ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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考えることが多すぎて熱出そう

「ごめんね〜。あんまり備蓄が無くて」

 

 見た事のない土地。見た事のない世界。見た事のない物理法則(ヘイロー)

 

 引っ張られてもつれそうになる脚を動かして辿り着いた場所……恐らく、学校。

 人の気配は無い。昼間なのにそんなことはあるのか、それとも今日は休日なのか。

 

 今日が何日で、今が何時なのか分からない俺にはその判断がつかない。太陽の位置で大体の時間を想像していた苦行は原始人にとっては当たり前だったと考えれば、時計を開発してくれた偉人には頭が上がらない。

 

「……あの」

 

「うん? どうしたの?」

 

 完全に部外者な俺の手を引き校舎内へと入れてくれた女性……梔子ユメさん、だったっけ。

 妙に砂が多い地域。校舎の中まで砂が入り込んでいてパッと見は廃校寸前……というか廃校になって何年か経ってるのでは? と言いたくなるような惨状。

 

 土足で入るのはまぁ学校によってはあるよなと思いながら梔子さんに手を引かれたまま辿り着いたのは教室のような規模のものではなく小さな物置のような一室。

 いや、ドアの上に部屋の名称が書かれていた。

 

『生徒会室』。俺も知っている、というか学校には必ずある生徒会という組織。組織、というほど大層なものではない。アニメや漫画のように教師以上の権限を持っている、なんてものは存在しないだろう。超人の集まりでもない。内申が欲しい人が集まって雑用をさせられる。そんな集まりだと俺は思っている。

 

 そんな生徒会が使用するのが、生徒会室。読んで字のごとく、この部屋はそれに該当するのだろう。

 

 ダンボールが部屋の隅に詰まれ、長い机が中心に鎮座し、パイプ椅子が幾つか並んでいる。書類が整理された棚。お湯を沸かす程度の小さなコンロ。あるのはその程度だろう。

 

 そんな部屋に連れてこられた俺は、パイプ椅子のうちのひとつに座らせてもらうと、目の前にペットボトルの水とパンが置かれた。

 あの気温の中で何時間と彷徨っていた俺の喉は既にカラカラ。キャップを勢いよく開けて一気に半分ほど呷る。渇いた喉が一気に潤いを取り戻し、飲み込んだ後にはすぐに僅かな乾きを感じるけれど、今は急いで飲むほどの窮地ではないため一息ついてから落ち着きを取り戻し、梔子さんに声をかける。

 

 パンも食べなよ? と声をかけてくれる梔子さんにありがとうございますと伝えて、まだパンには手を出さない。

 

「よかったんですか」

 

「えっと……なにがかな?」

 

「自分で言うのも何ですけど……不審者でしょ、俺」

 

 パンと言ってもふわふわもちもちでは無いのだろう。乾パンとまではいかないが、先程言っていたように備蓄……保存のきくパン。表面が乾いていて、さっきまでの俺みたいだな、と馬鹿な考えをする。

 

 俺の言葉を受けて、キョトンとした顔を浮かべた梔子さんに調子を崩される。

 俺自身は中三とはいえ、ボロボロに汚れた服でフラフラと歩いたり、というか梔子さんに声をかけられる直前にはどこかの建物に倒れかかっていたんだ。彼女が高校生だとして、年下の男子が困ってそうだから、という理由でここまで出来る人は居ないだろう。

 

 理由を求めていないけど、求めてしまう。そんな矛盾を孕んだ疑念。

 全てが分からない。人も、世界も。全てが初見。既知のものなんてひとつも無い。放り出されたんだから。

 

 なにか要求があってくれた方がまだマシだった。理由がある方が納得出来た。

 だと言うのに、この人は。

 

「だって……困ってたから」

 

 そんな事を、当たり前のように言うこの人が。

 

「……はは。凄いですね、梔子さん」

 

 見返りを求めていない綺麗事を言うこの人を、一瞬で信じてしまった自分に戸惑った。

 

 困ってたから、助けた。なんて素晴らしい善意なのだろうか。それが当たり前に求められるものであり、それを持っている人なんて果たしてこの世にいるのか。

 

(この人だ)

 

 善人。その言葉に相応しい人。疑心暗鬼になっていた俺の心を一瞬で溶かして、気が付けば懐に入ってきている。それに対して不快感が一切無い。

 

