TS転生天才VTuberの悪趣味チャンネル   作:山鯨

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第一回配信:自作ゲームで悪趣味なことをします。

 

 

 

 

 

 

ずっと昔から、私は破綻者だった。

 

現代社会の波風立たない平穏無事な生活に幸せを感じながらも、その内心の奥深くで、ある邪な願いを抱いていたのだから。

 

その願いは一度死んで生まれ変わり、前世と非常に似通ったこの世界で、性別すら変わった人間として生活していても、こびり付いた汚れのように私の心から離れることはなかった。

 

ただ、それだけなら問題は無かったはずだ。

 

私は前世において、死ぬまでその願いを叶えることはなかったのだから。私の前世を総括するなら、ひっそりと誰にも看取られることなく死んだ、影の薄い平凡なおじさんと言ったところだろう。

 

けれども、今世の私は違った。違ってしまった。

 

転生という人知では本質を推し量ることすら出来ない現象に遭遇してしまったせいで、私は産まれながらにして、人類を遥かに超越した知能を持ってしまっていたのだ。

 

通常の科学では知覚することすら不可能な魂と形容できるエネルギーが次元の壁を越えてこの身体に宿ってしまったせいで、異なる次元の魂とそこに転写されていた記憶が脳の構造と機能を人類の範疇を超えたモノへと昇華してしまったのである。

 

人を越えた思考力と記憶力、それらに基づく発想力を手にしてしまった私は、ある日こう考えてしまった。

 

『今世なら、私が必死に目を背けてきたこの欲望を、決して罪に問われることなく簡単に満たせてしまうのだろうな』と。

 

そして、その考えを自覚した小学四年生の遠足で乗った帰りのバスの中で、私はある計画を思い付いてしまった。

 

以来、私は胸の内から湧き出る強い衝動に突き動かされるように、ひたすらに一つの研究へ没頭した。

 

自らが持てる能力の全てを用いて、小学生の内に研究に必要な機材と機材を集めるために必要な莫大な金銭を稼ぎ、中学時代には研究室へ無造作に置いた装置一つで地球を木っ端微塵にすることすら可能にまでなっていた。

 

そうして、高校を卒業してからおよそ三年の月日が経過した現在。

 

実家の物置を改装して使っている研究室にて。

 

私はついに、自らの邪な願いを成就させる研究を、完成させたのだった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

第一回配信:自作ゲームで悪趣味なことをします。

 

 

前後左右、東西南北、どこを見ても視界一面に広がる大海原。天には燦々とした恒星が遠くに浮かび、空はどこまでも青く晴れ渡り地平線の彼方で海と交わっている。

 

自然のサイクルによって生じた波が揺らす海面。その海抜五十メートルの空中に、私は浮遊していた。上空で吹く海風が、配信のために作り上げたボディーの髪を凪いでいく。

 

「わー」

 

この広大な光景には、事前テストを何度も行った現在でも圧倒される。

 

それほどまでに、あまりにも精巧で自然な景色だった。

 

「さて、これから自作のゲームをプレイしていきますよー」

 

今の私の言動は背後に浮かぶカメラによって配信に乗りつつ、後々動画としても残されるため、後から見る人のために行動を言語化していく。

 

それから、私は視界に表示させているマルチコンソールを操作して、惑星に同期させている自身の位置情報を前方に移動させていった。

 

「おー」

 

すると景色が前から後ろへ高速で流れ始めていく。周囲は一面の大海原だから景色自体にはこれといった大きな変化はないけれども、自身が大気を切り裂いて高速で移動している感覚に全身が包み込まれる。

 

もし影響力の値を最低値に設定していなければ、空気抵抗でボディーをボロボロにしながら物凄い強さのソニックブームを発生させていたはずだ。

 

移動しながら配信画面を映しているマルチコンソールを見る。そこには中央に映された私の後ろ姿が軽快に空を飛んでいる光景が表示されていた。そのとてもゲームらしい見た目には少し笑みを浮かべてしまう。

 

約十五秒後、私は大海原を越えて中央大陸に辿り着き、海岸線を抜けると内陸部の森林地帯で位置情報の移動を止めた。

 

「よーし、それじゃあ配信タイトルに悪趣味なことをする、と書いているので、そのために人を探したいと思います。位置情報ではもう少し移動すると大国間の国境付近になるので、そこで人が見つかるんじゃないかなと思ってるところです」

 

そう言って、森林地帯の上空を今度はゆっくりと移動し始める。

 

上空から見るリアルな森林地帯の景色は、あまり一般的には見られない物珍しさと新鮮味があった。そこを移動しながら見ていくのは、大自然との一体感を覚えてちょっとしたリラックス効果があるのではないかと思う。

