【完結】どうしてこうならなかったストラトス 作:家葉 テイク
「はい、というわけで、満場一致で織斑のお風呂奉仕が決定しましたわ」
………………その日の夜。
全員集合した変態達は、一夏を囲ってそんな話をしていた。一夏含め全員が浴衣姿なのが妙にオリエントな雰囲気を醸し出している。
「待て! 俺は承服してないぞ! こんなの無効だ! なんだって男に戻れたのにまた女にならなくちゃいけないんだ!!」
一夏は本当に不服そうに、そう申し立てる。
…………マドカの襲撃の結果、なんかノリで自分の限界を超えた一夏は、そのまま勢いで
それだけならめでたしめでたしで終われたのだが、そこで終わらないのが変態達である。彼女達は『今回一夏が元に戻れたのは、自分達の協力もあったからだし、っていうかめっちゃ頑張ったし、なんかご褒美くらいあってもよくない?』と訴え始めたのだ。一夏が『何かお礼したいな』なんて言ったのがいけなかったのかもしれない。
もっとも一夏としても、確かに彼女達には頑張ってもらっていたと思うし、何かしらのご褒美くらいあげたいとは思っていた。――――彼女達が要求したご褒美が『イチカになって一緒にお風呂』でなければ。
「大体、なんでお風呂なんだよ! もっと別のでいいじゃん! 俺が女の姿でマッサージするとかそういうのでも!」
「マッサージ(意味深)になるぞ?」
「やっぱり嫌だー!」
「っていうか、マドカが俺のことお兄ちゃんって呼ぶ問題も解決できてないぞ! あれどういうことなんだよ!」
「詳しいことはネタバレになるから言えん」
「ネタバレって何だよ!!」
果てしなくメタっぽい事情により、マドカから待ったがかかる。ネタバレなら仕方ないね。
「でも一夏、これまでこいつら、結構頑張って来たじゃない。…………お風呂に一緒に入るくらい、別によくない?」
そこで、変態達に援護射撃をしたのは、あろうことか鈴音であった。
鈴音はここまで大分(メンタル的に)変態達に世話になっていたので、この件については大分変態寄りである。
「いや、お風呂に一緒に入るくらいって……それで済むんならそれでいいけどさ。十中八九済まないじゃないか」
「でも一夏、僕達もう既に一夏と一緒にお風呂に入ってるんだけど、忘れてない? ほら、鈴に洗い方教えてもらってる時に」
「あー…………」
「あーじゃないですわよ織斑。貴方あの時、わたくしの裸を見ていますわよね?」
「ひょえっ!?」
想定外のツッコミに、一夏は思わず動揺する。…………そう、あのあと色々わちゃわちゃしていたこともあり、ラキスケの一回や二回くらいは受けているのであった。…………イチカとしては不本意だったし、それにそれ以上の回数セクハラされているので、ノーカンといえばノーカンではあるのだが。
「わたくし達の裸を見ておいて、自分はタオルで隠していましたわよね? それで良いと思っておりますの? 男として申し訳なさを感じませんの?」
「まぁまぁセシリア、そう問い詰めるな。……だが一夏、お前には『誠意』というものを見せてもらいたいな?」
「ヤクザみたいなやり方だね……」
恫喝係と宥め係がいるあたりが余計にあくどい。
それに、そこまで言われてしまっては一夏としても引けなかった。
「…………良いだろう、それならやってやる! お前らへのご褒美に、女の姿で一緒にお風呂に入ってやるよ!!」
バーン! という文字を背負う勢いで、一夏は胸を張る。
というわけで、悲願のお風呂回(フルパワー)の始まりである。
***
「あ……お姉…………じゃなかった、一夏、さん…………」
ということで話がまとまった後。
いつものメンバーを伴って更衣室まで向かっていると、そこで一夏は蘭とばったり出くわした。
一応、一夏が男に戻れるようになったことは、弾を通して蘭には伝えてある。…………蘭はたいそうショックを受けていたらしいが、こればっかりは『フッた』張本人である一夏にはどうしようもない、と鈴音に言い含められていた。
その蘭は、一夏を一目見ると、悲しそうに目を伏せてしまう。
「蘭…………」
「あの……えっと、お兄から話聞きました。色々大変だったって…………私のせいで、色々ややこしくなったそうで、すみません」
イチカではなく――元の一夏に対する話し方で、蘭は頭を下げる。
それは、蘭なりのけじめのつもりなのだろう。だが、一夏にはひどく痛々しいものに見えた。
「…………一夏」
「ごめん鈴。でも俺、やっぱ駄目だ」
小声で制止する鈴音を振り切って、一夏は頭を下げたままの蘭に近寄る。
「蘭、顔を上げてくれ」
「でも…………」
「
一夏の声には、迷いがなかった。
「お前…………俺が男に戻れなくなったことに、自分の責任があるなんて、そこまで思ってないだろ?」
「そ、そんなこと……!」
「いいんだよ、事実だから。男に戻れなくなったのは俺個人の問題で、蘭が悪いわけないじゃんか。…………蘭が謝ってるのは多分…………『戻らなかったらいいのに』って、その話を瞬間に思ったことじゃないのか?」