 目の前に置かれたパンをちぎる。焼き目のついた表面の皮のような部分がポロポロと落ちる。左手で落ちた破片を拾いながら一口大にちぎったパンを口に放り込む。弾力強めの密度の濃いパン。味自体はそこまでしない。僅かな甘みが噛む度に溢れてくるけど、市販のものに比べればお世辞にも美味しいとは言えないだろう。

 

「────大丈夫だよ。遠慮しないでね」

 

 けれど。

 

 俺は多分、このパンの味を忘れることは無いと思う。

 

 パンを噛み締める俺を見つめる彼女の笑顔を、俺はきっと忘れないのだと思う。

 

「ありがとう……ございます」

 

「……うん。どういたしましてっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「プルルルルるるゥゥゥゥゥッッはぁぁぁぁぁ!!!」

 

「急にどうした、メグル」

 

「いつもの発作ですね、分かります」

 

「扱い雑になってきてません?」

 

「どこか悪いのか?」

 

「狙って言ってるだろお前」

 

 エブリデイフール。どうも■■廻です。誰が毎日馬鹿じゃい。

 

 キヴォトスの復旧も済み始めた今日この頃。そういったボランティアには一切参加しないクズな俺は相も変わらず黒服さんのいる部屋でぐだぐだしているのである。

 

 今日はコーヒーや紅茶のようなちびちび飲む娯楽品では無い。飲まなきゃやってられんぜ、こんな世界!!! 

 

 というわけで、カルピスとクッキーです。

 

「イィィィヤッハァァアアアアアア!!!」

 

「本当にどうしたんだあいつは」

 

「色々あって脳のキャパを超えたのでしょう。そっとして差し上げるのもひとつの優しさというものです」

 

「そうか……なっ……このカルピス、ぶどうの風味がするッッ!?」

 

 直近で色々あり過ぎた。考えることも多かった。脳みそ使い過ぎた。というか今も使ってる。休めない。叫ばねぇとやってられるかってもんよ! 

 

 あのクソ蛇……黒服さん曰く、ビナーというらしい……との再戦からの取り逃し。その前には砂狼とバトって、A.R.O.N.Aが接触してきて。極めつけは────

 

『あの子達をお願いね、廻』

 

「……はぁ」

 

 本当に、色々あり過ぎた。

 

(人選ミスだろ、兄さん)

 

 俺が誰かを救えたことなんてあるか? ないない。そういうのは全部兄さんの役割だったし。俺は救われてしか無い。

 

 ユメ先輩に救われて、ユメ先輩を救えなかった。

 

『────』

 

『……くそ』

 

 あの時。

 ユメ先輩を抱えた俺を迎えたホシノ。

 

 砂漠をフラフラと歩く俺へと焦ったように、救いを求めるかのような表情を浮かべて走ってきたホシノの、俺が抱えるユメ先輩の状態を見た時の顔を。

 

 ユメ先輩にも託されて、そんな深い意味は無かっただろうけど、ホシノを頼むと、そんなニュアンスのことを何度も言われていたのに。

 

『────ごめんなさい……ごめん……なさい……』

 

 焦点の合わない空虚な瞳から溢れ出る涙と、ブツブツと口から流れていく謝罪の言葉。

 

『…………帰ろう、ホシノ』

 

 そんなホシノの姿が、目に焼き付いて離れなかった。

 

「メグルさん」

 

「なんですか単眼」

 

「分かりやすく八つ当たりしないでください」

 

 おっと、つい。

 丸い形のクッキーをリスのようにガジガジと無心で食べていたところを黒服さんに声をかけられる。というかクッキー美味いな。ミカさんあざーっす。

 

 黒服さんの後ろではチャイナドレスを着たサオリが目を輝かせながらカルピスシリーズの飲み比べをしていた。セーラー服じゃないんかい。しかも丈が短めのやつでなかなか際どい。いい趣味してるぜ。

 

「メグルさんにシリアスな空気は似合いませんよ。バカなんですから」

 

「この人結構なこと言うな?」

 

 こんなにも真面目な雰囲気で人を馬鹿にすることを言える人が他にいるだろうか。いいえ、あなただけです。ベアトリーチェさんならワンチャン言える。でもあの人は5等星になっちまったんだ。儚いねぇ。

