敗因は春休みを利用したサッカー強化月間を決行していたからです。
「お会計の方法は如何なされますか?」
「カードで」
「ではこちらにタッチをお願いします!」
ありがとうございました、と元気な声が響く。
お昼過ぎで客足もひと段落。疲れを感じさせないその声を聞きピッチャーに水を補給しながらこんにちは。ソルジャー
突然ですが、本日の私は非常に上機嫌。常に景気の悪い顔をしている私ですが、心はとても明るいです。その理由はこちら。
「ファルコン、ちょっと換えの醤油とって!」
「はい、どうぞ」
「ごめん、ありがと!」
あの子は太陽のKomachi、Angel。
この通り、セリカとの関係を無事良好にする事に成功したからです。
先日、湿布だの包帯だのを持って柴関に入ってきたセリカに対し遂にあの失言の謝罪を敢行。セリカは慌てた様子でお互い様だと逆に謝られ、円満解決。
いやぁ良かった良かった。その後、アビドスの皆様に向かって改めて襲撃した事に関して謝罪もしましたし。これでやっと心の重りが取れたというものです。
あとの心残りはあのヘルメット頭の2人組。それさえ済めば、晴れてフリーダム。出来るだけここの情報を集めて、帰る方法を探すのみ。
帰れなかった場合はその時考えましょう。
それともうひとつ。
先生がとりあえず私の銃の弾丸を作れるか試してみてくれるそうです。なんでも、色々作れる3Dプリンター的なものがあるのだと。連邦生徒会ってすげぇな。事が順調に運べば、補給問題も解決しそうで大変喜ばしい。
さしあたって、然るべき代価を用意する為ますますお金を稼がなければなりません。
とはいえ初めての給料日は目前。手始めに最低限のインフラは整えなければなりません。自前のスマートフォンはうんともすんとも言いませんからね。
あと服。普段使いの支給服はもうボロボロで使い物になりません。お化け屋敷をするのなら別ですが。
今はアビドスの制服をお借りしている状況ですので、早いとここの状況を脱しなければなりません。
「ファルちゃん、水溢れてるよ」
「……えっ、あっ、申し訳ありません」
そう大将に声をかけられふと手元を見ると、なんとピッチャーに注いでいた水が溢れ出しています。
慌てて水を止めて、シンクに余分な量の水を流して蓋を閉める。
「大丈夫かい、最近ちょっとぼーっとしてる様だが……」
「いえ、問題ありません。お気遣い痛み入ります」
うーん、ぼーっとしていたつもりは無いのですけれど。強いていえば、身体の動きが鈍い。ワンテンポ遅れるというか、レスポンスが弱いというか、なんというか。
ぐーぱー、と手を動かす。やはり少しぎこちない?
気合いが足りていない……いや、違いますね。私別に気合いで動いてないので。電動です。
つまりこれは貧血……貧液体触媒、と言った所か。思い返してみれば、何度か液体触媒を漏らしてしまっている。それにより身体にあまり電気信号が行き届いておらず、硬化しているのだろうか。
体表のガッデシアムはまだしも、液体触媒の再生は少し難しいし。そういう事か。
ま、私は回復に特化した型だからある程度は持つでしょう。そんな事にまで意識なんて割いてられません。
ホールに視線を向けると、アビドスの皆さんが仲睦まじく談笑しています。それをニコニコと眺めている先生はコルセットを巻いているのか、恐ろしく姿勢が良い。
ホシノはまぁ、さすがキヴォトス人。既に回復している様です。
……なんだか、アヤネが不機嫌に見えます。何かあったのでしょうか。ノノミはアヤネの口を拭いてあげていますし、シロコはチャーシューを食べさせています。本当に何したんだあの指定暴力団ども。
怪訝な目で眺めていると、ガララと扉が開く音。お客さんです。
「いらっしゃいませ」
「ひ……」
は? なんか怯えられたんだけど。
恐る恐ると入ってきた紫色の小さな女の子に声をかけると、顔を青くして縮こまってしまった。
うわ、アークを思い出す。同じ事あったあった。
アーク内巡回する時とかトライアングル部隊とかについて行く時は子供がよくこっち見てくるんですけど、軽く会釈したらぎゃーって悲鳴上げてどっか走って行くんです。
たまに近くに親がいて、駆け寄ってきた子供抱きながらこっち睨みつけてくるんですよ。ボコすぞマジで。
ニケである以上仕方がないですけどね? そんなあからさまにやらなくてもいいじゃないって話ですよ。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
見かねたセリカが声をかける。表情筋が死んでいる私とは正反対な弾ける笑顔の応対により、幾ばくか落ち着きを取り戻した女の子がオドオドと口を開く。
「……こ、ここで1番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「1番安いのは……」
そう言ってセリカはこちらに顔を向ける。その顔を見て、私は無言で厨房の排気フードに貼られたメニューの内のひとつに指をさす。
「580円の柴関ラーメンです! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」
そうセリカが言うと、彼女はパッと華やいだ。
