量産型ニケ、キヴォトスに行く   作:ウィルキンソンタンサン

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リトルマーメイド引こうとしたらシンデレラが出ました





7.人間ってなんやねん

 

 

量産型ニケの朝は早い。

 

朝5時。

静かに目を開き、知らない天井だ……なんてくだらない思考をすることも無く上体を起こす。

数回瞬きをした後ベッドから離れ、下着姿のまま洗面台へ移動し顔を洗いに行く。

 

驚異的な目覚めの良さは流石非生命体。

手櫛で適当に髪を梳かし、ヘアゴムで雑にまとめる。

そのままリビングへ向かい、ライフワークと言わんばかりに立てかけてあったショットガンの整備清掃を始めると瞬く間に時間は過ぎていった。

 

街が営みを始める頃……と言うにはあまりにも静かで、静寂に慣れていないアーク暮らしにはどこか落ち着かない。

 

そんな訳でおはようアビドス。今日も元気に96000、ソルジャーF.A.起動しました。

いやはや、やはりお家と言うのは素晴らしいものです。目が覚めたら視界に天井があるという安心感と言ったらもう!

下着姿で徘徊してもいい治外法権。どっかり座って銃の整備もできちゃいます。

 

腰を据えて整備をした事で分かりましたが、砂漠地帯での銃器の運用は限界があるらしく。私の愛銃もパーツのあちこちが砂に犯されていました。

 

まぁ、だろうなとしか思いませんが。逆にこの約1週間の間良くもまぁ問題なく動いてくれました。

 

私のクラッチファルコンは旧時代で言うAKみたいな悪環境クソ強特効武器じゃないんですから、ガチ砂漠地帯は流石に厳しいです。

……とはいえ、使用想定地が荒廃した地上なのである程度の強度はありますが。

 

最後のネジを締めて、整備清掃完了。砂がすげぇや、キッチンペーパーを下に敷いていて良かった。

では後は盾でも拭いておきましょう、あちこち傷付いてしまっています。砂もこびりついてるし。

布巾にアルコール消毒液を吹き付け、全体を拭う。

 

この傷と凹みはあれか、ホシノの散弾か。この跡は……あれだ、白い子と黒い子……あ、そうそう。シロコとセリカ。こっちはノノミ。この黒い汚れは不良共の弾の跡。

盾に付けられた傷を見ると、その戦いが思い起こされる。私の生き延びた軌跡が、戦い抜いた証が刻まれている様な気がするのでこの時間は嫌いじゃない。

 

てかこの盾に傷を付けるとかホシノは何なんだ、ラプチャーなのか? それともニケなのか? ニケだろもう、ニケでいいわ。ガッデシアムをナメるな。

 

清掃もそこそこに、立ち上がって椅子の背にかけていたボディスーツを着込みハーネスも着けて、準備完了。

 

ポーチに入れている予備の弾薬の数は、最初に比べればそれなりに減ってしまった。

無駄遣いはしないようにしているが、しょっちゅう不良に絡まれる都合上直ぐに弾倉1つ分使い切ってしまう。

 

柴関にあるテレビでは出処不明武器の流通が2000%突破!! ってニュースにあったし、ちょうど未曾有の世紀末な事態が起きている時に来てしまったらしい。運が悪い。

しかし、改めて頭おかしいんかこの世界。ヘリとか戦車とかそんなポンと買えていいのか。

 

ゴーグルを装着。ヘルメットも今日で手元に戻ってくるだろう。

さて、そろそろ出るとしましょうか。約束の時間がもうすぐです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し歩けば、そこには砂を被った校舎がそびえ立っていた。こうして来るのは2度目か。前回と違ってアポを取っているとはいえ、内心は穏やかではなかった。

やはり学校の放つ物言わぬオーラは、生徒でないはずの私にも襟を正せと命じてくる。気がする。

 

……まぁ、文化祭でも無い時に関係無い学校に立ち入るのって緊張するよねという話でしかないのだけれど。

そんなあるあるを語れる立場でもないしね、私。学校行った記憶無いし。

 

しかしながら、私の自宅と相成った家とアビドス高校が比較的近いのは狙ったものでしょうか。でもインフラ生きてるところ少ないらしいから、偶然なのか。

 

暴れたらぶち飛ばす、的な警告が記された看板を流し見しつつ校門をくぐり、校庭に入る。すると、奥の玄関口に見知ったピンク頭が段差に腰掛けているのが見えた。

あちらも私に気付いたらしく、へろへろと手を振っている。

遠目にもわかる程度の会釈をして、駆け寄る。

 

