量産型ニケ、キヴォトスに行く   作:ウィルキンソンタンサン

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文章の書き方というものをさっぱり忘れてしまいました。


8.新人って誰やねん

 

 

 

 

突然だが、私は新人育成というものが嫌いだ。

 

出来ないのではない。ただ、嫌いなのである。

私にとっての新人育成とはつまり、新兵を抱えた部隊で戦場に出るということ。

言わずもがなリスキーであり、実際死にかけた事は数しれず。

 

ニケの性質上銃火器運用の技術を教える必要は無いとは言え、戦争行動というものは銃が撃てるだけでは行えない。

 

連携力、作戦遂行力、判断力、瞬発力。これを叩き込まなければ、新兵に待つのは死かラプチャーからの侵食。

 

ただえさえ前衛職として部下たち+指揮官の命を背負っているというのに、吹けば飛ぶようなヒヨコのお世話もしなくてはならないなど面倒にも程があるだろう。

 

だから、嫌いなのだ。

 

天敵だらけの環境下で、雛が自分で飛んで餌を得ようとする姿を後方腕組み見物していられるほど私はボケた鳥じゃない。

新人の為にならないとは理解しつつも、やれる事は私がやりたいと思ってしまう。その方が早いし。

 

私の愛想が悪いせいなのか行き過ぎた使命感なのかは知らないが、何故か目の敵にされ言うことを聞いてくれないなんてこともままあった。

 

やっと1人前レベルまで育ったと思っても、アーク内での問題処理の為にスケープゴートとして罪を被せられ記憶を消されるなんて事も。

 

アークにはうんざりすることが多すぎる。

 

……いや、分かってるんだよ? 私がこれからするのはラーメン屋のバイト。その新人の育成だ、決してタマの取り合いでは無い。

しかし、私の身体はもはや"新人育成"という言葉を聞いた途端拒否反応が起きてしまう。

 

柴大将に任せられたからには、私はそれを遂行する義務がある。……しかし、やはり嫌なものは嫌。

本当に私でいいのか。他の人じゃダメなのか。研修期間もつい最近終えたばかりだぞ。やれんのかいけんのか!?

 

やるけど。

 

そんな後ろ向きな疑問がぐるぐると頭の中をめぐり、それでも店へとチャキチャキ足を動かす。

 

無理にとは言わない、出来たらでいい。拒否する道を残した言い方で柴大将は私にそんな事を言っていた。

無論私はその道の方を少しも見ることなくノータイムで了承。

 

どんなにやりたくなくとも、人間……特にホシノや柴大将からの頼みならば喜んで遂行する。例え拒否権を持っていたとしても、私はそれを行使する事は無いだろう。

 

……そういえば、人間には拒否権というものが認められている。言わずもがな私には認められていないが、それはあくまでアークでの話。この世界ではなんと人間の他に、犬猫雀や機械人にも拒否権があるのだ。

 

それだけではない。

 

平等権、自由権、社会権、請求権、参政権。合わせて基本的人権。

それが、ここキヴォトスでは全ての人種に認められている。……あれ、生徒以外の参政権ってどうなんだろう。まぁいいか。

 

───では、私は?

 

私をカテゴリーするのであれば、機械人だ。そして機械人には基本的人権が存在する。

つまり。

キヴォトスにおいてニケという存在は、誰も侵すことが出来ない永久の権利を持ち、何者にも縛られず個人として尊重される……という事?

 

そこまで思考したところで、私のその思考は霧散する。何故か、脳の深いところが急激に熱くなり始めたのだ。

鼓動が脳裏に響く程大きく聞こえるような熱の中、陽炎のように朧気な…しかし沈むように重い言葉が浮かび上がる。

 

それは、私を製造した会社が掲げる社訓。

 

 

 

『最も優れた()()はニケである』

 

 

 

…………あっぶねぇ!

勘違いする所だったじゃねぇか!

