ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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すぐに死ぬなよ

 喉が渇く。

 

 気温は高いが、灼熱というほどでは無い。仮初の砂漠地帯。そんな言葉が似合う場所。

 

 空気は乾燥していて、元々あったのだろう建造物が倒れ、壊れ、傾き、埋まっている。人の気配はどこにもない。そんな当たり前の事実が俺の心を焦らせた。

 

 走る、見渡す、叫ぶ。置き手紙と共に消えたあの人を探す。

 

 それは、砂漠の中から一粒の砂を見つけ出すような行為なのだろうか。

 はたまた、こうして邂逅するのは定められていた運命というやつなのだろうか。

 

「……は?」

 

 この世界に来て約一年。

 人脈も無く、土地勘も無く、所持金も無く。

 

 野垂れ死ぬ運命でしか無かった彼を救った、少女の手。

 

 一見すると綺麗で、小さくて、柔らかそうなその手はその実彼女のこれまでの苦労が僅かに蓄積されているかのように硬い。

 それでも、だからこそ、その手が廻は好きだったのだ。

 

 笑顔のたえない恩人。

 

 その瞳に光は灯らず、網膜に砂が付着していた。

 

 腕はひしゃげ、髪はボロボロ、脚はぷらぷらと揺れていつちぎれても可笑しくない。

 空気が通らない口元。打ち上げられた身体を目にして、廻は刀を抜く。

 

「死ね」

 

 この世界に来て初めて……否、生まれて初めて心に生まれた『殺意』の種。

 それは一瞬にして開花し、目の前で恩人を弄ぶ仇へと放たれた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「────砂狼シロコさんから聞いた時は、耳を疑ったけど」

 

 砂狼との戦闘から数刻。目が覚めてすっかり元気になった黒服さんはスタスタと何処かへと向かい、ゴルゴンダさん達は起きる様子が無かったためにとりあえず安全そうな部屋へと連れていき寝かせて一息ついたところ。

 

「本当に貴方なのね……メグル」

 

「よぉ、A.R.O.N.A(クソガキ)

 

 周りを見る。今さっきまでいた無機質な部屋ではない、歪で不格好で、それでいてノイズがはしった教室のようにも見える何処か。

 机のようなもの、椅子のようなもの。触れることも叶わないそれらの向こう側に、A.R.O.N.Aはいた。

 

 白く長い髪、黒い瞳。俺の記憶に当てはまらないその見た目だが、それでも俺の知るあいつだと理解する。だって無機質な喋り方とかまんまだし。

 

 おっと、遅れてどうも■■廻だお。

 

 相変わらず感情のない無表情で見つめてくるA.R.O.N.A。俯きがちで佇む彼女は自分の服の裾を両手で握りしめ何かを考える。

 

「久しぶりだな」

 

「……」

 

「無視かよ」

 

 人の心は一旦無いようです。道徳落単しただろお前。会話を切り上げるの早いわ。

 

 その感じ、ひさしぶりだなー気持ちいい〜、とかいう激キショな感想は出てこない。相変わらずのガキンチョである。兄さんの影に隠れてコソコソと罵倒してきやがって。

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、A.R.O.N.Aは重たい口を開く。

 

「どうして生きてるの」

 

「悪口極めすぎだろ」

 

 お前なんて生きてる価値無いからー、の言い方変えたバージョンだろそれ。それかあれか? 「お前が生きてても世界にとってなにも利にならないし価値もないのにどうして生きてるの?」ってことか? デコピンするぞクソガキが。

 

 いや、もはや俺の事なんて忘れてて「あ、生きてたんだ。ところでどちら様ですか?」ってやつか。どっちにしてもきめぇ。

 

 そんなことを言ってみれば、A.R.O.N.Aはいたって真剣に捲し立てる。

 

「違うっ……砂狼シロコさんから聞いた。貴方はホルスの暴走を止めた後に死んだ」

 

 ホルス……ホシノね。暴走っつっても、あいつがちゅどーんって変身して良くわからん形態になっただけでしょうが。んで、ユメ先輩を蘇生しようとしたらホシノに首チョンパされたんだね。思い出しただけでも首が全く痛くないぜ。痛みも無く死んだからね。

