「必要なのは拠点だ。019は破壊推奨のオブジェクトだから良かったものの、基本的にSCiPは収容するもの。キヴォトスにもオブジェクトが存在する以上、収容施設を確保しなければならない。」
「俺等がいた所か。」
「あの規模は早々無いがな。あ、通信オンに戻しとくか。」
またある程度のノイズが響き、足立が通信に出る。
『やっと繋がった!いきなり切らないで下さいよ!』
「すまん、うるさくて……SCP-019は破壊した。で、空崎ヒナは博士が記憶処理というのをした。」
「これから暫くは簡易的な拠点を作る。いずれはキヴォトスにもサイトを作り、オブジェクトを収容する予定だ。」
「え?帰れないのか?」
流石に住民が平気で銃ぶっ放すような世界にはずっといたくない。死ぬから。
「俺もそうしたいが……あそこを見てみろ。」
「あー、あそこは俺が最初に落ちたところ?」
そう、あの犬の住民に水を貰ったあの場所だ。
そういえば、特に穴とかないな。
「……まさか?」
「そう、そのまさか。あのドアからだと、キヴォトスに行けはするが、帰ることはできないようだ!」
その場に崩れ落ちる。
いや、そうだよな。こういうのは基本、一方通行なイメージだ。
というか、博士はその可能性を加味したうえで入ってきたのか?アホなのか?
「俺はノリで生きてるからなぁ。」
「心を読むな。ノリにも程があるだろ。」
「俺にも色々あるんだよ。とりあえず、実験だ。足立、なんか適当な小物をドアに入れてくれ。」
「はぁ……はい、わかりました。今からボールペンを1本投げます。凸凹社の奴です。」
「了解。いいか芥川、俺の予想が正しければ、ここら辺にボールペンが落ちてくるはずだ。俺らもここにワープして来たんだからな。」
「ああ……」
そういうことか。
俺や博士はあのドアの向こうに行くことで、キヴォトスにやって来た。
そして博士によると、俺も博士も、この路地裏に落ちてきた。
つまりワープの出現地点はここの可能性が高い。
あっ、ボールペンが落ちてきた。凸凹社の奴だ。
出現地点は、地面から2.5m程。
しかもその地点を見てみると、空間がブウゥンと音を立てながら歪んでいる。
ここが出現地点で間違いなさそうだ。
ちなみに触れてみても何も起こらない。本格的に帰れないようだ。
「足立、ノートとかパイプ椅子とか、質量が違うものを入れてくれ。出現地点が完全固定なのか、質量や大きさで変わるのか調べたい。」
「わかりました、じゃあ、パイプ椅子を一脚送ります。今仲間に新品のノートを買いに行かせてるので、帰ってきたらそれも送ります。」
それから、足立は色々なものを送ってきた。
錆びたパイプ椅子、綺麗なパイプ椅子。
新品のノート、色々なことが書かれていたらしきノート。
沢山の食料まで。ちなみに普通に食えた。犬住民に貰った水を飲んでみたけど、普通の水だった。
これらのものは全て、路地裏地上から2.5mの所から落ちて登場する。
「はいはい……色々わかった。実験成功……と。出現地点は地面から2.5m程(大きさで少し変わる)、そして有機物無機物関係なくワープすると。突然だが足立、『いきなり小物が出てくる空間』を見つけたら、どうやって収容する?」
『えっ?あっ、あっその。周りを囲うように建物を建てることで収容します。』
囲い込んで収容……Dクラスだった頃、建物を組み立てる作業に駆り出されたことが何度かあったが、そういうことだったのか。
「そういうこと。ここに簡易サイト作るから、いくつかの建築材とかドリルとかハンマーとかくれ。いじれ正式なサイトも欲しいから、いい建物の情報があったら教えてくれ。」
『わかりました。インストール完了したので、こちらでもストーリー追って調べてみます!……あそうだ、思い出したんですけど、ブルーアーカイブ……これからは略してブルアカにしますね。ブルアカには『要塞都市エリドゥ』という場所がありまして、そこは都合のいい事に無人の大都市なんです。』
「思ったよりいいな。で、その都市はどこにあって、誰が管理している?ゲーム内でわかることを全て教えてくれ。」
『えーと、まずはエリドゥを建設した調月リオと……後はミレニアムと、天道アリス……三大校の事も教えたほうがいいですね……』
(大まかなブルアカの世界観説明中 全カット)
「つまり、調月リオをどうにかして説得、エリドゥをもらい受けて、サイトを作る……で、調月リオは合理主義者だから、それを成し遂げる説得力が必要……と。」
「めんどくせー……しかも、今の時系列も特定する必要もあるわけで……博士」
