少し歩くと、ベースキャンプらしく整備されたエリアに仮設テントがいくつか建ち並んでいた。
どうやらここがカタカタヘルメット団とやらの拠点らしい。
あちこちで、やはりヘルメットを被った少女達が忙しなく作業をしていた。
「お前ら! 水と飯だ!」
立ち入るなりオウカはそう声を上げる。命令権を持っている当たり、位が高いのだろうか? 黒色のヘルメットを被った少女数人が返事をし、何処かへと駆けていった。
「隊長、その方は?」
「拾った。おい、こっちだ」
そう言って、私の手を引いて誘導。一際大きなテントに入ると、中には沢山の武器や物資が並んでいた。
隊長とか言われてたな、この人隊長なのか。
「荷物そこ置いとけ。どれだけさ迷ってたかは知らないけど、砂漠歩いてて疲れたろ? まぁ座んなよ。」
「どうも。ありがとうございます。」
労りの言葉を掛けられたのは初めてだ。なんて返せばいいのやら。
言われた通りの場所に盾や銃、ヘルメットを置いて、折り畳みの椅子に座ろうとし……思い直す。
「あの、この椅子の耐荷重はいくら位でしょうか。」
「あ? あー……50kgちょいだったか?」
え、無理じゃん。座った瞬間ぶっ壊れるぞ。
「んだよ、多少過ぎてても大丈夫だっつの。てかあんたそんな重そうには見えねぇぞ? 乙女か」
「いえ、その……」
この世界にはニケが居ない。目の前の少女も銃を持っているとはいえ普通の人間。
私の事もただの人間だと思っているのだろうから、その疑問も当然。
ボディラインがくっきり見えるスーツを着れるくらいには痩せてる癖に、わざわざ太ってるアピしてくるウザい女と思われてしまうだろう。
だが、私は人間ではないのでね。ニケなんです。
人間を地下へと追いやった機械生命体、ラプチャーをぶち転がす為に作られた人の姿をした兵器。それが私達、NIKKEなのです。見た目は少女でも、体重は相撲取り並なのです。
「そういやあんた、ヘイローも無いな。どうなってんだ?」
「ヘイローと言うと……頭に浮かんでいる?」
「そうだよ。しかもキヴォトスについて何も知らないと来た。──もしやあんた、"外"から来たのか?」
うーん、まずいぞ。何言ってんのかさっぱりだ。多分キヴォトスはこの世界の名前、かな。で、キヴォトスの外とは? 異世界からの来訪が普通の世界なのかなもしかして。
「で、あんた何なんだ。エリ、シオン? のソルジャー
「……そうですね。貴方の言う外の世界で、人の為に戦っていました。」
「ほーん。ま、こっちの世界じゃあんまり戦わない方が良さそうだけどな。」
なんでやねん。いくら量産型と言えど人に負けるつもりなんて無いですが?
え? お前人に向けて撃てねぇだろって?
……そうじゃん。ナマ言ってすいませんでした。
「ヘイローがある限り、私達にゃ弾丸は痛い程度だ。遠くから撃ったってしょうが無いから、被弾覚悟で接近戦が常識なんだよ。ヘイローを持ってないあんたじゃスグ死ぬぞ。」
はぁぁぁなんやそのビックリ人間共は。じゃあ何? この世界の住民ニケ並かそれ以上の耐久あるってこと?
