「SCiPを破壊することで世界を守る組織『世界オカルト連合』……あなた達以外にも、世界を守る組織がいるのね。」
「ああ。世界オカルト連合、略して『GOC』……奴らは科学とオカルトの融合技術を使い、SCPオブジェクトを破壊する。財団とはライバルのような関係だ。手段が違えど志は同じだから、たまに協力はするが、基本的には敵対関係だな。」
折れた右腕にギプスを嵌めながら、千石博士は言う。
「ごくありふれた話だ。俺は家族をとあるSCiPに殺されてな。俺も殺されそうになったが、そのSCiPを追っていたGOCの戦闘員に助けてもらって、ついていくことにした。そこで研究と訓練を重ね、家族を殺して逃げたSCiPに対し、引導を渡したんだ。」
「……」
「その後もGOCで働いていたんだが、疑問が生じてな。奴らは有用だったり、その可能性があるオブジェクトも、纏めて破壊する。その姿勢が耐えられなかった。……何故かわかるか?オブジェクトには人間もいる。家族持ちのな。奴らはそういうオブジェクトも普通に殺した。もっと研究すれば、そいつの異常性をなんとかして、家族にもう一度会わせられたと、俺は後悔が募るんだ。」
千石博士の声が段々と、懐かしむような感じになっていく。
「だからGOCを抜けて、財団に行った。勿論、簡単じゃなかったが。財団でオブジェクトを研究し続けて実績を上げ、今の俺がいる。以上、ありふれた職員の話だ。何か質問はあるか?」
「……いいですか?」
トキが手を挙げる。
「どうぞ。」
「博士の過去は大体わかったのですが……その、結局、博士の頭部がタブレットになったり、拳銃になったりする理由がわからないのですが……」
「………」
トキの問いに、リオも「私も言おうと思ってた」みたいな視線を送る。
さて、その時の答えは……
「ああ、これか?生まれたときからこういう体質だ。思えばこんな体質だったから、あの時助けてもらえたんだろうな。」
「「え?」」
「………何だ?」
「あの……それだけ?」
「他に何か説明がいるのか?」
「一番聞きたかったのはそこなのよ……?」
…………
…………
…………
…………気まずい時間が流れた。
『ってわけだ。お前にも初めて話すな。』
「初めて知った。まぁどうでもいいけども。」
時系列は戻って今日。
千石博士とエージェント•芥川は、事の顛末と連絡事項を話していた。
『そっちはどうなんだ?襲撃……もとい、援護は上手く行きそうか?』
「なんとか大砲の使い方をマスターした所だ。エドガーみたいにはいかないけどな。」
『今はそれでいいだろう、Dクラスにやらせとけ。SCiPの乱入に注意しておけよ。』
「どうにかやり通してみせるよ。」
通信終了。
芥川は、改めてDクラス職員達を見る。
D-2。最初に発見したDクラス。
最初は気づかなかったが、よくよく顔を見てみると。
「(やはりこいつ『錠前サオリ』だよな、多分……)」
足立から送られてきたネームド生徒のデータと照らし合わせると、どう考えてもそうとしか思えない。
ブルーアーカイブに登場する『錠前サオリ』……『エデン条約編』に登場するキャラクターだ。
もっと後のストーリーに登場するキャラが何故、ここにいるのか。
その理由は、SCP-2959の性質に起因する。
SCP-2959……Dクラスの95%は、刑務所入りしている人間……犯罪者のコピーであり、投獄の理由を除けば私生活から人格に至るまですべてが一致している。と、博士から渡された資料に書いてあった。
キヴォトスの住民なんて90%くらいは犯罪者だから、様々なコピー元がいるだろう。
この錠前サオリも、おそらくその類。
となると……残りのロボットや獣人も、犯罪者のコピーってところか。
キヴォトスで生まれたSCPだから、キヴォトスの人間をコピーするのだろう。
問題は、人間の男女。
芥川達と同じ種族の人間だ。
こいつらのコピーは、いない……残りの5%ということなのか。
それとも、基底世界からもコピーしているのか。
「(まぁ……些細な問題か。)作戦確認するぞ。アビドスや便利屋がカイザーPMCと戦っているところに乗じて、砲撃する。このとき、誰かわからないように偽装しておくのを忘れずに。『謎の集団が助けてくれた』という疑いは残るが、手段がこれしかない以上、強行する。んで、カイザーPMC理事を見つけたら監視してくれ。隙を見て話し、なんとか仲間にする。」
「だが説得と言っても、奴さんはあっしらを信用しないんじゃねぇですかい?」