 

「お?」

 

そんな感じにゆったり自然との一体感を楽しみながら、前世から求めていた今後のお楽しみに胸を期待で躍らせていると、配信に視聴者が一人現れた。

 

「どうもー、初めましてー、私今日からゲーム実況を始めたドナーと言います、よろしくお願いしますね、今は自作のゲームをやっているところですよー」

 

やはり最初は自分から積極的にコミュニケーションを取っていかないと配信自体の雰囲気が悪くなると思ったため、自分なりに自己紹介をする。

 

『こんちゃ』

 

すると配信のチャット欄に挨拶のコメントが投稿された。この配信は日本語のタグで配信していることもあり、投稿されたコメントも日本語だ。

 

「はい、こんにちはー。初めての配信なので不慣れなところがあるとは思いますが、どうぞ見ていってくださいね。今配信に映している自作のゲームは自信作なので、それだけでも楽しんでもらえたらと思います」

 

『グラ凄いですね』

 

「えへへー、リアルさには自信があるんですよ、それにこのゲーム結構色々できるんですよー? こうやって森の中を歩いたり、獣を狩ったりもできます」

 

グラフィックを褒める返事が帰ってきたため、私はさらなるセールスポイントを伝えようと、軽いデモンストレーションを行うことにした。

 

まず手始めに広大な自然を一望する空中から、少し湿った空気が満ちた森の中の、枯れ葉で覆われた地面の上に降り立つ。それからマルチコンソールを操作して手元にライフル型の猟銃を創り出した。

 

「みてて下さいねー」

 

猟銃を構え、右前方の木々の向こうで背の低い茂みを食んでいた草食獣に狙いを付ける。指を掛けていたトリガーを引けば、乾いた音の発砲音が周囲一帯に響き、どさり、と重さのある物体が地面に倒れた音がする。

 

地上を低空で浮遊しながら移動して、撃ち抜いた標的の元へ向かう。

 

移動した先には頭に空いた銃創から血を流して動かなくなっている鹿のような見た目の獣がいた。私はその獣の足を掴み上に掲げ、配信カメラを正面に移動させる。

 

「やりました」

 

『まじリアルっすね』

 

マルチコンソールに映る配信画面には、オリジナルの私の身体をモデルにした黒髪ショートカットの美少女が表示されていた。その姿はオリジナルの身体を若くしたような見た目になっていて、飾り気のない暗色無地の普段着の上に、着慣れたシミ一つない白衣を着ている。

 

見れば、初めての命を奪う行為に気持ちが昂ぶってしまっているからか、自慢気な表情の中に不純なものが見え隠れしてしまっていた。

 

「ん?」

 

ちょっと気を落ち着けるためにマルチコンソールの情報を見ると、いつの間にか配信の視聴者が二人になっていたようだった。

 

私は最初の一人の時と同じように自己紹介をする。けれどもチャットには反応がない。なので見る専門なんだろうと判断して、ひとまず視聴者へのサービスはこの程度で良いかと考える。

 

それから、私は当初の目的を果たすために行動を再開することにした。

 

「えっとー、確か、こっちだったかなー」

 

手にしていた猟銃を消去してから、再び森林地帯の上空五十メートルほどに浮遊すると、現在位置の座標を確認し、目的地に向かって移動を開始した。

 

「このゲームはですねー、さっきみたいに狩りもできるんですけど、メインは散歩というか、世界の観測をしていくシミュレーターゲームなんですよね」

 

視聴者に軽くゲームの説明をしながら森林地帯上空の移動を続けていると、やがて開けた平原地帯が見えてくる。そして、それと共に風に乗って無数の音が聞こえてくるようになった。

 

大きな爆発音。

金属がぶつかり合う音

巨大な衝撃波が発する轟音。

それから、怒声や罵声が混じる咆吼のような、無数の人々の声。

 

無数の音のもとへ向かっていけば、見えてきたのは、二つの小高い丘に挟まれた広い平原で行われる、二千人を超える人数が集まった大規模な戦闘だった。

 

「おー! やってますねー!」

 

戦闘は一見すると砲兵と歩兵によって行われているように見えた。砲兵が後方の自陣から戦場を爆撃して、その後を歩兵が駆け上がっていくという戦術だ。

 

しかしながら、よく戦場を見ていくと、現代の常識では考えられない光景がそこには散見された。

 

銀に輝く全身鎧を身に着けた歩兵たちが、降り注ぐ無数の砲火を搔い潜りながら揺らめく光を纏う大剣を振るい、一太刀で人体を鎧ごと両断している。

 

