ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
この世界は俺の思っている以上に狂っていた。
澄んだ青空。目がチカチカとする程に不純物の無い青。雲は白く輝いていて。
見渡す限りの黒煙、悲鳴、鳥のさえずり。なんか変なのあったな??
空の青さだけが際立っていて。周辺視野を閉じて空を見上げればこんなにも清々しい気持ちになって。
────銃声さえ無ければ、本当に心安らぐ小春日和だろうに。
あの日。
梔子先輩……否、ユメ先輩に拾われて、そのままアビドス高等学校への入学手続きを済ませたあと。
入学時期はまだ先。二ヶ月と無いほどは俺の所属はアビドス高等学校では無くただの戸籍の無いガキンチョだった。
ただ、入学自体は決定されていて、アビドスに通う生徒はユメ先輩ただ一人。なんか知らんけど教師も居ない。この時点でおかし過ぎるが、まあ置いておこう。
入学はしてないが、ユメ先輩の後輩として、あの人と共に学校へ通っている。
とりあえずの問題となったのは、衣食住のうちの『住』。
『私の住んでるところなら部屋空いてるよ?』
『何言ってんですかマジで』
当たり前のようにシェアハウスを提案してきた善意の化身。二つ返事で断った。
男女がひとつ屋根の下になったら、とか。申し訳ないから、とか。そんな考えよりも先に底無しの優しさを発揮するこの人に危機感を覚えたから。
『もっとお互いのことを知ってからで』
初心で奥手な草食男子みたいなセリフが飛び出たが、しょうがないだろう。
出会って一日経たずに家に招くとか、流石に危機管理能力がバグってる。
きっと、誰でも彼でもじゃ無いのだろう。ユメ先輩なりの根拠をもっての選択なのだろう。というかそう思いたい。
だとしても、俺はその誘いに乗る訳には行かなかったから。
『学校の何処か使わせて貰えたらそれでいいんで』
『むぅ……メグルくんがいいなら、いいけど……』
なんで不満げなのか、この人は。
アビドス高等学校にある備蓄。
遠慮せずに食べてもいいよと言ってはくれたが、必要最低限より少し下程度の量を食べさせてもらった。理由としてはまあ、申し訳ないし。初日だから、あの時に貰った乾パンが腹に溜まってたっていうのもあるが。
夜だと言うのに暗闇にならない星空を窓から見上げながら、保健室のベッドで一人、一夜を過ごした。
そして、二日目。
「……なんですか、それ」
「え? 銃だけど」
「……すぅー……はぁー……は?」
俺は、この世界の常識のぶっ壊れ具合を知ることとなる。
日が登り、登校時間よりも少し早めに学校に来たユメ先輩。
相変わらずの笑顔で俺の元へとまっさきに来てくれて、挨拶を交わした。
そこでふと、ユメ先輩の制服に付けられた不純物の数々に目を奪われてしまう。
(何コレ)
制服……うんうん、普通だね。
通学用リュック……うんうん、なんか異常に詰まってるけどまあ普通だね。
なんかめっちゃ重そうなアタッシュケースみたいなやつ……うんうん、もうおかしいけど一旦スルーしようか。
ホルスターに収められた拳銃……はい、アウト。
華のJK。まだ高校生ですらない俺が言うような言葉ではないかもしれないが、そんな女子高校生が普段携帯しているであろうものとはかけ離れたものを持っているユメ先輩に思わずツッコミを入れる。
なんだ、ボケなのか? ツッコミ待ちなのかこれは。関西人じゃない俺にそのセンスを求めるのは些か理不尽が過ぎないだろうか。
「モデルガンが流行ってるんですか?」
「え、本物だよ?」
「おっほ……」
持ってみる? と口にせずとも伝わってきた彼女の意図。手渡された拳銃を両手で受け取るとズシリと響く重み。
本物なんて見た事ないし触れたこともないけど、まあ、うん。これあかんやつや。
困惑する俺の姿を見てか、ユメ先輩は銃を引き取りホルスターに仕舞うと話をしてくれた。
「えっと、まずここは学園都市キヴォトスと言ってね────」
漂流二日目。俺はついにこの世界の一端を知ることとなる。
ユメ先輩が丁寧に語ってくれた内容は常識がどこにも存在しないものだった。
数多の学園が集まった国家にも匹敵する学園都市キヴォトス。そこで住む人達の頭上に浮かんでいる天輪……ヘイロー。
ヘイロー所持者は意味が分からないぐらい丈夫な肉体も手にしていること。何故かは知らないが生徒のほとんど……というか全員が女の子で、アビドスに入学予定の俺はユメ先輩が知る中では初の男子生徒であること。
