「というわけで……やって来ました、百鬼夜行!」
D-4が声高々に叫ぶ。
SCP-2128「嘘つきの揺りかご」を発見し、調査を済ませた『機動部隊アルファ-1-kv 葬儀屋「
2128の情報により、シャーレの先生が百鬼夜行連合学院に来ていることは明らかになっている。
静かな火葬パーティー……静パの任務は、シャーレの先生を監視しつつSCPオブジェクトを収容することで、ストーリー進行の邪魔を無くすことである。
「なんかすごくディストーションな略され方をした気がする。んでもってお前誰?」
「はじめまして、ですかね?私はD-4です!」
D-4は頭にヘイローこそあるが、容姿は既存生徒と似通っていない。
モブ扱いか、それとも未来で実装されるのか……それは我々にはわからない。
「ああっ、すみません!えっと、大丈夫ですか?お怪我はありませんか!?」
何処からか、アニメ声優みたいな声が聞こえてくる。
声のした方を覗き見てみると、狐耳の少女と20代半ばの眼鏡をかけた男性が話している所だった。
芥川はすぐにストーリーの流れを確認する。
「ええっと、『桜花爛漫お祭り騒ぎ』は、プロローグで先生と久田イズナって生徒が出会う。イズナは桃色の着物を着た狐耳の生徒……アイツじゃねーか!おいエドガー!丁度今、イベントが始まったぞ!」
「遅れなくてよかった。芥川君はD-1さんとD-4さんを連れて、シャーレの先生を監視して下さい。D-5〜10の皆さんは散らばって調査、私とD-11、12、13さんは魑魅一座の調査、島村さんと残りのDクラスの皆さんはトラックを守っていてください。」
エドガーは隊長らしく、テキパキと仕事を割り振る。
キヴォトスは治安が悪いので、トラック強奪の危険を常に考えなければならないのだ。
「了解。なんか異変あったら連絡するから。」
「ええ、こちらも。」
「それじゃ、頑張れ。……初任務なのに留守番は少し寂しいな。」
「そんなジャッカスなことを言っていられるのも今のうちですよ。では、解散!」
芥川は普通の観光客のふりをして、先生とイズナを観察する。
ちなみに服装はいつも通り、黒いスーツに白い中折れ帽子。和服を用意する時間は無かったし、あっても芥川は着付けが出来ないため、無駄に時間がかかるからだ。
ただし、芥川のスーツは右腕の部分に「キョンシーのお札」の刺繍が施された特注品。
葬儀屋「静かな火葬パーティー」の制服として、お札の刺繍入りのスーツを着ているのである。
エドガーもほぼ同じ服装で、違いは刺繍が左足にあることだ。
D-1やD-4をはじめとするDクラス達もスーツに着替えている。
Dクラスのオレンジ色のつなぎは、動きやすいが目立つからだ。
……と、服装の説明をしていると、監視対象であるシャーレの先生が、とある施設に目星をつけていた。
イベント「桜花爛漫お祭り騒ぎ!」1話にて、先生が訪れる「百夜堂」だ。
芥川、D-1、D-4は、先んじて客のふりをして店に入る。
「(ちなみにお前ら金あんの?)」
「(Dクラスは奴隷身分、金なんて持たされてないって相場が決まってるところだが……さっきエドガー隊長に渡された。)」
SCP-2959「かつての我らとその使命」によって生まれたDクラス職員は、他の人間を「博士」と呼ぶ。
が、色々とわかりにくいため徹夜で矯正した。
「(ふーん……いくら?)」
「(1万円くらい。)」
ちなみに出どころはリオのポケットマネー。
当然だが日本円はキヴォトスでは使えなかった。
リオ様本当にありがとうございます。
「(適当にほうじ茶でも飲みながら時間潰します?)」
「(潰すなジャッカスが。会話に耳を傾けろ。)」
芥川達の近くで、シャーレの先生と、百鬼夜行自治区の「お祭り運営委員会」部長の河和シズコが話しているので、さり気なく盗聴する。
百鬼夜行は観光業を中心に栄えて来た自治区であること。
今、「百夜ノ春ノ桜花祭」が開催中なこと。
ただ最近「魑魅一座」によって色々荒らされていること。
そして、爆発物が炸裂する音。
「(ここ爆撃されるのかよ!一旦逃げるぞ!ただし見失わないこと!)」
