量産型成分が足りません、どうにかしろSHIFT-UP。
アビドスの中心地に位置する一棟のオフィスビル、その上階。薄暗いオフィスで、私はある人物と対面していた。
「それで、今度はなんの用なのさ」
「…ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして。」
反響する様な声、人とは思えない風貌。それに思わず顔を顰める。
喪服に似た黒い背広を着たその人物は、首から下は概ね人。だが首から上はおよそ人間と呼べるものではない。
一言で形容するのであれば、黒いマネキン。目、口、鼻の様な人体のパーツは存在せず、人ではなく妖怪の類だと言われた方が納得がいく。
更には頭部に幾つものヒビが走っており、割れた箇所から青白い煙が立ち上っているのがその不気味さを助長している。
私はこの妖怪野郎───呼び名が無いというので、便宜上黒服と呼んでいるこいつ───にいつからか目を付けられ、以前には大金を餌に契約を仕掛けられている。
それは私の身柄そのものを求める契約であり、言うまでもなく断った。それからしばらくコンタクトを取られることは無かったのだが……何故か再び、話があると呼び出されたのだ。
そして今こいつが口走った提案、というのは以前キッパリと断ったものなのだろうか。何度も聞かれても答えは変わらないと言うのは、こいつも分かっている筈だ。
「まぁまぁ、落ち着いてください。」
頭から青白い煙を揺らめかせながら、黒服は芝居がかった口調で喋りながら私を真っ直ぐと見据える。
「……お気に入りの映画の台詞がありましてね。今回はそれを引用してみましょう。」
ギシ、と音を立ててデスクに座る。
言い回し、動作。いちいち癇に障るなこの黒卵。
「あなたに、決して拒めないである提案をひとつ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴下さい。」
そう意味深に前置きをし、提案とやらを語り出す黒服。どれだけ睨み付けても全く効果は無く、スラスラと話し続ける。
しかし、ある程度語った後。
黒服が何かに反応した様にピクリと身体を動かした。
「……?」
「あぁ、いえ。お気になさらず……………………ふむ。申し訳ありませんが、用事が出来ました。以上の件、どうかご一考を。」
そう言って、黒服は立ち上がって部屋から出ようと扉に向かい始めた。
いや別に、私としても早く帰りたかったから願っても無いんだけれども……ここまで突然だと意味が分からないし不穏がすぎる。
「ちょ、ちょっと待って。急に何、どうしたの」
「……私は崇高へ至るため、神秘を探究しています。これは以前、お話しましたね。」
神秘。このキヴォトスにおいて、全ての生徒が例外なく保有する概念的力──だったか。その中でも、私が最も多くそれを所有しているという話だった。
「近頃、神秘を一切保有していない人物が現れたものですので、探究の一環として少々細工していたのです。」
「……なんて?」
帰りにコンビニ寄ってきた、とでも言わんばかりの口ぶりで衝撃的な事を言い放った。
しかしてどちらも、危険を犯して後輩を救ってくれた恩人だ。
どちらも、ヘイローを所有していないのは明確。
黒服の話で言うのであれば、ヘイローを持たない人間である二人は神秘とやらを持っていないのだろう。
さてここまできて、こいつの言う神秘を保有していない人物とは一体どちらを指しているのだろうか。こいつの性格的に、興味を見出しそうなのは先生の方だろうか……
「神秘が無いのにも関わらず、保有している者以上の肉体強度と戦闘能力を有していました。」
ほな先生と違うか……。先生は弱いから銃弾一発が生命に関わる。
ならば、示しているのはファルコンの事で間違いない。
「ファルコンに何をした」
「害になる様なことはしておりませんよ、むしろその逆です。」
「それを信じろって?」
「これは信じる信じないの話では無いのですよ、ホシノさん。あのままでは、誰にとっても不利益な事を引き起こしかねなかったものですから。」
「何を言って……っおい! 待て!」
