ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
「……本当にこれが正装なのか?」
「ええ。もちろんです」
「エロガキじゃねぇか」
俺としてはご褒美です。どうも黄昏の■■廻だよ。
自分探しの旅とか言って襲来してきたサオリ。
我らが茶会会場に雇われて二日目。早速黒服さんのおもちゃにされているようです。
まあ、何をさせられているのかを簡単に説明すれば、メイド服着せられてるだけ。趣味がエロガキなんだよなぁ。
白のフリフリ、スカートは少し膨らみを感じさせて膝よりも上の短いタイプ。
上は谷間がこんにちはしており鎖骨のラインが素晴らしい。脇と肩の部分は露出しており丈の短い服はへそチラ高頻度出現。端的に言って激エロです。
「目線ください!」
「目線……?」
黒服さんが悪ノリするからね。黒服さんが用意した服だからね。そうだそうだ全部黒服さんが悪いんだ!
だから俺もその悪ノリに乗ってあげよう。カメラはないからスマホを取りだしてカメラモードに。下からのアングルで構える俺に困惑するサオリはおずおずといった様子でへにゃへにゃなピースを作る。
「ハートください!!」
「……こ、こうか?」
「次は星!!」
「う、うう……」
「オッケーそのままM字開きゃ」
「全年齢ですよ」
社長席のような机に向かって資料を眺める黒服さんからの言葉で唐突な終わりを迎えた撮影会。いやいや全年齢じゃないだろこの世界。顔の偏差値高すぎるし学生とは思えないぺぇ持ちもいっぱいいるぞ。ホシノは置いておこう。触れないのも優しさだ。
フォルダを見返して見れば割と写りのいい写真にほくほくする。まあさすがに消さないとかなと思いながら振り返れば、片足をあげて両手を頭に乗せてウサミミのポーズを取るサオリの姿が。
「「……」」
絶妙に気まずい時間が流れる。とりあえず写真を一枚追加で撮っておいた。
「何してんのお前」
「お前が言い出したんだろ!!」
世間を知らなすぎる少女。世界の汚さは嫌という程知っているのだろうけれど、綺麗な部分や面白いところは全くと言っていいほど知らないのだから。
「キヴォトスの女の子たちってなんであんなにも露出やばめな服着がちなんですかね」
「メグルさんを除き女生徒しか居ませんからねぇ。機能性重視なのでは無いですか?」
「横乳ガン開きコーデとか意味不明でしょ」
「大きいものは蒸れてしまうのでは」
「風通しとかのレベルじゃねぇだろ」
この世界に綺麗なところなんてあるのか知らんけど。まあ兄さんが導いてくれるだろ。あとヒフミ。あの二人以外で本気でハッピーエンド向かってるヤツらいるのかね。
「サオリはどう思うよ」
「そうだな……スカートやワンピースといったものは空気抵抗が大きく動きにくいし、布面積も最小で良いと考えている」
「だからどエロいピチピチノースリーブへそ出しウーマンが誕生するんだな」
「世界の理というやつですね」
「お前達は何を言っているんだ?」
男二人でうんうんと頷き合う。黒服さんは悪ノリだろうけど俺はガチ。クソエロいだろ冷静に考えて。17歳の男子高校生には刺激が強いぜ。ここはホシノを見て冷静にならなければ。幼女体型を確認。何も感じません!
「サオリの普段着は刺激が強いって話」
「普通だと思うが」
「お前ドレスとか似合いそうだけどそういうの持ってないん?」
おっと地雷か? 冷静に考えて生活環境アレだから持ってるわけねぇか。あの服しかないと言われても納得する。
当然のように否が返ってきた。じゃあ買ってあげるよ、なんて提案はしないけど。バイト代で服を買えばいいのに。
「給料何に使ってきたんだよ」
「貰ったことがないな」
「……」
「そこで私を見ないでください。給料日に纏めて支払いますよ」
サオリ、今までのバイト先で給料を貰ったことがないことが発覚。こいつ雇用主ガチャ死んでるじゃねぇか。もちろんベアトリーチェさんも含む。
んで、その言葉が今回にも適応されているのかと思わず黒服さんを見れば首を横に振り否定してくれた。うんうんそうだね、お金いっぱいあるもんね。もっとお駄賃ちょうだい♡
というか、あのクソみたいな環境から外に出てきたのなら所持金ゼロスタートなのでは。こいつ凄いな。俺がこの世界に投げ出された時なんか絶望しか無かったのに。本当にユメ先輩には頭が上がらない。あの人を害するやつはまじで全員殺すわ。
「何に使いたいとかあんの?」
「生活が出来ればそれで構わないが……」
「服買えよ。可愛いんだから」
爆乳あんまり好きじゃないんだよね。その点、サオリのスタイルはパーフェクトと言わざるを得ない。あしながーい。どこが腰か分かんねぇよ。
「服の良し悪しはあまり分からない」
「アツコに教えて貰えば?」
アイツオシャレ好きそうじゃん。あの環境の中でも特別扱いだったろうし、一番外に憧れてた感じしたし。
多分お願いしたらニッコニコで着せ替え人形にさせられるだろうな。百合は尊いぜ。
そんな俺の提案を聞いたサオリの表情はあまりよろしく無さそうだ。あの三人と会う気が無いのか? 喧嘩?
