【完結】どうしてこうならなかったストラトス 作:家葉 テイク
「えー……と、ご、五反田弾、です。よろしくお願いします…………」
と、いつもの威勢はどこへやらといった自己紹介をした弾の目の前には、複数の美少女が鎮座していた。
篠ノ之箒、セシリア=オルコット、シャルロット=デュノア、ラウラ=ボーデヴィッヒ、更識簪。
それだけでなく、織斑千冬、篠ノ之束、更識楯無、布仏虚。
そして横に座っている、織斑イチカと凰鈴音。
どれをとっても、世界レベルの有名人であり、イチカと鈴音はともかくとして、一般人である弾では一対一でも会うことが難しいほどの存在だった。
そんな美少女(美女)が目の前に勢ぞろいしているのだから、彼が固まってしまうのも仕方がないと言えるだろう。
「篠ノ之箒だ。私がいなくなってから、イチカが――いや、一夏が世話になったようだな」
「セシリア=オルコットです。お噂はかねがね伺っておりますわ――――『親友』さん」
「シャルロット=デュノアです。まぁまぁ、そんなに硬くならなくて良いから。気楽にね」
「ラウラ=ボーデヴィッヒ。…………お前が五反田弾、か。なかなか悪くない面構えだ」
「……更識、簪です…………。……そういえば私、男の人とまともに会話するの初めてかも」
軽く頬に手を当てる簪を窘めるように、少し離れたところに座る楯無が続ける。バッ、と広げられた扇子には、『初めてって言うけど……』と書かれていた。
「簪ちゃん、一応イチカちゃんも男の子なのよ。……ああ、私は更識楯無。よろしくね」
「楯無お嬢様の従者を務めております、布仏虚と申します。以後、よろしくお願いします」
「そして我なるは世界最高の頭脳と名高き天才科学者、篠ノ之束さんなのであった!!」
「――――そして私と、鈴とイチカで、今ここにいる全員になる」
最後に締めくくるように言った千冬の近くには、既にビールの空き缶が転がっていた。どっかりと、着物が肌蹴るくらいの勢いで片膝を立てて座っている体勢と言い、普段の彼女――『織斑先生』のイメージからは程遠い有様だったが、周りの少女達は特に気にした様子もない。
というか、諦めの境地が見えていた。ここに至るまでに一通りリアクションは済ませてきたといったところだろうか。
「今日、お前達に此処に来てもらったのは、他でもない」
千冬は、その女性とは思えないほどに豪快な姿勢のまま、
「
――――当たり前のように。
みんなの悲願を、口にした。
***
「………………ちーちゃん、それ、本当?」
最初に口を開いたのは、世界最高の頭脳を持っている束だった。
「この束さんが四方八方手を尽くしても見つからなかったんだよ? それを、見つけた? ちーちゃんが一人で? …………私人としては大歓迎だけど、世界最高の頭脳としては『何かの勘違い』あるいは『致命的なエラーに気付いていない』という可能性を考えちゃうね。戻るは戻るけど
「私を侮るなよ、束」
珍しくおふざけなしの真面目な雰囲気で、怪訝そうな表情を浮かべる束に、千冬はあくまで不敵な笑みを返した。
「この織斑千冬は万能だ。ようは、
………………なんかもう因果論を無視した、哲学的な領域にまで首を突っ込んだ話になっているが、気にしてはいけない。元より彼女のいる世界とはそういうものであるからして。
「……でも、だとしたら何で俺らを呼んだんです?」
そこで、弾が真っ当な疑問に気付く。
千冬が自分一人の力で解決できてしまうなら、彼女達や弾を呼んだ理由がなくなってしまう。
そんな疑問に答えるように、千冬は肩を竦めた。
「私は万能だ。だが、全能でもないんだよ」
「いや、全能だったら困るけども」
「つまり、だ。いくら私の力で因果を捻じ曲げたとして、イベントをこなすのに必要なアイテムが手元になかったら、どう頑張っても話を進めることはできないのだ」
「…………まさか」
そこまで話が進んだところで、専用機持ちの面々の表情が変わる。