他にもアビドスのことや連邦生徒会とかいうよく分からん物など、色々と教えてくれた。
その中でも質問を投げかけずにはいられなかった文言がこちら。
「銃を持ってないやつより全裸で歩き回ってるやつの方が多い???」
「その言い方だと全裸徘徊してる人が結構いるみたいに聞こえちゃうけど……うん、そうだよ」
この世界、銃火器の所持がスマホ感覚で当たり前らしい。頭イカれてんのか。
俺の反応に苦笑いを浮かべるユメ先輩。
「ん〜、と……多分今から話すこと全部メグルくんにとってはびっくりしちゃうことなんだけど────」
心の準備は当然出来ていないが、話を聞くしかなかった。
コンビニで弾薬を買えるらしい。
「もうお腹いっぱいです」
「えへ、まだまだ行くよ〜」
「楽しんでますよね!?」
銃声が聞こえない日は無いらしい。
というかアビドスにヘルメット団とかいうヤツらがたまに攻め込んできて銃を乱射するらしい。
ブラックマーケットとかいう魔境がこの辺りにあるらしい。
もう嫌です。
「それからそれから」
「鬼か」
書出せばキリがないので割愛する。とりあえず俺の今の心境は『青空キレイなのが逆に腹立つ』である。
と、色々とユメ先輩からこの世界の常識を教授して頂いた訳だが、この世界は極度なまでの銃社会のようだ。
そんな物騒という言葉すら生温い環境。当然の疑問としてわいてくるのは、毎日死人が結構な数出てるんじゃね? というもの。
最悪の想定では、街から一歩踏み外せば至る所に死体の山。なんならあそこら辺に生えてる木の下には死体が埋まってる可能性なんかも。
そんな俺の疑問を解消してくれるのは、やはりユメ先輩。
「銃が当たったくらいじゃ死なないよ?」
「今日の情報はここまでで」
頭痛が頭。何言ってんだ俺。
情報過多という言葉の存在意義を初めて知った俺は、机に突っ伏してそう懇願した。
◇◇◇◇
ひんやりとした寝台。
クッション性は無く、無機質で硬い。
ヘルメットのような、ゴーグルのような装置が頭から離れていく。
そして、聞き馴染みのある如何にもな雰囲気の声が部屋に響いた。
「お疲れ様でした。今回はこれで終了です」
イッツアブラッククロース。■■廻っス。
手術室みたいな、小さな密閉空間。
恐らく壁は白。恐らく、とか言いながら普通に白なのは知ってるけれど、今は頭上の光が淡く光っているだけ。光量の段階はあるだろう。その一番下ぐらいで壁の色は暗い。
ゆっくりと起き上がる。服と寝台の擦れる音が聞こえ、身体を九十度転回させてひんやりとした床に足を着き腰を捻る。バキバキと言う骨の音……骨の間に溜まった空気の爆ぜる音やらなんやらという説を何個か聞いたことがある気がするが、骨の音でいいだろう。
機械の駆動音が僅かに聞こえる。もう終わりと言っていたから出していたものを片付けているのだろう。
け伸びをしてから欠伸を一度。
「採血もしていますので、急に動かれると立ち眩みをするかもしれませんよ」
「うわっ、前から車がッ!?」
「頭がおかしいのはポテンシャルですが」
この部屋、天井はめっちゃ高い。じゃあ横の比率も合わせろよと言いたいところだが、この部屋で動き回ることはないのでそんな文句は言うつもりは無い。
手術系のドラマとかで見覚えがありそうな光景。少し上にガラス張りの部屋から俺の見下ろしてくるまっくろくろすけは腕を後ろで組んで淡々と声を掛けてくる。
「黒服さん、マジで立ち姿様になってますよね」
「ありがとうございます、と言う前に意味を聞いておきたいですね」
「最初から最後まで怪しいけど、なんか知らない間に消えてる中ボスみたいな感じ」
「お礼を言わないで良かったです」
黒服さんとの契約。その一部。
血液サンプルの採取、身体データ云々かんぬんetc。
最初の頃は隔日程度で行ってたが今ではかなり減ってる。前回は一ヶ月半ほど前か。
最初の頃はよく分からんことも多かったが、最近だとこうやって寝るだけで全部終わってたりする。よく分からん広場やら遊園地やらで人形と戦わせられたりもするけれど。
尤も、この研究で何がわかるのかは俺に分かるはずもないが。まあ聞いてみるか。何回か聞いたことあるけど。
「これで何が分かるんですか」
「最近は新たな知見が多くて大変愉しいですよ」
「ワイン持ってないのが違和感になるぐらいの顔してますよ」
クックックしてやがる。
手術室のような部屋から出る。無駄にオシャレな自動ドア。近未来な光の演出に毎回テンションが上がってしまう。くそ、男の子なんだぞ!!