「逃げたら即終了処分とする」
「……」
ですよね。
終了処分ってのは、要は殺すってことだ。
物騒な組織だよ、全く。
「あ、そうだ。お前のGPS腕輪、新しいのに取り替えとくから寄越せ。」
俺は特に疑問に思わず、腕輪を渡した。
「まずは時系列の特定及び、ミレニアム自治区へ行くことが目標だ。そこで、不安だが二手に分かれよう。俺は先にミレニアムへ行き、天道アリスが眠っていたとされる場所を調べてくる。お前は俺が連絡するまでブラックマーケットに居てくれ。で、もしアビドス廃校対策委員会を見つけたら、すぐに俺に連絡しろ。それと……」
博士は通信を始めた。
「足立、Dクラスを何人か寄越してくれ。只今より、エージェント•芥川の下につける。」
『えっ……いやそんな急に言われても、うちの在庫少ないの理解してますよね!?』
在庫って言うな……
確かにDクラスは俺含め死んで当然のカスばかりだが、人間だぞ。
『それに、キヴォトス、特にブラックマーケットでは毎日銃撃戦が起こります。芥川君の運が良かっただけで、Dクラスが行っても犬死にかと。』
「まぁそれでも、何人か送ってくれ。いないよりマシだし。伝え忘れてた。SCP-019を収容しているサイトに連絡を取って、収容違反が起きていないか調べてくれ。怪しまれるかもしれないが……まぁ、誤魔化せ。もし駄目だったら、俺に繋げ。」
『……わかりました。連絡します。』
通信が切れる。
最後の方の足立は、明らかに不機嫌そうだった。
上司から無茶振りされたし、当然か。
「俺の予想が正しければ、019は俺達の世界のものが持ち込まれたのではなく、キヴォトスで新たに発生したものだと思う。」
「え?その理由は?」
「019-1があの店にずっとあったとして、毎日の銃撃戦による衝撃で一度も019-2を発生させていないとは考え難い。足立の説明によると、キヴォトスではテクスト、もしくはテクスチャ……概念が持ち込まれるとそれが顕現し、噂が本当になると聞く。なら、俺達が入った事で、SCPオブジェクトの概念が持ち込まれ、キヴォトスにもSCPオブジェクトが出てくるようになった……と、考えている。というか、そもそも019は破壊命令が出ているほど危険なオブジェクトだ。そんなオブジェクトが収容違反になったら、全ての支部に連絡が行くだろう。」
暫くすると、また通信が入った。
『博士、確認してきた所、やはり収容違反は起きていないようです。』
「そうか……なら、理事会に今起こっている事を報告しろ。あの扉は一つのサイトだけで扱えるシロモノじゃない。万が一、キヴォトスに存在するSCiPが俺達の世界に行ってしまわないように、もっと多くの人員が必要になるだろう。」
「え?さっき、こっちからあっちの世界には行けねぇって結論付けたばかりなのに?」
「俺たちはそうだが、SCiPはとんでもなく異常なモンばかりだからな。もしかしたら、世界の壁を越えられるかもしれない。当面はそいつらを収容しつつ、元の世界に戻る手がかりを見つけることを目標とする。」
「そっか、わかった。」
こんな異世界モノのような事態に陥るとは、生きてみるものだな。
「あ、そこのあんたら!」
「ん?」
話していた俺達に話しかけて来たのは、黒いヘルメットを被った女の子。
「ヘルメット団」ってやつだ。
足立君曰く、ブラックマーケットには沢山いるらしい。
何の用だろうか。
「さっき近くで、バケモノとゲヘナの風紀委員長が暴れてたろ?だからここの通りにある店は全部移動することになったんだ。あんたらも治安維持組織に目をつけられたくなければ、とっとと逃げたほうがいいぞ!じゃあな!」
そう言って、女の子は去っていった。
「だってよ博士。俺達も……博士?」
言葉を失った。
博士の方を見ると、そこには大きなぜんまいの機械があった。
そうとしか言いようがないのだ。
言えることがあるなら、何かを入れるらしい空間と、それを閉じるドア。
そして、矢印付きのノブだろうか。
同じく絶句している博士に聞く。
「博士……それもSCiPか?」
「ああ……こいつはSCP-914『ぜんまい仕掛け』だ……」
博士は絶句したかのような顔だ。
それほどとんでもないオブジェクトということなのか。
「どんな物なんだ?」
「914は、中に入れたものを様々な形で改造するオブジェクトだ。矢印のついたノブがあるだろう?Rough(破壊)、Coarse(分解)、1:1(再解釈)、Fine(改良)、VeryFine(魔改造)の5つの形で改造される。複数のものを入れると、合わさった上で改造される。これを使えば、お前も銃が平気な身体になれるかもしれないな。だがしかし、なんでこんな所に?偶然にしちゃ、出来すぎだろ。」
