ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
カチャッ、と向けられた銃口から放たれる弾丸の嵐。
それは人間の命を刈り取るには過剰とも言える威力のもの。まあ、俺以外の奴らなら怪我をしたとしても血を流す程度であろうが。
はいはい、■■廻だよ。と軽く自己紹介を挟みつつ、ゆっくりと向かってくる弾丸一つ一つに刃を添えて軌道を逸らしていく。
「クッ……!!」
たっぷりと時間をかけて俺の身体から全ての弾丸を逸らし、真っ直ぐに突貫。目の前にいるマスクをつけた少女の鳩尾へと掌底を叩き込み吹き飛ばす。
肺に入っていた空気の全てが一気に吐き出されたような音とともに、その子は訓練所の柱に叩きつけられ、その身を床へと崩れ落ちさせた。
吹き飛ばしたのと同時に手放していた銃を取る。数メートルも人体を吹き飛ばす程の掌底を放ったこちら側の腕がジンジンと痛むのはやはりゴミスペックだと思います、俺の身体。もしかしたらヒビ入ってるかもな、骨。まあもう治ってるが。
銃を使えば俺の肩が外れるのは想像にかたくない。傷や怪我と違って骨格のズレは治りが遅いし嵌めるの痛いから嫌なんだよね。
「はい、終わり」
「っ、まだ……!!」
「終わりだっての」
ここに来て何日経ったっけ。一週間ぐらい? 黒服さんから物資の提供を受けてはいるけれど、相変わらず生活環境はゴミカス蜘蛛クオリティである。
ここにいる生徒全員分の食料や寝具がある訳もなく、俺自体は比較的快適な睡眠を取れてはいるけれど、あの子達は慣れた様子ではあるけれど疲れが取れていない印象を受ける。
毎日の戦闘訓練。初日にあった奇襲のような、戦闘想定の疑似戦闘訓練や、個別の体術訓練、チームに別れての訓練など多彩。休む時間が無い。俺は普通にサボってる。
そして、今目の前でまだ出来ますという社畜根性を見せる少女……サオリ、だったっけ? は、ここの生徒達の中でもかなり上澄みだ。腹部を露出させた服装なのは戦闘想定と考えた時に理解不能ではあるけれど、引き締まったお腹周りは大変眼福でございます。みんなノースリーブで過ごしてよね。
「次」
「私はまだ!!」
「ゲーセンの害悪転売ヤーか」
居るよね、アーケードゲームのカード目的に、遊びたい子供達を差し置いて何枚もカード買い続ける見た目は大人なクソガキども。
ルール定められてるからねこの訓練。気絶するまでとかじゃないのよ。俺も早く終わらせたいんだわ。ゆっくりしたいの、仕事残したくないの。早くどいて??
それでもまだ私の番です! というスタンスを変えようとしない少女の子供のような、しかしどこか切羽詰まったような姿に溜息を零しつつ、帯刀した鞘でその子の頭を軽く小突く。
「心配しなくても、ペナルティとかは無いよ」
うんうん、そうだね。そういうことじゃないんだね、分かる分かる。
俺の言ったことが見当違いだったようだ。彼女の困惑した顔を見れば分かる。じゃあ何? 何を焦ってるの? ベアババァから何か言われたとかじゃなくて?
