そう言ってしまうのは、露悪的ですね。
3169-JP やった事がないなら、わからない
「ハァ……ハァ……」
「……」
学園都市キヴォトス。死を忌避する場所。
そこに住む存在は、銃で撃たれてもかすり傷程度のダメージしか負わない。
そのはずだったのだが。
「五人、か……思ったより、命って軽いな。」
エージェント•芥川の前には……「銃で撃たれてもかすり傷程度のダメージしか負わない存在」が五人、頭から血を流して倒れている。
彼女らの頭に浮かんでいるはずのヘイローは割れているし、脈も既になくなり、事切れている。
「君は既に数百人殺している。今更五人程度誤差でしょう?」
機動部隊(今は一人)隊長エドガーが、ヘラヘラしながら話しかける。
この空気を明るくしようとしているのか。
「簡単に言うなよな。最初の一人はともかく、他の四人はアレと違って、明確に意思を持って殺した。」
「でも、君は即座に状況を理解し、私の命令を遂行した……兵の素質がありますね。それに人が死ぬ所を見ても叫ばない……」
「欲しくねーよそんなもん……叫ばないのはDクラスの時に死ぬほど見せられたからだな。仲間が死ぬとこ。」
彼らはSCP財団。
異常存在「SCPオブジェクト」を収容し、世界を守る組織の人員である。
わけあって、彼らはキヴォトスにやって来たのだ。
「とりあえず、どうすんのこいつら。博士に連絡する?」
「それはいけない。」
「!」
ヘラヘラしていたエドガーが、急に気を引き締めるようなマジトーンの声を出す。
「理由を聞いてもいいか?」
「千石博士に話す事自体は問題ありませんが、問題は別にあります。調月リオさんについてです。」
調月リオ。
キヴォトスにある学校の中でも特に大きな学校「三大校」の一つ、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長である。
財団が今サイト(収容施設)にしているのは、彼女がこっそり作った大都市「エリドゥ」であり、その他にも、財団は彼女から沢山のロボットを借りて活動する予定のため、頭が上がらない相手なのである。
「例えそこらの不良としても、『殺人』を犯したんです。調べたところ、調月さんは合理的な判断を下していると思いがちですが、その実繊細で優しい性格らしい。そんな彼女が、殺人を犯した者達と仲良くやっていける、そう思いますか?」
「……博士にだけ伝えればいいだろ?」
「彼女はまだ、財団の事を信じきっていないでしょう。特に私達とは会ってすらいない。博士との通信を盗聴でもされるかもしれません。博士と我々の通信を盗聴していたら、どうします?」
「!……そうか……」
このエドガーという男、気のいいようでいて、他人を全く信用していないらしい。
正確に言えば、同じ組織の人間ではない者を、だろうか?
「博士に話すなら、口頭で。それしかありません。」
「わかった。なら、次に博士に会ったときに話す。これでいこう。とりあえず、この死体を片付けないと。AMASとやらに気づかれたらマズいし。」
「ええ。早速とりかかりますか。」
死体を隠す。
と言っても、財団のサイト内とはわけが違うのだが。
「914で分解しよう。」
「駄目ですよ、914の中に生物及び死体を入れるのは禁止されています。普通に焼却しましょう。足立君に事情を説明して、焼却用具を送ってもらいます。勿論、盗聴されていないかチェックした上で。」
「了解。」
そのまま流れで、現実世界に残っている足立研究助手へと通信信号が届く。
『さっきぶりですね、エドガーさん。どうしました?』
「足立君。通信を誰かに聞かれていないかチェックしてください。大丈夫でしたら、合図をください。」
『え?なんでですか?』
芥川と違い、足立はわりと安全な所で実験をすることが多いので、危機感が薄い。
「盗聴されていたら困りますからね。早めにお願いしますよ。」
『わかりました。少し待っててください。』
待ち時間の間、二人は改めて、死体を見た。
そして、芥川が持つおかしな形状の銃を見た。
「これ、ただ弾がワープする銃って訳じゃないっぽいな。見てくれエドガー。さっきは気付かなかったけど、弾が入ってない。さっきのは空砲だ。」
芥川が取り出したマガジンには、弾薬が一つも入っていない。
なら、どうやって頭を破壊したのか?