 

そうでしたそうでした、ニケは機械人ではなくあくまで兵器。

銃や戦車に人権は適用されない様に、ただ自立思考し動くだけの兵器に人権はありません。

最近、私の素性を知らない優しい人たちと接する機会に恵まれていたせいで調子に乗っていた様です。サンキューエリシオン。

 

ただ人間の為に命令を遂行する、感情を持たない兵器。それがニケ、それでこそニケ。

自分が何者なのか、履き違えてはいけない。

 

そうと思ったらなんか逆に気が楽になってきました。今から私は新人育成マシーンです。

 

幾ばくか軽やかになった足取りで進み、柴関の裏口の扉を開ける。シフトの時間は新人さんと同じ、もしかしたら更衣室にいるのかもしれない。

なら、いつかの二の舞にならない様に愛想良く接してあげるべきだろう。私は学習する兵器なのである。

 

事務室を通り、更衣室の扉のノブをひねる。すると、室内から「あっ」と声が聞こえた。

恐らくは新人さん。

 

さて、ファーストコンタクトここ大事。第一印象に失敗したら後に待つのは地獄そのもの、退職聴牌です。

 

意を決して、できる限り明るい口調になる様に挨拶の言葉を出しながら扉を開ける。

 

「おはようございます。」

 

「あっはい! おはよう…ご……」

 

向こう側にいたのは黒髪のツインテール。ピンと立った猫耳を生やした、どこかで見た事がある人物。

彼女は私に挨拶を返そうと口を開き、途中で言葉を発するのを辞めてしまった。その姿勢のまま硬直し、静かな室内で手に持っていた服が落ちる音が悲しく響く。

 

彼女が誰なのか、それをハッキリと認識した瞬間私は天を仰ぎそうになる。あぁ、思い切りミスってしまったと。

柴関にやってきた新人、それは私がヘルメット団とアビドスを襲った時、最初に吹き飛ばした相手。

 

名を、セリカ。

襲撃以来会っていなかった、アビドスの面々の内の1人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からウチで働く事になった、アビドス高校の黒見セリカちゃんだ! 頼んだぜファルちゃん。」

 

「………黒見、セリカです…」

 

「…ソルジャーF.A.(Falcon)です、よろしくお願いします。」

 

柴大将が意気揚々と新人を紹介する傍ら、私達の間は一触即発といった状況。

笑顔をうかべるセリカの口端はひくついているし、私ももう少し表情筋が動くのならばそうしたかった。

 

言い訳も釈明もしないが、出来ることならこの場で土下座でもさせて欲しい。謝罪を伝えておいてくれとホシノには言ったが、やはり面と向かって謝罪するのが筋だし。そもそも許してもらったとも考えていない。

 

「すみませーん」

 

と、ここでお客さんから呼び出し。

いずれにせよ柴大将の前だ、この確執は出すべきじゃない。多分セリカも同じ事を思っているからこそ、今この場で私を殴ったり問い詰めたりしないのだろう。

 

「はい、ただ今お伺いします。……ではセリカ、ひとまず着いてきて下さい。」

 

「……分かっ…り、ました」

 

話は後、仕事は見て覚えろ。言外にそう伝わる様に指示をする。セリカもそれを汲み取ったのか、ただ一言だけ返して後ろへ着いてくる。

 

こういう時、どういう顔すればいいか分からないの。表情筋も動かないの。口も動かないの。

どうしたものか、もはや新人育成がイヤとかもうそういう次元の話ではなくなってしまった。

 

「お伺いします。」

 

「チャーシュー麺と───あ、あと味玉ときくらげトッピングで」

 

「チャーシュー麺に味玉ときくらげですね。少々お待ちください。」

 

「こっちいいですかー?」

 

「はい、ただ今。」

 

セリカにも見えるようにしつつ素早くオーダー帳に『チラ、あ、き』と走り書きし大将に渡して次の卓へ。食べかけのラーメンと餃子が置いてある為、オーダー以外の選択肢を残した質問をかける。

 

「お待たせしました、オーダーですか?」

 

「あぁいや、醤油が切れてて」

 

そう言って空っぽの醤油差しを持ち上げるお客さん。これは前のシフトの人…あるいはスタートの人補充忘れてやがったな。

 

「申し訳ありません、直ぐにお取り替え致します。」

 

醤油差しを受け取って一礼し、厨房に引っ込んで満タンに醤油が入った醤油差しを取り出し、先程の卓へ持っていく。

 

「失礼しました。」

 

「ありがとね」

 

ここで一旦店内が落ち着いた為、物言いたげなセリカを連れてホールを少し離れる。

 

「業務は大体こうです。後はお冷を出す、継ぎ足す、片付ける、卓を拭く、あと洗い物…くらいですね。何か質問はありますか?」

 

「質問って──」

 

「業務に関わる範囲でお願いします。」

 

「ッ……無い、です。」

 

「分かりました。何か不明な点があれば、遠慮なく聞いて下さい。」

 