私服に着替えてから刀を置いておいた黒服さんがいる部屋へと転移。刀は拾わずにふかふかの椅子に腰掛ける。
「便利ですね、その権能」
ほんとそれな。なんで使えるのか俺も知らんし原理も分からんけど。そういうものだと思っている。砂狼も使えてたしな。
「まあ、これぐらい贔屓してくれないとこの世界で生きていけないんで」
何度も言うが、銃弾が異常な力で飛び交いまくってるこの世界に一般人クオリティな生身で出歩けるわけがないんだよなぁ。
俺には動体視力とそれについていける身体能力があった。けど肉体強度は据え置き。全力で走ったら脚が潰れる。ゴミ仕様。
本当に、身体硬くして欲しかったわ。お陰様で一発で死にましたよっと。その前にボロボロになって瀕死だったわけだが。
そんなことを呟いてみれば、くつくつと笑って紅茶を一口。優雅ですねぇ相変わらず。
「いやはや。恐ろしいですね、致命的なまでのすれ違いというものは」
「はい?」
「とんだ喜劇と言うやつですよ」
よくわからん。こういう時は無視するが勝ち。
僅かに軋む背もたれに体重を預け、ボーッと天井を見つめる。
ホコリも傷も何一つない清潔な天井。重たい印象の暗い色は照明の明るさによるものか。することが無い時に見上げるにはちょうどいい。
少し深めの息を吐いたところで、黒服さんが「それにしても」と少し抑揚を含んだ声をかけてくる。
黒服の目……目? まあ目でしょ。その目が俺の目を射抜く。
「カラコンですか?」
「それ二回目」
「私が聞いたのは一度目ですが」
指摘された部分。目、という単語だけで手が伸びたのは俺の左目。
自分では鏡を使わなければ確認の出来ない部分に手を添える。
あれはつい先日。
ヒフミ襲来の日、砂狼も交えて三人で話しているとき。
『あれ?』
最初に疑問を投げかけてきたのはヒフミだった。
『メグルさん、その目……』
『目?』
『はい……あ、右じゃなくて左です』
利き手そのままに右目を確かめようと伸ばした手はヒフミの言葉ですぐに左目へと運ばれた。
確認を取るようにヒフミは隣にいた砂狼に目を向ける。私は分かってましたと言わんばかりに頷く砂狼。俺は理解できず置いていかれた。
『目が何? バルス?』
『いやいや、まぁ、「目が〜」案件ではありますけど』
『なんだその案件』
『メグル先輩の左目、昨日ぐらいからちょっと青っぽい』
そんなことを言われて、確認してみればあら不思議。黒寄りの焦げ茶ぐらいだった俺の瞳が左目だけ少し青みがかっていたのである。
何色かと聞かれれば答えられないぐらいの混ざり具合だったのが先日の話。
んで、現在。
「青いですね」
「青いというか蒼いです」
黒目どこー。いや、中心は黒っぽいけども。
右目はそのままに、左目だけがしたから上へと濃くなっていく蒼になっていた。濃淡が追加されましたね。
オッドアイ。
突発性のとか聞いたことないけど、晴れてグループに入っちゃいました。数日で色変わりすぎな?? てかなんで左目だけなんだよ。
「というかこれ」
「小鳥遊ホシノさんのモノも全く同じ色ですね」
「食い気味に言ってくるのゾワッときた」
クックックしている黒服さんの言う通り、スマホの内カメで見た俺の左目はホシノの左目の色とほぼ一緒。マジでなんで?