「その『アイテム』が、あたし達…………ってことですか?」
「その通りだ。イチカの周辺人物と言えばお前達だからな。イチカを元に戻すのには、お前達の存在が必要不可欠となる。あとは、私の力で必要な因果を省略してしまえば、後には『男に戻れるようになった』という結果が残るわけだ」
「………………、………………ふぅん。なるほど、ね」
何やら訳知り顔になった束は、そうやって頷くと、ぱっと顔を明るくする。
「さっすがちーちゃん! 束さんとは
「お、おお……姉さんが笑ってる……ということは!」
「イチカさんが戻れる目途が、これで立ったってことですわね!」
それを見て、ようやっと専用機持ち達の表情も明るくなる。なんだかんだいって、彼女達もかなり気を遣っていた、ということだ。今までの努力があんまり報われなかったというのは少し複雑でもあるが、イチカが戻れるのが彼女達にとっての第一条件。それに比べれば、ゲームの救済措置みたいな解決の仕方でもどうということはない。
このまま千冬が『因果の省略』とやらを済ませれば、イチカは元通りに戻ることができ、
「させると、思うかァ………………!!!!!!」
――ると、その場の殆どの人間が思った、その瞬間だった。
ゴバッ!!!! と壁が破壊され、漆黒のISアーマーを身に纏った少女が部屋の中に乱入してきたのだ。
「やはり来たか。束」
「あいさー☆ まったくこんなコソ泥一つ捕まえるのに束さんを使うなんて、なんてオーバーキルなんだろうねっ」
欠片だけでも三回は死ねるであろう壁の礫をその場で残らず消し飛ばしながら、千冬は落ち着き払って束に指示を下す。直後、破壊されたはずの壁が一瞬にして修復され、部屋全体に淡い光が充満する。いったいどんな科学に基づいて行われているのかも不明な現象を前にしても、乱入者の少女は止まらなかった。
「やっとここまで辿り着いたのだッ!! イチカちゃんが完全に『定着』するまであと数時間というところまで! 今更、こんなところで、意味不明な反則技なんかに一番おいしいところをかっさらわれて、たまるかッッッ!!!!」
乱入者の少女はそう叫ぶと同時、イチカに銃口を向ける。
少女達が動いた、次の瞬間だった。
ゴッッッ!!!! と、コンマ数秒のうちにISを部分展開し、乱入者の少女に正確に狙いを定めていた専用機持ちの面々は、全く同じ瞬間に地面に叩き伏せられる。
乱入者の少女が構えた銃身から、光の矢が放たれ、
そして、その矢は過たず、イチカの胸を貫いた。
****
「――――く、く」
倒れ伏したイチカを見下ろし、その少女は――――マドカは、ただひたすら昏い笑みを浮かべる。
もちろん、殺した訳ではない。イチカを愛する者である彼女に、殺すどころかイチカに対してキズ一つつけることは不可能だ。
であれば、彼女はいったい何をしたのか。
「『自分と向き合わせる為のお膳立て』だよ」
笑いながら――哂いながら、マドカは勝ち誇った。
「既に織斑イチカは
それは、狂笑だった。
まるで、勝ちが分かっているとでも言うかのように。
「……フン。貴様はそれに加えて、
馬鹿らしいものを見たとでも言いたげに、千冬は笑う。
「……っ!? ………………いや、今はいい。あらゆることは、イチカちゃんの『再誕』に比べればどうということはない!! そうだ! 私は確かに
「別物だ、馬鹿者が」
ゴッッッ!!!!!! と。
瞬間、マドカが地面に叩き伏せられる。
まるで、その場の支配者が切り替わるかのように。
「この私が。この織斑千冬が、貴様の――いや、
しん、と――――その一言で、その場が静寂に包まれる。
いや、確かにおかしくはあったのだ。
IS学園のセキュリティを超えて、旅館に捻じ込まれた弾を確認したにも拘わらず、『問題なし』とした判断。
そんなことができるならば最初からしておけよと言わんばかりの、前提を完全に無視した無理やりな解決方法。