「どういうことでしょう?」
「試しにあの死体の足あたりを撃ってみ。」
芥川が指さしたのは、彼が最初に撃ち殺したスケバンのリーダー格。
エドガーは狙いを定め、引き金を引く。
…………が、弾丸は射出されず、引き金の音が「カチッ」と、響くだけだった。
「私が持ってもただの銃。では、芥川君が撃つと……?」
バァン。
足から血が噴き出た。
「俺が撃った時のみ、殺傷力が極めて高い弾が出る……いや、『撃たれた状態になる。』今のところ、それが結論だな。」
「そうですね……詳しい実験は、後で博士を交えてやりましょう。」
ひとまず実験終了。
丁度いいタイミングで足立からの通信が来たので、二人はこれ幸いと、通信に集中することにした。
『盗聴されていないか徹底的に洗い出しましたし、人払いもしときました。それで、ここまでするってどれくらいヤバいことになってるんです?』
「まあ、聞いてくれよ足立くん。………死体の焼却に必要な物を送ってくれ。俺はさっき……人を五人殺した。」
『へ……………………………?』
隣で「バカ!前置きもっと丁寧にしろ!」と叫ぶ千石博士の顔が見える見える。
だがこの男、そこまで気を使える奴ではないのだ。
「詳しい説明は省いていいか?」
『い、いやいやいやいや!!駄目ですよ!?説明してください!!なんで殺しなんて……!』
二人はこれまでの経緯を足立に説明した。
『914の実験で生まれた改造銃が、生徒ですら死に至らしめる凶弾………嘘でしょう………?』
「全て本当の話です。芥川君が撃った時のみ、ただの空砲が致命傷になる。もはや、そういう現実改変を引き起こす装置といったほうが合っているかもしれませんね。羨ましい。」
「現実改変?俺はスクラントン現実錨を内蔵した腕輪があるから、能力は使えないはずだ。」
芥川はエドガーに自身の腕を見せつける。
その腕に輝く腕輪は、赤い光を発している。
「そこら辺はなんとも……スクラントン現実錨は、周囲のヒューム値を2hmに保つもの。今出来るのは、その銃がスクラントン現実錨を無視できる装置である、と仮説を立てる事だけです。」
「そうか……まぁ、使わなければいいか。」
「そうしておくのが賢明でしょうね。とりあえず足立君。そういうことなので、焼却用具をいただけますか?」
『はい……にわかに信じられませんが、送りました……それでは……』
自分が殺したわけでもないのに、意気消沈する足立。
感受性や倫理観が高いのかもしれない。
「よし、やっちゃいますか。」
「もう殺りましたけどね。」
逆にこいつらには倫理観をもう少し持ってほしい。
死体を放り込んで火を付けると、燃える燃える。
夕暮れの空に溶け込む灯火である。
普通は初めて目の前の人を殺すと、グロさや恐怖でゲロを吐き、食事が喉を通らないと言うが……
「普通に食えちまってる……」
「そういう人もいます。ま、財団で働く以上、罪悪感というのは邪魔になります。君に罪悪感が無くて良かった。」
「そりゃどーも。」
足立から送られてきた焼却キットで、死体を燃やす。
彼女らはスケバン……モブである。
故に、物語にあまり深い影響は及ぼさないだろう。
とても露悪的な考えだが、三人はそう考えた。
というか、そう考えないと嫌な気持ちになるから、そう考えたのだ。
「AMASが来るまであと5時間……いけるか?」
「いけますよ。死体が燃えきるまであと1時間くらいなので。」
「……サイトは手に入った。この後、財団は何をするんだ?」
『いきなりどうしました?変わりませんよ、SCiPを収容するだけです。ああでも、各国のお偉いさん……キヴォトスの場合、各校の生徒会長、後は警察組織に根回しをする必要がありますね。ですが……果たして、財団の正体を明かしても良いのでしょうか?』
現実世界……ここからは基底世界とする……基底世界での財団は各国と巧みにパイプを繋ぎ、法を超えて収容活動をすることができた。
だがキヴォトスにおいては、財団は今の所、ミレニアム……というかリオとしか協力関係を取り付けていないため、自治区で活動した場合、生徒会長の協力を得られず、結果としてトラブルが発生するだろう。
そのため、各校の生徒会長に協力を取り付ける事は最優先事項なのだ。
そして足立が何故心配しているか分かりやすく説明すると、『プレイアブルキャラに財団の事教えたらストーリー崩壊するんじゃね?』って事である。
「既に調月にバラしてるし、いいんじゃないのか?」
「エリドゥを借りるためとは言え、もう調月リオさんには正体を明かして、協力を取り付けてしまっています……が、基底世界と同じ常識で考えてはいけないでしょうね。」
芥川とエドガーはそう答えた。
「あ、あれだ。お勤めご苦労。このロッカーの中にオブジェクトが入ってる。持っていってくれ。」
死体の腐敗臭が鼻を引きつらせる。
2人の前に現れたのは、四角い顔の下に一輪をつけた自走ロボット。恐らくAMASだろう。
なんとか焼却は終わったようで、二人はやってきたAMASにオブジェクトを全て渡した。
それらを全て受け取り、最後に914を土地ごと持ち上げて、いつのまにか後ろに停まっていた大きなトラックに積み込んだAMASは周囲の臭いについて懐疑的な視線を二人に向けてきたが、