いや、綺麗だけども。一年の頃はホシノの瞳綺麗だなと思ってたけども。自分がなるとなんか怖いじゃん。原因知りたいっての。いいや、知った方が怖そう。
ホシノに見られたら「え、私の目と同じ目にしたの? きっしょ……」と言われるの待ったなしでしょ。不可抗力!!
ユメ先輩なら何故かめっちゃ喜びそう。「わっ、二人お揃いで仲良しだね! 私も真似しちゃおっかな〜」とか言いそう。どこまで性格がいいんだあの人は。いや、根本は天然か。馬鹿じゃないタイプのね。
「嬉しそうですね」
「そんな顔してないでしょ。まあ色は好きですけど怖さが勝つ」
「ああ、私もそうなった原因は分かりませんので聞いても無駄ですよ」
「選択肢潰された」
ホシノ。
そうだな。ユメ先輩と会えてないからユメ先輩と話したいなとは思っていたけど。
ホシノとは何度か顔を見合せてはいるが、敵キャラムーブしてる時だし仮面つけてたしでまともな話は出来てない。
そう思ったら、普通の会話もしたくなってきたな。
まあ、そんな機会は無いのかもしれないが。
「カイ」としてホシノと話した時も、嘘は1度も吐いていない。
この世界における異物。銃ごときで死んでしまう脆弱な肉体。
本当に気にしないで欲しい。自首とかマジでしないでいいから。
(兄さんに攻略されてんのかねぇ)
身内に同級生が堕とされている場面を想像しながら指を鳴らす。
「メグルさん」
そんなことを考えているところで声がかかる。
「少々、お伝えしたいことがあります」
それはきっと。
(めんどそー……)
回避できないお告げなのだろう。
「先生」
「……先生。私は、私たちは先生に何度も救っていただきました」
「アトラ・ハシースの方舟、虚妄のサンクトゥム。先生が居なければ、きっと、キヴォトスに明かりは無くなっていたのでしょう」
「他の件もです。小さなものも、大きなものも。多くの生徒が、先生に守られ、救われ、導かれた」
「私たちは、あまりにも多くのものを頂きました。返しきれない恩を抱えました」
「先生はきっと。見返りなんて求めないのでしょう。『先生』だから、と。そうやって、無償の救いを与えているのでしょう」
「……先生」
「どうか……どうか、我慢しないでください」
「何度でも言います。私達は、先生に救われ、導かれ、今があります」
「返しきれない恩があります。受け取っていただきたい感謝が詰まっています」
「────先生」
「大人とは、難しい立ち位置ですね」
「私では、生徒でしかない私では想像しかできないけれど、犠牲にしなければならないことが多いのだと思います」
「先生」
「一度ぐらい、『子供』に戻ってもいいんじゃないでしょうか」
「立場がそうしているのなら、一度ぐらいは我儘を言える子供を演じてもいいのではないでしょうか」
「……いえ、違いますね」
「先生」
「『大人』だって、我儘を口にするぐらいは許されてしかるべきでしょう」
「私は、あなたの我儘を聞きたい」
「聞かせてください、先生」
「生徒を守るために身を粉にして動いたあなたの」
「涙を流す子供を助けるために血を流したあなたの」
「肝心なところで本音を隠してしまうあなたの」
「────あなたの、我儘を」
「どうか、私たちに聞かせてくれませんか」
「先生」
「先生は、どうしたいのですか?」
「……私は」
「────みんな、お願い」
「私は、取り戻したい」
「どうか力を貸して欲しい」
「廻の……」
「私の弟を取り返すために」