突然の敵襲だったにも拘わらず、『やはり』などと言って最初から分かっていたかのような、手際の良い対応。
叩き伏せられた専用機持ちに何故か怪訝な表情を浮かべたマドカ、そして想定していたのに動かない千冬と束。
それらが導き出す真実は、ただ一つ。
「私は、織斑千冬は、根本的に全能でもなければ万能でもない――ただの人間だ」
そこについては大いに異論の余地が残るところだが。
「弾を旅館に捻じ込んできた時点で、貴様らの組織が暗躍していることは容易に想像がついた。だが、ただの人間である私はこの時点で動くことができなかった――イチカが男に戻る手段が全く見つからなかったからだ」
千冬はそう言って手を振る。ズガガガガガガッ!! と不可視の力場がマドカの全身六四カ所に突き刺さり、彼女の身動きを完全に封じる。
人間とやらの可能性を強く感じさせる光景だった。
「そこで私は一計を案じた。この状況で貴様らが動くとすれば、それはイチカの女性化を確実にする為のものだ。ゆえに――――私が『イチカを元に戻す方法を見つけた』という
「な…………!?」
つまり。
最初から、『イチカを元に戻す方法』なんてものはなかった。
そう吹聴すること自体が、マドカをおびき寄せる為の餌だった。
『………………、………………ふぅん。なるほど、ね』
そのことが理解できたから、束もあっさり引き下がったりしたのだ。
たったあれだけのやりとりでそこまで理解できてしまう束も束で、相当のバケモノだが。
「何を驚いているのやら。考えてみればすぐに分かることだろう。大体、私はただの人間だぞ。因果の省略なんて化け物じみた真似ができるわけないだろうが」
「いや、そこに関しては千冬さんならもしかしたらって思っちゃうのよ…………」
やれやれと呆れる千冬に、鈴音は疲れたように笑った。『この人なら何ができてもおかしくない』という印象は、ある意味最強のブラフである。
「そして、貴様がその『策』をイチカに叩き込む寸前にその技術を解析し、こちらの目的の為に逆用させてもらった。……『イチカが女に傾きやすくなる』効果だけを取り払い、『イチカに自分を見直させる』効果だけを残す、とかな」
「な、そんなめちゃくちゃな…………!?」
思わずマドカは悲鳴のような声を上げるが、千冬は全く気にしない。
「もっとも、その策を成功させる為に専用機持ち五人を叩き伏せ、イチカの動きを止めるのは――少々骨が折れたがな。…………全く、どいつもこいつも成長したものだ」
「あ、ぁ、…………」
桁が違う。
マドカのたくらみなど、その気になれば小指一つ動かさずに阻止できただろう。あるいは、ここまで作戦が続いていた
それだけにとどまらず、千冬はマドカの渾身の策を、今度は自分の為に逆用までしてみせた。
――最初から、見据える先のスケールが違いすぎていたのだ。
「つまり、ここから先は正真正銘、誰の影響もない。イチカ個人の心の中で選んだ、ヤツ自身の決断で全てが決まる」
千冬は、地面に縫い止められたマドカを一瞥すると、適当そうに言う。
「……精々祈れ。無理やりは好かんが、願いを込める程度なら許してやるさ」
***
波の音が、遠くから聞こえて来るようだった。
「………………ここ、は?」
ざくり、と足元が少しだけ、砂に沈む音。
気付けば、イチカはどこともつかぬ砂浜の上を、一人で歩いていた。目覚めたとかではなく、本当に唐突に、気付けば『そこにいた』という感じだった。
あたりを見渡しても、意識的に歩いた数歩以外に自分の足跡はおろか他人の足跡すらなかった。ひょっとしてここは死後の世界なんだろうか――と、直前の記憶を思い出しながら、イチカは思う。
最後の記憶――自分の心臓に、光の矢が突き立った瞬間。
「俺、死んだのかぁ……」
証拠に、イチカの今の格好は浴衣ではなく、白地のビキニにパーカーという昼間のスタイルだ。パーカーも羽織っているだけで、前を閉じていたりはしていないが。
