2023年、6月。母が倒れた頃から、テルタカの高校生活は暗い物となっていた。
母の代わりに家事を行わねばならず、入部した部活には顔を出せなくなった。
週に2・3回は見舞いに行くものの、彼女の容態は緩やかに悪化し続け。
疲労とストレスが溜まって行き……9月の半ばを迎えた頃、母はついに1度も目覚めることなく、息を引き取った。
結局何も出来ぬまま母を見送ったテルタカは、無気力になりかけていた。
家事に関してはは父が家事代行サービスを雇うようになり、時間的な束縛は無くなったものの……部活に復帰する気力も湧かず。
ただ家と学校を往復するだけとなり、このまま灰色の日々を何の目的もなく過ごしていくのではないかと思っていた。
10月の初めに、テルタカはSNS上である動画を見た。都内のとある私立高校にて、文化祭で行われた軽音部のバンドの演奏が映されたものだ。
素人がスマホで撮影した動画で、ライブの様子も途中から。質のいい映像とはとても言えなかったが……彼はその歌に、それを奏でる4人の少女達の姿に、心惹かれる物を感じたのだ。
編集も無く顔も隠されていなかったため、すぐに動画はポストごと削除された。故にそれ以上は追う事ができなかったが、彼の心にそれは刻み付けられ、生きる活力を与えてくれたようだった。
キーボードを奏でながら唄う、金髪の少女の姿は──────今も心に色褪せず残っている。
* * *
「…………俺のターン!《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ》をマナチャージし、ターンエンド!」
テルタカは今、母の仇たるヴァンパイア達、そのリーダー格と呼べる怪物……ブラッドゾーンと対峙している。その瞳は怒りに燃え、普段の穏やかさや冷静な態度は消え失せていた。
『叩き伏せてくれる、人間ッ!』
対するブラッドゾーンは、そのレッドゾーンに擬態した肉体のスペックを活かし殴りかかって来る。単純なパワーで言えば……その力は、オリジナルをも凌ぐ。
「っ、皆さん下がって!」
一気に4枚ものシールドが砕かれ、その破片が周囲に飛散する。テルタカは残るシールドをJack-Potメンバーを守る位置に移動させ、大量の破片を自ら受けてゆく。
「陽野さん!だ、大丈夫ですか!?」
「これしきの痛み、どうってことは無い……ここでこいつらを倒せるならっ!」
「……だいぶ熱くなってる。何か因縁でもあるみたい」
「く……プレイヤーの制御下に無い分、最初から“シールドを持たない”彼はフルパワーのようね……!」
ブラッドゾーンは素のパワーは18000を誇るが、そのパワーは自身を操るプレイヤーのシールド枚数×3000ポイント低下するという変わり種のクリーチャーだ。それが、プレイヤーとシールドを持たない戦いにおいては自身のデメリットを全く受けない強力なクリーチャーと化す。
テルタカは傷付こうとも怯まず敵を見据える。まだ、残る3体の眷属が仕掛けて来ようとしていた。
『我らも続くぞっ!!』
「そうはいかん……シールドトリガーが3枚発動する!《光鎧龍ホーリーグレイス》!《王道の革命 ドギラゴン》!ツインパクト呪文、《
『ぬうぅっ!?』
金色の鎧を纏うドラゴンが、そしてサキトも使用するブロッカー能力を持つドギラゴンが場へと飛び出し、更に緑色のドラゴンが炎を撒き散らす。
「超帝王タイムにより、コスト3以下のドラゴンではないエレメントを全て破壊!ザ・バットとザ・ナイトを焼く!」
『ぐぁああっ!?』
「更にホーリーグレイスの登場時能力、敵を全員タップさせ行動不能に!そして王道の革命の登場時能力によりデッキの上から2枚をマナへ送り、マナゾーンからクリーチャーを1枚手札に回収!……よし、《ボルシャック・大河・ルピア》と《竜皇神 ボルシャック・バクテラス》がマナに加わり、バクテラスを手札へ回収する!」
早くもテルタカの相棒が手札へと加わった。しかし、彼を登場させるにはまだ条件が足りていない。
「なあザーナ、あの連中なんなんだ!?」
「彼らはデュエマでもごく最近登場した種族よ。特徴は、相手の望む姿に変化する自在な変身能力!」
「な、何で相手の望む姿にわざわざ?」
「…………連中は獲物の望みを満たし、飽きさせた所で相手を喰らい、『退屈』の感情を糧とする生態です。こちらの世界ではどうやら、血を吸うような形で人間のマナと退屈を喰らってきたと見える」