「すみません、お待たせしました。」

 

「ぜぇ〜んぜん! 時間通りだよ〜」

 

んほ^〜エンジェルスマイル。前までの私ならばこの笑顔に警戒心しか抱きませんでしたが、今の私は違います。

 

待たされたにも関わらずこの笑みで許す姿は正しく菩薩、柴大将と同格と言っても過言ではありません。

確かに、この方は腹の中で何を考えているんだか分かったもんじゃないのは確か。アークのあちこちでも見てきました。この目、腹に一物抱えている者のソレです。

 

だがしかし、それがなんだと言うのでしょうか。そんなもんエリシオンの親愛なる我らが教官(社長)、ミス・イングリットも同じです。あんのタクおば*1だって何考えてんだか誰も知り得ないのです。

 

しかし、どちらにせよあの善性は本物。量産型である私にさえ気にかけてくれていました。まぁ、他の量産型と比べてそれなりに()()()からってだけなのでしょうけども。

それはともかくとして、私をフォローしてくれていたのは確かな事実。

 

 

だから、大事なのは何を考えているのかでは無く、何をしたのか。

 

 

教官は私に生きる力をくれた。ホシノは私に生きる場所をくれた。Q.E.D.証明完了。なのでどちらも好感度は激高です。

 

「立ち話もなんだし、入んなよ。今日もあっついからね〜」

 

言われてみれば、ホシノの顔にはうっすらと汗が滲んでいる。言われてみれば確かに暑いのか。ニケは寒暖差をあんまり感じねぇし量産型はそれが顕著なんだ、すまねぇ。

そんだけ待たせたって事か? は? 死ねるが。NIMPH仕事しやがれ。

 

 

 

さてそんな訳でおっかなびっくり校舎の中へお邪魔しましたが、やはりというかなんというか。校舎内にも砂風の影響が及んでおり、廊下の隅に砂が溜まっています。

 

「いやぁごめんねぇ、掃除してもキリ無くってさぁ〜? おじさんもう腰が痛いよ」

 

先導するホシノがそうおちゃらけて言うが、言葉の節々には苦労が滲み出ている。

聞けば聞くほど大変な場所だ、なんで住み続けてるんだか……。私みたいに逃げられない訳じゃなかろうに。ニュースで見たぞ、他の場所クソ発展してるじゃないか。この世界、全域が砂漠化してると思ってたからびっくりした。

 

単純な地元愛じゃ片付けられない熱意だ。なにがそこまでさせるんだろうね……

 

「はい、着いたよ。ここが私達、"アビドス廃校対策委員会"の拠点!」

 

小さな背中を見ながら考え込む私を余所に、立ち止まって1つの部屋の扉をガラリと開け放つホシノ。入れというジェスチャーに従って中へ入ると、そこは縦長のこじんまりとした部屋。

中央にデスクがでんと置いてあり、ホワイトボードや本棚、雑貨が並んでいていかにも学生ですみたいな生活感。知りもしない癖に、学生という身分にノスタルジーを感じてしまう。

 

「ようこそ、ファルコンさん! お待ちしてました〜☆」

 

投げかけられた言葉にハッと前を見ると、窓際に置かれた机に腰掛けた生徒がこちらに笑顔を向けていた。

ノノミだ。笑いながらミニガンで掃射していた子。

 

「ノノミちゃん、書類の用意できた?」

 

「もちろんです! 該当の住所の家に関する諸々、集めておきました」

 

手に持っていた紙の入ったファイルを満面の笑みでホシノに手渡した後、彼女は何やら抱えるサイズの箱を持って私に近寄ってきた。

 

「やっと渡せました! これ、取り寄せたヘルメットです。」

 

そう言って渡された箱。思ったよりも遥かに軽く、これを着けた場合の機動力は想像するに容易い。

 

「どうぞ開けてみてください! サイズが合うかどうか……」

 

箱を開くと、専用の袋に包まれたヘルメットが黒いクッションの上に鎮座している。見てくださいこのクッション。生意気にも中央政府から支給されたかつての私の敷布団よりふかふかです。

 

クッションから取り上げ、ヘルメットを袋から出す。バイザーは折りたたみ式で、装着口を隠すようにビニールの袋に入れられ格納されていた。

バイザーを展開し、袋を取る。取り外し方と付け方が印字されたシールが視界を覆い隠すように貼ってある。

 

箱の中を覗くと、付け替えの調光バイザー……てかシールド? が入っていたので、透明なのをガチャリと外して付け替え。保護シートをペリペリ剥がすと、なんとまぁ元々使っていたヘルメットと瓜二つです。恐る恐る被ってみるとやはり軽い。これで本当に頭が守れるのか。

 

「わぁ☆ ピッタリですね!」

 

「……はい、驚きました。」

 

「よかったよかった〜、やっぱりファルコンはヘルメットがあった方がしっくりくるね」

 

喜んで良い奴かそれ。

まぁヘルメット被って稼働年数……何年だ、分かんねぇや。

この下り何回目?