「まだこの旅で何も得られていない。自分勝手な理由で飛び出したんだ、まだ合わせる顔がないさ」
「こいつ面倒くさっ」
「そういうのは面と向かって言わないものですよ」
なんだこいつメンヘラか? どうでもいいわ、さっさと会えや。
俺が口を出していい領域か分からんから口を閉じる。けど面倒だということだけは小声で言っといた。普通に聞こえてる。
まあ本人もそこら辺は悩んでそうだし、時間が解決するでしょ。俺を巻き込んできたらまじでダルいが。
(そういえば、アツコに会ってないな)
ミカとはあの後会ったがアツコとは会っていない。血色悪そうな顔してたから治ったのか少し気になるけど、まあ大丈夫か。ヒフミ? 毎日電話してるんでほぼ会ってるようなもんですね。ホシノ? ハハッ。
「……アツコと話してやってくれ」
「もうその回想終わってんだよ」
今それについて考えてたところだわ。もう結論出ましたから。
「あいつは、カイ……メグルのことを気に入っているからな」
俺は犬か何かですか。
サオリの言いようにツッコミつつ、アリウスで過ごした日々を思い返す。
戦闘訓練、ご飯、戦闘訓練、ご飯、戦闘訓練、ご飯、冷たい床に布団敷いて眠る、起床、戦闘訓練。
そしてベアトリーチェさんの頭を叩き落とす。
うんうん、カスみたいな環境でしたね。戦闘訓練自体はちょろっとしか参加してなかったから俺は楽だったが、この子らはもうヤッバイ。なんでそんなに立派なものが育つのか分からないぐらいの食生活だったし、まじでアホだろあの人。兵士育てるのに飯を充実させない意味がわからん。目が多いだけなんだね。
『これ美味しい』
結局、俺のご飯を一緒に食べたのはアツコ達だけだったが。最初に寄ってきたのもアツコだったか。最初の方は話せないやつだと思ってたけど表情変化でわかりやすいんだよね。今となっては普通に会話できるが。
別に楽しくはなかったけど、何人かと一緒に飯を食うのは悪くなかったな。いつも一人か黒服さんとかぐらいだし。最近だとヒフミと食べることもあるがそれも少ないし。
兄さんは女生徒に囲まれながら飯を食ってるのだろうか。小指をフェンスにぶつければいいのに。
「機会があればな」
「……ああ……それでいい」
何故かしめじめとした終わり方を迎えながらも、サオリが加わった日常は過ぎていく。
サオリは毎日いる訳じゃない。別口のバイトで数日空けることもあるし、連日ここで勤務することもある。
いつも通りの日々。青い空が晴れ渡る平和な世界。銃声が無ければ完璧ともいえるキヴォトス。
その日は、サオリも黒服さんも居ない一人きりの時間を過ごしていた。
キヴォトスの空は澄み渡るような蒼から一変し、血のように赤黒く染まり、分厚い雲が流れていく。
突如天から突き刺さった巨大な塔。バチバチと不吉なオーラを放つそれを見て、俺は溜息を零す。
「本当に厄介事が尽きないなこの世界」
心做しか風も強い。銃声に飽き足らず異常気象に未確認物体の飛来。本当に厄ネタ箱だよここは。
既に飲み干して空になったティーカップを見つめる。
飲み口に僅かに付着した水滴に反射する紅い空。特段何かを感じることもなく、俺はソファへと一人腰掛けて項垂れる。
別に何もすることは無い。
この前のエデン条約とかいうやつと同じこと。介入するべき事象がなければ、ゆったりと傍観者であるだけなのだから。
◇◇◇◇
死の神は宣告する。ここがお前たちの終着点だと。
アヌビスたる少女の進行を止めることが出来る傑物はこの場にはいなかった。並行世界の介入、テクスチャの崩壊。決して歓迎されるべき事柄ではないそれらを、その少女……砂狼シロコは冷徹に熟す。