わかるような、わからないような。ハナから理解させる気がない説明を顔面の亀裂から漏らし、黒服は静止も聞かずに扉を開けてその奥へと溶けるように消えていった。
結局ファルコンに何をしたのか、目的が何なのかは分からず終い。念の為ファルコンの様子でも見に行こうと次の目的地を柴関ラーメンに設定する。
その時だった。
カタカタ、とオフィスに張られた街並みを見渡せる大きな窓ガラスが揺れる音と、建物の僅かな振動を感じ取る。
なんだろうと窓ガラスへ視線を向けると────
「…………え」
下に広がる街のひと区画から、大きな黒煙が立ち上っていた。よく見れば何かが爆発した様な跡。
別に、キヴォトスで爆発なんてものはありふれた事柄だ。いちいち驚くような事でもない。
だが、場所が問題だった。
道路に木屑が撒き散らされる程の爆発、その中心地は紛れもなく……柴関ラーメンがあったはずの場所。
頭に幾つもの疑問符が浮かぶ。が、それら一切を無視して思考の中央に置かれたのは先程話題に上がった彼女について。
ファルコン。この時間はシフトに入っている時間、であればあの爆発にも巻き込まれているのだろう。私の弾丸でも大したダメージが入らなかった彼女だ、大事はないと思うが……黒服の言動も相まって、どうにも不穏な予感がする。
それに、最近の彼女はどうにも怪我が目立つ。セリカちゃんを庇って車に撥ねられるわ、戦車を正面衝突で止めるわ、無茶に事欠かない。
そして爆発。また何か無茶をして怪我をしている可能性は十二分にある。
「ファルコン、それと柴大将……無事でいて……!」
窓ガラスから踵を返し、律儀に閉められていたドアを乱暴に叩き開いて外に出る。エレベーターのボタンを押すとすぐに扉が開いた。
少しばかりの浮遊感の後にチン、と軽快な音を鳴らして扉が開く。外に出てからまず、オフィスで吸った空気を吐き出すように大きな深呼吸を数回繰り返す。そして1度足を伸ばすストレッチをして、柴関ラーメンへと走り出した。
☆
「柴関ラーメンが4つですね、ごゆっくりどうぞ。」
さて、あの謎の女子高生集団が襲来してから数日が経ちました。あれからどうなったかと言いますと────
「来たぁ! いただきまーす!」
「ひ、ひとりにつき1杯……こんな贅沢してもいいんですか?」
また来た。暇なんかなこの人達。
彼女らにも学校というものがあるはずで、こんな短期間にリピートされるのは予想外だった。この辺にアビドス以外の学校は無いので一体どこの学生さんなのかと思ったら、元気な子──ムツキと言うらしい──曰くゲヘナ? という所らしい。
しらねぇ、どこだゲヘナ。
だいたいね、広すぎるんですよこのキヴォトス。端から端までトラムで行こうとすれば何日かかるんじゃいと行った具合で、アークじゃ信じられない規模なのだ。
アークなら電車と言えばAZX、あるいは今は無きAFXの2つのみ。一方キヴォトスとくれば何十パターンもの電車が存在する。なんか特急とかいう普通の電車とは違うものもあるらしい。キショ。
「アビドスの皆さんの
「いいの? ありがとーファルちゃん♪」
「……!?」
話がズレました。この子達の話でしたね。
あの紫の…ハルカと言う子の発言から何かの社団なのかと思っていましたがどうやらそれは正しく、彼女達は便利屋を営んでいるらしい。
前回お金がなかったのは仕事のせいらしく、今回はきちんと4人分お金を持ってきた。
学徒であるのにも関わらずそういった営利活動に意欲的なのはとても素晴らしい。問題は武力を伴う活動である事か。
私の知っている便利屋は鍵開けとか掃除とかそういう奴なのですが、彼女達は傭兵活動がメインなのだと。何とも物騒なものです。
便利屋はなんだかシンパシーを感じる気がする職業ですが、彼女達の場合仕事は選んでるらしいのでやっぱり感じられません。依頼と命令は違いますからね。
ハードボイルドがどうたら、とか。受ける依頼にはなんか基準があるんだと。依頼は依頼だろと思う私は変でしょうか。
そんな便利屋さんがこのアビドスにいる理由はもちろん仕事のため。代表をしている赤毛でコートを羽織ったアルと言う子が自慢げに語っていました。