それでも何か言いたげな顔をして、しかし何も言わずセリカは静かに頷いた。かと思えば、バッと顔を上げてつり目を若干更につり上げながらこう言った。

 

「今日、何時まで?」

 

「…シフトの話ですか? であるなら、ラストまでです。」

 

「……私も。終わったら話があるわ。」

 

「なんなりと。……え、ラストまでですか?」

 

「そうだけど? なに、悪い?」

 

「労働基じゅ……いえ、特には。ラストはやることが多いので、メモ帳の準備をお願いしますね。」

 

「分かってるわよ!」

 

そう言って、セリカは私をひと睨みしてホールへと戻って行った。

 

話、ねぇ…。あの一件からセリカともう1人は一心に訓練に励んでいるそうだし、やはり私の事は恨んでいるに違いない。どうぞ殴る蹴るでもすればいいと思うが……ラストまでとはどういうことだろうか。

確か18歳未満の人間には22時以降の労働は禁止されている……いや、これはあくまでアークの法か。キヴォトスでは平気?

 

だが、彼女たちとて心身ともに未熟な学生。いくら体が強靭とて、どこの世界も子供をラストまで働かせる事を容認はしないだろ…!?

 

いや、万が一問題なかったとして。そこまで働くだなんて一体どんだけ金が無いんだ、高校生だろう? ホシノの言動から推察するに、高一か高二。さっさと早めに帰って風呂入って寝ればいいだろ、親に仕送りでもしているのか?

 

厨房にいる柴大将に視線を向けると、困った様な笑みで返される。ふむ、柴大将が考え無しに高校生をラストまで入れる訳が無い。やむを得ない、並々ならぬ事情があるのだろうか。

 

苦労してんだなぁ、あの子。

 

 

 

 

 

 

 

「着替え終わったなら着いてきて。」

 

数時間経過し、紆余曲折あったが無事締め作業も終わり更衣室で着替えて外に出た矢先。

一足先に大将に帰されていたセリカが、いつかと同じ制服姿で私の目の前に仁王立ちしていた。

 

「わざわざ待っていたのですか? ……これは、失礼しました。」

 

「…あんた、仕事用の口調な訳じゃなくて素でそんななの?」

 

「質問の意図が分かりかねますが…?」

 

「だから……もう、いいわ! とにかく着いてきて!」

 

スカートを翻し、黒髪のツインテールを揺らして歩き始めるセリカ。

どっからどう見ても面倒事の予感に、私は内心ため息をついて後ろを歩き始める。

 

しばらく道なりに歩き、曲がり角を曲がって石階段を上る。その最中も、特に会話は無い。

上りきってアビドスの街並みを振り返る。すると夜空は星で満たされていて、今にも落ちてきそうな満月が私を見下ろしていた。

 

背後でガタン、と音がした。星空に背を向ける様に再び振り返ると、セリカが自動販売機のとり口から缶ジュースを引っ張り出しているのが見える。

それをぼうっと眺めていると、彼女は唐突に私に向けてそれを放ってきた。

 

「……ホシノ先輩から、あんたの事は聞いてるわ。もうとっくにアビドスを出たと思ってたんだけど、まだいたのね。」

 

「………」

 

「そのヘルメット、ノノミ先輩が用意してたやつでしょ? って事は、タイミング的に今日取りに行ったの?」

 

「はい。先日、ホシノと会いまして…成り行きで。」

 

「そう。ならもう、アビドスに用はないでしょ。なんでバイトしてんのよ」

 

ふむ、中々のつっけんどん。私も嫌われてしまったものです、当然ですけれど。むしろ、原因が明確な分幾ばくか気が楽。

アークにいれば、理不尽に嫌われる事なんて無限にありましたからね。『お前のせいで息子が死んだ』だとか。いや、絶対私のせいじゃねーし。違うニケのせいだろ。

『いつまで俺達は地下に閉じ込められているんだ』だとか。だから私のせいじゃねぇって。ラプチャーに言えよ。

 

いやはや、人間様共がアークからニケを追放しようと運動を行い始めた時はびっくらこきましたよ。なんだこれは、バカの世界選手権かと。誰がお前らのお守りしてやってると思ってんだ今すぐ爆撃してやってもええんやぞツルピカザルがと。

あわや思考転換聴牌でしたね、実際にした子もいました。

 

「……でも…あのー……その、えっと…」

 

「………?」

 