てやんでぇ口調のロボが答える。
「心配するな、D-8。説得方法は既に考えてある。」
「そんなら安心ですなぁ。じゃ、大砲をセットしに行きましょかい。」
芥川に自信があることを知ったD-8は、大砲を運ぶ準備に戻った。
「いよいよですね。緊張してますか?」
エドガーが話しかけてきた。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼は、全く震えていない。
だが芥川も、伊達に一ヶ月Dクラスをやっていない。
「ここで緊張するくらいならもう死んでる。」
「そうですよね。」
会話は終了。
コミュ力が低い2人に微妙なムードが流れる中。大砲が転がり始めた。
アビドス砂漠、カイザーPMC社があるところ。
今日ここに対策委員会が、ホシノを助けにやってくる流れになっている。
本来はトリニティの砲撃部隊が助けてくれるのだが、SCP-019のせいでそれが出来なくなった。
その代わりとして、財団が砲撃をする、のだが……
「なんだあの鹿は……」
「アニメ終了してからもう1年くらいですね。」
一行の見つめる先に、一頭の鹿がいた。
普通の鹿とはちょっと違う、醜悪な容姿の鹿だ。
砂漠に鹿がいるなんてありえないし、ゲームにも描写がない。
芥川はスマホに『鹿』と打ち込み、検索した。
何件も検索結果が出たが、どうやらあの鹿は検索結果一番上のオブジェクトのようだ。
博士に連絡をする。
「……あーもしもし。博士?アビドス砂漠にて、SCP-6448『鹿に非ず』を発見した。」
『……マジで言ってる?』
「大マジ。」
『ハァ……アベルや019はともかく、破壊許可が出てないketerがついに出てきたか……』
尚、2959(Dクラス職員)の汚染に全員かかっているので、実質あの鹿が最初のketerである。
ここで、オブジェクトクラスについて説明しよう。
オブジェクトクラスとは、そのオブジェクトの収容難易度を表すものである。
収容難易度をわかりやすく表すと、
ロッカーに入れて扉を閉めれば問題ないのが『Safe(セーフ)』
ロッカーに入れた後、勝手に脱出して何処かに行ってしまう可能性があるのが『Euclid(ユークリッド)』
ロッカーに入れただけだと必ず脱獄されるとわかっているのが『Keter(ケテル)』
主にこの3つ。
それ以外にもあるが、出てき次第説明しよう。
「で、どうする?特別収容プロトコルには『サイト44に引き渡す』って書いてあるけど、キヴォトスにサイト44は無いし……」
特別収容プロトコル。
こちらも初単語だが、わかりやすく説明すると、そのオブジェクトの収容方法の事である。
『そうだな……奴の正体は縮れた謎の塊で、鹿の死骸を乗っ取っている。下手に気づくと逃げるから、気づかれないように密閉するしかないな。足立、なんかあるか?』
『今から用意すると1時間はかかるかと……それに、砂漠の上では効果が薄いですね。』
いつの間にか通信に混ざってきた足立が、悲惨な事実を告げる。
「そうですか……なら、『ケルブス•プロトコル』を行い、奴を誘導しましょう。『砂漠に鹿がいるのはおかしい』というのは、奴がSCiPでなくとも分かる事項ですから。」
ケルブス•プロトコルとは、6448に遭遇したときの心得である。
簡単に説明すると、『6448を普通の鹿として扱い、鹿でないことに気づいていると悟られてはならない』というもの。
『わかった。AMASと共に俺がそっちに行って6448を回収する。指定のポイントで落ち合おう。』
「D-14さん、D-15さん。あの鹿の誘導を。D-2さんは遠くから観察して、逐一様子を教えてください。」
エドガーは指定ポイントを確認すると、D-2にトランシーバーを渡す。D-2、D-14、D-15ら3人は6448に向かって走っていった。
そして6448は保護され、連れて行かれた。
「これでよし……それでは、カイザーPMCを砲撃しますか。」
SCP財団砲撃部隊は素早く配置につき、大砲を構える。
ドォン!
音のする方を見ると、カイザーPMC兵と戦うゲヘナ風紀委員会の姿が。
圧倒的な数を前に、大立ち回りしている。
「恐ろしい……俺たちの任務によっちゃあ、下手すりゃあいつらを相手取らなきゃいけないんだろ……?しかも殺さずに。」
「ご遠慮願いたいですねぇ。」
「さて……こっちもやるか。大砲を放て!」
芥川の合図とともに、大砲が発射される。
ドカアァァン!!!