 

「知ってますか黒服さん」

 

「どうせ知らなくてもいいことでしょうが、なんでしょう」

 

「バカって言った方がバカなんですよ」

 

「その発言で全てお察しというやつです」

 

 クックックックと笑いながらカルピスを飲む黒服さん。あなたも飲むんかい。紅茶かコーヒー飲めや。身体黒いんだから。

 

 そういえば、アビドスにいた頃ジュース飲んでたっけ? いや、飲んでた気がする。俺はお茶とかでいいタイプだったけど、ユメ先輩がたまに大量に持ってきてホシノも巻き添えにして三人で飲んでたな。金は無かったのに人脈はあったんだよあの人。まじで今何してんのか気になるな、ユメ先輩。この世界って大学あんの? なかったらまあ就職か。多分アビドス関連の仕事してるだろうけど。

 

 話が脱線しまくっている気がしないでもないが、まあいいでしょう。気を紛らわしたいんだよこっちはよう。

 

 ガジガジとクッキーをつまんではカルピスで流し込む至福のときを過ごしていると、何やらテンション高めなサオリの呼ぶ声が聞こえてクッキーを咥えたまま顔を向ける。

 

「カルピスの原液を規定の二倍入れてみたが、これはこれで美味いなっ」

 

「まじでどうでもいいやつ来た」

 

「クックック。今日も賑やかですねぇ」

 

 束の間の休息みたいな雰囲気出すな。

 

 黒服さんとサオリ。もはやイツメンになりつつある3人の空間。サオリはなんか仕事があると言ってチャイナドレスのまま銃を担いで外へ出ていき、黒服さんがひとりでクックックしてるのを横目に俺は自室へと戻った。

 

 黒服さんから提供された家は普通に最新式。完全防音、馬鹿みてぇなセキュリティの厚さ。一人暮らしにしては少し広い程度の内装だけが安心する要素だった。

 

 誰にも見られることなく、開けた玄関で「ただまー」といつものようにひとり呟く。返事する人なんて当然いない。それでも言ってしまうのは習慣と言うやつなのだろうけど。

 

「ん」

 

 ん、という女性の声のような物音が聞こえた。いつも通りいつも通り。

 靴を脱ぎ捨て、ぼーっとしながらいつものようにリビングへと歩いていき、何故だか電気がついている部屋へとドアを開けて入る。

 

「いい所住んでるね、メグル先輩」

 

「なにしとんねん」

 

 野生 の 砂狼 が 現れた !!! 

 

 廻 の 呆れ顔 !!! 

 

 砂狼 は 涙 を 堪えた !!! 

 

 なんでやねん。

 

 当然のように俺の家のリビングの椅子に腰掛けて手を挙げて俺を出迎えた後輩、砂狼。

 

 謎のキメ顔と共にキランッ、という効果音が聞こえてくるような錯覚をするようなこの状況。困惑と同時に呆れが襲ってくる。

 

(あの時回収した刀を頼りに転移したな)

 

 というかそれ以外無いだろう。俺の予想通りというか、瞳を潤ませて身体を震えさせる砂狼の隣に立て掛けられた刀。ん、泣いてる? 

 

「ぅ、ぁ……ぁぁああああ……ッ」

 

「えぇ……」

 

 号泣ですやん。

 潤んだ、と思った時には大粒の涙が溢れ出て。かと思えば喉がヒクヒクと動き、鼻をすすり、目を細め、声を漏らす。

 

 あの時と同じ服きてんじゃん。黒服だ。黒服さんとお揃いだねハハハ、なんて冗談を思い浮かべながら、俺の胸に飛び込んできた小さな身体を受け止めるとそんな考えは吹き飛んだ。

 

 身長はかなり高い方だろう。俺よりは小さいけれど、女性の中では高い。それでも、俺に抱きついて幼子のように泣きじゃくるこの子の身体はあまりにも小さく思えた。

 

 俺の名前を何度も呼んで、喉が詰まったように声が途切れても、それでも俺の名前を呼び続けて、俺の存在を確かめるように俺の体を抱き締める。

 硝子細工に触れるように繊細に。抱き枕をぎゅっと抱き締めるように強引に。

 

「めぐる……せん、ぱいィ……ッ!!!」

 

『あの子達をお願いね、廻』

 