 

ヘルメットを取り、その作りを眺め改めて感嘆。職人技です、決してお安いものでは無いでしょう。

 

「なにはともあれ、ありがとうございました。この恩は必ず。」

 

「だからいいって言ってんじゃないのさ〜」

 

「そうですよ、ホシノ先輩がヘルメットを壊しちゃったのが原因なんですから☆」

 

「ごめんって! ちょっと熱くなってたんだよ〜!」

 

仲良いなこの2人、見ていて楽しい。

しかしねぇ、敵として対峙したのなら相手の装備を破壊するというのは当然な事だからねぇ。

そこまで重責に思われても困るというか、そんなら私はラプチャーに五体投地しなきゃいけないというか。

まぁ、いいです。貰えるものは貰っておきましょう、元来私に拒否権なんて高尚なもんは無いのでね。相手がホシノとあれば、尚更です。

 

「あ、それと。こちら預かっていたヘルメットです」

 

続いて差し出されたのは紙袋。中を除くと、見るも無惨な姿のヘルメットが入っています。ホシノにぶち壊された奴ですね、受け取っておきましょう。

 

「じゃあノノミちゃんの用事は終わったから、今度はおじさんだね」

 

そう言ってホシノは私に例のファイルとボールペンを机に広げる。住居の契約に関する書類でしょう。びっしりと色々書かれています。

そんなわざわざ明記しなくても、署名だけでもいいよ? 何書かれてても構いやしないし。

 

「契や……約束事が書かれてるから、問題無さそうならサインしてね。」

 

なんて言うので、紙面に書かれている契約事項を流し見。

だから何書かれてても受け入れるって言ってんでしょうが! 拒否るとか基本無いから!

I'm NIKKE! I'm not human! The human tools!

DO YOU UNDERSTAND!?

 

「何か不都合あったら言ってね、ある程度は調整するから。」

 

「ファルコンさんもアビドスの住民なんですから、遠慮しなくていいんですよ☆」

 

WHAT THE FU〇K!!!

なんにも分かって無いじゃん、頼むぜガキ共。

 

まぁ、いいです。アビドス自治区を管理する人間として、どんな存在にも快適な住まいを提供したいという一心なのでしょう。ホシノが深夜に外をほっつき歩いていたのも恐らくそれが理由。

 

そういう人がいると言うだけで私としてはもう感動モノなのですが……で、あるなら。私はその想いに報いるまでです。

ボールペンを持ち、署名欄にソルジャーF.A.と記入。続いて識別ナンバーを書こうとして……止める。

 

この世界にソルジャーF.A.は私しかいないから。

型番を判別するためにあった名詞は、今や私を表す固有名詞に。うーん、不思議な気分。私と同じ顔の奴が無数にいるのが当然でしたからね、こればっかりは向こう10年は慣れないでしょう。……10年もいる気かこの世界に。

 

自分に名前を付けている量産型もいましたが、私はどーにもその気になれず。結局私はソルジャーF.A.で、それ以上でもそれ以下でもないのです。

 

と、そこで。署名した紙を手に取り、それを眺めていたホシノは思考の中の私を蹴飛ばすかのように質問をしてきました。

 

「──名前、これでいいの?」

 

せやから、他に無ぇって。

エリシオン製、リプレイス所属の量産型ニケ。ソルジャーF.A.(Falcon)。それ以外の名前なんて────

 

そこで一瞬、2人のヘルメット頭が脳裏を過ぎる──が。

……()()。その名前は()()

よく分からないけど。その名前はあの2人、ひいてはあの集団だけのモノだ。ここでは違う気がする……というか、()()

 

「ソルジャーF.A.(Falcon)……これは、戦うための名前でしょ? 本当の名前を書いて欲しいんだけどな〜」

 

笑顔……にしては鋭利過ぎる目が私の額を突き刺し、貫く。

まるで、私の額に空けたその穴から更に先の景色を眺めているのかの様にも感じられた。

 

