「……帝王坂さんの様子が少し変?」
──────2024年4月25日。
ゲーム部部室にて、デッキ調整を考えていたサキトはしのぶから小声で話しかけられた。
「そうたい。普段やったら行かん図書室ん奥ん方まで入って古か本ば調べたり、帰った後家とは違う方へ出歩いたり」
「それを逐一追って見てるのはちょっと問題だと思うがまあそれは置いといて。それで?」
「聞いたっちゃ表情にも出しゃんし、隠し事ばしとーっちゃろうけど心配たい」
ふむ、と腕を組み考えるサキト。扱いは雑だが∞にとっても付き合いの長いしのぶに言えない事となれば、クリーチャー絡みの事柄であろうか。
ちらと席に座りゲームを続ける∞の事を見るが、サキトでは彼女の表情から何かを読み取る事は出来そうにない。
「一応他の部活組にも当たってみますか。普段の繋がりは薄いとはいえあちらも同じくドラゴン娘なら何か知ってるかも」
「了解ばい。うちはドーラちゃんの方当たってみるね」
「んじゃこっちは美術部かな……芸術家志望なら普通とは違う感性で気付く事もあるかも」
そうして、今日は早めに帰ると言い、サキトは美術部へ向かった、のだが──────
* * *
『キシャァァアァ!』
「なんじゃこりゃぁあぁ!?」
美術部の部室に付いてみれば、何匹もの蟲がどこかから湧き暴れていた。
細長い体でのたうち回り、キャンバスを鋭い牙で突き破り荒らしている……《烈裂虫テンタクル・ワーム》だろうか。
「ぎゃー!我が輩の作品がぁ!おのれぇえぇぇ!」
「ひぃ!
美術部のマロンと、モデルで来ていたのだろうかテニス部のジュラ子がドラゴンの力で応戦しているが、1匹1匹が多数の触手を伸ばしてきてそれを払いのけるのに手間取っている。
「ええい、加勢します!」
『Duel field expansion. Dueltector summoning』
ともかく退治しなければ落ち着いて話も出来ない。手早くぷちぷちと潰していくのみだ。
* * *
栄光ルピアから革命チェンジ!サイバーエクス!破壊しろ!
駆除してくれるでしー!
Exterminateしてくれますわー!
* * *
「──────ふぅ、これで片付きましたかね」
数は多くとも1体1体は低パワーで特殊な能力も無い。片や怒り、片や生理的嫌悪感で混乱していた二人を落ち着かせつつこちらもクリーチャーで殴れば問題なくカタは付いた。
「Thanks.助かりましたわ……」
「うう、完成間近だったのに………」
部室と絵を荒らされ意気消沈するマロン。これでは話を聞けるか難しいだろうか。
「しかしまあ何であんなクリーチャーが大量に………」
「I'm not sure.なんだか急に現れて……」
「うーむ……」
ともかく後片付けを手伝うサキト。その間にようやくマロンは持ち直したようだ。
「はぁ……助かるでし。片付けをしてくれるとは」
「まあこの状況放っておくのもなんでしたし。それで、少し聞きたい事があるんですが」
二人に事情を説明する。とはいえ彼女達もあまり帝王坂∞の行動に関しては分からないといった様子。
「Sorry.ジュラ子達もドラゴンの力を与えられてから、初めて知り合った方でしたので……」
「……ただ、前から他とは違う感じはしたでし」
「というと?」
「我が輩たちがドラゴンの力を与えられて集まった時……なんというか、ただ無表情と言うだけではなく、あまり驚いていなかったように見える……というか」
「That's true.彼女だけ落ち着いた風に見えましたわ」
「ふぅぅむ……成程、ありがとうございました」
「今日は助かったでし。また今度お礼をするでしよ」
「Let's meet again!」
* * *
「……蒼斬さんも話は聞いてみたけど不発みたいなもの、か」
帰り道、桜龍学門前駅周辺のビル街をサキトは歩いている。
あの後合流は出来なかったが、下駄箱にメモが残されておりそのような旨が書いてあった。
推察できそうなのは、先にクリーチャーの事を知っていたか、もしくは。
「『ドラゴンの力を与えられた』……つまり彼女達の背後にも校長か同格の誰かがいて、その誰かに……帝王坂さんは他より先に会っていたとかか?」
本人に聞きでもしなければ実際の所は分からない。現状の情報のみではこの位しか読み解くことは出来そうに無かった。
「ともかく、明日学校で聞いてみるか。……新入生交流会の賛否投票も明日だったか」
そう、先日全校集会で新行事、新入生交流会開催が提案され各部は賛成か反対か部内で意見を出し合っていた。
現状ゲーム部内は意見が分かれている状態だが……
「成立すればGWを挟んで来月から開催準備になるわけだが……ゼオスさんしどろもどろだったけど大丈夫かね」
サキト個人としては応援したい所ではあるが、こればかりは全校生徒が彼女達に賛同する切っ掛けが必要だろう。
「ちょっと遅くなったしカドショ寄らずに帰るか……」
『きゃぁあぁぁぁああぁ!?』
「っ!?今の悲鳴は!?」
女性の悲鳴が響き渡った。場所は近い……!
