ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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求人募集に憧れただけだろ

 キヴォトス最高の神秘、暁のホルス。

 

 アビドスに居た、小鳥遊ホシノという少女。黒服が自身の探求の行く先へ辿り着くピースであり、『崇高』へと導くものだと考えた。

 接触の機会を伺い、ホシノの身辺調査も行い。

 

 故に、ホシノの唯一の同級生である■■メグルという男のことを、黒服は把握していた。

 

 ヘイローを持たない唯一の男子生徒。神秘溢れるキヴォトスでソレはまさにイレギュラー。研究者として、ゲマトリアの一員としての知識欲を唆られるほどに面白い存在。ヘイローがないにも関わらず、神秘を秘める矛盾を抱える男は、しかし黒服の最優先事項にはならなかった。

 

 小鳥遊ホシノには、数歩劣る神秘。

 その戦闘能力には目を見張れども、素材としてホシノに劣るメグルを黒服は重視することはなかった。

 

 故にこそ、これは黒服の想定外。

 

「嗚呼────なんという規格外!! なんというイレギュラー!!」

 

 ゲマトリアが所有する極秘施設。

『遊園地』のようなそこで行われた実験にて測定された数値と、肉眼にて確認した光景に黒服は興奮を抑えることができなかった。

 

 砂漠で拾ったその男は、小鳥遊ホシノを遥かに凌ぐ神秘を放っていた。

 

「ヘイローを持たない男子生徒! 本来神秘を抱えるはずのない存在がこれほどの神秘を放つ異常!! 彼の前で、我々の……世界の常識、全てが『反転』している!!!」

 

 黒服にとっての最高の研究素体はホシノではなくなった。彼の前では全ての神秘が霞むと錯覚してしまうほどの濃度と異質性。

 

「終わりですか?」

 

「クックック……えぇ、えぇ。貴方とは良い関係を築けて行けそうですメグルさん」

 

「俺ノーマルなんで……」

 

「そういう部分は直していきたいですね」

 

 肉体と中身がズレた青年。その記憶、その言動。話すほどに浮き彫りになってくる矛盾に彼は気が付かない。

 

 矛盾に気が付かないという矛盾について指摘することを、黒服は決してすることはない。

 

 事実は違えども、相手が恩を感じているのなら黒服は偽りを訂正することは無い。

 

「『先生』……メグルさんの兄。未だ存在を確認出来ていない、しかしいずれ来たるキヴォトスに革命を齎すお方」

 

 実験により得られる廻のデータ。

 廻との会話の中で時折紛れてくる、穴だらけで歪ながら確かな未来の事象。

 

「楽しみですね────本当に」

 

 それら全てに、黒服は興味が尽きないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

「…………」

 

 エデン条約をめぐる戦いは幕を下ろした。

 ベアトリーチェによる縛りから解き放たれたアリウスの子達。暴走気味だったミカも落ち着きを取り戻し……何故か上の空になったかと思えばぼっと顔を赤く染め上げて身体をうねうねと抱きしめる奇行を見せてはいるが、概ね問題は無いだろう。そんなミカの姿を目にしたナギサとセイアが本気で心配していたが。

 

 それはさておき。

 目下の問題として未だ残り続けるのは、『カイ』という存在だ。

 

 神出鬼没。瞬きの時間しか現れないにも関わらず、残す影響は非常に大きい。

 

 ゲマトリア所属。性別不明。辛うじて手や足が分かる程度にしか判別できないモヤで覆われた身体と特徴的な仮面。見るだけで嫌悪感が止まらないあの存在は奇妙で危険。

 

 その戦闘能力は、アビドス最強のホシノとゲヘナ最強のヒナを同時に相手取り、無傷で完封するという理解の追いつかない程の高み。

 キヴォトス最強格二人が赤子のように扱われていた。只人でしかない私の目では奴の動きを見切ることすら出来ない。

 

「空腹になったら決まってあの顔するよなぁ、ミヤコのやつ」

 