「……私の名前は、ソルジャーF.A.(Falcon)です。生まれた時から……、造ら(生ま)れた時から、私は…………。」

 

二の句は継げず、そのまま閉口してしまう私の下手な口。元より多くを語ることの無い口です、これ以上の仕事は望めそうもありません。閉店ガラガラです。

本当の名前なんて知らんのですよ、何しろ記憶が無いのですから。こればっかりは許して欲しい。

 

完全な膠着状態で、静寂に支配された教室の中。

あー……気まず。

そう思うよりも早く声を上げたのは───ノノミ。

 

「ホシノ先輩、ファルコンさん困っちゃってますよ〜? いじわるもそこそこに、ですよ!」

 

めっ、と言わんばかりの発言。その瞬間、ホシノの雰囲気がやはりガラリと変わる。

 

「───うへ、困らせちゃったか〜。ごめんねファルコン、そんなつもりは無かったんだ。」

 

ふーむ……最初会った時もそうだったが、ホシノの中でのノノミはかなり大きな存在と見える。何かのスイッチか、はたまたブレーキなのか。

 

「……お気になさらず。では、私はこれで」

 

「うん、また。……いつか、教えてね。ファルコンの本当の名前。」

 

背を向けて扉を開いた私に、言葉を投げかけてくるホシノ。そのまま"なんてったって……"と、言葉を紡ぎ。

 

 

「───君はもう、アビドスの人間(仲間)なんだから。」

 

 

そう、結んだ。

それに何か言葉を返すことも無く、廊下に出て扉を閉める。そのまま、私の思考を置き去りにして身体は校舎から出るため歩き出し始める。

 

……私のピクリとも動かない表情筋に併せて、多少の会話を経てお互いの感覚のズレには少なからず気付いている筈でしょう。それに、私は1度この学校を襲い後輩を傷付けています。

 

クソ(ブツ)。そう言われても、文句は言えません。

 

それでも、私を1人の仲間として。()()として認める旨を言い放った。

 

……なんなんでしょうか、この世界。この世界の人間達。

柴大将もそうです。確かにこの世界にニケがいない以上、私を人間に見間違えるのもおかしな話では無いですが……。この人達のは、なんだか違う。

 

分かってるんじゃないのか? 私が()()()()()()って事。

その上で、それも承知の上で、それでも人間だと言っているんじゃないのか?

 

うん、意味が分からない。道具だと知ってるのなら、道具として扱えばいい。教官(タクおば)だって、私の事はあくまで道具として扱っていました。

そりゃあ人間扱いされて嬉しくない訳じゃないけど、純粋に分からない。

 

まぁ、分からない事はいくら考えても分かりゃあしませんね。やめです、やめ。そんな沢山モノ考える脳ミソは持ってないのです。

 

下駄箱から外に出て、そのまま校門を出る。

 

切り替えましょう、一先ずヘルメットが手に入りました。

こうして被ると、なんだか座りが良くなった気がします。無くてもぶっちゃけ変わらんやろと思っていましたが、やはりこれが無くてはと思い知らされますね。

 

と、アビドス高校に置いてけぼりにされた思考さんがやっと身体に追い付いた所で。体内時計が14:25頃を刺し、次の予定が自然と浮かんできました。そうです、15:00から柴関でバイトです。

 

どうやら後輩が出来るらしい。誰かに物を教えるのは慣れていますが、それは戦場に限った話ですから……接客を教えられるかと言えば微妙。

 

まぁ、他でも無い柴大将によろしくと言われているのです。やるしかないでしょう。

 

「……ソルジャーF.A.、命令を遂行します」

 

 

───その時の私は、もっとその新入りについて考えるべきであったのかもしれない。

このアビドスという土地で、わざわざバイトとして入ってくる人間。少し考えれば、その正体と正しい対応について考えられたというのに。

 

 

 

 

*1
タクティカルおばあ




元の世界だと当然の如く世間様にクソ物呼ばわりされるし身体暴力(フィジカルコンタクト)の英才教育も受けてきてるのでファルコンは実質カイザー。
自我(エゴ)は徐々に育てます。



ところでモリー見ましたか? 誰かが「これ量産型推しの奴死ぬだろ」って言ってましたね。


その通りですとも

先生は男にするべきか女にするべきか。それが問題だ。

  • 男にするべき
  • 女にするべき
  • おねにーさん(性別不詳)にするべき
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