【完結】どうしてこうならなかったストラトス   作:家葉 テイク

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第二七話「集え、黒兎部隊」

 正気に戻った鈴音は、やはり手ごわかった。

 変態達はツッコミ役が復活したので安心してエロ水着をイチカに提供しようとするが、鈴音はそれをちぎっては投げ、ちぎっては投げで応対していく。

 そんな中、業を煮やしたセシリアは紺の衣装に身を包みながらイチカへと突貫を開始した。

 

「ええい……こうなればわたくし自らエロ水着を着てプレゼンしますわよ! 見てくださいましイチカさん、このスクール水着を! まな板では出せないこの色気を!」

「あら? こんなところに衣装に不釣り合いなでっぱりがあるわね。あたしが均しておいてあげるわ」

「ロォォォドロォォォラァァァ!?!?!?!?」

 

 …………そんな感じで一部の変態は自らエロ水着を身に纏うことでイチカにプレゼン(ついでにセクハラ)しようとしていたが、復活した鈴音はそんな暴挙を許すほど甘くない。

 ギャルギャルギャルギャル!! と、人間では絶対に出せないはずの重低音を響かせながら、鈴音は巨乳山脈を整地していく。その身一つで山を作ったり均したりしたといわれるダイダラボッチにしか不可能な芸当に到達した蛮族に、変態達は恐怖の悲鳴を上げて逃げ惑わざるを得ない。

 

(うぐぅ…………過剰なセクハラからイチカを守るという大義名分はあるが、結局形はどうあれイチカに色目を使う女を排除したいだけなんじゃないか? やはり蛮族は蛮族か……)

 

 命からがら、鈴音の暴力から逃れたラウラは、物陰に身を隠しながらそう思う。

 このあたりは流石に軍隊仕込みのサバイバルスキルの賜物なのであった。まぁ、イチカを強襲したらコンマ数秒でバレてミンチにされてしまうのだが。

 

(このままでは埒が明かない。何か、何か打開策は……)

「隊長! 御無事でしたか!」

 

 と、そんなことを考えていた一人末期戦状態ことラウラに、彼女にとっては聞き覚えのある声が聞こえてくる。ラウラはそちらの方を見て、ニヤリと笑った。

 

「………………黒兎部隊(シュヴァルツェハーゼ)、やっと来たか」

 

***

 

 黒兎部隊(シュヴァルツェハーゼ)――――それは、冗談抜きでドイツ最高峰の戦力を誇る警察組織だ。

 …………警察組織、というのはISの軍用利用に対する方便であり、実際の所は殆どISを利用した軍事部隊という様相なのだが、『あくまで競技用規格で運用する』『矛先は常に国内に向いている』といった理由で黙認されているという、実に危ういパワーバランスの上に立っている組織なのだった。

 今回来日した彼女達も、流石にISは本国に置いて来ている。『暗殺のリスクとか気にしなくてはダメではありませんの!』と頭の固いセシリアあたりなら憤慨しそうな感じだったが、まぁイチカの為とあればそのくらいのリスクは呑み込めてしまうのが変態淑女である。

 その彼女達を、ラウラは秘密裏にイチカ籠絡の為に彼女達の協力を要請していたのだった。

 

「……以上が、現在の状況だ」

 

 というのも、黒兎部隊(シュヴァルツェハーゼ)の頂点――つまり隊長を務めるのが、ラウラ=ボーデヴィッヒである。

 言ってみれば、ラウラはドイツ最強の人類なのだ。

 

「鈴のガードは堅い。私が行ってもコンマ数秒で屠られてしまうだろう…………。相性の問題というヤツだ。我々(ボケ)連中(ツッコミ)には勝てない。……その上で、貴様ら、何か良い案はないか?」

 

 いつものおとぼけはどこへやら、上官の威厳すら漂わせる凛々しい表情で、ラウラは部下の意見を聞く。

 すると、打てば響くように部下の答えが返ってくる。

 

「作戦があります」

 

 部隊の副隊長、左目をラウラと揃いの眼帯で覆った黒髪の美女――クラリッサ=ハルフォーフは、現在進行形でラウラの頭を撫でながら言った。

 …………というか、ラウラは現在、そのクラリッサにまるでぬいぐるみのように抱きすくめられながら部下たちに意見を仰いでいた。凛々しいのは表情だけで、あとはどこからどう見ても親戚一同に可愛がられる可愛い姪っ子みたいな感じである。

