それは、新たな因縁の幕開け。
「はい、もしもし護守です。──────本当ですか?」
──────2025年4月18日。
放課後のゲーム部部室に、サキトのスマートフォンが発する着信音が鳴り響いた。
発信者は、DGA本部スタッフ。何らかの重要な連絡である事は間違いなかった。
「分かりました。そちらに向かうのは……部活を終えてからで問題無い?千代田区までは1時間近くかかりますが……かしこまりました、では到着は夜になりますが、それまでそちらをお願い致します。はい、それでは」
「副部長どうしたんですか?」
「あー、ちょっと仕事関係の電話が」
「副部長の仕事……あれですか、DGAの!」
「言っておくが一般人にそう見せられるもんじゃないし、危険だから追っかけとかは無しだぞ」
「分かってますって」
時計を見れば、現在時刻は17時過ぎ。あと1時間程でゲーム部の活動は終わる頃合だ。
「というわけで部長、活動を終えたら今日は早めに帰らせて貰います」
『了解。気を付けて』
「勿論。……ん?」
∞に断りを入れすぐに了承される。しかし、間を置かずチャットアプリで彼女から個人メッセージが送られて来る。
“しのぶも連れて行った方が良いかも”
“探してた相手が見つかっただけなんだが……何かの勘みたいなものかな?”
“そんなところ”
“分かった。けど水泳部の終了時刻は18時半頃か。自宅でモルトを拾って行かねばならん事を考えると少しばかり遅くなりそうだ”
4月頃の水泳部は、プールにはまだ入れない時期であるためグラウンドで陸上練習を行い、基礎体力を付けているはず。今日も彼女達はグラウンドを走っているはずである。
“まあクリーチャー絡みでは何が起こるか分からないからな。帝王坂さんも気を付けて”
“私なら大丈夫だから”
ひとまずそこでメッセージのやり取りを終え、サキトはゲーム部の活動に戻る。2度目の新入生歓迎会における出し物も考えなければならないが……そこは何もかも初めてであった去年よりは案を出しやすいはずだと考え、一旦頭から追い出した。
* * *
「先輩、お待たせ!∞ちゃんなもう帰ったと?」
「ああ、メールした通りだ。それじゃあうちまで飛ばしていくぞ」
そして、時刻は18時40分。水泳部の活動を終えたしのぶと合流したサキトは、デュエラッドを呼び出して急ぎ家へ戻る事にした。
「ヘルメットはちゃんとしたな?」
「大丈夫ばい!」
『それではサキトにしのぶ、目的地はサキトの家で良いの?』
「ああ、頼んだ」
「まだ先輩んバイクから声がするん慣れんなあ……」
先月の1件以降、レッドゾーンZの意識が宿ったままのサキトのデュエラッドは、結果的にオートパイロット機能付きの高性能マシンと化している。
臨機応変に事態に対応出来るため、並のAI自動運転より遥かに高性能ではある。その上弱めのクリーチャー相手であれば戦闘も可能であるため、存外頼りになりそうであった。
『では、サキトはハンドルをしっかり握って、しのぶはサキトにしがみ付くように』
「あいよ、っと」
『では、出発』
「うぅわ!?」
問題は、少し目を離すと速度制限をオーバーしそうな所であった。これもソニック・コマンドの宿命か……。
ともかく数分でサキトの家まで到着すると、サキトは玄関からモルトを呼ぶ。
「モルト!とりあえず良い知らせだ!アイラさんが見つかった!」
「何だって!?」
「今DGAんスタッフしゃん達が見失わんごと監視しとーって!千代田区におるごたーばい!」
そう、人間世界に飛ばされる時、モルトと逸れたアイラがこちらの世界で目撃されたのだ。DGA総本部への転送ゲートが存在する千代田区で発見されたのは、ある意味幸運であろうか。
現在は直接の接触は避けつつ、実働部隊員であるユウキとモルトを保護しているサキトが現場に到着するのを待っているという状態である。
「よし、早速向かおう!」
「……つっても、バイクに3人は厳しいからどうしたものか。やはり電車か?」
『大丈夫、オプションを転送できるらしい。少し離れて』
「へ?うわっ!」
デュエマフォン・アプリを起動させたスマートフォンをハンドル部に接続したままのデュエラッドをレッドゾーンZが動かし、超次元ホールから何かを呼び出した。自動的にデュエラッドの側面に連結され、そのシルエットを大きく変える。
「おお……サイドカーになった」
『これでもう1人運べる。目的地までは、デュエルフィールドでコースを作り空を走る事を推奨する』
「なんて便利な機械だ……」
「そうだ、行く前にちょっと」
「先輩どげんしたと?」
一度サキトは自らの部屋に向かうと、1枚のカードを手にすぐ戻って来る。そして、それをしのぶに手渡した。
「しのぶ、帝王坂さんが何かありそうと言ってたから、念のためこれを渡しておく。しのぶ用のカードホルダーに入れておいてくれ」
「う、うん分かった……って、これ結構強力なカードやなか!?」
「しのぶの身を守れるならそれに越したことは無いよ。さ、行くぞ!」
『Duel field extension. Formative a course.』