彼らの動きは慣性を無視した急停止と急加速を繰り返していて、その状態で二十メートル近い距離を一息に踏み込み、身体全体を使った動作で一瞬の内に大剣を振り抜いていた。

 

上空から覗いていると、激戦区となっている戦場には大剣が纏う揺らめく光がいくつもの軌跡として残されてるのがよく見える。

 

『すっご』

『おー!』

 

背後の配信カメラと共に視線を戦場の後方に向けてみると、そこにはローブ姿の人物たちが横に隊列を組んでいる姿が見えた。

 

そんな彼らが一斉に手を掲げたと思えば、彼らの正面には無数の巨大な火球が生まれていき、それらはやがて斜方に投射されて戦場へと降り注いでいった。また、その中には直線的な軌道を描く細い光線が紛れ込んでいて、その光線は的確に敵と思わしき歩兵の頭部を射貫いていく。

 

『何このゲーム』

『やっば』

 

「あははっ」

 

私は我慢ができなくなり地上に降りていく。辺りを見回しながら、あちこちに目移りしつつ戦場を巡っていった。

 

戦場を練り歩く中、次第に目の前に広がる光景からどんどんと目が離せなくなっていく。

 

なぜなら、こんなにも多くの人が死んでいるのだから。

 

両手で剣を握り膝立ちのまま動くことのない、首を落とされた全身鎧の死体。

のたうち回ったかのような姿で地に伏す、金属と溶け合い全身が焼け爛れた死体。

腹を斜めに両断され、内蔵を露出させながら自らの下半身の上に上半身を重ねている死体。

戦場に空いた半球状の大穴の中にバラバラになって飛び散る、原形を留めない複数の死体。

 

多くの人間が死んでいる。

 

無残に、無慈悲に、なんの意味もなく。

 

「ふふ、ふふふ、あはっ、あははっ」

 

『大丈夫かよこの人』

『大喜びじゃん』

『リアルすぎて気分悪くなってきた』

『これなんてゲーム? 欲しい』

 

「……おっと、すみません、夢中になってしまいました」

 

気がつくと、私は目の前に広がる凄惨な光景に数分間も夢中になってしまっていた。

 

その間になんだかチャット欄が騒がしくなっていたようで、理由を探ると、どうやら視聴者が八人にまで増えていたことが原因らしかった。戦場の光景に惹かれてやってきてくれたのだろうか。

 

「えっと、新しく見に来てくれた視聴者さんへ自己紹介させていただきますと、私は今日からゲーム実況を始めたドナーと言います。今やっているゲームは自作したゲームなんですよー」

 

『自作まじか』

『グラフィック凄い』

『死体や戦闘リアルすぎんか』

『グロすぎて草』

『なにこれVR?』

 

配信カメラを正面に持ってきて手を振りながら自己紹介をすると、チャット欄にいくつかの反応があった。彼らからは投稿されたコメントの内容や速度を見るに興奮している様子が窺え、だからだろう、一人で何回もコメントを残してくれていた。

 

「えへへ、このゲームは描写に力を入れた自信作なんですよー、あと、体感的にVRゲームかといえばVRゲームよりですかねー」

 

『キャラクター可愛いですね』

『動き凄いリアル』

『どうなってんの』

『あ、後ろ』

 

視聴者とコミュニケーションを取っていたら、後ろでとても強力な衝撃が発生していた。衝撃の中心から発生した衝撃波が大気を駆けていき、遅れて強風が巻き起こる。

 

衝撃の発生地点を見ると、普通の兵士とは見た目が違う全身鎧を身に着けた二人の歩兵がいた。一人は両手に持つ大剣を振り抜いた格好のまま肩で息をしていて、もう一人は真っ二つに両断された大剣を手に直立不動で立っていた。

 

数秒の停滞ののち、後者の歩兵が胴体を両断される形で崩れ落ちる。

 

すると、次第に戦場から雄叫びが連鎖的に上がっていき、そう間を置くことなく片方の陣営が敗走を初めていく。

 

その様子を見ながら、私は配信カメラを背後に戻し、戦場を一望できる上空に浮遊してから、視聴者へ語りかける。

 

「それでは、戦闘が一段落したようですし、これから配信タイトルにあるように、自作のゲームで悪趣味なことをしていきたいと思います」

 

『え、なに』

『既に十分悪趣味では?』

 

ようやくだ。

 

ようやく、ずっと昔から抱いていた願いを叶えられる。

 

私は気持ちの高ぶりを自覚しながら、まぶたを閉じて天を仰ぐ。

 

人は人を殺してはいけない。それは、人類が安定した社会を形成するために作り出した相互保証のルールだ。このルールを犯した者は社会に罰され、酷い者は排斥されることになる。

 