「……それじゃあ、ここ最近あったっていう昏睡事件は」
「全て連中が、『V』が名に付くバンドに化けて観客を飽きるまで満足させ、マナと退屈を喰らっていたという訳です。
その上、一般人では被害者に共通する外傷を目で見る事が出来ず、ただ眠っているだけにしか見えないというのも、ここまで被害が続いた原因だ。だが、かつて身内が被害に遭ったテルタカが居た事により状況は一変した。
「俺のターン、ドロー!《地封龍 ギャイア》をマナチャージし、ツインパクト呪文、《ボルシャックゾーン》を発動!山札の1番上をマナゾーンへ!……メンデルスゾーンがマナに!」
「陽野さん、大丈夫!?」
「問題ありません、必ず勝ちます…………必ず母の仇を討ち、今度こそ守るために。ホーリーグレイス、ザ・ヴァンプを攻撃し、破壊!」
ホーリーグレイスが背負う砲台が火を噴き、残ったザ・ヴァンプを葬り去る。これで少なくとも1ターンの猶予がテルタカに与えられる。
『おのれ、我が眷属を悉く!』
「これで残すはお前のみだ。太陽に灼かれる心の準備をしておくんだな。ターンエンド」
『戯言を!カァァァァッ!』
「ドギラゴンでブロック、最後のシールドはやらせん!」
ブラッドゾーンの拳からテルタカを庇い、ドギラゴンが打ち砕かれる。この貴重な時間を、テルタカは勝利の一手へ変えんとする。
「俺のターン!ドロー!《超竜ヴァルキリアス》をマナチャージ、これによりマナゾーンにドラゴンが4枚の条件を達成した……自身の能力で4マナに軽減し、現れよ!《ボルシャック・ドリーム・ドラゴン》!!」
『グォォオオォッ!!』
炎を纏い、大いなる力を持つボルシャック・ドリーム・ドラゴンが降臨する。このボルシャックは、強大無比な革命チェンジ能力を持つクリーチャー達と極めて相性が良い、彼のデッキの要と言えるカードだ。
「登場時の相手クリーチャータップは今は必要は無い。さあ、行くぞ──────ボルシャックでブラッドゾーンを攻撃時、革命チェンジ!」
ボルシャック・ドリーム・ドラゴンが炎に包まれ、姿を変えて行く。彼が契約した、太陽の力を身に宿す暴竜爵へと!
「爆臨せよ!《竜皇神 ボルシャック・バクテラス》!!」
『オォォォオォオオォオォォッ!!!!』
灼熱纏う太陽の化身が、ライブハウスの中を照らし出す。しかし、その輝きにもブラッドゾーンは怯む事は無い。
『何を……返り討ちにしてくれる!』
「さあ、彼のフォーチュン・スロットはジャックポットを出すかしら……!」
「どういう事ですか、ザーナさん!?」
「バクテラスのパワーは17000、対するブラッドゾーンは、それを1000上回る18000……ここで対抗出来るクリーチャーを、バクテラスとボルシャック・ドリームの力で出す事が出来なければ、危機はまだ続くという事よ」
「イケるのかよ!?」
「パワーで対抗するか、除去能力を持つアーマードさえ来れば問題は無いわ。ただ、実際に引き当てられるかどうかは運命次第……!」
「まずはボルシャック・ドリームの攻撃時能力を解決!デッキトップを表にし、ドラゴンであれば場へ!それ以外ならば墓地へ!」
デッキの一番上は……ラフルル・ラブ!
「あまり良くはないが、バクテラスの効果で当たらなかった事は幸運か。ラフルル・ラブをバトルゾーンへ!続けて、バクテラスの登場時能力!山札の上から4枚を見て、その中からバクテラスではないアーマードを好きなだけ出す!」
「……っ!お願い、陽野さんを助けて……!」
「…………っ!!」
テルタカが運命の4枚を引く。そして、審判は告げられた。
「──────場に出せるアーマードは、3枚!現れろ、《ボルシャック・ドラゴン/
2体のボルシャックが、バクテラスの左右に現れる。2体のパワーはそれぞれ、上昇値込みで8000と15000。まだ及ばない……。
「──────そして、ボルシャック、ネオ・ボルシャック、バクテラスの3体を進化元とする!」
『ッ!?』
──────が。最後の1体が、全てを覆す。
3体のボルシャックがそれぞれ炎の渦へと変わり、それらが1本に収束する。そしてそれは次第に円盤状に広がり、炎で形作られた渦巻銀河へと変わった。
「暴竜爵の魂は時を超え、好敵手達の力と一つになる!