 

「はぁはぁ……隊長かわいい……」

「隊長と副隊長(おねえさま)のイチャコラ……癒される……」

「この為に生きていると言っても過言ではない」

「ミリタリー系天然ロリとかそれだけで個性の塊よね…………没個性とか何それ意味わかんない……」

 

 真性のクソレズっぷりを炸裂させる部隊員だったが、一応遠くから愛でているスタンスの為ラウラには聞こえていないのであった。この世の変態は、TS紳士淑女だけとは限らない。

 それはともかく。

 

「して、作戦とはなんだ」

「隊長の情報は既に敵側――――凰鈴音に知られてしまっています。その状況で何をしようとも、相手は手の内を知っているわけですから十全に対応されてしまうものと思われます」

「それは分かっている。だからこそ、貴様らの知恵を借りようと思って召喚したのだ」

「どうせなら、知恵だけでなく手もお貸しいたしましょう」

「……なに?」

 

 さらりと言った副隊長クラリッサの言葉に、ラウラの隻眼が怪訝そうに細められる。

 

「要するに、隊長は鳳鈴音と仲良くなりすぎたのです。そのせいで遠慮なく攻撃されるようになってしまい、隙がなくなった。であれば、解決策は簡単です。彼女とそこまで親しくない、つまり遠慮が存在するであろう『部外者』の私達が、イチカちゃんに接触すればいい」

「…………なるほど……。適当な観光途中の外国人を装って、変態とは判定されない程度のミーハーなやり口でイチカに接触すれば、鈴の干渉を阻害できる。あれでヤツは理不尽ではないからな。気心の知れた相手でなければ、問答無用で攻撃することはしない」

「では」

 

 言ったクラリッサに、ラウラは頷いて。部隊長としての威厳に満ちた声で宣言する。

 

「ああ。その作戦で行こう。全体の指揮は私が行う。チャーリーとデルタは(アルファ)の補佐。エコーからジュリエットまでは各所に散ってクラリッサ(ブラボー)のサポートだ。行くぞ――――行動開始!!」

「イエスマム!!」

 

***

 

「イチカちゃん、……この服とかどう? …………今年の女児アニメのヒロインをイメージしたデザインの水着で――」

「いや、流石に子供向けはサイズないでしょ……」

「うぐぅ……、やっぱり鈴ちゃんじゃないと無理かしら……」

「アンタが着れば良いんじゃない? 手伝ってあげるわよ」

「ぎゃああああああああああああ縮む縮む背が縮められるううううううううう」

 

 ゴリゴリゴリゴリ! と逆ジャックハンマー現象を引き起こしたり引き起こされたりしつつ、イチカの水着選びは順調に(?)進んでいく。ツッコミ役の面目躍如とばかりに変態を屠っている鈴音を尻目に、イチカはその場から少し離れた場所へと移動した。

 少しは自分の趣味でも水着を選んでみたかったからだ。

 

(…………って言っても、服の好みなんてないけどな。う~ん…………弾だったら、どういうのが好みなんだろ?)

 

 なんて思いつつ、イチカは水着売り場を練り歩く。

 

(そういえば、弾は白のビキニが好きとか言ってたっけ? 試しにそっちでも見てみるかなぁ)

 

 あくまで女性用水着にこだわりがないから身近な同性の友人の好みを思い出しているだけであって別に弾個人の好みをことさら意識しているというわけではないイチカがビキニ売り場にやって来た、ちょうどその時だった。

 

「あらっ」

 

 ちょうど売り場の角に差し掛かったところで、イチカの視界はあるもので埋められた。

 直後、もふっという柔らかい物にぶつかった感覚がやってくる。

 

「――は!? すみません!」

 

 超人的な速度で飛び退いたイチカは、そう言って頭を下げる。何だかんだ言って、イチカはまだまだ男だった頃のことを忘れた訳でもない。こういう『出会い頭に前が見えなくなる』場合というのは、彼女にとってはたいてい『女の人の豊満な胸に顔を埋めてしまっている』のだと相場が決まっていた。

 

 果たして、イチカの予測は正しかった。

 