まぁラプチャーとか私達の武装は通常の銃火器とは訳が違うから、その限りでもないか。
「隊長! 水とご飯持ってきました!」
「あぁ、ご苦労さま。ほら、とりあえず食っとけ。」
「……ありがとうございます。」
テントに入ってきた黒いヘルメットをした子から、ペットボトルの水と紙のお椀に入ったカレーを受け取る。
なんだ、このご馳走は。アークにいた時なんて量産型には決まった配給しかなかったのに。
「……美味しい。」
湯気が立ち上るカレーをスプーンで米ごと掬って口に入れると、程よい辛さに細かく切られた人参がアクセントで、大変美味。私の知る人工栄養食パーフェクトで再現されたカレーでは無い、正真正銘本物のカレーだ。いや本物なんて食べた事ないけど。でも、私の中の全てがコレは本物だと言っている。
やっべ、涙出そう。
「……いや、座れよ。」
「座ったら壊れてしまいます。」
「何kgあんだよお前!?」
「150は超えていたかと」
「身長の話じゃないよな!?」
☆
「つまり? お前はヒューマノイドみたいなもんだと。」
「その認識で構いません。人類の敵に対抗する為生み出された人型兵器、ニケ。それが私です。」
「まぁ、そこら辺のオートマタ共の見た目人間版みたいなもんか。じゃあ銃も?」
「ある程度は耐えられます。私の世界基準の話ですから、こちらの銃器ではニケの装甲の前では豆鉄砲かと。」
一通り食べ終わりメンタル回復を済ませた後、オウカと詳しい話をした。この世界についてや私の身の上など。お陰でもう困惑しませんよ。
「あんたも苦労してたんだな。んなディストピア世界で人の為に戦ってんのに身分が低いとは……ま、身分が低いのは私達も同じ様なもんだけど。」
学園都市、キヴォトス。この世界の子供は生徒でなければありとあらゆるサービスから弾かれてしまうらしく、学校から退学になってしまった子供達はこうして身を寄せあい、傭兵などの行為でお金を稼がなければならないとのこと。
世知辛い。どうかしてんだろ。
で。このカタカタヘルメット団が砂漠にいたのは、妙にサポートの手厚いクライアントからの依頼でこの地区にある学校を乗っ取るためらしく。
既に何度も失敗しているが、あちら側は物資も不足しているだろうし明日こそは! と決起してカレーを作っていた様だ。
しかし、ニケだと言っても差別的な目を向けられないのって初めてかも。なんなら同情された。
このキヴォトスでは"ヒト"の定義がかなり広いらしく、人語を解する犬猫雀機械などなども人権を持ち、差別も無いとの事。
すごい。アークもそうだったらいいのに。
「そうだ。頼り甲斐ありそうだしあんた、手伝えよ。カレー食べたろ?」
オウカがそう言う。
いや、食べたけども。罪無き子供達の学び舎を襲うのは良心が痛むと言うか……でも助けて貰っちゃったしね……この世界では身分も無いし生徒にはなれないし、私いじけちゃうし。
やるしかないかぁ……。この世界でも人に向けて撃つ事が出来ないなら、肉壁なりなんなりなるしかない。
「決まりだな。一先ず今日は寝ときな、ここ貸してやるから。」
「何から何まで、ありがとうございます。」
「礼は明日示してくれ。じゃ、おやすみ。」
そう言い残し、彼女はテントから出ていった。
翌日。オウカに呼ばれた私はヘルメットを被った少女達と並んで、アビドス高校なる学び舎に向けて歩を進めていた。
「あの人だれ……?」
「ヘイロー無くない?」
「スタイル良……」
「えっちだ……」
「えっちだね……」
ヘルメット団の皆は突然参加してきた私に対しひそひそ話をしている。
まぁ、私が来たの昨日の夜だし。人によっては突然知らん奴が仲間になってる様なもんだからね。
しかしまぁ、物の見事に皆同じ姿だ。勿論ヘルメットを脱げば違うのだろうが、今の状況だと皆そっくり。量産型としてシンパシーを感じる。
「夜に見た奴だな、まったくオウカ隊長は……何も説明しねぇんだからよ。お前、名前は?」
「エリシオンのソルジャー
「なんだそりゃ、名前なのかそれ。」
名前です。ニケになる前の名前は忘れました。
「んじゃ、ファル子だな。私はマツリだ。」
「分かりました。よろしくお願いします、マツリ。」
「サポートセンターみたいな話し方する奴だな……」
せやろか。でもこういう話し方がデフォなんよ、しゃーなし。
しっかしファル子か。あだ名つけられるの初めてだ。
まずいな、初めてが多いぞこの世界。普通じゃない。
と、話しかけてくれたマツリと談笑しながら歩く事10余分。ヘイローが無いのに銃が効かない事を驚かれたり、愛銃のショットガンを見た事が無いと驚かれたり。