「こっちか!大丈夫で………」
ビルの間、路地の入口に入ってみると、そこには……
路上に涙目でへたり込む桜龍高校の学生と、
その目の前でコートの前を開いた何者か。
「変態だぁ───!?」
思わず叫ぶサキト。これはこれで大事だが、自分の領分ではない状況なのではと頭を抱える。
「と、ともかくそこ動くな!警察呼ぶぞ……っ!」
「っ!?だめ、逃げて!」
携帯を取り出しながらじりじりと間合いを詰めようとしたところで、その何者かがコートを翻しつつサキトの方へ向き。
そこから
「っ!?」
上半身を逸らし危うくそれをかわす。
それと同時に、携帯が激しく震え通知する。クリーチャーの反応がごく近い所……目の前にある!
「っっっっぶねえ……!こいつ、クリーチャーか……!」
アプリに情報が表示される。《超復讐 ギャロウィン》……闇のクリーチャーだ!
「目を瞑ってろ!そうすればすぐこいつはいなくなる!」
「ひぃっ!」
襲われていた少女が目を閉じて縮こまる。その間に今日2回目の戦闘を始める。
『Duel field expansion. Dueltector summoning』
赤い閃光が奔り、収まった所で少女が目を開けると。
「え…………?」
そこにはもう、誰もいなかった。
* * *
「さぁて、さっさと離れてくれよ……」
いや、実際にはそこにいた。しかし、一般人ではデュエルフィールドの内部に入った者は認知できず、自ら入る事は出来ない。
「露出狂ならぬ刃物見せ付け狂ってか……?何はともあれ、ここでしばき倒す!」
『思イ通リニナルト思ウナヨ……』
シールドを展開し、まずはダブっていたメンデルスゾーンでマナを溜める。奴はW・ブレイカー、単独なら3回までは攻撃を受けてもどうにかなるが……
『ケジメノ時間ダァ!!』
「ちぃっ!」
2枚の盾が砕かれる。栄光ルピアと、バルチュリスが手札に加わるが本命はまだ来ていない。
「ドロー!バルチュリスをマナゾーンへ、メンデルスゾーン発動!山札の上から2枚……!くっ!」
ホーリーグレイスと、3枚目のメンデルスゾーン。これでは1マナしか溜まらず、“龍装”チュリスなしでは本命は出せない。
『ハァッ!』
「ぐおおっ!?」
繰り出された刃が再び盾を2枚砕き、サキトの首を掠める。狭い路地故に突き出される刃が躱し辛い。
「とっとと決着を……っ来た、シールドトリガー、メメント守神宮!」
1枚しか入れられない特殊な防御札、メメント守神宮が路地を厳かな空間へ変える。
これがあれば確実に延命が出来る。
「ドロー!バルキリールピアをマナゾーンへ、ボルシャック・栄光・ルピアを召喚!」
リコーダーを剣のように構えた赤い小鳥が現れる。ドラゴンの友たるファイアー・バード、その中の1羽は特殊な力を持つ。
「ボルシャック・栄光・ルピアの登場時能力で山札の一番上のカードをマナに!このときそのカードがドラゴンであったなら、もう一枚山札からマナにする!」
『いくっピー!!』
1枚目に送られるのは、ソウルピアレイジ!よってもう一枚がマナへ送られ、メガ・マグマ・ドラゴンがマナとなる。
現在計6マナ、次のターンには攻勢に出られる。
「すまんルピア、俺を守ってく──────」
『来ォイ!』
『復讐はこれからだぁ!』
「ちぃっ!?マジか!?」
次元の穴が開き新たなクリーチャーが出て来る。
片腕が巨大なチェーンソーとなったマスク男……《復讐 チェーンソー》!