私は破綻者だった。現代社会に生き、安定した生活を好み、何事もなく続く日常が好きだった。けれども、それと同じくらい、いや、それよりももっと強く請い願っていたことがあった。

 

私は昔から人を殺したかった。

 

他人の尊厳を戯れに破壊したかった。

 

誰もが平等に持つ命という権利を惨たらしく、無慈悲に、弄ぶように、徹底的に毀損したくてたまらなかった。

 

だがそれは、社会のルールから抜け出せなかった前世では実現不可能な願望だった。

 

「ふふ、ふふふふ」

 

でも、今世(いま)は違う。

 

「コード00001aa、起動」

 

数多の人間が勝ち鬨を挙げ、また逃走していく戦場。

 

勝敗の決した戦の舞台を上空から見下ろしながら、私は片手を上に振り上げて――、

 

一息に振り下ろす。

 

すると、見下ろす戦場の全域にて、一瞬の同時に、無数の破裂音と共に真っ赤な花が咲く。

 

咲いた花は混ざる不純物と一緒に爆ぜるように飛び散り、びちゃびちゃという水音を立てながら地面に降り注いでいった。

 

そうして、戦場となっていた小高い丘と広い平原は、至る所が真っ赤に染まり、先程までの喧騒が嘘だったかのように静まり返る。

 

「ふふっ! ふふふふっ!」

 

たった一瞬の内に二千を超えるの真っ赤な花が咲き、それと同数の人命が散った。私が奪った。

 

彼らはみな、私が片手を振り下ろした際の力、それを十万倍に増幅した力を持った力場によって押し潰された。一般兵士から指揮官、後方の補給要員まで、勝った陣営、負けた陣営問わず、この戦場にいた全ての人間が圧死した。私の手によって殺された。

 

その行程はゼロコンマ一秒にも満たない僅かな一瞬で行われている。まず、人体の耐久性では耐えられない圧倒的な力が頭頂部から加えられる。次に身体を支える骨を粉砕しながら折り畳むように地面に向かって圧縮されていく。最後には折れた骨が体内から突き出る肉袋のような姿となり、頭上の圧力と地面に挟まれることで破裂し、血肉の赤い花を咲かせることとなる。

 

「ああ、あぁ」

 

ぞくそくと背筋に甘い痺れが走り、全身を快感が突き抜けていく。呼吸が浅く不規則になって、無意識の内に身体を身じろぎさせてしまう。

 

気持ちが良い。

 

味わったことのない幸福感が全身を優しく熱く包み込む。

 

この数年来で想像していた以上の感動と興奮が、胸の内から止めどなく溢れ出てくる。

 

「あはっ」

 

前世からずっと願ってやまなかった殺戮行為は、やはり私が心の底から強く求めていたものだった。実際に行った今だからこそよくわかる。私はずっと昔から、生まれ変わる前の前世からずっと、この行為を求めていたのだと。

 

前世からの満たされない欲求を今ようやく満たせたことで、人を殺すというのがどんな行為なのか、殺人とはどんな行いなのかを、脳裏に焼き付くくらい強く鮮明に実感することができた。

 

そして、それらを実感したことで、私は自らが破綻者であることを再度認識する。

 

私は今でも波風立たない平穏無事な生活を送りたいと思っている。なのに、こんなにも楽しく気持ちの良い殺人という行為を、心底求めてしまっているのだ。社会に対する正常性と異常性。二律背反の破綻した趣味嗜好を持つ私は、どうしようもなく異常で破綻した人間なのだろう。

 

けれども、それでいい。

 

だって、この破綻した願いを叶えるために、私はこの世界を創ったのだから。

 

 

・・・・・・・・

 

 

「……ああ」

 

そうして血肉と静寂に覆われた平原の情景を見ながら、溢れるような感動と快感に浸っていると、気がつけばまた数分が経過していた。

 

それだけの時間を経れば、流石の私も不完全ながらに落ち着きを取り戻すことができた。未だに鼓動は高鳴っているし、ピリピリとした快感が身体に滞留しているし、表情はにやけるのが止まらないけれども、自身の様子を配信していることを思い出すくらいには落ち着くことができている。

 

マルチコンソールを見ると、視聴者の数が八人から六人へと減少していた。コメントの投稿も直近の二分間は止まっている様子だ。

 

『は?』

『なにこれ』

『うわ』

『趣味悪』

『やば』

『きしょ』

『こんにちは、何のゲームやってるんですか?』

 

読んでなかったコメントを見ると、私の悪趣味な行動に対する反応は驚きと拒絶で占められているようだった。

 

反応から察するに配信から出て行った視聴者はそれなりにいるのだろう。けれど、逆に見に来てくれた人もいるみたいで、視聴者の人数は二人の減少に留まっている。

 