「!!」
妙に鋭い一夏の言葉に、蘭は思わず息を呑んだ。
「…………なんで……」
「分かったのかって? ……いやまぁ、普段の俺なら分かんなかったと思うよ。女の子の気持ちなんて分かんないしさ。でも――――」
そこまで言ったところで、一夏の身体が眩い光に包まれる。
光に包まれたシルエットの変化は劇的だった。
一七〇センチ以上ある身長は一瞬にして二〇センチ以上縮み、その分の体積がスライドするように胸部や臀部へと移っていく。
見る見るうちに女性的な体つきとなったシルエットから、光が徐々に解放され、その下の
そうして――――現れ出たのは、黒髪の美少女。日焼けのせいか、少し肌が赤いイチカそのものだった。
「――――妹の気持ちくらい、鈍感な俺にも分かる」
そう言って、イチカは蘭のことを抱きしめた。
「ごめんな。『男』としては、蘭と向き合えない。でも……弾とは、親友どころじゃない。もう、兄弟みたいなモンだって思ってる。そんな弾の妹なら、俺にとっても妹と同じだ。これからも、ずっと」
多分、彼女にとっての最適解はそうじゃないだろう。姉として慕っていたのも、好きな人と一緒にい続ける為の次善としてのことで、最善はもっと――別のところにあったのだろう。
…………だが、ここで鈴音の言う通りにしていては、きっと蘭は『次善』すら掴めず、この先もずっと苦しい思いをし続けるに違いない。イチカのことを思い出すたびに、辛い思いをすることになっていただろう。
お節介でも、酷でも、イチカはそれが許せなかった。
蘭から身体を離したイチカに、背後から鈴音が声をかける。その声色は、明らかに呆れの色を伴っていた。
「………………はぁ、あんた分かってる? それ、きっと凄い残酷なことよ」
「分かってるよ。自分でも最低のクソ野郎だって思ってる。フッた女の子にこんなこと言うなんてな」
「
鈴音の言葉の真意を図りかねて首を傾げるイチカ。だが、どっちにしろ自分の不徳の数々を受け止める覚悟はある。
それに対し、蘭は…………、
「お、お姉ぇ~~…………」
涙を流しながら、それでもイチカに縋ってくれた。
それが、二人の関係値の全てだったのだろう――とイチカは思う。フッたフラれたの気まずい関係性よりも、姉妹としての関係性が勝った。それがすべてだ。
「…………あ、でも、そうしたら男の時はなんて呼べばいいんだろう?」
「お兄ちゃんって呼んでくれていいぞ。ちょうど今日、別に妹もできたことだしな」
「どうも、妹だ」
「……………………お姉、デリカシーない」
まだまだ複雑な乙女心が分からないイチカは、そう言って蘭のくすぐられ地獄に突入する。
「…………あたし、あの娘が妹になるのはちょっとやなんだけど」
「鈴さんはその前に、織斑を夫にするところから怪しいのではなくて?」
「……………………」
辛い現実を突きつけてしまったセシリアが、蛮族の八つ当たりを喰らう。
そう、何だかんだでそこのところは何も解決していないのであった。
***
というわけで、更衣室を前に女体化変身を遂げたイチカは、そのまま更衣室に辿り着いていた。ちなみに蘭の方もちょうど温泉を利用する為に移動中だったらしく、合流して一緒に行動中だ。
変態達とうまいこと話を合わせて、可愛い後輩ポジションにつくことに成功している(が、自分はヨゴレっぽい立ち位置ではない)あたりに彼女の要領の良さが見え隠れしている。
「私、卒業したらIS学園を目指します!」
「ほう。IS学園は難関だぞ? まぁ私は姉さんのこともあって強制入学だったが」
「まともな試験受けてるの、セシリアと簪くらいじゃない?」
「いち国家の政府の意向で試験免除捻じ込みとか、ちょっと冗談じゃありませんわよね……。IS学園の中立性どこ行ったんですの………………」
「フン、我々ほどの実力者ならば試験は必要ないというだけの話だろう」
「ちなみに、私もこの臨海学校の後にIS学園に編入することが決まったそうだぞ」
「テロリスト!! 国防上の問題ッッ!!!!」
と、そんな風に可愛らしく拳を握りしめている蘭に、専用機持ちの面々は呵々と笑いながら言い合う(約一名激怒)。が、この調子だと蘭の受験勉強には専用機持ち達の充実したサポートがあるのは目に見えていた。こうして魔改造というのは生まれていくのだなぁ、とイチカはしみじみ思う。
(ともあれ、あっちが盛り上がってるうちにさっさと脱いじゃお…………)
イチカが妹分の進路の話に入り込んでいないのは、彼女達が絶賛着替え中だからである。イチカのことを女性としてしか認識していないのか、するすると適当に浴衣を脱いでは全裸で雑談に興じているのだ。
自分に対してのセクハラが行われるのも十分に困ったものだが、それ以上に裸の少女達がイチカに襲い掛かってきそうなことの方がよっぽど恐ろしい。彼女の性自認はやっぱり男なので、そういうエロイベントが起こるとちょっと申し訳なくなってしまうのだ。役得過ぎて。