「(芥川先輩、もしかしてイベントの流れ確認してないんですか?)」
「(いやちょっと昨日……ゲームしてまして……)」
「(真のジャッカスは芥川!今相場が決まったっっ!!)」
まだ何も頼んでいなかったのが幸いで、食い逃げにならずに済んだ。
いくらそこかしこで犯罪が勃発するキヴォトスと言えども、人類の平和を守る財団が、不必要な犯罪を犯すわけにはいかないのである。
百夜堂の外に出て、物陰に隠れると、外には天狗の面をつけた野蛮人「魑魅一座」がいる。
ちなみに読み方は「すだまいちざ」である。決して「ちみいちざ」ではない。
登場シーンで魑魅魍魎って言ってるのに、酷い詐欺だ。
「最近のお祭りは派手だね。」
シャーレの先生は呑気にそんなことを言いながら、煤けた眼鏡を拭く。
「あの大人、緊張感が無いな……やはり舞台装置ぐえっ!?」
「芥川!?」
何者かが芥川にぶつかってくる。
「ああっ、すみません!お怪我はありませんか!?」
「いや、大丈夫……って!?」
芥川にぶつかってきたのは、イベントストーリーの中心人物であるイズナ。
本来は先生とぶつかるはずだが、どうやら進路上に芥川が立ってしまっていたらしい。
ストーリーを読まないからこうなるのだ。
「……どうかなさいましたか?イズナの顔に何か……?」
「……ああごめんごめん、知り合いにちょっと似てたもんでな!お嬢さん、ここは危ないから逃げたほうがいいよ、俺も今から逃げるから!ほ、ほら!斎藤!石崎!逃げるぞ!」
「……あ、斎藤って俺か!そうだな、早く逃げようぜ!」
「そ、そうですねー!」
芥川D-1D-4は、そそくさと去っていった。
「ど、どうして先生がイズナたちの邪魔を!?」
後ろでそんな声が聞こえるので、ストーリーはなんとかこのまま進むようだが……この変更点が、どうなるか。
「さて……ヤバいです。よりによって中心の生徒と接触しちまったよォ!?」
「エドガーに連絡しといた方がいいぜ!隠したらエライことになるって、相場が決まってるからな。」
「だな……もしもし、エドガー?」
ストーリーによると、この後先生はまた百夜堂に戻ってシズコと話すらしい。
監視の為に百夜堂に戻りつつ、エドガーに電話をかけると、1コール目で出てきてくれる。
『どうしました?』
「ミスった……久田イズナと接触してしまった。進行方向に立ってしまったみたいで、ぶつかってしまったんだ……」
『……はぁ〜……』
「ガチため息やめて?罪悪感で死ぬかも。いや俺が悪いけど。」
『記憶処理は?』
「してない……大通りでそんなことやったら、それこそストーリー崩壊するから……」
『なるほど……その後どうなりました?』
「久田イズナはストーリー通りに先生に接触したよ。」
『それならまあ、いいでしょう。バレないように尾行を続けてください。』
「了解……忍者相手に尾行できるか、心配だけど。」
『忍者よりエージェントの方が優れていると、世間に知らしめるチャンスでしょう?頑張ってください。(ガチャ)』
「誰が見てんだよそれ……切れたし。」
電話が切れると、丁度先生とシズコの話が終わった所らしい。
3人は彼らの後をつけていった。
廃墟:魑魅一座の隠れ処。
イズナと魑魅一座、そして雇い主の話し合いを、エドガーは冷静に聞いていた。
「イズナ、わかりました!先生は騙されているのではないでしょうか!」
「それはどうでもいいが……イズナ殿がそう言うのなら、確かにその先生とやらは油断ならない相手なのだろう。」
「(ふむ……今の所、流れ通りにストーリーが進んでいるようですね。)」
「(……隊長。)」
「(どうしました、D-11さん。)」
「(久田イズナについて、どう思う?)」
任務中だと言うのに緊張感が足りないこいつはD-11。
姿はモブ生徒で声はかなりクールな奴だ。
「(良く言えば純粋、悪く言えば浅はか。まさに子供って感じですね。あんな高校生フィクションにしか居ませんよ、全く……)」
「(そっか、安心した。好印象じゃなくて。)」
芥川たちはシズコと先生を追って、百鬼夜行の生徒会『陰陽部』のテリトリー近くまで来ていた。
流石に建物の中には入れなかったので、近くで屯している。