「──それは、今日のお礼よ! ミスした時、フォローしてくれたでしょ。………ありが、とう。」

 

そっぽを向いて、ぶっきらぼうにそう言うセリカ。彼女の言うミス、というのは……誤ってお冷のコップに身体が当たり、中身ごと倒してしまった事だろうか。

 

すぐさまお客さんにかかってしまった水を布巾で拭いて平謝りしたのだが……どうやら彼女はそれに責任を感じていたらしい。

新人はミスをするものだし、そんなに気負う必要は無いと思う。しゃーない、切り替えてけ。

それに、部下の責任は上司の責任だし。人間の責任はニケが負うもんだし。

 

「本当は、ここで今度こそとっちめてやろうと思ってたんだけど……もう、いいわ。思ってた程、悪い人じゃないみたいだし……。でも! これでチャラだなんて思わないでよね!」

 

「存じております。元よりフォローは私の役目ですので、礼も必要ありません。」

 

そう言うと、なにやら唸りながらガシガシと頭を搔くセリカ。なんだろう、ノミだろうか。

 

「そうじゃなくて……あーもう! あんた人の心とか分からないの!? とにかく、これで借りは返したから! あんたが借したなんて思ってなくとも、私とっては借りだったの!」

 

「そうですか……──では、有難く。ありがとうございます、セリカ。」

 

向き直り、そう言って腰を折り頭を下げる。

私の手に包まれている表面の結露した缶の中身が、ちゃぷんと音を立てて重心を揺らした。

 

「ひとつ、聞いてもいいでしょうか。」

 

「……なによ」

 

頭を上げてそう問うと、セリカは怪訝な顔をして応答する。私は普段、疑問を問いかける事は無い。が、何故かこの時はどうしても己の中の疑問を解消させる納得が欲しかった。知的好奇心と言うやつである。

 

「バイトをするのは、分かります。……ですが、高校生ともあろう貴方が何故ラストまで働くのでしょうか? 私には、それが分かりません。」

 

「何よ急に……まぁ、色々あんのよ。そこまで話してあげる義理は無いわ。」

 

月明かりに照らされて大きく延びた電柱の影が、私とセリカの間に横たわる。私はその太い線を踏み越えるようにして、セリカへと1歩歩み寄った。

 

「キヴォトスの生徒である以上、保証により最低限度の生活は出来ると柴大将が言っていました。ですから……こんなに遅くまで働く必要性など、皆無です。」

 

で、あるなら。彼女の働く理由は、生活費用を稼ぐ事でも遊ぶ金を用意する事でも無いのだろう。それよりももっと大きな……込み入った()()

 

「借金、ですか?」

 

「…ッ」

 

ここまで働いているのは、彼女がしている借金を返すため。大体これで合っているだろう。だが、これでは依然として疑問が残る。

 

はっきり言ってしまえば、アビドス自治区は辺境の地だ。ド級の地方、ド地方と言っていい。

さてそんな田舎に住むいたいけな少女に、ラストまでバイトを入れなければ返せない程の金を貸してくれる消費者金融は存在するのだろうか?

 

断言する、しない。

闇金ならギリ……とは思うが、その線も無し。何故ならキヴォトスには娼館が無いからです。女子高生の肢体という物もここでは担保になりません。

 

この子には社会的信用が無い。差し出せる担保も無い。

故に、彼女の借金では無い。

 

しかーし! 借金という言葉に彼女は反応していた。ならば導き出せる結論はひとつ!

 

「アビドス高校は借金をしていますね?」

 

「えっ……な、なんで!?」

 

そう、学校団体である! 彼女の所属するアビドス高校はまがりなりもこの地域を纏める政治組織。

アビドスの住民に金は貸せなくとも、アビドス高校自体に金を貸すことは出来る。何故ならば学校という組織はそれだけで信用に値するから。

 

だいたい、こんな砂ばっかの環境だ。借金くらいしてるだろ普通。

 

「アビドス高校の抱える莫大な借金を返済する為、あなたは地道にバイトに勤しんでいる。違いますか?」

 

「………もう、分かったわよ! 降参よ降参! そう、アビドスは借金してるの。それを返さなきゃならないんだから……あ、私がここでバイトしてるって事、ホシノ先輩とかには絶対言わないでよね。」

 

それはもちろん。あの人は後輩がバイトしてるとか知ったら絶対ちょっかいかけに行くでしょう。他のアビドスのメンバーも引き連れて。

 