「あれ、イチカ、もう脱ぎ終わったの?」
と、そこに目ざとく反応してきたのは、彼女自身も既に浴衣を脱ぎ終えているシャルロットであった。一応前部分はタオルで隠されているので大事なところは見えていないが、イチカとしてはそれでも十分に刺激的な格好である。
バッ! と逸らした首の動きは、おそらく音速をマークしていた。
「そ、そりゃ、浴衣だし……すぐ脱げるし……」
言いながら、イチカは自分自身の身体の前面を隠すタオルを、ぎゅっと強く握る。目線が泳ぎきっているのが実に愛らしかった。
「フフ……そっかぁ、そうだよねぇ…………」
特に意味のない言葉を吐きながら、シャルロットはイチカの方へとゆっくり接近していく。イチカは思わず後ろに下がろうとして――衣装入れに踵がぶつかった。
「う…………!?」
「イチカ、僕ねぇ、今のタイミングが一番……興奮するんだよね。男としての道を選んだ後の、揺るがない『精神的男性性』。そして、イチカは未だに僕のことをシャルルって言うだろう? それってつまり、僕の事を男として見ているってことだもんねぇ」
にっこりと、優しげな笑みを浮かべているシャルロットだったが、その表情はちょうど照明を背後から浴びていて、少し影が懸って見えている。タオルで前面を覆っているとはいえ豊満な胸や腰つきは明らかに肉感的だったが、シャルロットの言う通り彼女のことを若干以上男性として見ているイチカとしては、どうにも恐怖の方が先に立つ。
「結局鈴も手は出せなかったみたいだし………………僕がつまみ食いしても、いいよね…………?」
そして、気のせいか、彼女の身体の前面を覆うタオルの、股間にあたる部分が、
持ち上が、
「ヒッ」
「………………まあ待って、シャル…………」
なんかしょうもないホラー演出に待ったをかけたのは、人見知りゆえにコミュ力高そうな蘭の会話に混じれなかった簪だった。
ああいうイケイケなリア充がいると、普段仲の良い集団でもどことなく居心地が悪くなってしまうのがコミュ障だ。そうして居心地のいい集団から自発的に逃げ出して、そのことでリア充に恨みを募らせるところまでがテンプレである。
「なに? 今面白いところだったのに」
「シャルのセクハラは、ほんとに洒落にならないセクハラだから…………」
「まだこのくらいは大丈夫でしょ? だってこれ、手だし」
そう言うと同時、シャルの股間にある持ち上がっている部分がスライドし、タオルのはしから手となって出て来る。
要するに、拳を突き出すことで勃起を演出したというだけの話だったようだ。ISがあるとそのへんのこととか再現できそうな雰囲気があるので、冗談が冗談にならない。
「び、ビビったあ…………」
「織斑先生じゃないんだから、ちんちん生やすなんて僕にはできないよ」
「いや、シャルルならなんかできそうな気がして……、…………あっ、シャル、の」
「ぐっ!!」
未だにシャルルって呼んでいるだろう――というシャルロットの指摘をどう捉えたのか、そう言い直したイチカに、シャルロットは思わず顔を背ける。鼻血を噴出するセシリアの気持ちがなんとなく分かったシャルロットであった。
「それに…………鈴ちゃんに関しては、もう少し時間をあげても…………」
「……そう? 僕は、なんか発破をかけない限りずっとこのままなんじゃないかなって気がするんだけどな」
「それもまた、よし…………」
「お前ら、何の話してんだ?」
二人の間で繰り広げられる話に、イチカはきょとんと首を傾げる。
シャルロットと簪は二人で目を合わせると、溜息を吐いて、
「鈴の恋愛の話だよ」
「ああ、中国にいるっていうヤツのことか。今度会ってみたいよなぁ」
「………………それが…………問題…………」
そういえばそんな話もあったよな、と思う二人であった。
***
かぽーん、という音が浴場(源泉かけ流し)内に響き渡った。
そそくさと逃げるように浴場に入ったイチカを追って変態達も浴場に入り、滑って転んだのを装ってイチカに飛びかかったラウラが鈴音に空中でキャッチ&リリースされたりする一幕もあったが、ひとまず全員無事である。
「お姉、頭の洗い方とか分かる?」
もちろん銭湯のマナーとして湯船に入る前に全身を洗い清めることをモットーとしているイチカほか全員は水道の方に移動したのだが、そこで蘭が心配そうに首を傾げる。
「ハハハ、一応俺、これでも二週間くらい女として生活してたんだぞ。もうすっかり慣れたもんだよ」
慣れたくなかったけどな、と心の中で呟き、イチカは教えられたとおりにシャワーに手を伸ばす。
「そっか…………。…………ってことは、他にも色々経験したの?」
「色々ってなんだ?」
「それはほら…………えっちなこととか」
「ぶっ!?」
突然の猥談に、イチカは思わず手元が狂ってシャワーを掴む手が空振りした。
「やるな蘭……セクハラ色を滲ませない、鋭い猥談だ……」