 

「生き返ったんだよ」

 

「貴方の神秘の性質はおおかた把握しているけれど、死を塗り替える程のモノじゃないはずよ」

 

「知らねぇよ。黒服さんに聞けよ」

 

「黒服……」

 

 おっと、そこで詰まるのか。砂狼から黒服さんのことは聞いてないのか? というか、砂狼が黒服さんのこと認識してるって思い込んでるのも間違いなのか。金持ってそうだから黒服さん狙ったんだろうからねあいつ。

 

 いつものような舐め腐った無表情とは違い、今のA.R.O.N.Aは苦虫を噛み潰したような表情をしたり、また無表情になったりとマイナスな意味で表情豊かになっている。

 

「……そもそも」

 

 絞り出すように、A.R.O.N.Aは俯きながら声を出す。

 

「どうして貴方が────こっちに居るの」

 

「……?」

 

 言葉の意味が分からなかった。

「こっち」というのが何を示しているのか。A.R.O.N.Aが何故そこまで泣きそうに顔を歪めているのか。

 

 分からない……が。

 

「色彩……違う、アレの影響があれば私達ならすぐに気付く。なら、自力で……? いや、まさか────」

 

「難しい話やめてくんねぇかな」

 

 A.R.O.N.Aの世界。見るに明らか不完全、いつ崩れてもおかしくない……いや、既に壊れた世界を無理やり繋ぎ合わせて、今回のためだけの限定的な空間構築をしたような教室。

 兄さんの弟だからかは知らないが、【■■■■の■】に干渉できる俺だから、この程度のことは出来る。

 

「なっ……崩れるッ」

 

「どうせまた会うだろ」

 

「待ちなさい! まだ話は終わって……!!」

 

「お前は終わってなくても俺は終わった」

 

 押せば崩れる世界なのだから、軽い干渉で崩壊を始めるのは自明。初めての試みだったが思いの外上手くいったようだ。

 白い手を伸ばして声をあげるA.R.O.N.Aを見つめる。俺とA.R.O.N.Aの中間あたりの空間に亀裂が入る。

 

「じゃあな」

 

「メグル────ッ」

 

 色褪せた世界が粉々に砕ける。淀んだ光が目を焼き、目を開けた俺の視界に入ってくるのはビッグサンダーマウンテン。

 

「起きたか……どうしたメグル」

 

「幼女見てからのこれは破壊力が凄いね」

 

「お前は何を言ってるんだ……?」

 

 さおりんりんのご登場です。なんでいんのこの子。

 

 A.R.O.N.Aに招かれてあの世界に意識が飛んでいた俺は別に倒れた訳ではない。意図してなかったが、壁にもたれて目を瞑っていたようだ。だから、気付けば膝枕されててキュン……などという展開にはならない。それでも、俯いた状態から目を覚ました俺の真正面に立っていたサオリの胸に目が行くのは自然だし、なんなら強調するように腕を組んで胸を押し上げてるこいつが悪いと思うんですよ。

 

 なんにせよ、どうしてサオリがここに居るのか。家政婦として雇っているのは黒服さんがクックックしてる部屋だけであって、そこから離れた塒であるこの場所は知らないでしょうが。というか今日あそこにも居なかったし。何してんの? 

 

「ああ、それはな────」

 

 サオリ曰く。別口でのバイト先がブラック(闇的な意味)でもぬけの殻になっていたそうで。意図せず時間が出来たからあのビルに向かおうとしていたら、飛んでいく俺が見えたので跡をつけたと。

 

 なるほど。ストーカーだったようです。というか飛んでる俺とか文言オモロすぎる。飛んだのは首だけサ! 

 

「何があった」

 

「後輩と斬りあっただけだよ」

 

「どういう……?」

 

 理解はしていない様子。説明はしないよ面倒臭いし。

 

 俺がアビドス生だったことをサオリは知らないし、俺に後輩が居ることも知らないだろう。歳は言ってたっけか? 

