ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
その剣閃に目を奪われた。
「たまたま来ただけだって言ってんだろ」
その圧倒的な力に魅了された。
「────」
なんでもないようなその表情が。
自由なその姿が、眩しかった。
◇◇◇◇
飛び上がる。
足場が砂だろうと関係無い。空高く、それは飛翔と言って差し支えない程の高さまで。
俺を見下ろしていたソイツは、空に飛び上がった俺を見上げると口を開いて光を収束させていく。
景色が歪む。陽炎の如きそれは、ソイツが蓄積している熱量に比例して世界を変えていく。
刀は腰に携えたまま、左手で手刀の形を、右手は握り締めて拳へと。
世界から音が消える。瞬間、放たれた光線。真正面から放出されたそれは、視界が白一色になるほどの規模を有していて、直線上の全てを焼き払う圧倒的な威力を内包したものだった。
ピッ、と。
左手を横に一閃。聴覚も視覚もほとんど意味をなさない状況下で、確かに俺の鼓膜を揺らした軽快な音。
空気を割くようでいて、裾が靡いた音のようでもある。
それだけで、向かってくる光線は霧散した。
感情を有しているのか分からない。思考というプロセスがあるのか分からない。そもそも生物なのかも怪しい。そんなアイツとて、開けた視界から見えたその顔は『唖然』と言っていいほどのあほ面を見せてきていた。
拳を握る。人体に許されたキャパを何倍にも超えた力の行使。
拳を握るだけで指の骨が悲鳴を上げて、掌の皮膚は今にも突き破れそう。
けれど、壊れない。
自由落下に身を任せる。あっという間にソイツの頭上へと接近し、拳を振り下ろす。
拳は音を置き去りにし、肘の骨に亀裂が入────再生。
ピン、と伸ばされた右腕の肉が耐えきれず、ちぎれ────再生。
拳がソイツの頭部を捉える。伝わってくる衝撃。ビルなんかよりもよっぽど硬い外骨格。キヴォトスに暮らす彼女達とは違い、肉体強度が最低クラスである俺の肉体が耐えられるわけなく、骨は砕け血肉が飛び散────再生。
ソイツの頭部と接触した拳の皮膚が潰れ────再生。
ソイツの頭部と接触した拳の皮膚が潰れ────再生。
ソイツの頭部と接触した拳の皮膚が潰れ────再生。
潰れ再生潰れ再生潰れ再生潰れ再生潰れ再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生。
振り切る。鈍い爆発音が響き、ソイツはヘイローを置き去りにする勢いで砂漠へと向かってその身を落とす。
ドパンッ、という音と共に砂が巻き上がり、ソイツの形に沿って穴が出来る。
血の一滴も垂れず、傷跡も痛みも無く、俺はそのまま沈んだソイツの上に降り立つ。
「次」
心臓の鼓動のように、ソイツの身体がビクンと震える。
その巨体からは想像の出来ない速さで身体を脈動させ、上に乗っていた俺の身体が横へと吹き飛ばされる。
未だ空中を飛ぶ俺を捉え、ソイツはウネウネと砂漠を泳ぐように接近し口を大きく開ける。
光線では無い。単なる捕食。直接俺を噛み砕くつもりなのか。けれど、ソイツは俺の腰から刀が消えていることに気が付いていない。
景色が変わる。砂漠に突き刺した刀を拾い上げ、俺の居なくなった空間を捕食したソイツの身体の中間部程を触れる。
口の中に異物が無いという違和感に、ソイツは俺の姿を探すように首を動かす。俺はゆっくりと腰を下げ、グッと脚を引く。
振り抜く。
足の付け根が裂け────再生。
膝の関節が砕け────再生。
接触した足が潰れ────再生。
再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生。