「鋭い猥談 #とは」
「簪、シャープっていちいち発音するんだ……」
その手腕にラウラが戦慄したり、その他がハッシュタグの読み方で見解が別れたりしつつ。
「す、するわけないだろ!? っていうか、それはやっちゃダメなヤツだろ!」
「え? 別によくない? 減るものでもないんだし」
「そこんところ兄貴とそっくりだなお前!!」
そういえば弾もイチカが自分の女体を味わうことについては別にいいじゃん的なポジションをとっていたのだった。このあたりの倫理観は、やはり兄妹ということで似通りやすいのかもしれない。
「まぁまぁ、お姉、頭洗ってあげるよ。そっち向いて」
「…………話を逸らそうとしてないか…………?」
「違うよ~、姉妹のふれあいがしたいの!」
「………………、まぁ、いいけど」
言いながら、イチカは蘭に背中を向ける。何だかんだで蘭とは会う機会もあまりないので、こういうところで望みをかなえてやりたいのであった。
「いいな。私もお姉ちゃんの頭を洗いたいが」
「ダメー。マドカは学園に帰ったらいくらでもできるでしょ?」
「…………というか、お姉ちゃんがお前の姉なら同い年の私はお前の姉でもあると思うのだが」
「お姉を頂点にさくらんぼみたいに姉妹分岐が発生してるから、あたし達は対等じゃない?」
「うむう…………」
「姉妹分岐ってなんだよ…………」
なんか勝手に唸られているが、そもそも二人ともイチカの実の妹ではないあたりがさらにややこしかった。
「というわけで! お姉、頭洗うからね~」
言いながら、蘭はイチカの頭にシャワーをかける。ざぁぁぁ…………という水が弾ける音が、二人を包んだ。
…………というのも、イチカの頭にシャワーをかけた瞬間、蘭の頭にもシャワーがかけられたからなのだが。
「わぶっ!? なっ、何!?」
「何じゃないわよ。せっかくだし、あたしもあんたの頭洗ったげる」
下手人は、鈴音だった。
「ちょっ、それは……っていうかお姉の頭洗ってる最中だし」
「前が見えなくても頭を洗うくらいできるでしょ。っていうか、二人で完結させてんじゃないわよ水臭い。もうじき、あたしもあんたの『お姉』になるんだからさぁ…………」
多分、本音は『二人で完結させてんじゃないわよ』というところだろう。吐息を吐くような暖かさでの牽制に、思わず蘭は命の危険を感じて委縮した。
「二人とも、仲いいなぁ」
ドロドロな恋愛事情を知らないのは、頭を洗ってもらってご満悦のイチカばかりであった。
しかしそんなイチカだったが、彼女の極楽もそこまで長続きしない。
「今がチャンスだぞ」
わしゃわしゃと頭をあらわれているイチカ(なお、水を吸ったタオルが身体の前面に張り付いているので危険ながらも駄目なポイントは露出していない)をよそに、箒がそんなことを呟く。
今はイチカは頭を洗われているので目を瞑っているし、鈴音も蘭の頭を洗うのに集中しているから周囲の確認が疎かになっている。この状況であれば…………思う存分セクハラしても、誰にも気づかれない。
「分かっておりますわ、箒さん。…………我々も、そろそろ新たな一歩を踏み出す必要性を感じております」
「新たな一歩っていうのがイチカを突っつき回して遊ぶことなのはちょっとどうかと思うんだけど」
「さきほどはシャルもイチカの前でバスタオルを突きあげて勃起ーとか親父ギャグみたいなことをしていたらしいではないか。それよりはまだ良質だ」
「良質なセクハラって……いったいなんだろう…………?」
「振り返らないことだ」
振り返らないことに関しては全員良質だと言ってもいいかもしれないが。
「まぁとりあえずジャブから始めようではないか」
そう言うと、マドカは躊躇うことなくイチカの足先をつんつん、と指でつつく。
「んっ?」
くすぐったさに、イチカは一瞬だけ身をこわばらせるが、すぐに変態達のちょっかいだと気付いたらしく、足を軽く振ることで追い返すような仕草をする。しかし、その程度で変態達の攻勢を乗り切れるはずもなかった。
「んひゃっ!?」
イチカは次に、脇腹に感じたくすぐったさに思わず悲鳴をあげてしまう。これも、マドカの仕業だった。特殊部隊で活動していた彼女は、イチカの体を陰とすることで鈴音の目を欺きつつ、イチカに対するセクハラを可能としていた。
「どしたのお姉?」
「(この状況をバラせばタオルをめくる)」
「!!!! …………な、なんでもない。ちょっとくすぐったかっただけだ」
しょうもない脅しに屈したイチカは、そう言って平常を保ってみせる。
「(どういうつもりだよ……!)」
「(どうやらこうするのが我々のルールのようだからな。それに――)」
マドカは少しだけ照れくさそうにしながら、
「(私も、お姉ちゃんに甘えたいのだ…………)」
「(マドカ…………)」
「でもそれとセクハラは無関係よね?」
「えっ」
「あっ」
ちょっと良い雰囲気になりかけたところで聞こえた声にマドカが振り向くと、そこにはマドカのセクハラを隠蔽しようと動いていた変態を屠り終えた鈴音の姿があった。