「あ、ありがとうございます!」
そう言って、店を出てしまった。セリカと顔を見合せて首をひねるが───再び扉が開き、3人の女の子を引き連れて戻ってきた。
「えへへっ、やっと見つかった。600円以下のメニュー!」
そう小柄な女の子がご機嫌な様子で言うと、隣にいた背の高い角の生えた子が落ち着いた様子で言葉を返す。
「ふふふ。ほら、何事も解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」
「そ、そうでしたか。さすが社長、何でもご存知ですね……」
紫色の女の子がそう言う。
社長とな。脳裏に白いスーツを着た女性やクソガキや全身タイツの変態オカマが過ぎるが、頭を振って払う。
そんな2人の様子を見てか、白髪の女の子はため息を吐いた。随分と景気の悪い顔をしているな。
「4名様ですか? お席に案内しますね。」
どこからどう見ても癖の強そうなお客さんをなんでもないかのように通すセリカ。強いぞそのメンタル。
「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫。」
かと思えば、小さい子がそう返した。え、なに? テイクアウト? やってたっけ。炒飯なら多分出来るけど。
てか一杯て。人数分頼まないのか。
「一杯だけ……? でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし。」
「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん。」
そう言い切ると同時に、私奥もーらい! とテーブル席に着く女の子。
4膳、まさか一杯を全員で分け合うつもりなのか。セリカも同じように困惑している。
と思えば、紫色の女の子が突然謝罪しだした。貧乏でごめんなさいだって。お金が無いのは首が無いのと同じ、虫ケラ以下とのこと。
「はぁ……ちょっと声デカイよ、ハルカ。周りに迷惑……。」
え、じゃあ私って……………
お金が一銭もない上に量産型ニケである私は虫ケラ以下の更に下……ってこと?
おいなんて事だ、冗談きついぜ……。
「そんな! お金が無いのは罪じゃないよ! 胸を張って!」
「へ? ……はい!?」
へ? ……はい!?
借金背負い込んだ全校生徒5名の学校の精鋭、アルバイターセリカに火がついたらしい。お金周りについての持論を困惑している女の子に対し熱弁し始めた。
「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし! それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ? そういうのが大事なんだよ!」
Oh......金言だ。音が出ない程度に小さく拍手をする。
お金が無いのは罪じゃない、身に染みいるね。私、学生じゃなくてニケだけど。あれ、じゃあ適用外?
ふと周りを見ると、常連さんがうんうんと頷いていた。平和。
なんなら財布を取り出そうとしている人がいたので、手で制しておく。
「もう少し待っててね。すぐ持ってくるから。」
そう言ってセリカは厨房に戻ってきた。
「大将、柴関ラーメン一丁……なによ、その顔」
「顔……?」
「そんな頬揉まなくても表情自体は変わってないわよ……。なんか雰囲気で分かるの。心温まるものを見たみたいな……」
……言葉に詰まる。
雰囲気で分かる、という言葉にデジャブを感じたからだ。
この既視感はなんだろうか、と記憶を遡ってみる。どこかで、私は同じ事を言われたような……。
『───あ、隊長びっくりしてる! 珍しい!』
『やった、サプライズ大成功ですね!』
『隊長はどーせ忘れてるだろうけど、この隊が編成されて10年経つんだよ? 普通の量産型部隊じゃこんなに長く生き残るの有り得ないからね! 同期全滅だし。』
『ここまで無事生きながらえているのも、隊長のお陰です。ですから、日頃の感謝を込めてプレゼントしたかったんです!』
『
『あ! もー…、私ら名前付けたって言ったじゃん! そんな型名で呼ばれてたらいい加減、頭おかしくなるよ!』
『あ、申し訳……』
『堅い! 10年の付き合いだよ!? 戦友だよ!?』
『隊長なのですから、もう少し砕けても……』
『そう、ですね。善処します……。』
『……ふふ、でも良かった。隊長嬉しそう!』
『そうですね、奮発したかいがありました。』
『…………私は、嬉しそうに見えますか?』
『いや、そんなほっぺた揉んでも表情は別に変わってないよ。相変わらず死んでる。』
『死ん………では、なぜ私が嬉しいと分かったのですか?』
『そりゃあ、ほら……ね?』
『はい。雰囲気で、分かりますから。』
「────。」
「え、なに……怖いんだけど」
「……いえ。前の職場で、部下に同じことを言われたものですから。」
「……そう」
とても懐かしい記憶が蘇った。そういえば、スマートフォンとケースを貰ったんだ。
それまで旧式のバキバキに画面の割れたものを使っていたから、それを気にかけてその時に最新だったものをくれたんだよね。