「あ、この腐敗臭についてだが、これは019との戦いによるものだ。死体が沢山出たからな。」
「ええ。千石博士にそう伝えておいてください。」
と二人が答えると、AMASは頷いたような動きをして、その場から去っていった。
「ひとまず……次やることは、カイザーPMCと対策委員会の決戦に介入して、トリニティの砲撃支援無しで勝たせることか。…………どうする?」
「一言で言えば、無理、ですかねぇ……あまりにも戦力差が大きい。あの鉄のロボット達相手にどこまでやれるのか気になりはしますが、失敗は世界の崩壊を意味するのでね。」
目の前で構築される無理ゲーに対して、二人は思いを巡らせる。
最も、二人とも諦めているわけではなさそうだ。
「理事を説得してわざと負けてもらって、その後は、財団で雇うとか。」
「財団で雇うとは?」
「えーとその、俺たちはキヴォトスを知らなすぎるから。そういうのに詳しい奴は仲間にしたい。」
芥川がそう答えると、エドガーは溜息をついた。
「出任せなのがバレバレですよ。本当は、どんな理由ですか?」
「うっ……その……」
芥川は数秒間オロオロしていたが、やがて観念して口を開いた。
「ストーリーが正しく進んだら、あいつは指名手配されて、孤独になっちゃうわけだ。それはとても悲しい。可哀想。例え自業自得、因果応報だとしても、俺はアイツに寄り添いたい。そう思ったからだ。」
「要は、
「まあな。俺も孤独だったから。と言っても、両親が仕事で家を開けがちってだけの話だけど。俺はコミュ力が無くて、空気を読めずに酷いこと言って、周囲から孤立することが多かったから。
『孤独』ってのは、思ってるよりずっと重いことだと思うんだよ。
だからどんな自業自得の形であったとしても、敵だらけの『孤独』に置かれている奴には、手を差し伸べたい。それだけだ。」
「へぇ…………良いじゃないですか。そういうエゴ、大好きですよ。」
「お、わかってくれる?」
「ええ。博士が認めるかは分かりませんが、彼を仲間にするのは、私も賛成です。実際、キヴォトスの状況を知る者を仲間にしたいとは思っていましたから。それに常に人手に乏しいので、人員は確保したいんですよね。」
エドガーはあくまでメリットの点で話すが、本心は芥川とそう変わらないようだ。
「………それでは、そろそろ話を戻しますか。どうやってわざと負けてもらうんです?この頃の彼はまだ野心に満ちているでしょうから、例え我々が未来を示しても、信じるわけがない。」
「そうなんだよなぁ〜……なんか武器系のSCiPとかない?」
「あっても大抵は使用禁止ですよ。」
「じゃいいや。なら、今の所、『策は何もない』って所に落ち着くわけだな。」
二人は砂だらけの道にシートを敷き、寝っ転がる。
「私たちはこのままでは、ただのジャッカスです。」
エドガーが呟く。
「さっきから言ってるけど、ジャッカスって何だ?」
「役立たずって意味ですよ。響きがかっこいいので、人を罵倒する時はよく使ってます。」
「へえ……じゃあ今の所、俺はあんたの役に立ててるんだ。」
「ええ。今の所はね。芥川君を初めてジャッカス呼びする時を、楽しみにしてますよ。」
「そりゃ楽しみだ。俺が先にあんたをジャッカス呼びしてやるよ。」
もう、夜も更けた。
明日になったら多分、小鳥遊ホシノが行方不明になる頃だろう。
数日間身を隠した廃墟に入る。
こことも、もう少しでお別れだろう。
希望と言う名の絶望を明日の自分たちに託して、二人のジャッカスたちは、睡魔に身を任せた……
と思ったが、横になった芥川の視界に、異常な物体が見えた。
その物体は、一般的にはペントミノと呼ばれる、パズルの一種である。
どのような点が普通のペントミノと違うとかというと……そのペントミノ、宙に浮いているのだ。
とりあえず、端末で調べてみる。
「『浮いているペントミノ』っと……あった。SCP-3169-JP『戦術求解部門と上昇ペントミノ』。特別収容プロトコルは『強化収容ロッカーに収容してください』……これだけ?」
「楽に収容できるに越したことはありませんよ、芥川君。」
いつの間にか起きていたエドガーが3169-JPを拾い上げ、二人が根城にしていた廃墟の奥に置いてある強化収容ロッカーに入れた。
3169-JPの収容完了である。
「どういうものか分かっているのなら、本来は殆どのオブジェクトを、このくらい簡単に収容できるはずなんですよ。さ、寝ましょうか。」
「そうだな。」
そうして、二人は再び眠りについた。
実は彼らがキヴォトスに来て、これが最初の就寝である。
長い長い1日であった。
914は過去に記載したので割愛。
タイトル: SCP-3169-JP - 戦術求解部門と上昇ペントミノ
作者: wavekey
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3169-jp
ライセンス: CC BY-SA 3.0
『ジャッカス』という言葉、響きが好きだったんですけど、意味を調べてみたら、どうやらスラングらしいじゃあないですか。
なら使わない手はない!