「馬鹿な、隠蔽は完璧だったはず――」
「残念ながら、あたしも成長してんのよ――この程度は子ども騙しと呼べるくらいにね!!」
『アオオ――ッ』と悲鳴をあげるマドカの横で、順当な方の姉妹の交流はスムーズに進んでいく。
鈴音(バスタオル装備)が逆エビ反り固めを極めている頃には、既に身体を洗い流す段階になっていた。
「結局鈴さんは頭洗ったあとマドカとかにかかりきりになっちゃってたし…………」
「ははは……、じゃあ俺はこのまま露天風呂に行ってるよ。ここだと巻き添え食いそうだし」
「そだね。後でそっちに行くからー!」
手を振る蘭と別れ、露天風呂へ移動する。露天風呂はだいぶ広いつくりになっていて、湯船は男湯と共有なのか、湯船の途中で三メートルほどの木製の敷居が立っていた。
変態相手だとなぎ倒されそうな心許ない敷居だったが――――それ以上にイチカの目を惹いたのは、むしろ露天風呂の外側にあるものだった。
「おお…………」
それは、景色。夜空に瞬く無数の星々が、イチカのことを明るく照らし出してくれていた。すうっと流れるような潮風が、浴場でのひと悶着で火照ったイチカの身体に涼しい。
「いいなぁ…………こういうの」
学園の浴場もなかなかのものだったが、これはまた別格の素晴らしさだった。特に露天というのがいい、とイチカは思う。
「…………その声、イチカか?」
と、そんな風に露天風呂を満喫していると、敷居の向こうから声が聞こえてきた。イチカとしても、この声を聞き間違えることはない。
「あれ、弾か。お前も風呂来てたんだな」
「まぁな。蘭とまとめて風呂行っとけって部屋から追い出された。親父達は未だに仲良いからなぁ…………」
遠い目をしているのが丸分かりな声の弾はそう言って、
「っつかイチカ、お前何で女湯入ってんの? 戻れるようになったんだろ?」
「いや…………なんか頑張ったご褒美とかでこんな感じに…………」
「はぁ!? うらやまけしからん死ね!!」
どことなく困った感じで言うイチカに、敷居の向こうから速攻で罵倒が返ってきた。
「こっちは困ってんだよ! ゆっくり風呂を楽しみたいのに落ち着かないしさ…………!」
「アホが! 風呂はいつでも楽しめるだろうが! そこは思う存分役得を楽しむもんだろ!!」
あまりにも健全すぎるイチカに、男の浪漫を説く弾。ここまでやっておいて(相手が対象の)ラキスケが一度も発生していないというところからも、イチカの身持ちの堅さがわかるというものだ。
「はぁ…………ったく。せっかく男として生きることにしたってのに、それじゃ今までと何も変わんないんじゃねえか?」
敷居の向こうの弾は、呆れているようだった。しかし、そこについてはイチカも断言できる。
「変わるよ」
女としての未来は、もう存在しない。ここにいるイチカの未来は、もう既に選択された後なのだから。
イチカの言葉を聞いた弾は少しだけ黙っていたが、
「そうだな」
やがて、そう呟いた。
「…………あー! 勿体ないことしたな。どうせならイチカに一回くらいおっぱい揉ませてもらえばよかったぜ」
「それはどっちにしろやらせないから」
「何でだ? 減るもんじゃないだろ」
「減るよ! 俺の羞恥心とかが!」
「またまたーエロRPGとかじゃあるまいし」
「えろあーるぴーじー?」
「純情かよ!!」
エロRPGはだいぶ業界に精通していないと分からないような気もするが。
「やっぱ兄妹だなぁ、蘭も同じようなこと言ってたし」
「え、アイツもそんなこと言ってたのか?」
「減るものじゃないしって、そのまんまだったな」
「おう…………」
弾はなんか微妙そうな声をあげていた。
「大体お前は純情すぎるんだよ。男として生きることに決めたんなら、あわよくば相手の裸を覗き見るくらいのスケベ心はあっていいと思うぞ?」
「……いや、そんなことしたらそれを口実に一〇〇倍返しくらいされそうだし……。それに、鈴は中国に好きな人がいるんだよ。好きな人がいるのに裸を見たりするのは……不義理だろ」
「は? 鈴に好きな人? 中国に? そりゃねーだろ」
イチカの言葉に、弾はバッサリと切り捨てた。
「何を言うかと思えば…………鈍感の上に勘違いまで併発させてたのかよ? 救われねーなー……」
「いや、お前こそ何言ってるんだよ。鈴の口からはっきり聞いたんだぞ。『今は遠いところにいるけど、好きな人がいる』って。それって、たぶん中国にいたときにできたってことだろ」
「…………いやそれ、本当に中国にいるのかよ?」
弾の言葉に、イチカはふと自分の言った言葉について考え直してみる。
今は遠いところに――とは言ったが、そういえば確かに鈴音は『中国にいる』とは一言も言っていなかった。弾の言いたいことから察するに、鈴音の好きな人は中国にはいない、ということになるが、そうすると日本にいたときにできたということだろうか?