「……クックック」
奇襲は数秒とかからなかった。
ゲマトリアの集会を狙った一撃は正確にその場にいた全員を撃ち抜く。
計画の序章の遂行を確信したシロコは、会議室の壁で項垂れる黒服へと近寄り銃を構える。スコープを覗くまでもない距離にいるその人外は、立ち上がることすら叶わない疲労を見せながらも咳き込むように笑っていた。
ここにいる存在の邪悪性をシロコは知っている。
故にこそ会話は必要ない、と。
そう判断したシロコは、どこか不気味さを感じる黒服の様子に問いを投げかけることなく引き金に指を添える。
「貴女の失策は3点」
砂狼シロコの中での黒服のイメージ。
実際に会ったことは無く、ホシノと先生から伝え聞いた話だけでの推測にしかならないが、黒服という存在は会話を好み、持論を相手に説くように長々と話をする男だと伝え聞いていた。
ゆえにこそ、端的に結論を話し始めた黒服の行動に思わず聞き耳を立ててしまう。
「ひとつ。正確に生命維持に関わる器官のみを撃たなかったことによる我々の延命」
人差し指を立てて、黒服は笑う。
「ふたつ。私の御守りを破壊したこと」
続け様に中指を立てて都合二本の指を立ててみせる黒服は、その指をしなりと下へと向けて地面に転がるなにかの残骸を指差した。
警戒を緩めずに視線だけをそちらに向けるシロコにはそれが何なのかは理解出来ず、続く黒服の言葉に耳を傾ける。
「みっつ」
────バキッ、と。
骨が軋む、否。骨が砕ける感触と音が横腹を通じて伝わってくる。それは決して自分の骨ではなく、今まさに自身を吹き飛ばし壁を破壊して外へと投げ出した存在のもの。
「私のような怪しい者の話を最後まで聞いてしまったことです」
もはや黒服の言葉を聞くだけの距離に彼女は居なかった。
視界のブレから突然の衝撃に、ダメージ自体はほとんど無いはずのシロコは目を見開き状況を整理する。
「大丈夫ですか?」
「……ええ、問題はありませんよ。貴方のお陰で助かりましたが……少し、休ませて頂きます」
転移によりあの場所へと到着したシロコは先ず現在地の把握を行い、ついで今なお煙に覆われて姿の見えない敵へと意識を集中させた。
────砂狼シロコは、懸念していた状況というものが存在する。
それは、アビドス高校の仲間達との再会。世界は違えども、シロコの世界では死んでしまった彼女達との邂逅は、彼女にとって耐えられるものではないのだろう。
覚悟は決めた。けれど、いざその時になればどうなるのかは分からない。
そんな曖昧な気概で、しかしシロコは決意表明を行う。
大切な人は目の前で死んだ。
ならば、それ以外はもうどうでもいいのだと。
煙の奥にたしかに存在する、肌をくすぐる嫌悪感の源へと銃を向けて、彼女は思考する。
「────よぉ」
耳に入ってきたのは、中性的な声だった。
聞いた事のない声色。シロコの指が微かに揺れる。
「どこの強盗もどきかと思えば……」
煙が晴れていく。そこから僅かに見えたのは黒いモヤだった。
人間には決して備わっていないその現象。ゲマトリアの纏うオーラを煮詰めたかのようなそれを見て、シロコは呼吸を止めた。
「まだ強盗でもしてんのか────砂狼」
「────」
ソレの全貌を見た。
人としての輪郭は無く、相も変わらずモヤが全身を覆う。
帯刀した刀と奇妙な仮面。
その二点以外、ソレの判別を行う部分はありはしない。
だと言うのに。
「メ……」
砂狼シロコは、一目で見抜いた。
ソレの正体。
「あ? 髪伸びたな」
その事実は、どうしようもなく想定外。
シロコの目の前にいるモヤの正体。
その男は、まさしく。
「メグル……先輩……」
この世界ではなく。