傭兵活動がメインだと言った後にアビドスへ仕事しに来たと地元民の前で主張する。何考えてんすかね。これからここでドンパチするよん☆ と言っている事になるのですけれど。
また、気がかりなこともある。少し前から、街中で出くわすヘルメット団の数が目減りしているのだ。
まだここに来たばかりの頃、オウカが自分たちが雇われてアビドスに来ているという事を聞いた。そのことから推察するに、もしかすると彼女達便利屋とヘルメット団の雇い主は同一人物の可能性が見えてくる。
いつまで経ってもアビドス高校を落とせないヘルメット団から鞍替えし、烏合よりも腕が確かな精鋭の彼女達を雇った───なんてことがあっても不思議じゃない。
ま、私の妄想に過ぎませんけれど。
これで彼女達の受けた依頼が普通に草むしりとかだったら赤っ恥も良いとこです。
精鋭なのかどうかも分かんないし。見た感じ、なかなか強いんじゃないかとは思いますが。
食器を洗いながら彼女達を観察しても、何か不審なところは見当たらない。一応警戒した方が良いんじゃないかとも思ったが、何でもかんでも疑うのは健全じゃないなぁと判断して止めました。
本当に予想が当たってて、アビドス高校を襲撃していたとしても……まぁ。ホシノいますし、皆さん強いですし。
見るからに怪しい私を、柴大将は受け入れてくれたのです。なら、私も彼女達を受け入れるのが筋でしょう。こうして自己判断で動く様になるとは思いもしませんでした。成長と呼べるのですかね、これは。
「友………じゃな……よ…!!!」
「………!?」
「……、……!」
なんか騒いでます。厨房からはちゃんと耳を立てないとなんて言ってんのか分からないけれども。やっぱ受け入れない方がいいのかこれ。
洗い物を全て終え、手を拭く。
「ファルちゃん、ちょっと味見してみてくれねぇか?」
それを見計らったのか、柴大将がそう言って豆皿を差し出してきました。中には何かの透き通った液体が。
「これは?」
大将の身長に合わせてしゃがみ、豆皿を受け取りそう聞くとなにやら新しいスープとの事。
「常連さんから良い昆布と煮干しを貰ってなぁ、せっかくだからラーメンスープにしてみたんだ」
「なるほど……?」
朝からなんか見た事ないもん作ってんなとは思ったが、そんなものを作っていたのか。
柴大将が普段作っているものは豚の骨を使ったもの。昆布と煮干しを使うラーメンがある事は知っているが、その違いはよく知らない。
そもそも昆布と煮干しがなんなのかもあんまり分かってないし。
物は試しだな、と豆皿を口に傾ける。
「……軽い…?」
「軽いか、面白い感想だ!」
「あぁ、いえその………美味しいです。優しい味、と言いますか。」
なんというか、形容ができない。
豚骨とは見た目からして何か違うのは分かってはいた。が、なんというか思っていたより遥かに違いがある。
口の中での存在感が薄いというか、いや確かにあるのだがそこまで主張してこないと言うか。
常連さんが「豚骨のおいしさはDNAに素早く届く」と言っていたのを覚えている。その時は何を言ってんだイカれてんのかこいつと思ったが、こちらのスープを知った今はなんとなく分かる気がする。
普段の豚骨はダイレクトに美味しいと感じられる。しかしこちらはじわじわと美味しく感じるというか、残る美味しさというか、余韻があるというか。
するりと飲めて、すとんと落ちる。
うん、上品ってやつだな。豚骨が下品だって言う訳じゃないけど、私はなんだかこちらの方が好きかもしれない。
「気に入ってくれたか、良かった良かった」
「良かった…? どういうことですか?」
私がこれを気に入って何が良かったのか。新メニューにでもするつもりだろうか。常連さんに出すからだろうか。
疑問に思い聞いてみると、大将は三角巾の位置を直し笑いながら言う。
「あー……実はな、くれた常連さんが"これでファルちゃんに美味い出汁ってのを味わせてやってくれ、豚骨ばっかで飽きてるだろうから"ってな。失礼な話だ!」
はぇー、そんなことが。一体なぜ……?