それはそれとして。

働く意図は分かった。だが、まだ分からない事がある。

 

「……何故そこまでして、借金を返すのですか?」

 

「え?」

 

花の女子高生だと言うのに、砂を被って煙に蒸されて身を粉にして。遊びたい盛りだろう。それなのになぜ、そこまでするのだろうか。

 

「借金をしているのはあくまでアビドス。貴方に返済義務は無い……逃げようと思えば、逃げられるはずです。」

 

「逃げって……そんな事、する訳ないでしょ!?」

 

「何故ですか? 逃げようにも逃げ場がどこにも無いなんて、そんな事はありません。もっと年頃らしく過ごせる場所が、この地には沢山あります。」

 

身体の内側から噴き出すように、疑問が湧いて出てくる。これ以上は踏み込まない方がいい────そう思っても、今に限って私の口は何故か止まらない。

 

「何故自ら進んで過酷な環境に身を置くのでしょうか。私にはそれが分かりません。誰かに命令されている訳でも、ないと言うのに。」

 

今日の私はおかしい。そう自覚する頃には、全て手詰まりだった。

 

 

「───うるっさいわね!」

 

 

コアを貫く様な声が、静まり返った住宅街に響く。

ハッとして顔を上げる。そこで私はやっと、黒見セリカという存在をきちんと見た気がした。

 

「黙って聞いてれば好き勝手言ってくれて! 逃げられるのに逃げない理由!? あんたは逃げられる事だったら全部逃げるの!?」

 

そう言って、彼女は私に詰め寄って襟を掴みあげた。

 

「なんで逃げないかって!? そんなもん────」

 

私とセリカの身長差を埋める様に、彼女は掴んだ襟を引き寄せて私と目線を合わせて吼える。

 

「プライド以外に、何がいんのよ……!!」

 

「……………!」

 

「あんたは逃げたいなら逃げればいいじゃない。私は逃げないわ。ここが私の、私たちの居場所だから。」

 

そう言って、私を押し戻す様に襟から手を離す。言いたいことは全て言った、そう示す様に鞄を持ち直して身を翻し夜道を歩き出した。

 

「考えれば、ちょっとくらい分かるでしょ。あんたって本当に────」

 

 

人の心が、分からないのね。

 

 

去り際にポツリとセリカが言った言葉。締め括ったそれは、私が頭の中で勝手に付け足したものであって彼女は言っていない。

だが、思わせ振りに途中で切られたその文章に、私はそう言葉を付け加えざるを得なかったのだ。

 

……あぁ、なんというか。

私というニケは、人の心なんて物がとことん読めないらしく。

口ではあーだこーだ言いながらも結局自分の意思でここにい続ける、そんな彼女の心。言葉の裏腹。

それが全く理解出来ていなかった。

 

溢れ出て来るような知的好奇心。それは好奇心などではなく。

逃げられるのに逃げないというその心意気が、逃げ場の存在しなかった私には理解し難いものであっただけなのです。

 

考えてみれば、その解は導き出せたのかも知れません。

 

こんな場所で、わざわざラストまでバイトして来るような方です。

この式を通せば、並々ならぬ地元愛や繋ぎ止める何かがあると言うことは明らからしいのでは無いでしょうか?

 

その実私は彼女に会うまでその新人の素性を考察することも無く、ただ新人育成への不満をたらたらと渦巻かせていたのですから、とんだお笑い草です。

 

「……やって、しまいましたか。」

 

つまり、私は最初から間違えていたのです。私の浅慮が招いてしまった失言、それはきちんと思考すれば事前に正しい応対を思いついていたに違いありません。

 

……と、いうか。

 

式だとか、解だとか──そんな事を言って、アドリブで人の感情が読み取れる共感力が無い私は、やはり人間では無く。

 

所詮、ただの兵器であったのだ。

 

 

 

以後セリカと会話をすることは無くなり、業務報告や指導以外の言葉を交わさなくなった。

 

そのまま数日が過ぎ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドスに、()()と名乗る大人がやってきた。

 

 




黒見セリカと奥空アヤネとかいうバックグラウンドが未だに不明な暫定地元愛でアビドスやってるバケモノ

8話目にしてやっと本編時空入りです。長ぇ。

先生は男にするべきか女にするべきか。それが問題だ。

  • 男にするべき
  • 女にするべき
  • おねにーさん(性別不詳)にするべき
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