「百夜堂に残していったD-1が心配すぎる……」
「少しは仲間を信じてくださいよ、先輩〜。」
「そうだけどさ……」
元々Dクラスだった芥川は、エドガー等に比べると多少Dクラスに仲間意識を感じている……かもしれない。
ま、所詮Dクラスは道具なのだが。
と、話している間に先生とシズコが出てきた。
「次は修行部に行くらしい。追うぞ。」
「今ゲームやってるんですか?」
「リアルタイムの方が追いやすいからこれは正しい判断です(早口)」
「ふーん……まぁいいです。追いましょうか!」
2人を追っていると、再び魑魅一座が現れた。
シズコが交戦するも、劣勢だ。
「やばい、AP(ブルアカのゲームでのスタミナ)切れたから次読めない。」
「石(ガチャ石。消費するとAPを回復する。)割ればいいじゃないですか。」
「やだよ。俺石割り嫌いなんだよ。Dクラス時代にゲームで石割りしてる奴がいたら頭かち割ってたからな。」
「……先輩、自分の意思で人を殺したのはキヴォトスでのあの事件が初めてですよね?」
「そうだよ例えだよ悪かったな……あ、修行部が来た。勝ったな。」
任務より『石割りやだ』を優先する情けない大人を脇に、修行部のカエデ、ツバキ、ミモリが登場。
先生の指揮もあり、形勢は逆転していた。
「別になんかすごい指揮って感じもしないけどな……運よく先生の思ったとおりになってるって感じ。」
「主人公補正というやつですね!」
「これなら、AP回復まで待ってもいいよな……」
芥川のせこい願望は、忍者によって打ち砕かれる。
「もくもくの術!」
「は?」
ドカーン。
爆発とともに、煙幕が撒かれる。
どうやら、これは走ってきたイズナが投げた煙幕らしい。
「ゲホゲホッ……この状態はまずい、一旦離脱するぞ……!」
「了解です……」
こんな状態で銃撃戦に巻き込まれでもしたら死んでしまう。
仕方なく、2人は離脱するのであった。
「またやられたのか?それに、イズナ殿はどうした?」
「あいつは役に立たねえ!何が忍者だ!」
「(……戻ってきましたか……)」
依頼人をマークしていたエドガーは、戻ってきた魑魅一座メンバーと、依頼人の話を盗聴していた。
「ひそひそひそひそ………」
「(……聞こえませんね。)」
「(もっといい盗聴器無いの?)」
「(うちは財団の中でもかなり規模が小さい方で、収容しているオブジェクトの重要性も低い。必然的に、支給される機材も型落ち品になってしまうんですよ。)」
「(ふーん、偏狭のサイトで更に異世界に左遷されてもいいってことか。人望ないんだね、隊長って。)」
「(どうぞご勝手に言ってください。)」
「この処理さえ上手く行けば、計画は成功するはず。そうすればお前たちにも計画通り、成果報酬を渡せる。悪い話ではないだろう。」
「かしこまっす!」
「くれぐれも、イズナ殿には内密にな。」
ひそひそ話が終わり、依頼人と魑魅一座は解散していった。
「(このあとの流れを確認しておきましょうか。次の話では……)」
エドガーがスマホを取り出し、ストーリーを確認しようとしたその時。
『変数』が発生した。
「イズナ殿……全く使えん奴だ。上手く仕事ができれば、我ら『無尽月堂衆』にスカウトしようと思ったのに……」
スマホを操作していたエドガーの手がピタッと止まる。
「(無尽月堂衆……?そんな組織はこのイベントには出てこないはず。と言うことは……)」
エドガーは千石博士に作ってもらったSCP検索サイトに『無尽月堂衆』と打ち込む。
すると、いくつかの関連オブジェクトが出てきた。
「(確認している暇はありませんね……)御免。」
「は……?」
ザシュッ。
エドガーは刀を抜くと、物陰から依頼人に切りかかった。
はい、大分遅くなりました、ごめんなさい。
タイトル: SCP-2201-JP - 無尽月導衆定款
作者: WagnasCousin
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2201-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0