ちなみにその後2人は、私がボディの調整で外している間に他の部隊と地上へ出撃したところ何かの機密に触れたらしく、記憶を初期化されてしまっていた。
自分で付けたのだと言っていた名前で呼んでみたら、誰の事だと首を捻られた思い出がある。ニケって儚い。
更にちなむと、今使っているスマートフォンは
「そうですか、雰囲気で分かるのですね。不思議です。」
「ならもうちょっと不思議そうな顔したら……? どちらかというと昔を思い出してるおばあちゃんみたいな感じなんだけど」
「えっ」
「だから別にそういう表情してる訳じゃないってば!」
流石のツッコミ。天丼というものを1度してみたかったのです、満足。
さて、チラリと大将の方を見ると器にかえしを入れている最中。
もう既に器の大きさがバカです。さてはまたやろうとしてますこのお方。
セリカを見ると、流石だと言わんばかりに頷いている。カウンターを見やると、常連さんも頷いている。
人情ですねぇ、こんなんで店やってけるんでしょうか。その人情の恩恵を受けまくっている私が言うのもなんですが。
「セリカちゃん、持って行ってやってくれ!」
「はいっ!」
完成した柴関ラーメンはやはりというかなんと言うか。
でっけぇ。山です山。
こぼさないよう慎重に運ぶセリカ。卓に視線を送れば、その量に目を丸くしている4人の姿が見えた。
小走りで戻ってきたセリカに、取り皿としてお椀を4つ手渡す。
「ありがと!」
「どうも」
さて、私も眺めているだけではいけません。
深いシンクに置いていたバケツを持ち上げ、中に入っていた洗剤を混ぜた水を全て捨てる。溶液に晒していたダスターを全てバケツから取り出して、水をかけながら洗剤を洗い流してよく絞り畳んでキッチンの端に重て置いておく。
その内のひとつを取り、ホールへと繰り出して空いているテーブルを再度拭く。卓上調味料も量を確認しながら容器に付着した汚れを拭き取る。
流し目で例の集団を見ると、目を輝かせてラーメンを啜っているのが分かった。美味かろ美味かろ、たんと食うがよろしい少女共。
「でしょう、でしょう? 美味しいでしょう?」
かと思えば、4人にそう語りかける影。ノノミです。それだけでなく、業務中のセリカを除いたアビドス全員が彼女達の卓へ移動していました。
どうやら隣の席であった皆さんは、同年代の来客を見逃さなかったらしい。ましてや、味の分かる集団。
これは仲良くなるなと言う方が難しいでしょうね。
予想通り、最初は探りながらのキャッチボールであった会話が徐々に躊躇いの無いハイスピードに。もしかすれば、彼女達はアビドスの同輩を除いた初めての同年代なのではないでしょうか? これは友達になるっきゃあないでしょう。
全く違う環境で育った同年代の友達、というのは人格形成においてとても大切だと私は考えています。人格形成もクソも無い量産型がしゃしゃんなという話ですがね。
これは良い兆候ではないでしょうか? 同年代の少ないこの閉鎖的な環境で育ってしまっては、必ずどこかに歪みが生じてしまいます。ここであの明らさまにアビドスの子ではない4人組が新たな友人となる事で、今までに無い価値観に触れ世界が広がるのです。
なんて素晴らしいのでしょう! 柴大将の方を見ると、うんうんと頷いてくれました。
彼女達に対して負い目が無くなった今、願うのは健やかな成長です。
私達が沢山の命や資源を投じてまで守りたい、取り戻したいと願った地上という世界にいるのですから。もっと自由に生きて欲しい、と願うのは決して傲慢ではないでしょう。
……それにしても、あの赤い髪の子すごい元気だな。それに対してあの白黒の子の冷めた顔たるや。外敵もいないのに、そんなに景気の悪い顔をしないでほしい。
小さい方の白い子も、なにかいたずらっぽい笑顔を浮かべている。何か重大な事実があるのに、面白いからあえて黙っている……って感じの。
紫色の子はずっとオドオドしているが、先程の社長という言葉から推察するに何かのビジネスを行っている集団なのだろうか?
どーにも、そこはかとなく嫌な予感がしますね。
ま、私としてはこの大将とお店を脅かす様なことさえ無ければ何でも良いのですが。アビドスの事はアビドスの皆さんがどうにか出来ますから、私がでしゃばる必要なんて無いのですよ。下手すりゃ私より強いですしあの人ら。
どっちにしろ、今は弾不足なので徒手空拳しかできない役たたずですし。そう自嘲しながら、醤油差しの口に溜まった汚れを綺麗に拭き取った。
私事ですが、大学生になりました。ライラックとか青と夏とか聞いて、もうこんな青春は戻ってこないんだなとちょっと泣きました。高校って本当に特別ですね。
まだ高校生の方やこれからの方はやりたい事全部やっておきましょう。
じじ臭
先生は男にするべきか女にするべきか。それが問題だ。
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男にするべき
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女にするべき
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おねにーさん(性別不詳)にするべき