渦巻く銀河から現れるのは、聖と魔と龍の三位一体となった神の如きドラゴン──────。
「邪悪を討ち滅ぼせ!《竜魔神王バルカディア・NEX》!!」
『ウォォオオオォオォォオオオォッ!!』
そのパワーは、25000。単純戦闘能力でブラッドゾーンを上回り、更に呪文の完全封殺と敵クリーチャーの破壊、そしてデッキから如何なるドラゴンをも自由に呼び出せる……無類の力を誇る合体龍神!
『ば…………馬鹿なっ!』
「これで終わりだ──────焼き尽くせぇぇぇっ!!」
太陽の炎を宿したバルカディア・NEXの拳が赤き吸血鬼を微塵に打ち砕き、灰も残さずに焼き尽くした。
* * *
「はい、事後処理はお願いします。はい、はい…………それでは失礼致します、お疲れ様でした」
戦いを終え、サポートスタッフ達に事後処理を任せたテルタカは、楽屋へとお邪魔してJack-Potの面々と向き合っていた。
自販機で買った缶コーヒーで喉を潤し、漸く一息吐く。
「クリーチャーを倒して、事態は解決したのかしら?」
「ええ、連中を倒したことで奪われていたマナは戻り、被害者たちも目を覚まし始めているようです」
「良かったぜ、これで戻らなかったら後味悪すぎるもんな」
ブラッドゾーン達の撃破に伴い、病院で治療を受けていた患者たちも意識を取り戻した。事態はこれで完全収束したと言えるだろう。
「ところで、その……陽野さんのお母さんって……」
「…………ええ、一昨年の6月頃、まだDGAも発足する前の時期に奴らにやられまして。3ヶ月の間目を覚まさず衰弱し続けて、結局……」
「酷い……!」
「ボルシャックに出会いDGAに入らなければ、こうして仇を討つ事は出来なかったでしょう。俺は真のデュエリストの才があったからこそクリーチャーの痕跡に気付けましたが、存在を知らぬまま身内が犠牲になった人間も、数多くいるはずです」
「想像以上に、クリーチャーの起こす事件は厄介だね」
把握しきれていないだけで、テルタカの母のような被害者はまだまだいるだろう。クリーチャーの種類は多種多様であり、残す痕跡も同様である。DGAはこれからも、そういった隠れ潜むクリーチャー達を見つけ出さなければならない。
「お母さんを亡くして、辛かったでしょう……?」
「それはまあ、いつか目覚めて帰って来てくれると、願っていましたが……結局2度と帰りませんでしたから。けれど、それから半月経つ前に何とか立ち直る切っ掛けを、皆さんに貰いまして」
「ワタシ達に?」
「動画でですが、文化祭で演奏する皆さんを見ました。その時は結局Jack-Potの名は知らないままでしたので、正式にファンになったのは去年からという所ですが……正直、今直接関わり合いになっている事が信じられないくらいです」
「それって、わたしが入学する前の…………?」
「ええ。それが俺の心に響いて……前向きに生きる気力を貰いました。本当に、ありがとうございます」
テルタカは軽く彼女達に頭を下げた後、しゅうらへと向き直る。
「今のJack-Potの曲も好きですが……俺に力をくれたしゅうらさんの歌が、俺は大好きです」
「へ、ぇ……!?」
「もし機会があれば、また貴女の歌を聴かせて欲しいと思っています。……今日は色々とお騒がせ致しました、それでは」
再び頭を下げ礼をすると、テルタカは楽屋から去って行った。外の騒ぎを他所に、室内は静かな雰囲気となり──────。
「……お、お姉ちゃん!?顔真っ赤だよ!?」
「へっ!?あの、えっ、あ……め、面と向かって大好きなんて言われて、びっくりしただけだから!大丈夫!」
「いやいや歌の話!歌の話だぜしゅうら!?」
「でも、水晶が居る前で貴女の歌が大好きだなんて、ある意味熱烈じゃない?」
「イイわね!愛の無限オーケストラが響き渡りそうだわ!」
「も、もう!」
斯くして、夜の新宿を騒がせた事件は、賑やかな彼女達の声と共に終わりを告げるのだった。
4月14日の事件、これにて終幕!
パワー勝負にも除去能力にも長けたリースボルシャック、やはり使いでがあります。
次回はいよいよ、サキト側の事態も動く予定です。少々お待ちください。