「あれねー。なんか、前に食べたご飯が忘れられないらしいよ」

 

「なんだそれ? ていうか私それ知らないんだが! そんな美味いもん独り占めしたのかよあいつ!!」

 

 あの時、ゴルコンダと名乗った存在が言うには、カイは黒服の側近のような立場にある。黒服は私に……『先生』と敵対しないと明言していた。だからこそ、その言葉を信じるのならばカイは脅威では無いのかもしれない。

 

 それでも。

 

 私の弟を侮辱した奴を。

 廻の遺品である刀を我が物顔で使うアイツを。

 

 私は許容できる気がしない。

 

「おーいミヤコ」

 

「……なんですか、サキ」

 

「忘れられないぐらい美味いご飯食ったって聞いたけどさぁ。何食べたんだよ?」

 

「…………秘密です」

 

「はぁ?」

 

 カイと邂逅したのは、意識があった状態では二度。私は奴のことを全く知らない。

 

 ホシノとヒナは一日と経たずに目覚めたらしい。しかし、二人とも様子はおかしいようだ。

 ヒナはいつも以上に仕事に没頭してしまっている。睡眠時間を削り、カイについて調べようとしている。

 ホシノは後輩の前ではいつも通りを装っているけれど、ふとした時に思い詰めたような表情を浮かべることが増えた。

 

『私にそんな権利はないのは分かってる────けど、こればっかりは割り切れないんだ、先生』

 

 二人はあれから、カイの持つ刀を取り返すことに尽力している。

 私としてはもっと休んで欲しいという思いと、協力して廻の形見を取り返したいという思いがせめぎ合っている。

 

 私も私で、シャーレの仕事の合間にカイの情報収集を行うようになっていた。

 

 カイと、関わりがあったアツコ達アリウス生徒と、ミカ。彼女達からカイについてなにか情報がないかと聞き取りを行ったこともある。

 

『ダメ』

 

 それが、私の質問に対してアツコが突き出してきた回答だった。

 

『もし、先生がカイと敵対する道を選ぶのなら……私は貴方に銃を向けないといけなくなる』

 

 私とカイ。その二つを比較した時、アツコは迷わず後者を取った。

 マスクを外した素顔のアツコ。その瞳に秘められた覚悟、そしてカイに対する信頼。

 悪感情は欠片もなく、全幅の信頼を寄せている彼女の姿に思わず口を閉じた。

 

『カイくん? …………うへ、うへへへっ』

 

 ミカは話にならなかった。

 

「や、焼肉弁当よりも美味しかったんですか?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

「いやいや、焼肉弁当よりも美味しいものなんて、それこそサーロインステーキ弁当とかしかないでしょ〜」

 

「彼の料理を侮辱すると?」

 

「なんだこいつ怖っ」

 

 サオリは姿を消したために話を聞けなかった。

 それでも、残りの4人……アツコ、ヒヨリ、ミサキ、ミカから出てきたカイの印象は、どうにも悪いものではなく、むしろ好印象。

 

 私たちが抱いている奴への感情とは似ても似つかない真逆のもの。

 

(印象操作……)

 

 ベアトリーチェという例を見てしまった。黒服という探求者を知ってしまった。

 だからこそ、私の中で生まれたその予想は決して切り捨てることの出来ない可能性。

 

 すなわち、彼女達を洗脳に近しい印象操作で好意を強制しているのでは、というもの。

 

 その思考を否定する考えが脳に生まれた瞬間にかき消されていく。そんな考えが生まれたことにすら私は気が付かない。

 

「────たった一回の貰い物で? 名前も知らなくて? 別に会話した訳でもなくて? それなのに待ち焦がれたような顔してんのあいつ? 怖いんだけど」

 

「ど、どれだけ美味しかったんだろう、ね」

 

「ミヤコ曰く……『暖かかった』、だってさ」

 

「レンチンすりゃなんでも温かいだろ……瞳孔ガン開きじゃねぇか」

 