その刃が唸りを上げ、栄光ルピアが破壊される。
『げぴー!?』
『ソォラァ!!』
「ぬおああ!?」
最後のシールドが破壊される。
トリガーは無し、今日はだいぶツイていない。
「だが、このターンでどうにかする!ドロー!」
引き当てたカードは悪くない。そも、勝負の趨勢は既に決している。
「バルチュリスを召喚!ギャロウィンへと攻撃、その際に革命チェンジ発動!現れろ、ドギラゴン閃っ!!」
『ギァァアアァアアァ!!』
頼りとするエースクリーチャーが現れ、戦場に吠え猛る。その咆哮は更なる仲間を呼ぶ。
「ファイナル革命発動!デッキの上から4枚を捲り、その中から多色クリーチャーをコスト6以内で好きな数場に!……よし、良いぞ!来い!切札勝太&カツキング!」
『よっしゃぁぁ!』
「カツキングの効果で山札の上から5枚見て……ボルシャック・ドギラゴンを手札に!ドギラゴン閃でギャロウィンを……破壊っ!!」
ドギラゴンの七支刀がギャロウィンを叩き斬る。
だが、「復讐」の侵略者は、ただでは死なない。
『オ、ォオォオオオオォ!』
『なんやて!?』
死に際のギャロウィンが撃ち出した刃がカツキングを貫く。
ギャロウィンの能力……自身がタップした状態の時に自身か他の仲間が破壊された際、敵を1体道連れにする力だ。
『やられたらやり返す、それが復讐の侵略者!』
「……だが、お前はもう詰みだ。他にクリーチャーを呼び出せる親玉はもういねえ」
これまでの各地の交戦結果で、クリーチャーとの戦闘で起こる事柄はデータが集まりつつあった。
クリーチャーが他のクリーチャーを呼ぶ頻度は、1ターンに1体。自身のコストを上回るクリーチャーを呼ぶことは無い。
そして戦闘時に追加で出て来たクリーチャーは、更なる味方を呼び出す力は持ち合わせない。
『だが守りはもうない!もらったぁぁぁ!!』
チェーンソーを振り上げ復讐を冠する侵略者が迫り……
『ぐぎゃ!?』
「ドギラゴン閃の能力……自分のターン終了時、自分の多色クリーチャー全てをアンタップする」
ドギラゴンの光盾がそれを弾いて、返す刀で斬り裂いた。
ドギラゴン閃の能力は、ブロッカーの弱点と言える「攻撃した次のターンには相手の攻撃をカバーできない」という点を補う力。
高パワーを活かしたサキトのデッキにおける攻めと守りの要、それが彼なのだ。
「ふぅ……ん?」
戦闘エリアの展開を解き一息つくと、ギャロウィンが落としたらしい赤い宝石が目に入る。
「こいつは一体……っあ!」
拾おうとした途端、その宝石はどこかへ消えてしまった。
デュエマフォン・アプリで追おうにも、反応はロストしている。
「何なんだありゃ……」
一つだけ分かった事。それは、一瞬とはいえアプリが解析した宝石の反応。
そこからは、特殊な闇のマナが検知されたという事だけだった。
* * *
『ふん……ワタシの邪魔はさせん。あの者には引き続き刺客を送るとしよう』
人気のない夜の桜龍高校のどこかの教室で、夜闇よりも濃い闇からの声が、そう呟いた。
意図的にアニメドラ娘本編の事件に顔を出せないよう誘導されているようです。
謎の声……一体何ナルクなんだ……