「ははは、死んでも女か。なんだかなぁ……」
イチカは苦笑しながら、それでも立ち止まっているわけにはいかないので、すたすたとあてどなく砂浜を歩いて行く。
歌が聞こえたのは、そんなときだった。
「――――、――――――――。―――――」
端的に言うと、綺麗な歌声だった。
別に上手いというわけではない。きっと、歌の上手さだけなら彼女の友人の専用機持ちの中にもっと上手い者がいる――その程度でしかない。
だが、その歌声はとても無邪気で――何故だか、イチカは無性にその声が気になった。
足裏で感じる砂の熱さなんかも気にせず、イチカは先へ進み――――、
「ラ、ラ、ラララ、ラララ――――」
その少女を、見つけた。
波打ち際。
つま先を僅かに濡らすくらいのところで、その少女は軽快なステップで踊っていた。
真っ白いワンピースと同じ色の、純白の長い髪が風に舞い上げられ――――、
「………………へ?」
気付けば、イチカも同じ格好をしていた。
「…………はい、これで貴方は『私』になった」
そして、歌も終わっていた。
「本当は、もうちょっと後にお話しするつもりだったんだけど」
真っ白の少女は、肩を竦めて苦笑する。
「本当に、
真っ白の少女は、イチカに額がくっつくくらい近づいて、
「ね、
そう、にっこりほほ笑んだ。
「………………は?」
「私は私だよ。分かるでしょ、もう。……、……
そう言われて、イチカは、ふっと表情から力が抜けたようだった。
すべてに納得したような、そんな表情だ。
それを見て、少女は優しく微笑んで、こう付け加えた。
「私は、弾と一緒になりたいと思っているよ――
「…………そうか、俺は――いや、
イチカは、ただ頷く。
「いやに素直に受け入れるんだね?」
「受け入れるも何も、事実だしな。俺の中に、
そう。
イチカ自身が、何度となく思ってきたことだ。女の身体でいるとみんな優しい。女の身体だとみんなと仲良くできる。――それだけじゃない。弾や蘭との触れ合いを通じて、女としての未来も存外悪くないということを知ってしまった。
それをあっさりと認めたイチカに、真っ白な少女は少し慌てた調子で言う。
「ならどうして今も
「逆に聞くけど」
イチカはそう言って、少女の背後を指差す。
正確には――――背後にいる、一人の女性を。
「『お前』だけが俺の中にいるんだとしたら――お前の後ろにいる、騎士さんは一体誰だよ?」
「っ!」
弾かれたように少女が振り向くと、そこにいたのは白く輝く騎士甲冑を身に纏った女性だった。
大きな剣を自らの前に突き立て、柄の先を杖でも持つみたいにして、両手で押さえている。その表情は、顔の上半分を覆っているガードに隠され、口元から推しはかるしかできない。
その上、その口元にも、いかなる感情すら浮かび上がっていなかった。
騎士甲冑の女性は、簡潔に全てを伝える。
「…………私は、強制はしません。選ぶのは貴方です」
騎士甲冑の女性がそう言うのを見て、イチカはまっすぐ二人を見据えて言う。
「お前は、女になりたい――新たな世界に踏み出したい
つまり、今、イチカは自分の相反する欲望、その象徴を目の前にしている、
「…………な、わけないよな」
というわけでは、
「わざわざ出て来てもらって、
「………………」
肩の力を思い切り抜いたイチカは、そう言って二人を指差す。少女と女性は何も言わなかったが、少女の気まずそうな表情が全てを物語っていた。
「でもさ――――別に俺、そういうんじゃないんだ。鈴達や弾は、俺の心が女になっちゃったんじゃないかって心配してたり、俺に男らしさが足りないからこうなったんじゃないかって言ってたけど…………俺、自分で気付いてなかったけど、多分そんなんじゃないって、最初から分かってたんだ」
イチカは詫びるように、俯いてそんなことを言い出した。