【ゲマトリア所属】という肩書きを疑わず、その意味を理解してしまっている私達にはその答えに辿り着くことは叶わないのだ。

 

 ヒフミに話を聞いていれば、あるいは。

 

 そんなたらればを語るほど余裕は無い。

 そんな選択肢が浮かぶこともなかった。

 

 今はただ、目の前の問題を。

 

「……名前、聞けば良かったですね」

 

 学校を失った彼女達の進む先を明るいものにしなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「……バイトを募集していると……聞いたのだが……」

 

「してない」

 

「絶賛募集中ですよ」

 

 お茶会に乱入者が来たと思えば顔見知りでした。どうも■■廻です、はい。

 

 いつも通りの薄暗い部屋で、黒服さんと二人きりのクックックタイムを満喫していた。

 今日は久しぶりに紅茶やコーヒーなどのホットなものではなく、メロンソーダなどのジュースである。など、なんて言ってはいるが炭酸飲料が数本置いてありご自由に、という感じで少ないが。

 

 自慢では無いが、俺はゲップの出し方が分からない。だから、味として炭酸は好きなのだが、飲みすぎた時に胃の中で膨れ上がった炭酸を口から出す術を持たないのである。吐くほどの咳をすれば出るかもしれないけど、その前に込み上げてきた炭酸が口から出せず、結果的に肺がクッソ痛くなる事象が勃発するのだ。けど美味しいからやめられないね。

 

 まあ量を飲めば、という話だ。ちまちまとメロンソーダを飲みつつしょうもない話を黒服さんとしていた時、エレベーターの扉が開く音がしたすぐ後にノック音が三回響く。

 

 驚いた様子のない黒服さんを見て、俺は仮面をつける必要性が無いと理解するとそのまま来客へと視線を向ける。

 

「なにしてんのサオリ」

 

「いや……自分探しを、だな……」

 

 めちゃくちゃ顔見知りでしたわ。

 相変わらず際どい服を着たモデルもびっくりなスタイルのサオリちゃんである。何やらモジモジとしている姿は、俺がここにいるとは思わず気まずいのだろう。私生活で予測してない場所での知り合いとの遭遇ってめっちゃ嫌だよね。

 

「カイはここで何を?」

 

「黒服さん……ああ、この顔面手抜きプラネタリウムね」

 

「そんなこと思ってたんですか?」

 

「黒服さんが俺の保護者的な人でさ。基本ここで過ごしてんのよ、俺」

 

 アリウスもこの人からの派遣で行った、と。

 そう説明したサオリは黒服さんをチラリと見やる。クックックと相変わらず料理したすぎる海外の子供みたいな口調の黒服さんに軽く会釈。

 

 話を聞けば、アツコ達とは完全に別行動をとっている模様。先程言ったように自分探しの旅、というよりは世の中を知りたいと。まああんなクソ狭アリウスに閉じ込められてたんだしね。ベアトリーチェさんの束縛から解放されたんだしはっちゃけても良いだろう。

 

 ちなみにベアトリーチェさんは大人しくしてる。

 この前、久しぶりにゴルコンダさん達の会合みたいなのに参加した時にドンドンと扉を叩く音が聞こえてそこにいけば、以前に付けていた突っ張り棒がそのままの部屋からベアトリーチェさんの「開けなさい!!」という声が聞こえてきた。

 さすがに可哀想に思った俺は「大丈夫ですかぁぁぁあああ」と叫びながらその部屋の前を通り過ぎた。エコーも付けといたよ。背後から全力の舌打ちが響いていた。

 

 そんなことはどうでも良くて。

 

「バイト募集中とは?」

 

 そんな話聞いた事無かった。黒服さんが表稼業に出れるはずもないし、ブラマとかそっち方面の仕事だろうけど、そんなバイトなんて求めるほどに追い詰められてんの? という疑問はある。