『次は勝ちますから』
ふと、思い出す。
かつて通っていたアビドス高校で共に過ごしたホシノのこと。
ホシノは銃を、俺は刀を使っての模擬戦闘で何度も勝利した俺にむくれ顔でそう口にした姿を思い出した。もちろん銃はBB弾だし刀は竹刀です。実弾で訓練とか死ぬわ。今は実弾相手にしてるんですけどね。
全然似てないけれど、シチュエーションが同じような感じだったからそう思ったのかねぇ。
『ホシノちゃんは弱ちぃねぇ』
『……眉間撃ち抜きますよ』
『ごめんなさい』
今となってはいい思い出である。撃ち抜かれたのは眉間じゃなくて首だった訳ですがねガハハはは。
「はい、次」
というわけで、まだまだ後ろに控えている子達が大勢いるのですよ。別にアドバイスを送る訳じゃなく、ただ手合わせをするだけなのだが。
それでも、人数が多いためにかなりの重労働だ。身体的な辛さより精神面で削られるよね。
そんなこんなで、アリウス生全員との戦闘訓練が終了してお昼休憩。
「酢豚パーティィィイイイイイ!!!」
『イェェエエイっ』
本日の俺の昼ごはんのおかずは酢豚。理由は黒服さんが送ってくれたのが冷凍された酢豚だったから。どういうチョイスだよ。酢豚パーティとか聞いた事ねぇよ。
しかしながら、これがまた異常に美味そうな見た目と香りをしている。単なる食材だけでなくおそらく黒服さんお手製のおかずを冷凍で小分けにして送ってくれるので食べない手は無いのだ。料理をしている黒服さんの姿を想像したら負け。脳内で黒服さんをユメ先輩に切り替えておこう。ダメだ、あの人料理出来なさそう。
今回の酢豚。パイナップルが入っていない点は高得点だ。もしもそれに類するものが入っていたら黒服さんの事務所に戦争を仕掛けなければならなかった。まあ面倒だからベアトリーチェさんで勘弁しておこう。
カレーとは違って全くパーティ感は無いが、俺の隣が定位置とでも言いたげな少女、アツコが声に出さない声を叫び表情変化を起こさずに手を振り上げた。なんなのこの子、怖いんだけど。
『昨日の炒飯、また食べたい』
そして強欲である。
静まり返った食堂でいつも通り得体の知れない栄養食を口に運んでいる女の子達を横目に、俺とアツコは酢豚と白米を口へと運ぶ。
モキュモキュとほほを膨らませては咀嚼するアツコは時折俺の袖をクイッと引き、手話で語り掛けてくる。内容は要求がほとんどだ。図々しい。
アリウスで話すのはこの子ぐらいか。ベアトリーチェさんとも話すけど、あの人は生徒じゃなくて老害なので除外。
「……美味しいな」
「怖っ」
そんなことを考えていたら、突然聞こえてきた第三の声。まあアツコは話さないから第二の声だけど。
今までそんなことはなかったために目を丸くしてそちらを見れば、ゲーセンの害悪転売ヤーが口元を黒酢ソースで少し汚しながら口を動かしている姿が見えた。しかも、まさかの俺の酢豚。おいこら。
「それ俺のなんだけど」
「え……? いや、だが姫が……?」
「お前自分のこと『姫』って言わせてんのかよ……」
どうやら姫(笑)の仕業らしい。自分の分だと偽って口に放り込んだのだろう。
姫(笑)の方を向けば既に右手がピースの構えをとっていて無表情でこちらを見ていた。違う、「ムフー」って言ってる。どんだけドヤ顔したいんだこいつ。
「姫っ!?」と事実確認に勤しむサオリに対して、アツコはシュバババッという効果音が聞こえてくるほどの速さで手を動かし何かを伝える。「いや、だが……ぐっ……」と悩ましげに思案するサオリ。もう他所でやって欲しい。
そもそも、パーティとか叫びながら初日のカレー以降、二人分プラスαしか用意していないのもよくわからん。まあ俺なんですけど。
黒服さんがレンチン食品送ってくるのが悪いんだ。飯があるのにわざわざ料理なんてしないよね。昨日の炒飯は俺が作ったやつだけど。
というか、なんで俺が分けないとダメみたいな空気感になってんの? いや、まぁ、俺だけ普通の飯食ってるのは気まずいってのもあるけどね?
「……済まない」
「え? ああ、いいよ全然……その手はなに?」
「いや、その……良ければ、私にもくれないだろうか……?」
サオリ が 仲間 に 加わった !!!
予想以上にアリウスでの生活は長いものになった。
2週間そこらで終わると思っていたが、未だ終了の兆しは見えない。というか、何をもってして俺の仕事の完了を意味するのだろうか。黒服さんからはご飯と食材だけしか送られず連絡の類はなく、ベアトリーチェさんとは話すけれど期間についての話題は向こうからは出てこなかったし。
『ところでいつまでここにいればいいんですか?』
『黙って働きなさい、ガラス割り男』
『イエス、マダム(笑)』
『爪剥がしましょうか?』
まあこんなもん。
んで、別にここで友達が出来るとかいう展開は全くもって訪れることはなかったが、食事の際に俺の飯を乞食してくる奴らが四人に増えた。
『アリウススクワット?』
『スクワッドだ』
筋トレ集団改め、アリウススクワッド御一行様である。こいつら以外とはコミュニケーションもしないしな。あるとしても戦闘時の軽いフィードバックぐらい。俺にアドバイス出来るほどの技量なんて無いんですけどね。動体視力と身体能力のゴリ押しだし。
俺は常に彼女達の訓練に同行している訳では無い。数あるうちの訓練の中に俺との戦闘訓練が組み込まれているためにそこだけ俺が参加している形だ。
たっぷりと休憩し、一日の実働は二時間あるかないかぐらいだが、何も無い時間は寝たり散歩したり見学したり。
あの子ら訓練しすぎでは??