 彼女の目の前に立っていたのは、黒髪を肩くらいの長さで切り揃えた女性だった。左目は怪我でもしているのか、白い医療用の眼帯をつけている。

 服の上からでも分かるほどの巨乳をカジュアルなスーツで包んでおり、露出こそ少ないが健全な青少年的には大分過激だった…………が、生憎イチカ的には、『見知らぬ女性=見知らぬ変態』の図式が成立してしまっているので、それ以前に思わず身構えてしまうのだった。

 

「……あら? もしかして、ISの織斑さんかしら?」

 

 それだけに、目の前の女性のきょとんとした声に思わず肩透かしを食ってしまったが。

 

 …………勿論、賢明な読者諸氏は既に気付いているだろうが、彼女は一般人に見えるように変装を施したクラリッサ=ハルフォーフその人である。

 彼女の台詞には、いくつかの罠が潜んでいた。

 まず、初見でイチカと看破したこと。これはともすると『自分のことを知っている=変態?』とイチカに警戒を促しかねない行為だが、実際のところイチカの知名度は全世界的である。下手に知らないフリをする方がイチカに警戒を抱かせかねないので、こうしておく方が却って油断を誘いやすいのである。

 次に、『ISの織斑さん』という呼称である。『女の子になるイチカちゃん』ではなく、それよりも大きな『IS』という枠組みに入れて語ることにより、『その業界への理解が浅い』という印象を覚えさせやすい効果を生み出しているのだ。業界人に対しては失礼にあたる(例えばセシリアにやれば不興を買うこと間違いなしだ)が、そうしたプライドが乏しく、むしろ自分を特別視されていることに辟易している節のあるイチカにとってはこちらの方がよほど効果的である。さらに、『くん』ではなく『さん』と呼ばれることで『女性である自分に違和感を覚えられていない』と認識させ、肩に余計な力を入れることを防いでもいた。

 最後に、きょとんとするという動作。変態がイチカを相手にすれば、どうしても本能的に身構えてしまうものだ。目の前に極上だと一目で分かるステーキがあれば、誰だって唾液を呑み込んでしまうのと同じように、イチカに対するそれは変態であればほぼ条件反射的に発生する。クラリッサはそれに対し、溢れんばかりの『隊長愛』で対抗した。これは彼女がTS嗜好の中でも『TS転生モノ』を専門としていたからこそ可能だった離れ業でもあるが――ともかく彼女は本能から来る動作を抑え、イチカの安心を勝ち取ったのだ。

 

「あ、えと、はい、そうです…………」

「本当!? いやだわ、ついてるじゃない。もしよかったらサインもらっても良いかしら」

「さ、サイン!? いや、俺そんなの書いたことないし…………」

「うっそ、じゃあ私がサイン第一号!? それって凄いじゃない! 奇跡!? ああ神様ありがとう!」

 

 クラリッサはそう言って、両手を重ねて信じてもいない天の神様に祈りをささげる。

 

「き、聞いてないし……。外国人さんってみんな押しが強いのか…………? ……いや、考えてみればセシリアもラウラも、変態はみんな大体外国人か……」

 

 その割には箒とか簪とか楯無とかも立派に変態なのだが、イチカ的には外国人の『押しが強い率』にはかなりのものがあったのであった。

 というわけで、そんなクラリッサにイチカは早くも圧倒されてしまっていた。

 もちろん、これもクラリッサの作戦である。

 こうしてイチカの反論を封じてまくしたてつつ、それでいて変態トークを封印することでイチカに『困った人だけど変態ではないから強く出づらい』という意識を植え付けているわけである。

 

「(ククク…………ISは想いで動かす兵器。つまりそれを操る者は、想いを操るプロでもあるというわけだ……。我が部下ながら恐ろしい女よ、クラリッサ……)」

 

 その様子を物陰から観察しつつ、ラウラは内心でほくそ笑んでいた。

 しかし、ここでイチカが動く。

 

「ごめん! サインとか、そういうのはやってないんだ! だから悪いけど、できない」

 

 ぱちん! と両手を顔の前で合わせ、申し訳なさそうに頭を下げるイチカ。しかし、その声にはしっかりとした意思の力が宿っている。いくら押しが弱くて流されやすいとはいえ、自分の意見を言えない性格というわけではないのだ。

