その戦いの傷痕も、みるみるうちに直って行く様を彼女達は間近で見る事が出来た。DGAの、ひいてはクリーチャー世界の高度な技術による力をある意味ではこれまでより強く感じる事が出来たと言えるだろう。
「あ、開発部からもう一つ連絡が来てますね……おお、朗報ですよ」
「え、なになにー?」
「今回原戸さんに預けた制御装置の観測データから、一王二命三眼槍を分離させる方法が見えて来たそうです」
「そマ?」
「おお!これで一歩前進したやん!」
「確実を期すためにもう少し研究が必要ですが、遅くとも今年の夏休みに入る前には実行に移せそうだそうです。順調に進んだなら、早ければGW前にもと」
今回の一件が、初の事情に思わぬ前進を見せる事となったようだ。何事も一度実践する事で分かる物もあるという事だろう。
「良かったですね!連休前に分離出来たら皆でパーティしましょう!」
「ん、やっぱ良い事したら良い事あるんだね」
「楽しみネ!では、皆と合流しまショウ!」
「うむ!しかし、あちらはケリは付いたようだが……大丈夫なのか?」
「……まあ、相手が相手でしたから、素直に喜べる決着ではないでしょうね」
そうして喋っているうちに、展望台の修復が終わりエレベーターも通常通りに動き出す。これでこの街に無事、日常が戻って来るだろう。
* * *
そして、両タワーの間にて。
「それで、あちらの先輩は消えてしまったでしか?」
「うむ、最後にしのぶを庇ってな…………」
「I see.先程穴に吸い込まれるように消えて行った光は、あちらの先輩のSpiritsだったのですわね……」
『禁断コアを全て砕かれて、最期には正気に戻れたのかな』
あちら側のサキトの消滅という結末に、彼女達アオハル組もそれぞれ思う所はありそうであった。彼はしのぶを攫いはしたが、彼女自身に危害を加える事は無かった。あのように成り果てても、禁断の意志に蝕まれても、大切に想っていたという証左であったのだろうか。
「──────しのぶ」
「先輩……こげん終わり方なんて、あっちん先輩が可哀想ばい……!」
「……可哀想だが、きっとあちらの俺は死を避ける事は出来なかっただろう」
「何でっ!?何でそんな事───」
「……あいつが部分的に思い出したからだ。俺との戦いに敗れ、ドルマゲドンの残り滓を砕かれた事で」
「っ!?」
レッドゾーンBSRと戦う最中、取り込んだマナからあちら側の自分の最期の思いが流れ込んで来た。
ぶつかり合い、互いの記憶が流れ込みながら戦った末。禁断の呪縛が失われた事で……『彼』は、もう1人の自分から流れて来た記憶により、自身の空白が少しだけ埋まった。家族、友人、同級生、DGAで繋がった仲間達の微かな記憶が。
そして……かつて失った友人の記憶。大切な物を二度と悪意と理不尽に晒させたくないと願った、彼の戦う意思の源が。
「元の世界に戻るにしても、こちらに置き去りになったとしても……いずれにせよあいつは、自ら死を望み実行しただろう───俺だったら、そうする。死んで詫びるだけで済むような罪ではないが、生きて何かしたところで償えるはずも無く、失われた物は決して戻らない。それに……自分自身の人生をきっと永遠に許せない」
「そんな……」
『倒れていた彼がずっと虚ろな表情だったのは、そういう事だったのかな……』
こちらの世界の自分に敗れ、僅かでも大切な人達の記憶を蘇らせられた時点で……彼は自らの死を受け入れていただろう。
「けれど……最期にしのぶを守る事が出来た。世界が異なる以上、たとえあいつが愛したしのぶとは極めて近い別人だったとしても……ただ無意味に自らを殺すのではなく、守るために命を使いきれた。それだけで、ひとかけらの救いにはなった──────俺は、そう思いたい」
失意と後悔しか残らなかったはずの最期を、少しだけ変える事が出来た。それだけで、『護守サキト』にとっては十分だった。
「……先輩、うち、あっちん先輩ん事ば忘れんばい。絶対に」
「……ああ、それがあちら側の世界の結末にとって、せめてもの弔いになるだろうな」
「儂らに出来る事は、あちらの世界の分まで精一杯生きて、未来を創る事じゃろう。悲しんでばかりはいられぬ、前を向かねばな」
『ドーラの言う通りだね』
「我が輩達の未来を、我が輩達の手で良い物にして行きたいでしね」
「さあ、皆waitingしていますわ。しのぶの無事な顔を見せてあげますわよ」
「……うん!」
決して、全てが良き終わりを迎えたとは言えない。それでも、この一つの事件は解決を迎え……明日がまた、やって来る。
彼らは生き続ける。終わってしまった世界に想いを馳せながら、今自分達がいる世界の未来を紡いでゆく。
「──────ところで、ここからどうやって降りるでしか?」
『……保守点検用の非常口とか、あったかな』
「……まあ、手っ取り早く行こう───ドギラゴン!行くぞ!」
「Wait!まさか、またjumpする気で──────」
『今度は「飛ぶ」から大丈夫だ──────1人ずつ行くからしっかり掴まって』
「わ、儂らも自力で飛べなくはないぞ?」
「そろそろフィールドが消えて、報道ヘリとかが来るかもしれないですから。俺以外の皆はドラゴンバレは拙いでしょう──────それ!」
「──────!!」
──────声にならない悲鳴が、空に響き渡るのであった。
1.5部、これにて完結!
2部では更に「1歩進んだ」彼らの戦いも予定しています。応援頂けると励みになります。