「えっと、すみません、また夢中になっていました」

 

配信カメラを正面に持ってきてから、頭を下げて謝罪をする。

 

「ずっと前からやりたかったことができて嬉しくなってしまったんです。このゲームを作ったのも今のがやりたかったからなので、気持ちが高まってしまいました」

 

今になって気持ち良くなっていた所を配信していた事実に恥ずかしくなる。思わず「えへへ」と照れ隠しに苦笑いをしてしまう。そうしていると、

 

『キャラクター可愛いですね』

 

とのコメントが書き込まれた。気持ち良くなっていた間に来てくれた視聴者だろうか。少し気まずくなっていたので、空気感を入れ替えるためにも解説していこうと思う。

 

「これ実はですねー、Vtuberの3Dモデルにもなっているんですよー、ほら、こんなに自由に動けるんです」

 

視聴者受けが良いように可愛い動作や見てて面白そうな動作をいくつか見せていく。記憶の中のゲームキャラの動作や、丁度三年前にテレビで見かけたアイドルグループのダンスを忠実に再現したり、地面に降りてから配信カメラの位置を固定し、アクロバティックで派手な動きをしてみたりした。

 

『クオリティーたか』

『なんだこのゲーム』

『グロいわ』

『凄いけども』

 

反応は上々でチャット欄の動きが復活する。気まずい空気で配信するのは嫌だったから助かった。その一方で配信画面内に映る肉片の一部や流血でできた小川が気になる視聴者もいるようだった。けれど、これからもっと酷くなる予定なのでその人たちには我慢して貰いたい所存だ。

 

「さて、場も暖まったことですし、次の悪趣味なことをしていこうと思います」

 

『えぇ?』

『まだやるのか』

『まじか、まじか』

 

私はまた配信カメラと共に上空に浮遊する。

 

「コード00002aa、起動」

 

それから管理者コードを起動することで、戦場だった平原の中央に高さ二十メートル、横幅十メートル、奥行き十センチの紫に染まった空間の歪み――現在の仮称はゲート――を創り出した。

 

ゲートは重く響く不快な音を発しながら、波のように紫色の空間を歪ませている。

 

「さぁ、来ますよー」

 

私がそう言ってから直ぐ、ゲートの空間の歪みが不規則かつ乱雑になる。

 

そして、その乱雑となった空間の歪みから数多の生物がこちら側にやってきた。

 

始めに現れたのは体長八十センチ程の緑色の肌をした醜悪な顔の小人。小人は汚い腰蓑一枚を身に纏い手には棍棒を持っている。

 

次の現れたのは体長二十メートル弱の手枷と足枷を着けた一つ目の巨人。巨人はその巨体に見合う相当な重量を持っていて、歩く度に地響きを起こしている。

 

その次に現れたのはゲート上部から飛び出てきた真っ黒な羽を持つ鳥人。鳥人は甲高い声を上げながら先に現れていた小人を三本指の手で空に攫い頭を啄んでいく。

 

そうやって多種多様、人に似通った姿をした生物たちがゲートから現れていく。その数は時間を経るごとに増えていき、直ぐに先程まで平原にいた人間たちの数よりも多くなった。

 

『なんだこれ』

『やっば』

『うじゃうじゃいる』

『これで処理落ちしないのすっげ』

『なんのゲームだよ』

 

「それでは続けまして、コード00003aa、起動。対象指定、全魔族、命令します。人間を惨たらしく虐殺してください」

 

次に管理者コードによる指令を行うと、魔族として作り上げた全種族が生態毎に異なる雄叫びを上げていく。そうして、ゲートのある平原から四方八方に移動速度を上げて散らばり始めた。

 

小さな個体は大きな個体に踏み潰されたり、食料として食べられたりしながら、魔族の濁流は無秩序に荒々しく、樹木を始めとした目に付く全てを傷つけながら侵攻を開始する。

 

その流れはゲートから新たな個体が現れ続けることで、いつまで経っても途切れることはなかった。

 

「いやー、この後が楽しみですね」

 

『嫌な予感しかしない』

『なんか今酷いワードが聞こえたんですが』

『絵面すご』

『魔王軍だろコレ』

『俺もこのゲームやりてぇ』

『こんにちは、初見です』

 

チャット欄を見てみると、私の配信のノリに慣れてくれたのか、先程から四人ほどがコメントを続けて投稿してくれるようになっていた。配信の内容でテンションが高まっているのだろう、コメントの頻度も結構高い。

 