 そして、クラリッサとしてもそこまで言われてはあまり強くは出られない。

 

「えー…………、それじゃ仕方ないわね。じゃあ、代わりに私の水着を選んでくれない?」

「え?」

 

 …………が、最初からそれがクラリッサの狙いだった。

 右手をそのすらりとした腰に当てながら、クラリッサは呆然としているイチカに向かって続ける。

 

「だから、私に似合う水着を選んでほしいの。せっかく織斑さんに会えたんだもの。『織斑さんに選んでもらった水着』なんて、サインと同じくらい光栄だと思うの。これならいいでしょう?」

「は、はい、まぁ…………」

 

 にこりと笑うクラリッサに、イチカは思わず頷いてしまった。

 よく考えたらいきなり『私に似合う水着を選んで』なんて何をどう考えてもおかしいのだが、いきなり現れた外国人観光客にサインをねだられたりなんだりで感覚が麻痺しているイチカはそのことに気付けない。

 

「(あっという間にあそこまで……やはりヤツは手練れだな)」

「(隊長と違って副隊長(おねえさま)は何回か()()()()()()ガチ勢ですし……)」

「(ん? おねえさま? 揉み消してる??)」

「(あっべ。別に何でもないです)」

 

 不穏な情報が提示されつつ、

 

「えーと…………じゃあ、これとか?」

 

 そう言いながら、イチカは白地に黒で縁取りされたノーマルなビキニを取り出した。さきほどラウラにおススメされていた逸品である。ラウラにしては(イメージカラーとの兼ね合いとか)常識的なセンスだったが、いかんせんボトムがローライズすぎる為、イチカの羞恥心的にちょっとダメな感じだったのだ。

 それでも無理やり着せようとしていた為、ラウラは鈴音に折檻を受けるハメになってしまったが。

 ただまぁ、目の前のこの女性はそういうこととか気にしなさそうなタイプだし、別にいいか――という考えもあった。

 

「ふんふんなるほど――――」

 

 それを受け取り、クラリッサは興味深そうににんまりと笑い、

 

「――――じゃあ、これ二着ね」

「へ? 二着? なんで?」

「なんでって…………アナタの分だからじゃない」

 

 クラリッサはさも当然と言わんばかりに答える。が、イチカとしては意味不明の極致である。なぜ、自分が何気なく薦めた水着を自分で着ることになるのであろうか。そんな疑問がイチカの頭を埋め尽くす。

 

「心理学の話をしてあげましょう」

 

 クラリッサはそう言って、講釈する先生のようにピンと人差し指を立てる。

 

「あなた、自分が着る水着をどうしようか悩んでいたでしょう?」

「っ、なんで……」

「一人で水着売り場をうろちょろしているってことは、まだ水着が決まってない状態ってことだからね」

 

 言われてみればその通りであった。

 

「そして、人に薦めるものというのは、たいていその人が好きなものなのよ。誰だって、自分が嫌いなものは人に薦めたりしないでしょう?」

「た、確かに…………」

 

 イチカが選んだのは単に『さっきラウラが推してたから』というだけの理由なのだが、もっともらしい発言にイチカは思わずペースに乗せられてしまう。

 …………というところからも分かる通り、これが心理学的な話だ、なんていうのは真っ赤な嘘。だが、この時点では嘘でしかないとしても、これから真実にしてしまえば嘘は嘘でなくなる。

 これは、そうなるようにイチカの思考を誘導する為の話術だった。

 

「つまり、あなたは深層心理ではこのビキニに興味を持ってたってこと。そうねぇ……『誰かに見せるなら、こういう水着がいいな』って思ってたり、とか?」

「!! …………」

 

 クラリッサの言う『誰か』とは――つまりイチカ自身に他ならない。この前の段階で既にラウラ達が『イチカ自身に自分の姿を意識させて男として意識させる』話をしていたことは、クラリッサも知っている。その話の流れで、ビキニを身に纏った自分の姿を想像させようという魂胆なのだ。

 その一言にイチカの表情が固まるが、イチカの思考を誘導する話術を開陳するのに夢中なクラリッサは気付かず続ける。

 

「何にせよ、あなたは心のどこかでこの水着を着てみたいと思っていた。まぁでも、日本人はシャイな人が多いからねぇ……。私が言わなかったら、心の底に隠したままだったかもね」

「な、る、ほど…………」

 

 気付けば、イチカの顔は真っ赤になっていた。

 まるで、気付いていなかった自分の気持ちに気付いてしまったかのように。

 

(…………フフ、羞恥攻めとしてはなかなか上出来だったかしら。隊長、私はやりましたよ…………!!)