 兄さんの遺言を思い出す。実際に口にしていたのかは分からない。俺が勝手にそう解釈しただけだろう。それでも、そう託されたのだと俺は思っている。

 

 もっとも、これは兄さんの言葉があったから行う行動ではない。きっと、それが無くても俺はこうしてた。

 

 絶対に離さないと言わんばかりに俺を抱きしめる砂狼の背中に腕を回す。ひんやりとした体温と身体の震えが伝わってくる。

 

 鼻をすする砂狼の前で後悔が過ぎる。そんなものはないと思っていたけど、思い出したのは俺の最期。

 

 刀だけを預けて、ろくな言葉を遺さなかった怠慢。

 

「砂狼」

 

「う、ぁ……」

 

 目の下に残る黒いクマを上書きするほどに赤く腫れた瞳の周り。今なお流れ続ける涙は今まで流さずに我慢していたことによるダムの決壊だろうか。

 

 きっと、我慢してきたんだ。我慢させてしまったんだ。

 

 俺が居なくなってからのことを俺は知らない。兄さんが示し、俺はあっけなく死んだから。この子に何かを遺すことなんて出来なくて。

 

「ごめんな。勝手に死んで、ろくなことしてやれなかった」

 

「……ち、がう……ちがうよ、めぐるせんぱい……」

 

 涙を拭い、俺の顔を見上げ、そしてまた込み上げてきた涙を止めることが出来ずに顔を濡らす。

 

 ふるふると、顔を揺らして砂狼は俺の目を見る。

 

「私が、全部悪いの……先生は私を赦したけど……やっぱり、私は私を赦せないよ」

 

「俺は先輩、お前は後輩。それだけで良いだろ」

 

 泣けなかった日々。涙を堪えた年月。その全てを消化するかのように、砂狼は俺の胸で泣き続ける。

 出会った時とは比べ物にならないほど大人っぽく成長した姿で、あの時以上に幼い子供のように泣きじゃくって。

 

 目を見開く砂狼の頬に手を添えて、濡れた目元を軽く抑えてやる。

 

「俺が弱かったんだ。お前の傍に居るべきだった。ごめんな」

 

 ホシノを戻すために突撃して、呆気なく死んで。

 生き返ったとはいえ、砂狼を置いていってしまったのは変わりない事実で。

 

 どうしてだろうな。後輩は砂狼だけじゃない。関わった時間で言えば、十六夜が一番長い。黒見も、奥空も居るのに。なんだかんだ、砂狼を特別扱いしてしまう。

 

「わ、たし……マフラーも、メグル先輩のくれた上着も……いつ無くしたのかも、分からないんだよ……」

 

「じゃあまたやるよ」

 

 兄さんの望み。それがあるからじゃない。やっぱり俺の中で砂狼は俺の後輩なのだろう。

 先輩面をしたい訳じゃないが。どうにも、対応は変わってきてしまう。

 

 泣いているこの子を見たら、尚更だろう。

 

 左腕は背中に、右手は頭の後ろに回して抱き寄せる。鼻をすする音と振動が胸に伝わってくる。面白いぐらいに瞳がうるうると揺れている砂狼をあやす様に髪を撫でた。

 

「お前は俺の後輩だからな」

 

「────また」

 

 涙は止まらない。嗚咽も止まらない。それでも砂狼は、息を整えて、唾を飲み込んで、顔をぎゅっと力を入れて。そうして、濡れた顔で笑顔を作った。

 

 あの時対峙した時を思えば、想像つかなかった……いつもの砂狼の笑顔。

 

「また、会えて────嬉しい、よ」

 

「いつでも会ってやるよ……頑張ったな、砂狼」




廻の特別枠ランキング〜
ユメ先輩(ぶっっっっちぎり)

ホシノ(どちらかが付き合おうと行動した瞬間付き合える)


シロコ(ほぼ彼シャツ)

ヒフミ(浪速のすぴーどすたー)



先生(兄たま〜)
黒服(保護者(笑))

ミカ(新参者その1)
アツコ(新参者その2)

他にもいるかもしれないけど一位二位は不動。
サオリは特別枠では無い……か?
ユメ先輩がぶっちぎりなだけで普通にホシノも他を寄せ付けないぐらいにはクソ高い。自覚はあんまり無さそう。
ヒナ?ハハハ。
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