それからついでに現在の視聴者数を確認してみると、その数は十三人にまで増加していた。今生放送をしているサイトは、生放送のサムネイルがリアルタイムの画像を切り抜く形式なので、動画映えを意識しながら配信カメラを回していたのが良かったのかもしれない。

 

巨大な足跡を残す二十メートル弱の巨人が複数体の隊列を組んで進行している姿や、緑の波に見えるような大群で走る小人たちをカメラアングルを意識して見せていた甲斐があった。リアルで迫力のある光景はサムネイル越しでも人を惹きつける力があるのだろう。

 

「えー、では、私は北西にある都市の様子を見に行こうと思います。ちょうどあの方向に進んでいる一団が向かっている先ですね」

 

『やべぇー』

『都市?』

『大作映画並の映像で草』

『全部が全部リアルかと疑うくらい自然な動きで凄すぎる』

『なんかの新作ゲームですか?』

 

「こんにちはー、今自作のゲームを実況プレイしている所なんですよー。都市というのはこの場所から二十キロ離れた場所にある人口一万人程の街ですね。そこまでに国境を守る城砦や中小規模の村落もあるので、そこもまたお楽しみポイントです」

 

そう言って、私は配信カメラを意識しながら魔物たちの濁流を追っていく。チャット欄には『お楽しみポイントとは』や『めっちゃリアル』というコメントが投稿されていたけれど、配信の進行を優先して触れずに放置させて貰った。

 

そうして、全速力で侵攻する魔物たちの濁流は、そう時間を掛けることなく、小高い丘の先に存在していた城砦にたどり着く。

 

「おおー」

 

『凄すぎるw』

『やっばー』

『すっげぇ』

 

人類の軍勢を想定して造られていた城砦は、魔物の軍勢の先陣を切って進んでいた一つ目の巨人たちによって容易く崩壊した。巨人の圧倒的な巨体と重量に裏打ちされた殴打や蹴りよって、城砦を形作っていた石材の壁は塵埃を巻き上げながら崩れ落ちていく。その様子は圧巻で視聴者にとても受けが良く、私もつい声を上げてしまうほど見応えがあった。

 

ただ、城砦内部は平原での戦闘のためか、数人を残してほとんど人が出払っていた。そのため、その数人が無数の小人に群がり喰われる光景を目にできたくらいで、城砦の破壊以上に見応えのある場面がなかったのは残念なところだ。

 

魔物たちが城砦を破壊してその先に進んでいくと、続く平原には整備された道があった。道が続く先には所々に農地が面していて、密集する農地の中心地点には人々が暮らす村落が存在している。

 

魔物の濁流は、それら全てを呑み込んでいった。

 

「あはっ、あははっ」

 

『なにこれ』

『うわ』

『リアルすぎてグロいって』

『グロいグロいグロい』

 

体長約二十メートルの巨人が村落の家々をその隅で震えていた家族ごと踏み潰す。

狼人が逃げる住民を狩猟の如くいたぶり傷つけ捕らえていく。

緑の小人が動けなくなった者を集団で囲んで品性下劣な手段で凌辱する。

空を飛ぶ魔物が拘束されて火あぶりにされる住民たちを嘲笑しながら啄んでいく。

 

最初は村落の住人たちも武器を持ち出したり、少数の老人らが火球を生み出したりなどして抵抗を試みていた。けれども地平を埋め尽くしながら侵攻する魔物たちの膨大な数の前では、その抵抗は意味をなさない虚しい行為と成り下がってしまう。あとには狂乱に陥って逃げ出した者と戦う力を持たない弱者が、悪意を持つ魔物にいたぶられるのみとなっていた。

 

その光景を、私とこの配信に来てくれた視聴者たちはときには上空から、ときには至近距離から、最大の迫力とリアリティー、そして、人々の恐怖と苦しみを感じられる位置から、思う存分に堪能していった。

 

「はぁー、感動ですね」

 

『まじかよ』

『リアルに吐いた』

『スゲぇw』

『ゲームには見えないっす』

 

私の指令に従った魔物たちが行う虐殺行為には、とても満たされるものがあった。

 

絶望して震える身体から絞り出されるように漏れたうめき声。

絶え間ない苦痛から逃れるために本能的に発される金切り声。

現実を受け容れられずに発狂した者が発する意味を伴わない単調な叫び声。

 

それら全てが私の琴線を刺激し、心を豊かにしてくれる。

 

「はぁー、……では、そろそろメインディッシュに行きましょうか。都市はこの場所からはまだ少し遠く、魔物たちが辿り着くには時間がかかってしまうため、少々ゲーム内時間を加速させます」

 

そう言って私はマルチコンソールの制御画面を操作して、時間の流れを加速させる。すると、天高く位置していた恒星が常人でも認識できる速度で動き出し、眼下を埋め尽くしていた魔物たちが何倍もの速度で過ぎ去っていった。