 

 その赤面を、『ビキニを身に纏った自分を想像した』ことによるものだと判断したクラリッサは、自身の作戦の成功を確信する。

 その上で、軍人クラリッサは油断しない。

 最後の駄目押しを、敢行する。

 

「まぁ買うにしろ買わないにしろ、一度試着してみたらどうかしら? 心配ならお姉さんも一緒に試着してあげるから」

 

 そう言って、相手を安心させる優しげな笑みを浮かべて見せる。

 

(織斑イチカの趣味が年上に傾いているのは既にリサーチ済み……! 年上美女のセクシー水着姿に悩殺されることで本来の目的を達成し、ついでに隊長も織斑イチカのセクシー水着を見れて幸せ…………ククク、一石二鳥とはこのことよ!)

 

 そして裏では勝者の笑みを浮かべるクラリッサを遠目に、ラウラは人知れずガッツポーズしていた。

 

「よし……! よくやったぞクラリッサ! これでイチカはスリングショットを身に着ける! 我々の勝利だ!」

「ほ~お、誰の勝利だって?」

「それは勿論、我々黒兎部隊(シュヴァルツェハーゼ)………………ん?」

 

 そこまで言い切って、ラウラは疑問を感じる。

 今、自分の背後で声を発したのは一体誰だ?

 

「は、いや、まさか…………そんな…………!!」

 

 震え、冷や汗すら流しながら、ラウラはゆっくりと後ろを振り向く。

 それはない、今の今まで『ヤツ』は変態達の猛攻を水際で食い止める為に動けなかったはず…………そう考えたところで、ラウラは背後の光景を目撃した。

 

 その場に佇んでいたのは、言うまでもなく凰鈴音。

 しかし、彼女が背負っている光景は異様だった。

 死地。

 まさしく、そう呼ぶのが相応しいだろう。

 彼女の背後には、倒れ伏したセシリア、箒、シャルロット、簪が転がっていた。

 そう…………これが、変態達の波状攻撃に対する鈴音の回答だった。

 つまり、次から次へと湧いて来てキリがないのなら、一回全滅させてしまえばいい、と。

 そうすれば、自分の行動を阻むものは誰もいなくなる、と。

 

「馬鹿な……! まだその時点では変態行動をしていないものだっていたはずだ! そんなヤツらにまで攻撃を加えたというのか……!?」

「どうせ放っておいたらなんかするでしょ。推定有罪よ。十分攻撃対象だわ」

「そんな、むちゃくちゃな……!?」

 

 傍からみたらどっちがむちゃくちゃか分からない有様だったが、ともあれラウラは考えを切り替える。ここで重要なのは、鈴音が既にラウラのたくらみを察知してしまったというその一点だけだ。

 

「ひ、引き返せ『黒兎部隊(シュヴァルツェハーゼ)』!!」

「させると、思った?」

 

 メシィ!! と。

 ()()()()()()が軋む音が、その場から響き渡る。

 

「うッ、うおおおおおおおおッ! 『黒い(シュヴァルツェ)》、」

「遅い」

 

 その直後、鈍い暴力の音が短く連続した。

 

***

 

「…………というわけで、馬鹿どもがなんかしてたみたいだけど、あたしが片付けておいたから安心していいわよ」

「まさか、道端でばったり会った外国人のお姉さんまでラウラの手先だったなんて……」

「アンタ、気を付けなさいよ。もうこの世界は大体変態しかいないんだから」

 

 まともな人間が少数派。なんかゾンビ映画みたいな感じである。

 

「うん、分かったよ。結局、『あの話』も嘘っぱちだったらしいし…………」

「あの話?」

「いや、こっちの話」

 

 そう言って、イチカは水着売り場に戻してきた、白地に黒く縁取りされたビキニ水着を一瞥する。

 

「………………、」

 

 その横顔は、どこか上気しているようにも見えた。


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