(いや、あいつ日本じゃ俺と弾くらいしかまともに交流してなかったよな……日本にいるときのあいつが好きになった相手なら、俺も知っているだろうし……)
となると、当然ながら残るのはイチカと弾くらいのものだが…………それはない、だろう。鈴音は今まで、イチカに対していつもつんけんした態度をとっていた。蘭のように遠慮していた様子もなかった。もっとも、蘭と同じく、『イチカが一夏だと気付いていない』状態のときは大分穏やかな対応ではあったが。
「…………………………………………んんん???」
そこまで考えて、イチカは何か頭の奥に引っかかるものを感じた。何か重大な見落としをしているような気がする。しかし…………それが何かわからない。
「まぁ、じっくり考えれば答えは出ると思うけど、蘭みたいなのをこれ以上増やさないでくれよ」
そう言ってきた弾の声には、どこか暖かい色が滲んでいた。
イチカは、その真意がわからず首をひねるだけだったが。
***
「待たせたわね!」
鈴音の快活な声が、露天風呂に響き渡る。
変態達との戦闘で軽く一汗流したせいでまたシャワーを浴びなくてはならなくなった為にちょっとだけ遅くなったが、ようやく合流だ。ちなみに変態達も血を流す必要があったので同じくらい遅くなった。
「…………こ、これがIS学園の日常なんですか……?」
「そうよ。入りたくなくなった?」
「おい鈴! ライバルを削りたいからって脅すのはやめろ!」
「大丈夫ですわよーこの蛮族は蘭さんが入学するまでに去勢しておとなしくしておきますからねー」
「あたしは! 女よ!!」
ドゴォ!! と乳に蹴りを叩き込まれたセシリアが勢いよく露天風呂に飛び込んだりもしたが(お行儀が悪い)、おおむね全員楽しそうで何よりだと思うイチカである。
「いや……でもあたし、それでもIS学園に入りたいです! お姉と少しでも一緒にいたいですから!」
「……そ。それならいいわ」
蘭の熱意に、鈴音はふっと笑ってそれ以上言うのをやめた。先ほどのこともあって鈴音の様子を見ていたイチカは、そのちょっとした言動にふとした疑問を抱く。
(なんで、鈴は蘭がIS学園に入ることをそんなに気にしてるんだろう……? 入れるかどうかじゃなくて、入ることに……。そのわりに、蘭の熱意を見たらすぐに矛を収めてるし)
悶々と考えてみるが、イチカの頭では一向に答えが出ない。と、
「なに辛気臭い顔してんのよ、イチカ。なんか問題でもあった?」
「いや、別に問題はないぞ? ちょっと気になることがあってな」
「何よ、相談なら乗るわよ?」
すすっと、イチカの隣に移動する鈴音。もちろん風呂の中にタオルを入れてはいけないので、タオルは風呂のふちにかけてある状態だ。お湯が濁っていなければ即死だった、と思いながら、イチカは視線を鈴音からずらす。
「そんなに意識しないでいいのに」
「いや……意識するだろ。っていうか、やっぱ親友とはいえ、悪いよ。お前が好きだっていう人にさ……」
「へ? あ、あぁ……」
イチカの言葉に、鈴音は意外そうな声をあげる。というか彼女自身、そのくだりを忘れかけていた――と言ったほうがいいかもしれない。ここ最近はとにかくイチカのことを男に戻すことばかり考えていたから、それ以外のことは頭から抜け落ちていたのだ。
そんな他人事のような鈴音の声を聞いた瞬間、不意にイチカは自分が感じていた違和感の片鱗に気付いた。
「………………そういえば鈴ってさ、『遠くにいる』っていう好きな人に、一度も連絡とってないよな?」
そう。
鈴音の性格からして、好きになる人とはそれなりに密に連絡をとるはずだ――とイチカは思う。だって、親友のイチカに対してすらそうだったのだから。それより上位の『好きな人』に対してはなおさら、と考えるのが普通だろう。
…………というのは鈍感なイチカの常識であり、実際には『好きだからこそ気軽に連絡できない』という乙女心があったりするのだが、それは彼女にはわからないことである。
それに、そういった事情を抜きにしても『まったく連絡をとっていない』のはやはり不自然だった。
まぁ、そもそもそんなヤツはおらず、そもそも好きな人というのはイチカのことなのだから当然なのだが。
「え?」
そんなイチカに、鈴音はものすごく焦ったような表情で首をかしげる。そこも、やはりおかしい。なぜはぐらかすのだろうか。そこにも、イチカには言えない事情があるようにしか思えない。
ただ中国に好きな人がいるだけで、そんな複雑な事情が生まれるだろうか? 何か問題を抱えているような様子には、見えない。鈴音はけっこう単純な性質だから、いくら鈍感なイチカでもそういうものを抱えていればすぐにわかってしまうだろう。
だとすると――――、
『まぁ、じっくり考えれば答えは出ると思うけど、蘭みたいなのをこれ以上増やさないでくれよ』
蘭みたいなの――というのは、何か。蘭は一夏のことが好きで、でも諦めて、
そしてイチカは、そんな蘭のあり方を『鈴音と同じ』と表現したことがある。だとすると――鈴音の、イチカに対する強烈な親愛の行動。あれも、一種の代償行動ということにならないだろうか? それも、