 

事前に想定していた丁度良いタイミングまで時間が経過したのを確認してから、私は時間の加速を止める。

 

「よし、良い感じですね、それでは都市の所まで移動していきますよー」

 

背後に配信カメラを連れて、上空を浮遊しながら魔物たちの濁流が続く先に飛んでいく。

 

平原から森林地帯に入り、その森林地帯を抜けて再び平原に出ると、その先には膨大な数の魔物に包囲された大きな都市が見えてきた。

 

高い外壁に覆われている都市。外壁の上には都市を守る兵士と思わしき格好をした人間たちが、都市を包囲する魔物たちに応戦していた。外壁の外側には無数の魔物が蠢いている他にも、複数の巨大な爆発跡やおびただしい数の魔物の死骸が転がっていて、現在も激しい戦闘が行われているのが見て取れる。

 

しかしながら、既に一部の外壁は防護が崩されていて、破られた外壁からは無数の魔物が壁内へ入り込んでいる様子だった。

 

「わー、やってますねー」

 

『やっばなんだこの数』

『ガチな城攻めじゃん』

『これ全部動いてるのか』

 

少しの間、都市とその周辺全体を俯瞰できる上空から様子を窺ったのち、私は都市内部の状況を見るため、崩壊した外壁の方へ飛んでいく。

 

「あはー」

 

『うわ』

『おー』

『やっべー』

 

崩壊した外壁の地上付近へ近づくと、そこには人と魔物が入り乱れる地獄の惨状が広がっていた。

 

もはや都市を守る力を失っている崩壊した外壁。そこでは兵士と思われる多くの人々が、自らの血と命を代償に魔物の軍勢を押し留めようとしている。

 

その大小様々な瓦礫が転がる激戦区には、既に何人もの人間の死体が転がっていた。転がる死体は、都市内部へ群がろうと大挙する魔物たちによって踏み荒らされ、肉体と尊厳、その両者をぐちゃぐちゃになるまで損壊させられている。

 

先に散っていった仲間をそんな状態にしてまで、魔物の侵入を防ごうとしている兵士たち。彼らは向かってくる魔物たちを斬り伏せ、燃やし、爆破させていく。だが、魔物たちによる覆しようのない数の暴力によって、一体を倒す間に二体以上の侵入を許してしまうという状況に陥っていた。

 

「おー!」

 

都市を守ろうと懸命に戦う兵士たちの上空を通過しながら、私と配信カメラは都市内部へ入っていく。

 

崩壊した外壁の先は、区画整理の行われていない無数の建物が乱雑に密集する住宅街になっていた。そこでは背後の兵士たちが築いた防衛ラインを越えて入り込んだ魔物たちが、抵抗する力を持たない無数の住民を襲っている。

 

「わー!」

 

『えっぐ』

『ここまで描写する必要ある?』

『ゴア表現が無駄にバリエーションあってわろえない』

 

虐殺。

 

一言でそう表せる惨状が眼下の至る所で繰り広げられ、とても気分が良くなる。

 

道端の上で動けなくなった都市の住民が生きながらに内蔵を貪られていた。

無数の魔物が一カ所に密着して蠢く中から一本の血塗れの手が力無く伸ばされていた。

ボロボロの服を着た子供が訳もわからず親の名前を呼んで泣き叫んでいるところを、巨大な口を持つ魔物によって一口で丸呑みにされた。

 

見渡す限りのそこら中で、憐れみを覚える悲惨な光景が繰り広げられている。

 

上空から蹂躙されていく街並みを眺め、数多の住人が発する悲鳴と絶叫に耳を傾けながら、私は気持ち良くなってしまい鼻歌交じりに都市を縦断していく。

 

そうしていると、都市の街並みが今までの無秩序なものから計画的に整えられたものへと様変わりしていき、それと比例するように魔物の被害が次第に少なくなっていく。

 

未だ魔物の被害が少ない都市の区域では、そこに住む人々が迫り来る魔物の雄叫びや襲われた人々の叫び声を聞いて逃げ出していっている。

 

向かう先は豪華な意匠が施された巨大な門のある広場だ。広場は巨大な門と二メートル程の壁によって区切られていて、その向こうには今まで見てきた住宅街とは一線を画す貴族街と呼べるような街並みが広がっていた。

 

「あはははっ」

 

『うわぁ』

『なにこのこだわり』

 

広場には既に大勢の人々が集まっていて、そこでは暴動のような騒ぎが起こっていた。

 

広場に逃げてきた人々が、貴族街へと続く巨大な門を守る二十人規模の守護兵へ押し寄せ、門を力づくで突破しようとしている。対する守護兵も暴力によって侵入者を排除していた。