「大きな音だな……これだけの数にやられるPMCが不憫でならねぇよ。」
「数だけならあっちが上ですよ。生徒とロボット、そして主人公補正の有り無しというどうしようもない差がありますが。」
「俺たち、あいつを絶対に仲間にしよう。」
「ええ。」
攻撃しながら、攻撃先のことを案じる。
熱い展開の場合もあるが、こいつらはただ倫理観がアレなだけだ。
暫く砲撃を続けると、建物の中を偵察しているD-26から、『カイザーPMC理事が出てきて、デカいロボに乗って戦っている。』との連絡が入った。
「そろそろか……よし、エドガー、D-1、D-2。カイザーPMC入口に行くぞ。理事が通ったら攫って、その後仲間にする。説得は俺に任せろ。」
「信じますよ、芥川君。失敗したら私が理事を即座に終了する(殺すの意)ので、そのつもりで。」
「恐ろし……」
「こういう奴は剣を抜いたら性格変わるって、相場が決まってんだよ。」
偏見まみれなこいつはD-1。
ロボット(PMC兵士みたいなタイプ)のDクラスだ。
「虚しい考えだ……」
「あ゛?お前みたいな奴が一番感情に流されるって、相場が決まってんだよ!」
「喧嘩すんな。ほら、理事が出てきた。麻袋を被せろ!」
よろよろと出てきたカイザーPMC理事。
悲しきかな、4人の狂人が彼に襲いかかった。
「ぬわっ!?何者だ!くそっ、離せ!」
「話は後でゆっくり!とりあえず離れよう!」
「うわああぁぁ!!!」
財団エージェントの動きは素早い。
対策委員会が再会を喜ぶ裏で、さっさと撤収した。
「モゴモゴ……はっ!」
「手荒でごめんな。手段を選んでられないからさ。」
「初めまして、カイザーPMC理事。」
場所はDクラス宿舎。
カイザーPMC理事は、椅子に座らせられていたが、特に拘束等はされていなかった。
「君たちは何者だ?私を攫って何をする気だ?身代金なら、すぐに連絡を……」
「ああいや、そういうのじゃない。俺の言う事を聞いてくれ。この後君は、今回の事件の責任全てを押し付けられ、カイザーコーポレーションを解雇される。」
「何……!?いや、そうだな……私が上層部だったら、担当者のクビを切るだろう。なら、ますます私を攫った理由がわからんな。それで改めて聞くが、君たちは何者で、何が目的だ?」
「まず、これを見ろ。話はそれからだ。」
芥川が差し出してきたスマホは、動画を再生していた。
その動画の名は……『ブルーアーカイブ メインストーリー 対策委員会編』。
動画時間はちょうど、理事が初めて対策委員会の前に姿を現す所だった。
「!?」
「何……!?」
「お前は頭おかしいって、相場が決まってる……」
理事は画面を食い入るように見る。
「これは……私か?そしてアビドスの奴らも……この動画は一体……」
芥川は告げる。
「はっきり言おう、カイザーPMC理事。『この世界はゲームの世界』であり、君は、『ブルーアーカイブというゲームのキャラクター』なんだ。だから君の行動は全て決められていたものだし、こうして負けるのも決められていた。」
「!!!!!!!!!!」
理事は大きなショックを受けたかのように固まった。
絶句していたエドガーは、芥川に詰め寄る。
「芥川君……今、何をしたかわかっているんですか……?」
「何って……理事に『メタ能力』を付与したんだよ。」
「それが問題なんですよ!メタ能力付与なんてしたら、キャラの存在がどうなるか未確定だ!それが綻びになって、世界が滅びるかもしれない!わかっているのか、ジャッカスがッ!!!」
激昂したエドガーは芥川の胸ぐらを掴み、怒鳴る。
「ヒッ……」
「優男は怒ったら怖い、相場が決まってるぜ……」
怒ったエドガーはとんでもない迫力だ。
だが詰められている芥川は、笑っている。
「未確定だと……?確定するんだよ。」
そう言って、芥川は腕輪を外した。
そう、
キヴォトスでは誰もがテクスチャを貼られている。
ならば現実改変とは、そのテクスチャを張り替える事を言うのだろう。
タイトル: SCP-6448 - 鹿に非ず
原語版タイトル: SCP-6448 - Not Deer
訳者: Tutu-sh
原語版作者: OzzyLizard
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-6448
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-6448
ライセンス: CC BY-SA 3.0