 そもそも、この世界で行われるのは『撃ち合い』だ。『斬り合い』なんてものが起こる場所は存在しないだろう。俺以外に刀持ってるやつ見た事ないし。砂狼が持ってたのは俺のお下がりだからな。お下がりというか遺品か。

 

 疑問符は消えず。しかし追求を諦めたのか、サオリがそれ以上聞いてくることはない。物分りが良くて助かるね。

 

「それよりも、何がどうなっている」

 

「なにが」

 

「突然立ち上ったあの六つの塔。それに、紅く染まった空……まあその空も、急に割れて青空が垣間見えているが」

 

「ああ、空斬ったの俺だわ」

 

「は?」

 

 キヴォトスの何処からでも見えるほどに高く聳え立つ六つの塔。その正体は全く検討もつかないけれど、何となく砂狼とかA.R.O.N.Aとか関わってそうだなぁと感じてはいる。根拠は無いよ。

 そして、黒服さんがどこかへ行ったのもその件だろう。根回しなのか、娯楽なのか。

 

「────お集まりのようで」

 

 噂をすればというやつだ。

 

 コツコツと。空間に響く黒服さんの革靴の音。

 顔やら手やらから光が零れていた時とはうってかわり、いつも通りすぎる態度でサオリの後ろから現れた。暗がりから現れるの様になりすぎだろ。敵キャラかよ。

 

「黒服か」

 

「こんにちは、サオリさん。メグルさんも回復されたようで何よりです」

 

 黒服さんとゴルゴンダさんたちの治療。そして、砂狼との斬り合いで使用した奥の手。俺の必殺と言うべきそれによって消費された神秘は多すぎた。黒服さんに見せたことはなかったとは思うけど、ガス欠寸前だったことを悟っていたのだろうか。今はもう元通りだけど。

 

 いやぁ、砂狼強かったなぁ。普通に。今ならホシノボコボコに出来るだろ。ずっと下克上下克上言ってたし。アビドスに来て半年もしないうちに俺らのこと先輩として慕ってくれてたけど。

 

「ナニしてたんですか?」

 

「ニュアンスに物申したいところですが、今はスルーしましょう」

 

 ネクタイを正す素振りを見せながら、黒服さんは口を開く。

 

「先生とお話を少々」

 

 でしょうねしか出てこない。厄介オタクすぎるだろ。

 

「サオリさん。あなた方生徒の皆さんにはじき、先生からの要請が届くでしょう」

 

「そうか……私に出来ることがあるのなら、先生に恩を返そう」

 

「生徒に貸しを作って言えないことをさせまくる鬼畜」

 

「先生に対してそのようなことを言えるのは貴方ぐらいですよ」

 

 もちろん俺に連絡が来るはずもない。だってもう生徒じゃないしね! 多分。卒業ではなく中退か? 除籍? 分からんけど、兄さんの連絡先知らんし。

 

 そんなことを思っていると、ふと気になったことが出来たために黒服さんに聞いてみる。なんか足りないと思ってた。

 

「ベアトリーチェさんはどこ行ったんですか?」

 

「彼女は五等星になりました」

 

「遠っ」

 

 そう、我らがベアババァが居なかったのである。砂狼にミンチにされたのか、部屋に閉じ込められたまま灰になったのか。心配? 一ミリもしてない。

 でも気になったので聞いてみれば、五等星になったらしい。遠くに行きすぎだろ。光も弱いし。やはり噛ませか。見た目から分かってた。

 

 まあ、濁す感じではないけど黒服さんの言葉的に追放されたのかな。目が多すぎたんだね。サークルの姫みたいな立ち位置だったけど、本人がそう勘違いしてるだけで周りからは腫れ物扱いされてるポジションだったんだろう。

 

「ゴルコンダ達は無事ですが、当分目を覚まさないでしょう。ゲマトリアも一時休止ですかね」

 

 ピロン、という通知音と共にサオリのスマホが震える。どんな通知なのか、それの予想がついているサオリはメッセージに目を通すと一度目を閉じてから迷いなく目を開く。もちろん俺には来てない。ハブられてます。

 

 大規模な作戦でも始まるのだろうか。この世界にとって良くないものがあの塔だと分かるけれど。別に俺は関係ないしなぁ。静観するだけだな。紅茶新しいやつあったかなぁ。

 

「話は付けて来ました」

 

 思わず、刀に手を伸ばしていた。今までの考えが全て吹き飛ぶ。

 