つまり。
つまり。
つまり。
「…………………………鈴って、俺のことが好きなのか?」
という、一つの答え。
考えてみれば、その可能性は考えられた。『今は遠い場所にいる好きな人』という発言の際、鈴音はイチカが一夏とは思っていなかった。後から聞いた話だが、当時の鈴音は一夏が『遠い研究施設に幽閉されていた』と誤解していたらしかったのだから当然だ。
その場合――遠い場所にいる好きな人とは、その研究施設に幽閉されている一夏のことを指していても不自然ではない。
そう考えてしまえば、今まではまらなかったピースの数々が、一気に埋まっていくのだ。
それに――――そうだ。
あの夢の世界で、答えを見ていたはずだ。
すっかり忘れていたが――鈴音は、イチカへの恋慕が破れた為に、世界を滅ぼしかけていたのではないか。
「………………………………………………………………へ?」
その瞬間、イチカは世界が凍ったのではないかという錯覚をおぼえた。
というのも、鈴音だけでなく、その周囲にいた変態達、蘭、敷居の向こう側にいた弾まで絶句しているのが、感覚で分かったのである。
まずい、とイチカはとっさに思った。自分がとんでもない思い違いをしたのではないかと思い、何か言おうとした、その瞬間――――――。
「そうだと言ったら、どうする?」
すでに、鈴音の眼は据わっていた。覚悟を決めていた、と言い換えても良いかもしれない。
「どう、って…………」
「あのね、あんた気付くのが遅すぎんのよ! いや、それが分かってて言わなかったあたしもあたしなんだけどさ………………。…………そ、そうよ! あ、あ、あたしは…………あんたのことが好きだったのよ!!」
ザバァ! と、勢いよく立ち上がる鈴音。イチカは思わず顔を横にそむけた。
「あんたは、どうなの? あたしのこと、どう思ってるの? 男として! あたしのことを、好き!?」
「いやあの、鈴さん、なんでキレ気味……」
「良いから答えて!」
ザバ! と水をかき分け、鈴音はイチカの視線の先に回り込む。一応タオルで体の全面は隠しているようだが、イチカとしてはもうテンパりすぎて何が何やらさっぱりだった。
ただ、そんな状況でも、イチカは自分の気持ちに正直でいることはできた。
「分かんねえよ!」
その『正直な自分の気持ち』は、あまりにもどっちつかずだったが。
「今まで、鈴のことは友達としてしか見たことなかったし…………それで男として好きかどうかとか聞かれても、まだ分かんない」
「じゃあ……」
「でも!」
さらに言い募ろうとした鈴音を遮るように、イチカは叫ぶ。
それだけじゃいけないということは、イチカも学習している。自分の答えが、女性の心を大きく傷つけてしまうかもしれないという可能性を、イチカは身を以て体感している。
「それは、これからも鈴のことを女として見れないってことではない…………と思う」
煮え切らない答えだったが、それがイチカの偽らざる本音だった。
「俺だって男だ。……いろいろあったけど、今ははっきりと断言できる。だからさ……やっぱり、自分のことが好きなんだって分かってる女の子のことは、意識するよ。今は、いきなりだから戸惑ってるけど…………………………」
冷静に、鈴音が恋人になるなら、自分はうれしいか? ということを、イチカは考えてみる。この意地っ張りだが純情な少女が、頼もしいくせにどこか抜けている女の子が、自分の彼女になる、という未来を。
「…………多分、嬉しい、っていうのが本音だと思う」
そこまで言って、イチカはふと、自分の気持ちが腑に落ちた。
人間的に好きか嫌いかで言われれば、間違いなく好きだ。女の子として意識したことはあんまりないが。そんな少女に、男性として好いている――と言われたこと。彼女と一緒の未来を歩める選択肢が提示されたこと。それが、イチカにとっては純粋に嬉しいのだ。
そして、それさえ分かっていれば。いくら鈍感でも、言うべき言葉は分かる。
それに、こういうのは女のほうから言わせるものじゃない――――と、イチカは思う。
そんな気持ちに正直になって、イチカは叫ぶ。
「だから鈴。俺と――――付き合ってくれ!」
そんなイチカに、鈴音は一瞬涙が零れそうな笑みを浮かべ……そして、それを上書きするように勝気に笑い、イチカに抱き着いた。
「――――良いに、決まってるでしょ!!」
その直後。
浴場内が、歓喜に沸いた。
「宴だー! ついにイチカが鈍感卒業したぞ――!! 宴をするぞー!!」
「いや、鈍感卒業はしていないのではなくって? 結局恋愛感情抜きのと部分が決め手っぽいですし……」
「まぁともかく喜ばしいことだよね。あ、鈴おめでとう! ようやく長年の努力が実ったね……!」
「…………ま、悪くない展開ではあったがな」
「………………ちょっと泣いた…………」
「なあ、なんで全員号泣しながらも茶化そうと頑張ってるんだ?」