ニケの銃器は人が使うと反動によって身体が壊れるレベルで格が違う。身体の強いヘイロー持ちとて、取り扱い注意ですぜ。
「お前がどれだけ強いのかは知らんが、気をつけろよ。アビドスにはとんでもねぇ化け物がいる。」
マツリはそう言い聞かせる様に言った。
度重なる砂嵐の影響で廃校寸前のアビドス高校は、現在全校生徒5人。その内4人は確かに並外れて強いが手に負えない程ではない……が、残る1人のせいでアビドス高校を占拠するのに尽く失敗していると言うのだ。
しかも、私と同じショットガンに盾持ち。
怖ぁ。まぁ量産型と言えど私だってニケですし? 負けるなんて思ってないですけど、そんな深刻そうな顔されたら不安になりますよ。
「着いたぞ、戦闘準備しとけ」
オウカがそう全体へ声を掛ける。
砂を被って寂れた校舎だ。確かに生体反応があるし清掃をされている痕跡こそあるものの、殆ど廃墟だぞこれ。
校門を通り校庭で立ち止まる。
「おらー! 今日こそ退いてもらうぞー!」
ヘルメット団の1人がそう声を上げ、周りも乗っかって威嚇射撃を始めた。こうして弾を無駄遣いする光景は初めて見たので、ちょっと面食らう。
と、レーダーに反応。校舎の3階あたりの窓が開き、そこからひょっこりと銀髪の女の子が顔を覗かせていた。
私達を見下ろしていると思えば、意を決した様な表情に変わり、あろう事か窓から飛び出してきた。
壁面に靴裏を擦らせながら、こちら側へ発砲。
「来たぞ!」
「迎撃───!」
綺麗な着地をし、こちら側へ突っ込んでくる。
わぁ、向こう見ず。
「ソルジャー
ショットガンを構え、後方で様子見。
あの銀髪ちゃん、動きが機敏。翻弄されて既に何人かのヘルメットが弾け飛んでる。
へー、やっぱり銃弾食らっても血すら出ないんだ。不思議。
というかあの子、なんか動物の耳みたいなの生えてない? ワンちゃんかな。つくづく、異世界だなぁ……。見た事ない人がいっぱいだ。
「ん、いい加減しつこい」
弾数に制限があるのか、連射せず慎重に使っている様子。やはり物資が不足しているという予測は正しいみたいだ。
「わぁ☆ シロコちゃん、もう戦ってます〜」
「えっ、速っ!? あぁもう、シロコ先輩はこんな速いのにホシノ先輩はどこ行ったのよ!」
新手2人。アサルトライフルを持った猫耳とミニガンを持ったベージュのロングヘアが校舎の出入口から現れた。
「何度も何度も、困っちゃいます! お仕置きですよ〜☆」
そんなことを言いながら、ミニガンを斉射。シロコとやらに当たりかねないが、フレンドリーファイア上等なのだろうか。
一先ず、背中から盾を下ろして手に持ちオウカの所へ向かい、構えて弾から守る。
「ご無事ですか、オウカ。」
「なんとか。どうやら一番の脅威が居ないらしい、やるなら今の内だ。」
「例の盾持ちですか。了解しました、猫耳の方とミニガンの方は私が請け負います。銀髪は任せました。」
「あいあい、何とかするよ。マツリ! まだ行けるよな!?」
「とーぜん!」
ふむ、やはりこの隊の主戦力はオウカとマツリの2人だ。他は練度の低いチンピラばっかりだが、まぁ肉壁にはなってるのか。
「ソルジャーF.A.、戦闘に入ります。」
盾と愛銃を構えて、なにやらキレながら弾をぶっぱなしてる猫耳さんへと突っ込む。
「セリカちゃん、危ない!」
私に気付いたミニガン持ちがセリカとやらに警告するが、それに気付くよりも早くシールドバッシュ。
「痛ッ……な、何!?」
お、もしかして人間相手に危害OK? キタコレ、もしや懸念点は杞憂か?
3mは吹っ飛んだもののすぐに体勢を立て直し、こちらを向く。
「──見た事ないわね、新入り?」
「…………」
「盾にショットガンって、ホシノ先輩の真似のつもり?」
「………………」
「なんか喋りなさいよ! もう!」
なんか勝手にキレてる。こわ。
戦闘中に敵とペラペラ喋る趣味は無いんですよ私は。量産型だからね、許してね。
さて、そんなこんなで銃撃戦。時折ミニガンによる妨害が入るもののやはり弾数に限りがあるのかさして驚異では無い。それと、予想通り被弾したとしても全然ダメージが無い。ニケ万歳!
「何こいつ! 全っ然手応え無いんだけど、格好も変だし!」
変とはなんだ変とは。
確かに、ぴっちりボディスーツで羞恥を感じなくも無いし遊びのある制服を着てる他のメンバーが羨ましかったりもするけども。
もう怒りました。今まで一度も発砲しなかったけど、撃っちゃうぞ! 南無三!
「かはっ……!?」
「セリカちゃん!?」
「ッセリカ!」
やっべ、至近で撃ったらキルっちゃった。死んでないっぽいけど。
やっぱりニケの火力は世界一ィ! 量産型とて同じ事ォ!!