 俺の名前を呼ぶサオリの声も聞こえない。この世界で俺とソイツしか居ないと錯覚するほどに、俺はその気配を感じ取っていた。

 

 ただ、黒服さんの声だけが聞こえる。

 

「貴方の邪魔は誰もしません」

 

 俺の肩に触れる手。恐らくサオリ。俺の様子に心配しているのか、そうでは無いのか。

 それに反応する余裕はもう無い。

 

 待ち望んでいた。恋焦がれていた。

 

 この瞬間をずっと待っていたのだろう。

 

 俺の『運命』。唯一無二の存在。

 

 コイツを殺す為だけに、俺は居るのかもしれないという錯覚。

 

 憎悪は熟成され、乙女の恋心のように。

 

「存分に……お楽しみください」

 

 俺の顔はきっと。

 

 気持ち悪いぐらいに、嗤っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 アビドス砂漠地帯。

 

 虚妄のサンクトゥムタワーの一角を守護するデカグラマトンの預言者。

 

 第三セフィラ・ビナー。

 

 巨大な蛇と鯨が混ざったかのようなかの存在の異名は、『違いを痛感する静観の理解者』。

 

 ビナーは飢えていた。

 捕食の必要は無く、生殖機能の無いビナーは、それでも何かに飢えていた。

 

 意思を感じないその存在。

 砂漠を泳ぐようにサンクトゥムタワーを守護するビナーに天敵と呼べるものは無かった。

 

 彼に意思疎通の能力があれば、きっと『眠い』という言葉が聞こえてくるだろう。

 守護の任はこなす。それでもやる気が無いのか。明確な脅威がいない時点で、ビナーは怠惰に静観するばかりだった。

 

 ビナーの意識が覚醒するに至るのは、一瞬のことだった。

 

「よぉ」

 

 聞き覚えはなかった。ビナーにとっては有象無象のひとつに過ぎなかった。記憶する価値も無いものだった。

 

 ただし、今頭上から聞こえてきた声の主から感じる脅威は。

 

「会いたかったよ」

 

 ビナーの頭を凄まじい衝撃が襲う。全身が筋肉でできているかのように頭部を浮かばせていたビナーは砂漠へと叩き付けられた。

 漏れ出す悲鳴。点滅する視界。ただの一撃で蓄積するダメージとは到底思えないそれにビナーは混乱した。

 

 仕立て人たる仮面の男は、全身にモヤを纏わせながら刀に手を置く。

 ゆっくりと自由落下する存在を見上げ、ビナーは光線の蓄積を開始した。

 

 圧倒的熱量。あらゆる物質を融解させかねないそれを前にして、その男は普段通りの振る舞いを見せた。

 

「────誰に手を出したと思ってる」

 

 ビナーの記憶に残らない一幕。

 過去、一人の少女の遺体を弄んだがために廻ってきた因果。

 

 あの時の殺意を思い出すように、カイ……廻は刀を抜く。

 

 仮面を付けるのは、戒め。

 あの時の脆弱な自分を。守れなかった自分を。

 

 その全てにお別れを。

 

「すぐに死ぬなよ」

 

 放たれた光線。空気を割く一撃を、廻は刀の一振で分割する。

 

 これをもって、ビナーは正式に廻を脅威として認めた。屠るべき対象だと認定した。そして、彼の飢えを満たせる存在だと歓喜した。

 

 同時に、天敵の存在に恐怖した。

 

 廻から向けられる、何物よりも鋭い殺意を浴びて、ビナーはその存在を否定するように身を動かす。

 

 廻は、待ち望んだその瞬間に立ち会えたことに感謝と殺意を織り交ぜ、仮面の中で歪に嗤う。

 敵討ちではなく、ただの自己満足でしかないそれに、僅かばかりの時間を楽しもうと。

 

「【神■解放】」

 

 今、ここに。

 

【反転の王】が顕現する。




廻の中でのランキング一位達

【かっこいい】→サオリ
【可愛い】→アツコ
【仲良い】→ヒフミ


【殿堂入り】→ユメ

ユメに関しては好意云々の次元の話では無い

ホシノはそれぞれ二位か圏外のどちらか
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