 そんな俺の疑問に、黒服さんはティーカップ片手に答えてくれる。

 

「特に人手がどうというのはありませんがね。彼女なら食いつくだろうと思いまして」

 

「確信犯すぎて草」

 

 そういうのは隠すべきでは。

 つまりは最初からサオリ狙い。その狙いとかは分からん。娯楽かもしれないし、何か狙いがあるのかもしれないし。

 

 俺の存在を隠さなかったのにも理由はあるのだろうけど、考えるだけ無駄だな。

 

 一人おいてけぼりにされているサオリは茶菓子をつまんではキラキラと目を輝かせて頬を綻ばせている。アリウスでも何度かあげたことはあったけど、少量だったし頻度も低かった。なんだかんだ、初めて女の子らしい姿を見たかもしれない。役得役得。なんの役? 

 

「それで、私の仕事はなんだろうか?」

 

「そうですねぇ……本当に何も無いのですが」

 

「求人募集って言葉に憧れただけでしょ」

 

 バイト募集中の告知を受けていざ現場にいけば仕事無しとか罰ゲームでもヤバいだろ。

 

 うんうんと悩む素振りを見せる黒服さんは本当に胡散臭い。顔面光りすぎだろ、という考えが生まれるぐらいには意味の分からん空間だ。

 ジュースの味が分からないサオリにコーラをついで渡す。シュワシュワと弾ける表面に注視しながら恐る恐る口に運べば炭酸の感触に目を見開き咳き込んでいた。アマゾン出身かな? 

 

 目尻に涙を浮かばせながら俺に鋭い視線を向けてくる。毒じゃねぇよ。

 サオリが持ってるコーラと同様にシュワシュワしてるメロンソーダを飲んでみせる。訝しむような視線をそのままに、またしても恐る恐るコーラをちょびっと飲む。

 

「……っ」

 

 とりあえず、コップにいれた分は全て胃の中に消えていったということだけはここに記しておこう。

 コーラの他のジュースにも挑戦している。この子バイトの面接に来たんだよな? まあ肝心な雇用主が終わってるんだが。

 

 そんな一連の流れをたっぷりと待って、考え込んでいた黒服さんが「……では」と口にする。

 

「部屋の掃除をお願いします」

 

「なんも考えてなかったでしょ」

 

 家政婦 が 仲間 に 加わった !!! 

 

「偽名だったのか……」

 

 計画性も何も無いバイト面接が終了し、サオリがここで働くことが決まった。期限は無期限、バイトの時間も日も最初の方は黒服さんがスケジューリングするがそれ以降はサオリの自由。世の中を知りたいというサオリの願望を叶える形で副業オッケーでそっちに時間を割いてくれても良い。住み込みの部屋も提供してた。無職の俺が際立つな。け、研究の手伝いしてるし!! 

 

 まあ、長い付き合いにならないかもしれないけど、この部屋で共に過ごす時間は増えてくる。偽名も黒服さんが呼ぶのも面倒だろうし、特にこだわりも無いためにサオリには俺の本名を伝えておいた。境遇とかは伝えてないけど。

 

『カイ』が偽名だとは思わなかったのか、あるいはそのまますぎる偽名に呆れたのか。サオリは目を丸くして俺の名前を数度口にする。なんかこそばゆいな。

 

「仮に、周りにここの関係者以外の人がいる時は今まで通り『カイ』って呼んでくれ。理由は特にないから話さないけど」

 

「……詮索はしないでおこう。了解した、メグル」

 

「どれだけジュース飲むんだよ」

 

「おかわりならまだまだありますよ」

 

「おばあちゃんムーヴ気持ち悪いですよ」

 

「カルピスの原液……だと!?」

 

 話せば話すほどアホだなこいつ。ポンコツなのか? 

 

 まあ、話し相手が増えたのは喜ばしいことだろう。

 

 カーテンで仕切られた向こうにあるであろう青い空を想像しながら、俺は氷で薄まった最後の一口を呷った。

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