……撃てたわ。人に向けて。
おいおいおいおい、どうした私のNIMPH!! 対人加害の制限は無くなったかぁ!?
やったぜ。皆、私を頼れ!!! クソ強いぞ私!!!!
「よくもセリカを!」
「グッ……ファル子! そっち行ったぞ!」
「了解。対処します。」
もうこうなったら行く所まで行くしかねぇな!
いくらラスイチプリンどっちが食べるか論争で撃ち合う様な世界だとしても、定期的にチンピラに攻め込まれる砂地帯に住んでる奴だとしても、日々無数の機械生命体相手に命を懸けて戦ってるニケに敵うもんかぁ!
……半ばヤケクソ。
アサルトライフルの弾を盾で受け、ショットガンを一発。ハズレ。
なんで目視で散弾避けられるんだあのシロコとやら。野生動物か?
グングンと距離と詰められるが、私を無礼るなよ。元来アーク内のテロを対処する為に製造されてんだ、対人格闘くらい出来る。
盾の端を持ち、シロコに向けて投擲。驚いて身を屈めた彼女に思い切り距離を縮めて蹴りを打ち込む。
「がっ!」
距離が離れる前にショットガンで追撃。吹っ飛んでどしゃりと倒れ、起き上がる気配無し。あいクリア。
「今の内だ!」
オウカがそう言い、残ったヘルメット団達がミニガン持ちの子に向かって突っ込んで行く。
あー、勝ったか。良かった良かった。
そう思い、盾を拾って背負う。
銃を下ろし、警戒を解いて一息つこうとしたその時。
レーダーに後方より生体反応。全身に悪寒が走る。
「なに、してるのかな。」
背後から声。冷淡で、凍り付くような声だ。
「チッ、不味いことになった。」
マツリが言う。
という事はあれか、この子が例の───
振り返ると、ピンク色をした長髪の女の子がショットガンを持って立っていた。
「……こんにちは。」
「こんにちは。凄い格好だね、おじさん目のやりどころに困っちゃうなぁ〜……で、何してるの。」
「恩人の手伝いです。」
「あっそ。」
そう興味無さげに言うと、目の前から突如として消える。後ろを見ると、倒れたシロコを抱えていた。
「私の可愛い後輩を傷付けてくれた落とし前は、どうつけてくれるのかな。」
「うおー!!」
シロコを抱えている今が好機と、飛びかかるヘルメット団達。だがそれを邪魔だと言わんばかりの手つきで数秒もかからず屠ってしまった。
そのまま悠々と歩き、セリカとやらも回収。
見た目によらず凄まじいパワー……いや、私が言うのも変か。
「ホシノ先輩!」
ミニガン持ちの子はそのピンク髪の登場に顔を綻ばせる。彼女に絶対的な信頼を寄せている事が分かる反応だ。
「ノノミちゃん、シロコちゃんとセリカちゃんお願い。」
「はいっ☆お任せ下さい!」
2人を降ろし、こちらに向き直る。
「いつも通りだったなら、このまま帰しても良かったけど……ここまでされたらタダで帰す訳にはいかないね。」
「……オウカ、マツリ。撤退を。」
「分かった、ファル子は?」
「彼女に付き合います。」
「……無事に帰って来いよ」
そう言い、2人は転がっているヘルメット団の子達の回収を始める。
さて、逃げ切るくらいの時間は稼がないとねぇ。
ニケである私でも追いきれないスピード。負けるつもりは無いが……こんなのラプチャーを相手にした方がよっぽどマシだ。おい初めてだぞ、アークに帰りたいとか思ったの。
「2人をやったのは君だよね。見た事ないけど、新人さん? ヘイローも無いのに、やるね。」
「エリシオンのソルジャー
「エリ…何?……知らないけど、企業の人? ──
「不要です。貴女方と同じく、銃弾は致命傷にはなりませんので。」
「へぇ、そう。……じゃ、やろうか。」
彼女は目を細めて、背負った盾を展開しながらショットガンを構える。私も同じく盾を手に持ち、ショットガンを握り直す。
奇遇だねぇお嬢さん、奇しくも同じ構えだ。
「ソルジャーF.A.、戦闘に入ります。」
先生は男にするべきか女にするべきか。それが問題だ。
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男にするべき
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女にするべき
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おねにーさん(性別不詳)にするべき