博士は納得がいかない顔だ。
俺も納得がいっていない。
なんでそんな都合よく現れるんだ?でもまぁ、
「なんか面白そうだな。」
「実際そうやって娯楽目的で使う奴が沢山いるから、娯楽目的での使用も禁止されている。足立、一応、914を収容しているサイトにも連絡しといてくれ。」
『わかりました。』
「とりあえず、正常に動くか実験だ。019の騒動の結果、壊れた銃が当があたりに散乱している。こいつを入れて、それぞれのノブに合わせて出力してみよう。生物での実験は禁止だから、死骸とか持ってくるなよ。」
それから、ブラックマーケットで色々な物を集めて、実験が始まった。
以下、その結果。
入力: 壊れた銃 (設定: Rough)
出力:ハンマーで殴られたかのようにボコボコの銃
入力: 壊れた銃 (設定:Coarse )
出力:綺麗に分解された銃。但し一部パーツが壊れている。壊れた部位は入力前に壊れていた部位と同じ。
入力: 壊れた銃 (設定:1:1 )
出力:違う種類の壊れた銃。重さは同じだった。
入力: 壊れた銃 (設定:Fine )
出力:新品の銃
入力: 壊れた銃 (設定:Very Fine )
出力:豪華な銃。試しにガラス窓の向こうにあるじゃがいもを撃ってみたら、なんとじゃがいものみが砕けた。
目標に直接ワープするらしい。
面白いなこれ。
「丁度いい、護身用にVery Fineの銃を持っとけ。言っとくが遊び感覚で撃つなよ?」
「そんくらいは弁えてる。任せろ。」
俺は博士から銃を受け取る。
これはハンドガンだ。小さいから、初心者の俺でも扱いやすい。
しかもこれは軽いし、弾はワープする。ゲームなら確実にチートで御用だ。
「ははっ、飛行機事故を起こしたやつに言われても説得力が無いな。しかし、いつまで経っても来ないな、Dクラス共……」
あの後、博士が足立に連絡を入れ、作業員として今度こそDクラス職員たちを送るよう言った。
足立はDクラス10人と簡易工事用の道具を送ったらしいが、まだ届かない。
俺や博士が落ちてきた座標の近くでずっと見ているが、来ないまま3時間が経とうとしていた。
「時間の流れが違うのかもな。監視カメラでもつけておいて、少しでも作業を……」
「すみません、ここだけ人がいないけど、何かあったんですか?」
「!」
俺達に話しかけてきたのは、推定20代半ばくらいの男性。
タブレットを持っている。
キヴォトスでヘイローのない人間でタブレット……?
俺の思考が終わる前に、博士は口を開いていた。
「実はほんの数時間前、ここでバケモノが暴れていたんですよ。もう退治されてみたいですけどね。私達は、ここになんかいいもの埋まってないかなーと、探していたってだけです……」
「そうですか。ありがとうございました。では。」
男は背を向け、歩いていく。
「なあ博士。」
「ああ。あの男が恐らく『先生』だろう。姿を見られたのは痛手だな、記憶処理を……」
そう言うと、博士は先生の前に回り込み、素早く記憶処理薬を浴びせ……る前に俺が止めた。
「待てよ博士。確か先生はアロナバリアとかいう強力なバリアを持っているんだろ?記憶処理も効かないかも。下手に動いて怪しまれるほうがもっと駄目だ!」
「……それもそうだな……」
俺達の目線の先にいる先生は、白い髪と狼のような耳が生えている生徒と話していた。
あれが「砂狼シロコ」だろう。
「足立君、聞こえるか?先生と砂狼シロコがブラックマーケットに来た。つまり、今はvol1『対策委員会』編だ。」
『おお、わかったんですね!では、今後のストーリーはこちらで調べて誘導します!それでは!』
通信を切る。
……結局、Dクラスどもはいつ来るのか。
博士がキヴォトスに来た理由はノリではなく、ちゃんとしたものがあります。
ただし、この伏線が回収されるのはめっちゃ後になる予定です。
今回使用したSCPの記事です。
タイトル: SCP-914 - ぜんまい仕掛け
原語版タイトル: SCP-914 - The Clockworks
訳者: 訳者不明
原語版作者: Dr Gears
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-914
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-914
ライセンス: CC BY-SA 3.0