いや待て、なんか覚えがあるぞ。前そんな様な話をした様な気がする。たしか、カウンター越しで……
『───ファルちゃんよぉ、煮干しラーメンは食べた事あるかい』
『煮干しラー……すみません?』
『もしや、知らないのか?』
『はい、煮干しというのは……知っては、いますが。』
『味は知らない?』
『はい』
『そ……そいつはいけねぇ! 鰹出汁は、椎茸出汁は!?』
『えと、分からない、です』
『なんだとぉ!? 最近の若者はそうなのか!?』
『あいえ、私はそんな贅沢なものは食べる事が出来なかったといいますか……』
『贅沢!? …………あぁそうか、ファルちゃんは従軍してたんだったか。悪い事聞いちまったな、許してくれ』
『いえ、こちらこそ申し訳ありません。』
『ついでにもひとつ聞いていいか』
『はい、出来る限りお答えしますよ』
『MonoTalk教えて』
『ほら食ったんならとっとと帰んな! 仕事あんだろうが!』
『大将! ちょっと勘弁してよ冗談だって!!』
思い返してみると、ありましたそんな記憶。なんか関係ない所まで思い出してしまいましたが。
気を使わせてしまったのでしょうか。申し訳ない事をしました、いらん事言ったせいで無駄にお金を使わせてしまった。
そんなことを考えていると、大将がいきなり私の額をぺしりとはたいてきました。
「ファルちゃん、こういう時はそんな顔するもんじゃないぞ」
「……?」
頬を触りますが、特に表情に変わりはない。セリカといい、なぜ表情が変わってないのに心情を看破してくるんですかこの人達。
「ファルちゃんに自分の好きなもんを知って欲しくて、それで持ってきてくれたんだ。なら、ファルちゃんが常連さんに言うべき事はごめんなさいじゃない。」
そこで1度言葉を区切り、ぽんと手を私の頭に載せる。
「美味しかった、ありがとう。それでいいんだ。……分かったかい?」
「───おいしかった、ありがとう……」
「そう、それでいい。」
「モモトーク教えます……」
「教えなくていい」
「はい」
豆皿に残ったスープを飲み干して、立ち上がる。
いやぁ、いいもん貰いました。これが巷に聞く施しってやつですか。リターンを求めない善意、都市伝説だと思ってました。ほんとにあったんですね。
それをまさか、私が受け取る事になる日が来ようとは。
なんだか満たされる気分です。
アビドスの皆さんに付随する形ではなく、私だけに向けられるプレゼント。思わず目が潤んでしまいますね。使えるスマホがあれば、モモトークとやらを教えてもいいと思える程です。
「これ使ってラーメン作ってやるから、賄い楽しみにしてな!」
「はい、楽しみにしてますね。」
そう言って、豆皿を洗おうと洗い場へ戻る。そういえば、あの便利屋はどうしてるのだろうか? 少し気になり、顔を上げて4人がいる方へ意識向け会話を聞き取る。
「ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「それになにか問題ある?」
「ダメでしょ!! ムチャクチャでグダグダよ! 私が一人前の悪党になるには、こんな店は要らないのよっ!!」
なんかすごいこと言うてます。え、なに、喧嘩?
なになにどうすればいいのこれ、え殴、え?
「私に必要なのは冷徹さと無慈悲さと非情さなの! こんなほっこり感じゃない!!」
何を言ってんですかねあの人。
店の中で店の悪口言えるインモラルさなら、まぁある事は確定してますけれども。
「いや、それは考え過ぎなんじゃ……」
「……。」
ムツキの言う事に内心頷いていると、ハルカが無言で立ち上がった。今度はなんだ、あんま騒がないでほしいんだけど────
「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」
そんな呑気な考えを吹き飛ばす衝撃発言。
道徳、倫理、常識その全てを置き去りにする思考回路には驚きを隠せない。
それは流石にアルも同じらしく、呆気にとられた顔でハルカを見上げている。
それをよそにハルカが懐から取り出したるは何かのボタン。はっはー、わかりやすいったらありゃしない。起爆ボタンじゃないですかやだー。
…………マジ?
「良かった、ついにアル様のお力になれます。」
あ、マジだこれ。目がヤバいぞあの子。
「起爆装置? なんでそれを……」
何をぼさっとしてんだそいつ本気だぞ、その叫びが口から出ないのはもはや織り込み済み。カウンターに手をかけて飛び出そうとして───
「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ……」
あの景気の悪い顔した子、カヨコが素早く起爆ボタンに手を伸ばしているのを確認。あれならボタンを押されるより先に奪うか叩き落とす事が可能だろうと判断し、少し足の力を弱め────
「……っ!?」
危険信号。
搭載された機能、そしてなによりニケとしての長年の勘が警笛を鳴らす。そうとなれば後は反射だ、急速旋回をして厨房へ駆け込む。目的はただ1つ。
「大将っ!!」
「ん、どうしたファルっ!?」
ニケの重量で怪我をさせないよう細心の注意をとりつつ柴大将を半ば飛び付く形で腕の中に収める。
同時に、脳内で反響する警笛の音が最大に到達した瞬間。
私は、宙を舞った。
昼は聖杯探索、夜から明け方は球蹴り応援をする為6月の投稿は多分ありません。
先生は男にするべきか女にするべきか。それが問題だ。
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男にするべき
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女にするべき
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おねにーさん(性別不詳)にするべき