魔法先生ロボま!   作:カリドーン

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プロローグ

(………もう助からないな……)

 

死体や臓器が散乱する廊下で一人の女が息絶えようとしていた。体の左半分がぐちゃぐちゃになっても尚、生命活動が維持されているのは女の体の頑強さのせいか、それともその特殊な『装備』のせいであろうか。残った右手にはその装備に似た意匠が感じ取れる武器もあった。だが、女はこの会社に存在する幻想体(アブノーマリティ)とは違う。ものの数分で散らばった肉袋の仲間入りをする事は明白であった。

 

(……今思えば、私の人生は碌なもんじゃ無かったな………こんな事ならもっと酒飲んで、タバコ吸って、良い女を沢山抱くべきだったなぁ……)

 

女の人生は一言で言えば悲惨とも言えた。生まれは裏路地でありそこは控えめに言っても地獄であった。その日仲良くなった友が次の日に肉片一つ残す事なく死ぬ。夜には『掃除屋』と呼ばれる人間の解体を行う。人の命が吹けば飛ぶようなその場所で女は誕生した。その日その日を必死に生き延び、夜は誰の目にも留まらないよう体を小さくして隠れる。安眠などは存在しなかった。それなりに女が大きくなるとフィクサーになった。治安維持から人殺しまで様々な仕事をこなして女はこれまでの人生では得られないものを手に入れていった。酒やタバコ、そして良い女。娯楽も嗜好品も知らなかった女にはそれらは人生に彩りを与える神からの貢物のように感じた。毎日浴びるようにそれらを貪った。それでも、

 

(そんなものだけじゃあ、私の心は満たされなかった……)

 

女にとってそれは人生を麻痺させるモルヒネのようなものであり、己の心を誤魔化す。生きる目標も無く生きていく、死なないだけの人生であった。それは1級フィクサーになってからも続き、払拭できない虚しさだけが残った。そんな生きる屍のような生活を続けて数年。

 

(……この会社に誘われたんだっけかな……?)

 

Lobotomy Corporation。如何なる環境破壊も起こさず莫大なエネルギーを都市に供給するエネルギー会社。そんな会社に就職する事を許されたのだ。女は何かの間違いかと思ったがL社からの手紙に違いなく、やる事もやりたい事も無かった女はタバコを一箱握りしめてL社に向かった。それが自身の最期をも決定付けたことも知らずに。

 

(………バケモンの機嫌取りにバケモン退治、退職=死……改めて考えるとマジでクソだなこの会社……いやまあ、他の会社もクソだけど)

 

この会社においてエネルギーを生み出す方法は幻想体と言われる異常存在からエンケファリンと呼ばれるエネルギーを抽出するという方法が取られている。しかしこの幻想体と呼ばれる存在が酷いものが多い。掃除や観察を行い周辺環境を整える『洞察』、食事などの幻想体の生理的欲求を満たす『本能』、対話や娯楽で遊んだりする幻想体の社会的欲求を満たす『愛着』、暴力や暴言などの存在と欲望を抑圧する『抑圧』、これら4つの作業を幻想体に行い、エンケファリンを抽出するのだが………この作業、死人が出る。好きな作業で無いと即座にこちらに襲いかかるものや脱走するもの、脱走した挙句施設を半壊するもの。職員は毎日誰か死ぬ。裏路地よりはマシだがどんぐりの背比べでしか無い。退職は死ぬことで初めて退職が許される。ブラックも良いところのドブラック会社である。そうして今日、女の順番を迎えた。

 

(私の最期はまあ、こんなもんか……まあ、私なりに真面目には働けたのかな?)

 

 


 

 

『管理人はなんでブラック・スワンを着せた状態で罰鳥の鎮圧に向かわせるんだよしばくぞ!』

『ねぇ、私の同僚のジェイコブが管理人って連呼してるんだけど……あっ怪物になった』

『いや、ゲプラー様、あの、その、いや絶望の騎士ちゃんにセクハラなんかしてないですよ……いやおっぱいでけぇとは言ったけどあまって腕はそっちに曲がんないまってまって』

『あのメスブタまた正義拗らせて暴れやがって!!行くぞお前らあのメンヘラをぶちのめすぞッ!!!』

『白夜と静かなるオーケストラと何もない同時脱走はルールで禁止スよね』

『ゲプラー様、あのもうレティシアちゃんに自慰を教えたの謝るのでそろそろ下ろしてもらって良いですか、頭に血が登ってきたんですけど……』

『うぁぁぁ き…汽車が廊下を練り走ってる!管理人!ちゃんと切符受け取るの指示しとけよボケぇっ!!』

 

 


 

 

(…………うん…………まあ………はい)

 

くだらない走馬灯が女の中に駆け巡る。女の勤務態度は控えめに言ってクソである。口は悪く、管理人にも罵倒をする。女性型の幻想体にセクハラを行う。酒とタバコの匂いが染み付いて臭い。はっきり言ってこれでもし弱ければ無名の胎児の餌である。しかし、仮にも1級オフィサーの女は職員の中では群を抜いて強かった。様々なアブノーマリティから抽出された武器や装備を使い熟し鎮圧数は一線を画していた。そんな女でも大量かつ強力な幻想体を相手には敵わなかった。

 

(………死んだら何処へ行くんだろうか………まあ、結構私なりには頑張った……んじゃあ…………ない……………かな……………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

「………釣れるかアリナ」

「いや釣れないな」

 

イギリスのウェールズにある小さな村の外れにある大きな池で釣りをしている少女がいた。髪は金髪の髪を腰まで伸ばしており、凛々しい顔をしていた。名前はアリナ・スプリングフィールド。3歳である。

 

「すまんなアリナ、お前は歳の割に聡明だ。どうしてもお前よりネギに時間割いてやらねばならなくなってしまう………すまんな」

「いや、気にしてないよ。ネギもまだ3歳だ、甘えたい年頃だろうし甘えさせてやりなよ」

「……お前も3歳だろうに……」

 

アリナには前世があった。クソみたいな裏路地で産まれ、クソみたいな会社で体半分潰されて生涯に幕を閉じる、そんな前世がある。そんな前世のせいか子供のように村の人達に対して甘えようとは思えなかった。前世も今世も合わせれば年齢は四十路手前になるアリナの頭に甘えという文字は無かった。ベッドの上の女相手以外。

 

「儂は先に帰る。アリナ、お前ももう少ししたら帰ってきなさい。もうすぐ外も暗くなる」

「んー……あと30分くらいしたら帰るよスタン爺」

 

スタン爺と言われた老人はアリナに一声かけた後、先に村に帰っていった。小言が多い老人ではあるが、それは心配からくるもの。それを理解していたアリナはとてもむず痒く感じた。前世にそんな人物は殆ど居なかった故である。

 

「………そろそろ帰るかな」

 

かつてL社にて懲戒チームのリーダーを務めていた女、アリナ・スプリングフィールドは空っぽのバケツとボロい釣竿を持って村に帰っていったのだった。




久しぶりに小説書いた。
これからちょくちょく書ければ書いていきます。
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