いやいや、起きて訓練して寝る生活じゃねぇか。あのババァ出てこないくせにノルマは課すタイプなんだなぁ。ベアトリーチェさんはやはり昭和生まれのようだ。ああいうのを正しく老害と言うのである。いいね、最高の反面教師。
だから何をする訳でもないけど。兄さんだったら「こんなの間違ってる!!!」的なこと言うのかな。あの人は誰でも平等に救おうとするからね。俺は周りが幸せならそれでいいやタイプだからな。周りっていうのは親しい人達ね。ヒフミ生きてるかな。ちょっと心配なってきた。今度電話でもするか。
……と、現実逃避は終了。
「好きですっ!!」
「はじめまして」
見た事のない桃色の髪のお嬢様から告白された。誰??
アリウスの小汚いような格好では無い。純白の、見るからに高そうな制服とやはり似合わなすぎる銃火器を携えたその子は顔を真っ赤に染めて口をわちゃわちゃと動かしながら俺へと告げてきた。
「はじめまして!! 好きですっ!!」
「他人からでお願いします」
「やったァ!!」
「なんなのこの子怖いんだけど」
ん〜、話通じないタイプかぁ。
お邪魔しまーす!! という声が聞こえ、アリウス生達は訓練中なために対応できるのが俺かベアトリーチェさんしかおらず、後者は脚が長い癖に動かそうとしないために仕方なく俺が出向いた。
そして、場所にそぐわない綺麗な服を着た女の子がいたことに少し驚きを顕にしている所を、俺の顔を見たその子はピシリと全身を石にさせて硬直。その時間、実に一分強である。帰らなかった俺を褒めたい。まあこんな面倒なことになってるから帰った方が良かったのかもしれないが。
「なま、なまえっ、名前を聞かせて!!」
「
以前、カイザーロボットガシンガシンの所へと黒服さんと行った時に使った偽名。
あまり俺の名前が広まるのは宜しくないとかで、その時使っていた偽名を継続してここで使っている。
例に漏れず、今回もカイと名乗ってみたが、偽名を聞いた少女は俺の名前が知れて嬉しいのか飛び跳ねながら「聖園ミカだよ!!」と自己紹介。はいはい、はじめまして。
聞いてもないのに語り出したその子、ミカの話を要約すると、こんな感じ。
以前にキミのこと見たことあって〜、一目惚れして〜、ずっと話したくて〜、好き〜。以上。異常。
知らない所で生まれた好意とか怖すぎる。
「カイくん!!」
「あ、はい」
「あははは!!」
「こっわ……」
というかよく見たら、何となくヒフミの制服に似てるか? ここまでヒラヒラしてなかった気もするし、色合いも微妙に違うか? いや、ほぼ一緒か? ぺぇがでかいからなんか分からん。
「ミカか」
「あ! 久しぶりだね〜」
怒涛の質問攻め(回答無し)を受けていて流石に帰りたくなったところ、背後から救世の手が差しのべられた。
じわりと滲んだ汗が薄暗いこの空間で全く映えないが、相変わらずノースリーブへそ出しの素晴らしい格好をしたスタイルイイネ花まるあげちゃうでお馴染みのサオリである。
「任せた」
「え? あ、ああ」
「ちょっと待って!! もっと話そうよ〜!!」
「こんな感じ」
「……理解した」
ありがとうサオリ。やはりサオリ、へそ出しこそ全てなんだね。
ある程度の事態を理解してくれた彼女はこちらへ駆け寄ってくるミカの前に立ち塞がって話を聞いてくれるようだ。めちゃくちゃ押されてる。おい、止めれてねぇじゃねぇか。
「マカロン今度持ってくるから〜!!!」
「お前なんかい」
何度か送られてきたマカロンの贈り主がこんな形で暴露されてしまった。ちょっと知りたくなかったかも。
「え!?」
これ以上は面倒だったために、脚に力を貯めて一瞬で解放し、その場から姿を消す。
足の指の骨全部折れた。痛い。
「補習……授業『部』……??」
『ふ、ふぇぇ……顔見えないのに怒ってるのが分かる声……』
補習授業の部活とか、この世界なんでもありかよ。
ミカ「メグルンルンにマカロン渡したい!!」
↓
ベアババ「嫌がらせにちょうどいいですね(私の方で渡しておきますよニッコリ)」
↓
ミカ「やったァ!!美味しいって思ってくれるかなぁ〜」
↓
アツコ「マカロンうま。私が渡したことにしよっと(失敗)」