全員がワイワイやっている横で、マドカは首をかしげる。まぁ変態達の存在意義として茶化しがあるゆえに。いろいろあったので、協力していた彼女たちとしては感慨もひとしおなのだろう。
ともあれ、マドカも含めて全員がイチカと鈴音を取り囲んで二人のことを祝う。
「…………鈴さん」
その輪から少し離れたところから、蘭が近づいてくる。
「…………そういうわけだから」
「分かってますよ、鈴さん。…………あ、これからはお姉って呼んだ方がいいかな?」
「好きにしときなさい」
相変わらず、鈴の受け答えはつっけんどんだったが。
そこには、どこか暖かさがあるようだった。
「まったく、イチカさんは本当に鈍感なんですから……わたくし達がどれほど気を揉んでいたかも知らずに」
と、一通りわちゃくちゃとイチカと鈴音を祝福した後で、セシリアは肩をすくめてそんなことを言った。そういわれても、イチカはセクハラされていた記憶しかないが……。
「…………気を揉んでたの?」
「ん? いや……よく考えたら揉んでたのは胸だけだったな」
「あははは! 箒に一本取られたね」
「いや上手くねーから!」
おやじギャグ一直線である。
「っていうかイチカと洗いっこ、僕たちもしたかったんだよねぇ」
「えー、でも、あたしお姉と接する機会ないじゃないですか! しゃーなししゃーなし!」
「それもそうなのですわ。だからここは代わりに、温泉回特有の胸揉み百合シーンとしゃれ込みましょう!」
「…………あれ、現実の女友達同士じゃまずありえないよね…………」
「いや、軍ではわりとあったぞ?」
「そういえばスコール達がいつもやってたな…………」
「それは多分本職の人たちだと思うが」
なんてこともありつつ、変態達は一斉にイチカと乳比べを敢行すべく、一斉に突撃する。
「だからあんたら、せめて今日くらいイチカとあたしを自由にさせなさいよッッッ!!!!」
で、そうなればやっぱり鈴音が止めに入るわけで。
「やかましいですわこの見切れ乳! 湯気隠しが必要なサイズになってから出直してきなさい!」
「どうやらあんたはこの世から見切れたいらしいわね?」
いつものごとく蛮族の逆鱗に触れたセシリアが、嬉しいことがあって元気一〇〇倍な鈴音の蹴りを食らって敷居に衝突する。
ぐらり、と敷居が傾いた。
「えっ!? おい! なんか敷居傾いてんぞ! お前ら何してたんだ!?」
「わっ! ちょっと待て弾! 目をつぶ――――、」
結果。
どばしゃーん、という音とともに、混浴が完成する。
「あー…………くそ、いったい何が…………」
はたして、敷居の外からやっとの思いで這い出した弾を待ち受けていたのは、
全裸美少女の桃源郷――――ではなく。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「あ、ああ…………」
敷居に叩き付けられたセシリア含め、全員タオル装備の美少女達が真顔で自分を見下しているという、なんかドMだったら嬉しいかもね? って感じの世界だった。
なお、その中でもイチカはタオルで自分の体を隠すのが間に合わなくなってアレな感じになっているが。
「ひ、ひ…………」
羞恥心の臨界点を突破した(さすがに女の状態で裸を見られるのは恥ずかしい)イチカは、
「ひゃああああああああ――――っ!?!?!?!?」
その場で、女の子みたいな(女の子だ)悲鳴を上げざるを得なかった。
「なになにー? なんか面白そうなことになってそうな気配がビンビンなんだけどー」
「おい束、鑑賞は許すが干渉は許さないと言ったはずだぞ」
「感じる…………簪ちゃんのお風呂失禁の匂い!」
「さすがに脈絡なさすぎませんか、お嬢様」
「やっほ~、かんちゃん、みんなもつれてきたよ~」
そこに、騒ぎを聞きつけてきたのか、ぞろぞろとほかの面々もやってくる。ちょっと前まで甘酸っぱい世界が展開されていた浴場は、もはや見る影もなく混沌の坩堝となっていた。
「やはり鈴さん×イチカさんの絡みは素敵すぎませんか?」
「セシリア、興奮するのはいいがまずは鼻血を止めろ。そろそろ危険域だと思うぞ……」
「ねえねえ、次は鈴の方が男体化してみない? よければ肉襦袢貸すよ?」
「やめろシャル! イチカに新たなトラウマが植えつけられるぞ!」
「…………私、別にお風呂失禁なんてしてないし……………………!」
「ククク、なかなか面白いところだなぁ、IS学園というのも」
いつものように常識はずれで、変態で、でも賑やかで面白いことになっている浴場を見て、鈴音とイチカは顔を見合わせて笑う。
「…………やれやれ。なんか、そういう雰囲気じゃなくなっちゃったわね。……いつものことだけど」
「でも、いいだろ? この世界は、これだからいいんだよ」
人が聞けば、思わず眉を顰めてしまうような、そんなとんでもない世界。
でも、イチカはそのことをもはや引け目に思うことはない。
他の世界を見ても、そんな順当に綺麗な物語を紡いでいる世界に対して、逆に胸を張ってこう言えるだろう。
――どうして
ご愛読ありがとうございました。
あとがきを投稿していますので、気が向いたら活動報告をご覧くださいまし。