サキトとしのぶがデュエラッドに跨り、モルトはサイドカーへと乗り込む。前輪から光が前方へ伸びて、空中へと光の道を描き出した。
『それでは、飛ばす』
「母さん、行ってきまあああぁぁぁぁぁ………!!」
出かける挨拶をまともに交わす暇もなく、彼らを乗せたデュエラッドは猛スピードで駆け出した。
* * *
家を出て20分。信号も交差点もカーブも無い光の道を駆けるデュエラッドは、目的地の千代田区役所までもう少しで到着すると思われた。
その時、DGA職員から連絡が入る。スピーカーモードで通話を開始すると、慌てた様な声が聞こえて来た。
「こちら護守サキト、もうすぐ現場に着きますが何かありましたか!」
『護守隊員!こちらで監視をしていましたクリーチャー、アイラさんですが、先程彼女がいる近辺にゾーンが発生しました!』
「何だって!?」
「ゾーンとは何だ!?」
「く、クリーチャーが凶暴化する変な空間ばい!うちらん街でも度々発生するばってん、こげん時に!」
DGAにとって、未だゾーンに関する調査は完全とは言い難い。被害が大きい災害であるため、発生したものに突入し内部のクリーチャーを殲滅、縮小消滅させる以外の手は今の所取れていないという状態だ。
『それだけではなく……発生したゾーンの境界から、アイラさんが内部へと何者かの手によって引きずり込まれました……!』
「何……っ!?」
ここに来て、更なるイレギュラーな事態。ゾーン内部から外部の者を引きずり込める何者かが居るとなれば、その者は相当な力を持っている可能性がある。
「仕方ない、ならば俺達と光明院さんで突入し対応します。他のスタッフはゾーン近辺の交通規制等の対応を!」
『既に開始しています!お気を付けて!』
「飛ばせ、ㇾッ……ゼッちゃん!」
『任せて』
デュエラッドが速度を上げる。信号も他の車も無い上空の道を駆け抜け、通常の道を行くよりも30分以上は時間短縮に成功している。
現地に近付いて来ると、大神宮通りを中心に拡大しつつあるゾーンが見えて来る。境界線付近をDGAのスタッフが固めており、集会用テントが張られた場所へ向けてサキト達は降りて行く。
「お待たせした!」
「御機嫌よう、護守様。そちらがモルト様と……護守様の良い人でございますね」
「先輩、こん人が……?」
「ああ、光文明のデュエルマスター、光明院ユウキさんだ」
「よろしく頼む。それで、アイラがこの向こうに居るのか?」
「はい。お気を付けくださいませ、わたくし達デュエリストに使役されていないクリーチャーの方には、何が起こるか分かりません」
薄く紫色に光る境界線の向こうに、荒廃した街が広がって見える。デュエルフィールドと同様に普通の人間には見えないらしいが、それでも時折迷い込む者もいるため、DGAは常にゾーンの発生と拡大状況に警戒を続けている。
「だが、俺がただ待っている訳には行かない。アイラにも悪影響が及んでいる可能性があるならば、猶更だ!」
「畏まりました。では、私に付いて来てくださいませ」
「しのぶ、気を付けてな。どんなクリーチャーが出て来るか分からんぞ」
「うん。不意打ちなんかには特に注意せなね」
「では、突入します」
そうして4人は、危険が待ち受ける領域へと足を踏み入れる。
* * *
「っ、く……!何だ、マナが減っていく……!?」
「大丈夫か、モルト?」
「元々マナの補充が上手く行っていなかったが、今は周りから全くマナを感じない。そのせいか、一方的に消費されていくように感じる……っ!」
ゾーンに入り込んだ瞬間から、モルトが不調を訴え始める。この感覚が、ゾーン内のクリーチャーが凶暴化する要因の手掛かりとなるのだろうか?
「……ねえ先輩、クリーチャーん姿が全く見えんばい」
「蒼斬さんの言う通りですわね。野生のクリーチャーの反応が見当たりません。そして、中心部に大きな反応がありますわ」
「以前も、ギュウジン丸と戦った時はゾーン内部が同じような状況だったな」
「ギュウジン丸が復活していたのか!?」
「確か、モルトは奴と戦った経験があったな……ああ、仲間の協力もあって、ドギラゴンと共に奴を倒したよ」
以前と類似した状況。つまりは、強大なクリーチャーがゾーン内を『掃除』し、待ち構えている可能性があるという事だ。サキトとユウキの気が引き締まる。
そして、中心部に近付くと……廃墟と化したビルの陰から、それは姿を現した。
『ほう……クリーチャーの気配が混じった者も居るが、貴様らがこの世界の生物……人間か』
「「「「ッ!?」」」」
捻れた4本の角、2対の腕、背に生えた左右の巨大な翼から悪魔の上半身が生える異形の魔神。その手には、剣と銃が組み合わさったような武器を携えている。
そして奴は、その掌の上に一人の女性を捕らえていた。
「アイラっ!!」
「手の上におる、あれがアイラさん!?」
サキトとユウキは、このクリーチャーの名を当然の如く知っていた。
「ついにお出ましか、煉獄大帝──────」
「──────キング・ロマノフ!」
早くも姿を現した、キング・ロマノフ。その目的や如何に。