断末魔のような音を奏でて吹き飛ぶソイツを見送り、俺は五体満足の体のままに砂漠を歩く。
踏み込む事に僅かに沈む体。やはり平地と比べて歩くのがしんどいな、と俯瞰して考える。
明らかに立て直すまでの時間が長くなったソイツの目の前に立つ。鋭い機械的な眼光を一身に浴び、俺はただ一言呟く。
「次」
カッ、と輝く砂漠。
俺が断ち切った空の青さがあるとはいえ、大部分は赤黒い空で覆われたこの世界は微かに薄暗く、砂の粒の隙間から漏れ出す光は星空の如き輝きを見せてきた。
不思議と眩しくない輝き。俺の前方二十メートル程の地点から、光の柱が天へと昇る。
人一人容易に入る規模の柱は、瞬く間に幾つも顕現していき、俺の周りを囲うように円上の壁となってそそり立つ。
それは、檻。
出る隙間はなく、俺を絶対に逃がさないという意志を感じる鳥籠。
その高さは見えない。足場の悪いこの状況で、上からの脱出はまず無理だろう。
速度では勝てないと踏んだあいつの抵抗か。光線を直接当てるのではなく、砂漠へと放出して力のベクトルを書き換えたのか。
そのうち、ポツリと立つしかない俺を呑み込む極光が放たれる。そんな予感を感じてなお、俺は焦ることは無い。
腰に携えた刀の柄に触れる。
鯉口をあげ、僅かに露出された刀身。鞘と刀の隙間から、闇が漏れ出す。
ねっとりと絡みつくようなモヤ。それは鞘ごと刀を包み込み、刀を抜く力が一層増す。
砂が踊る。大地が揺れる。巨大なスピーカーが砂中で爆音を響かせているかのように。
仮面が震える。ピシリ、と小さな音が響く。
神秘立ち上るなかで、俺の身体は冷めていくばかり。
「【神■廻放】」
光が消える。闇が蠢く。世界が拓ける。
俺を目とした砂嵐が巻き起こる。地中から漏れる光は消え、気配も感じない。
砂嵐の隙間から僅かに見えるアイツの姿。口を開いて固まって、ジッとこちらを見つめる様子に、俺は何も感じない。
刀を鞘へ収める。追撃は無い。こちらからもしない。
ただ見つめる。ただ待つ。
アイツの全てを受け止めて、否定し、完膚なきまでに叩き潰すために。
「次」
◇◇◇◇
「ねえ、メグル」
「ん?」
アビドス高等学校。
かつては校舎を埋め尽くす生徒数を誇っていた高校にはもはや三人の在学生しかいない。
そんなアビドスで、唯一の同級生たる二人。
その一方。小鳥遊ホシノが■■廻へと問いを投げ掛けた。
「メグルはどうしてアビドスに滞在してるんですか」
それはホシノにとっては当然の疑問と言えた。
ホシノは廻のことを深くは知らない。
入学時期は同じとはいえ、自分よりも早くにアビドス高等学校で生活していたという話は聞いた。ただ、それだけだった。
入学してから共に過ごした日々以上のことを、ホシノは知らなかった。
だからこその疑問。
なぜ、終わりと言っていいアビドスに留まり続けるのか。
砂漠が大半を占め、何かが栄えている訳でもなく、生徒数はわずか三名。
アビドスに通っている自分が言うのもなんだが、わけがわからないとホシノは思う。
そんなホシノからの問いかけに、「はぁ?」という気の抜けた顔を浮かべた廻は考える素振りも見せない。
「ここ以外知らないし」
「それは……外に出てみれば気も変わるのでは?」
「なに。俺嫌われてる?」
「そうは言ってないでしょ」
「じゃあ好きなん?」
「友人として」
「でしょうね」
特に残念そうな様子も見せず、表情も変えずに椅子へと座り込む。
ギシッ、と学校設備の新調が難しいアビドス高等学校の古い椅子が軋む音が響く。ホシノは片腕を腰に添え、ムスッとした顔を廻に向ける。