 

一キロほど離れた場所では大勢の命が魔物によって奪われ続けているというのに、この場所では人間が人間同士でいがみ合うという状況。愛おしさすら感じてしまう。

 

「ああっ、もう終わってしまいそうですね」

 

だが、この愉快な観察もとうとう終わりがやってきたようだった。いや、私からするとこれからが始まりなのかもしれないけれど。

 

『ん?』

『あ』

『これは終わった』

 

遠くから複数の地響きが轟音と共に伝わってくる。

 

都市の上空からゆっくりと配信カメラとともに周囲を見渡していくと、都市の外壁が複数箇所同時に崩壊しているのが確認できる。そして、そこからは黒い津波が如くに膨大な数の魔物が街へ侵入を始めていた。

 

「ふふふ」

 

広場を見下ろすと、そこでは誰も彼もが呼吸することすら忘れてしまったかのように動きを止めていた。

 

それから数拍の間を置いて、悲鳴と絶叫が湧き上がる。

 

無数の人々が我を忘れたように守備兵の制止を振り切って貴族街へ続く門に押し寄せ、門を強く叩き助けを懇願する。

地べたに座り込んだ女性が、状況を理解し切れていないながらに不安を抱く子供を抱きかかえて肩を震わせる。

恐怖からかまともな思考をできなくなった男が周囲の人を巻き込むように暴れ出す。

 

一瞬にして、広場は恐怖と混乱の坩堝と化していった。

 

その場にいる全ての人々。

逃げる者。

助けを求める者。

諦める者。

狂乱に陥る者。

 

全員が背後から押し寄せる絶望から逃れようと、目を背けようと、拒絶しようとして、この僅かな時間で自らができる限りのことを行った。

 

けれども、それらは全部が全部、意味の無い無駄な行いであり、間もなくして、全てが黒い津波に飲み込まれていく。

 

「……あぁ」

 

広場にいた多くの人々が、都市を埋め尽くしつつある魔物たちによっていたぶられ、弄ばれ、命を奪われていく。私はその姿を見ながら思う。

 

この世界を創って、本当に良かった、と。

 

小学四年生の頃に思いつき、それ以来、自らが持ちうる全てのリソースを費やして、長い年月を掛けてようやく完成させた計画。

 

それは自らの平和な日常を維持しながら、思う存分に人々を虐げ、殺しを愉しめるようにする環境作り。

 

物理的密閉空間に極小の宇宙を構築する計画――環境構築宇宙(アーコロジーワールド)計画。

 

その計画によって、私の邪な願いを叶えるためだけにこの下層世界は生まれた。

 

今居るこの場所は、配信に来ている視聴者にはゲームであると説明しているが、それは真実ではない。

 

この世界は環境構築宇宙として、研究室の中に実在する本物の世界だ。そして、ここで生きる命もまた、加速させた宇宙の永い刻の果てに、僅かな可能性を拾い上げて自然の一部として生まれた奇跡の産物だった。

 

「ふふ、ふふふふ」

 

そのかけがえのない命を、私はただの娯楽、趣味の一貫として消費している。

 

この世界で懸命に生きていた人々を、一方的に虐殺している。できる限り最大限に尊厳を貶めるように、炉端の石ころを蹴飛ばすが如く雑に命を刈り取り冒涜するように。

 

その事実が本当に愉快で、心地良く、気持ちが良い。

 

「あぁ、素晴らしいですね」

 

『えぇ』

『この最悪な絵面を見てそれ?』

『悪趣味が過ぎる』

 

私は環境構築宇宙を創り上げたのだという実感と、都市の一万人の住民を虐殺しているという快感から物思いにふけってしまった。

 

気付けば都市の内部は完全に魔物に呑まれていて、そこら中で蠢く魔物の足下には、かつて人間だった物体が混じるどす黒い血の川が流れている。

 

私は一度小さく息を吐き、大きな満足感を覚えながら、配信カメラを正面に持ってきて言う。

 

「では、配信の目的であった悪趣味なことをする、というのが果たせましたし――、……いや、やっぱりまだ足りませんね。もう一つ二つ都市を落としていくことにしましょう!」

 

『ん?』

『は?』

『まじすか』

 

配信を締めようと思ったのだが、前世から燻らせていた欲求を満たすにはこれだけでは到底足りないと思ってしまい、配信を続行することにする。

 

「それでは、テンポ良く行きましょうか!」

 

そうして、私の初めてとなる第一回悪趣味配信は、追加で二つの都市と国の首都を魔物たちに攻め落とさせてから、何事もなく平穏な形で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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