「違うんだよ。男として誰かと付き合いたいとか、女として誰かと付き合いたいとか、そういうことじゃないんだ」
思い返すのは、弾との恋人ごっこのとき。
確かにイチカは、弾との恋人ごっこを通じて、『それも悪くないな』と思った。冗談とはいえ、元に戻れなかったら弾の嫁になるのもいいかもな、なんてことを言ってみたりもしていた。
でもそれは、心が女になったから、男を恋愛対象にしていた――ということとは、少し違う。
「俺は今まで、二つの生活を体験してきた」
彼にとって、彼女にとって、これまでの学校生活は、まさしく二種類の人生といっても過言ではないだろう。
「男として、鈴や弾と親友で、セシリアからは邪険に扱われて、箒は理解者で……そんな男としての生活」
男と、
「女として、弾と恋人で、鈴と女友達で、セシリアや箒達に猫可愛がりされて……そんな女としての生活」
女。
「これはさ、今まで『お試し』で体験してきた女としての生活と、これまでずっと経験してきた男としての生活、どっちがいいかって話なんだ」
恋愛感情――というのも、もちろん判断基準の一つではあるだろう。だが、必ずしも必要なものじゃない。イチカはそれをひっくるめた『もう一つの人生の可能性』を見て、それでどちらを選べばいいのか、どちらを選ぶこともできてしまうから悩んでいたのだ。
もしも、男の人生と女の人生、どちらか一つを選ぶことができるとすれば――――どちらを選ぶだろうか?
多分、多くの人は、元の自分の性別のまま過ごす人生を選ぶのではないだろうか。現状の性に特別不満を抱いていなければ、勝手の分からない人生よりも、今まで生きてきたという実績のある人生の方を選びたくなるに決まっている。
…………では、もう片方の人生の勝手が事前に
「女の子って大変だよ。ファッションも、化粧も、体の手入れも、やることはいっぱいある。所作一つとっても気を付けないと顰蹙買うしさ。……体験してみて初めて分かった。でも、それでも、鈴に一から教えてもらって、他のヤツらと馬鹿やって、弾と一緒にいて、蘭にお姉って呼ばれて…………そんな生活も、悪くないかなって思ったんだ」
それが、今のイチカの状態だ。
女の人生でも、楽しい未来が待っているということを知ってしまった。賑やかな家族に囲まれて、愛する人と一緒にいて、頼もしい女友達と一緒に笑い合って――――そんな未来を実現することができると、知ってしまったから。
結局のところ、今回の騒動の原因は『それ』だ。
弾への恋心でも、男らしさの欠如でもない。
溢れんばかりの、未来への希望。可能性の爆発。
それをイチカ自身が制御しきれなくなって、一つの選択肢に収斂できなかったという、たったそれだけのことだったのだ。
だから、イチカには分からなかった。
どちらの未来が『成功』なのか。
「どっちが成功か、なんて弾と話したけどさ。俺にしてみたら、どっちでもよかったんだ。男の未来も、女の未来も――俺の友達は、どっちにしたって最高だからさ。だから、柄にもなく悩んじまった」
だが、そんなことを言うイチカの表情に、もう迷いはなかった。
少女が、女性が、『白式』の二人が、そんなイチカを不安そうに見る。まるで過保護な姉を彷彿とさせるようなそんな態度。
(そういえば、白式の
分かりやすい二人に内心で苦笑して、そしてイチカは迷いのないまっすぐな瞳で、二人に相対する。
「ありがとう。俺は、鈍感で、唐変木で、朴念仁だからさ――ここまでしてくれなきゃ、きっと自分の気持ちに気付けなかったと思う」
気付けば、砂浜のど真ん中に、不釣り合い極まりない木製の簡素な扉が置いてあった。イチカは、きっとそれが出口なんだろうな――と思いながら、ドアノブを掴む。
その先にある未来を、少女は――――あるいは少年は、掴みとる。
「でも――――もう、決めたよ」
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