廻は頬杖を付きながら少しばかり黙るとホシノの視線から窓へと目を逸らす。
「ユメ先輩が居る」
「……はい、そうですね?」
廻の回答の意図が分からない、と首を傾げる。
静かに廻は続ける。
「独りで迷ってた俺に手を差し伸べてくれた変人だよ、あの人は」
それは、ホシノが知らない二人の邂逅。
その詳細を、廻は語らない。自慢話でも何でもない。
ただ、それはホシノが想像する以上に。
「俺の恩人だ」
「────」
「俺の命ぐらい、あの人のために使いたいと思ってる」
重く、壮大なものなのだろう。
命を捧げても構わないという、戯言だと捉えてしかるべき言葉。
一笑に付すことが当然なそれに、しかしホシノは笑うことが出来なかった。
見つめる。この世で唯一の同級生の姿。
いつもと変わらない気怠さを感じさせる立ち振る舞い。けれど姿勢はピンと張っていて猫背にはならない。
その表情は普段のそれで、何も変わらない彼の姿に、しかし目を惹かれてしまう。
(本気だ)
そう確信を持ててしまう。理由は分からない。何が違うかの説明も出来ない。ただ、直感が囁いた。
二人の過去をホシノは知らない。聞きたいが、聞こうとは思わない。そんな僅かな矛盾をはらんだ思考に陥り、ホシノは自分でも分からないまま逃げるように息を吐く。
「重い男は嫌われますよ」
「重くねぇだろ別に」
絞り出した言葉にケラケラと返答してきた男を見て、ホシノはまた別の感情を乗せた溜息をこぼす。
(────私にはメグルが分からない)
決して長い時を共に過ごしたわけではない。しかし、ただ二人の同級生で、上回生を合わせても三人。時間を共に過ごす密度で言えば、どの学校よりも遥かに恵まれたものだ。
会話を重ねた。普段の生活を共にした。癖も分かる。
けれど、ホシノには廻の深部と呼ぶべきものが何一つ分からなかった。
梔子ユメという、廻にとっての最大の理解者はもはやイレギュラーと言ってもいい。
廻は自分語りをしない。ホシノは他人の心の深くにまで踏み込むようなことはしない。それがこの結果。
「よく分からない人ですね」
「馬鹿にされてる??」
「褒めてるんですよ」
「嘘つけや」
────だからこそ。
「────おまえ、たちは……」
黒いモヤが乱れる。脚が膝下まで目視できるほどにモヤが晴れ、それが人間であることが分かる。
「────おまえたち、は……どこまで……ッ」
ソレに纏わりつくように展開されたモヤが薄まった原因。それは見るに明らか……仮面の破損。
左手に盾を、右手に愛銃を。息を荒らげ、肩を揺らし、歯を噛み締めながら瞳を鋭く研ぎ澄ませた小鳥遊ホシノは、憎悪と殺意を滲ませて声を荒らげる。
カイと呼ばれた黒服の側近。
奇妙で不気味でおぞましかったその仮面には所々ヒビが入り、ちょうど左目に該当する部分が露出していた。してしまった。
そこから覗く眼差しが。
ホシノを捉えるその瞳が、ホシノの知っているものと
ホシノは猛る。怒りを憎しみを、全ての悪感情を乗せて。
ここには居ない、憎むべき悪い大人達へと叫ぶ。
「どこまでッ……人を弄べば気が済むんだッ!!!」
その瞳からは、雫が一滴流れていた。
バーサーク・メグるんるん
細胞単位でのダメージよりも再生力の方が圧倒的に高いため、キヴォトスの何よりも脆く、何よりも丈夫という矛盾を抱えた存在になってる。簡単に言えば、クソ硬いというよりは、どれだけ叩いても壊れないという表現の方が正しい。
細かく言えば、肉体強度は変わらずクソザコナメクジであり、銃弾を弾くような身体強度ではないため、仮に銃弾を正面から受けた場合は突き刺さる前に再生が完了するを繰り返すために皮膚の上で弾丸が回転するとかいうやばめの状況が出来上がる。