公儀理家の朝は早い。……などということはない。
ええ、大遅刻よ!ブラシで髪をとく。とにかく大急ぎで。
机の引き出しからブロッコリーエイトを取り出すと、一本口にくわえ、スクーターに大急ぎで跨る。やっぱり夜更かしは人類の敵。もし根源に到達することがあったなら、人理から夜更かしを永久に滅ぼさねば。
走って、走って──もっと速く。
駐輪所を足早に立ち去ると、大急ぎで校舎へ走る。早く教室に入って先生に謝らないと──。「お、珍しい。公儀理、遅刻かァ?遅刻なのかァ?」歓喜極まりなしといった調子で、背中越しに声を掛けられてぎょっとする。なんでこの
「お早うございます、高須賀先生!でも私授業急いでるんで!」
「まあ待てよ、公儀理ィ。今から急いでも終礼15分前の授業には間に合わない。どうせ授業に間に合わないなら途中からハンパな授業を聞くより、クラスメイトにあとでノートを見せて貰った方がマシ。人生は光陰矢の如し。タイムイズマネー。そんな話もあったりなかったりするんだよなァ」
「はあ……」えーと、この人、一応進路担当よね?「ごめんなさい、私、先生のオモチャじゃないので。とにかく私急ぐから……」
「ちぇー公儀理はいつもつれないなあ。ね、そう思わない、依木?」
ーーー
あの表紙は『人間の絆』かな……。
薪は生徒の道を踏み外させるこの
こっちも挨拶を返すと、薪はまた本に目を落とす。
私は九死に一生の機転で女悪魔から逃げ出す。
「耳学問は目学問に千倍するっていうでしょう、先生?
私は1分でも長く教師の教えを受けたい真っ当な生徒なんです!」
自分でも理屈になってるのか、なってないのか分からない早口上でその場を切り上げる。
こんな
「なにあれ?公儀理ってば何か変なもの食べた?」
「いつも通りの公儀理だと思います」
後ろ手にそんな会話が聞こえて、頭が沸騰しそうなほど恥ずかしいけど。
まあ、いいわ。
あの女悪魔を振り切って、教室に行けるんだもの。魔術師には時間が足りないの。
そう。
今のは肉を切らせて骨を断つ高等話術なのよ。実を取って名を捨てた魔術師としての鑑なの!
ーーー。
ーーーーーー。
ーーーーーーーーー。
学校が終わって、眠りに落ちる。
誰かの夢。
誰の夢?
こういう誰かの夢を見ることはそんなにないのだけれど、最近は多いような気がする。
すごく優しい声……。
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otorhinolaryngological
immunoelectrophoretically
psychophysicotherapeutics
thyroparathyroidectomized
pneumoencephalographically
radioimmunoelectrophoresis
psychoneuroendocrinological
hepaticocholangiogastrostomy
spectrophotofluorometrically
pseudopseudohypoparathyroidism
願っています。私たちは願っています。彷徨える一切の
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翌日。
気持ちのいい朝。
目が覚めると私は女の子の亡霊に憑かれていた。
亡霊はエイレーン・ホームズと自己紹介した。
「うーん、なんて言えばいいのやら。つまりね。キミたちの世界はわたしの世界からみて並行世界?みたいな?ものなんだけど……」
「ちょっと待って。話を整理させて頂戴。あなたは未来の、その、英霊?っていうのは本当なの?」
「その認識で構わないよ」
「ちょっとまって、頭がまとまらない……。聖杯戦争という魔術儀式の存在は先生から聞いていたけど」
「うん、こちらも少し待って欲しい、話を整理させて。さっきの話だけど。いくら何でもデタラメすぎる。もちろん、そちらは私のいた世界とは異なる平行世界だから、多少のズレはあるもだ。でもね、インドと中国に固有の魔術体系が存在しないというのは、控えめに言って嘘。にわかには信じられないなあ。
むぅー頭が沸騰しそうだよぉ!ああっ、でもこれだけは、はっきりさせておいていいかな?
君の先生は本当に信用して良い人なのかな?」
「まあ、確かに根源到達をあきらめた、胡散臭い魔術師ではあることは確か。うん」
まあ、たしかにそうね。センセイならありうるかも、と自分の師匠をあっさり疑ってしまう。
ええ、でも、それでも、一つのもやもやが晴れない。
「私は頭の中でささやく妖精さんをどこまで信用していいのかしら」
シャーロック・ホームズの縁戚を名乗る少女は、何度も考えるように、「うぅん、うぅん」と繰り返すばかり。
本当にあのホームズ一族の縁戚なのかしらね。マイクロフトの方かしら、ホームズの方かしら。きっと奥さんがとんだ粗忽ものだったのね。ま、本物だとすれば、だけれど。
すると、少女は突然豹変した。
「はん、実に君はバカだな。どうして私が君に存在証明しないといけないのかな。むしろ魔術師なら私の存在分析くらいできて当然でしょ?」
少女は突然手のひらを返したように私を中傷してくる。ああぁ。言っちゃうかあ、そういうこと。
「うん、ムカつくから一発
「ええええええええええ!?」
でも、私はオトナなのよね、悲しいことに。じゃあ、ちょっと。
「うん、今のは冗談だから気にしないで。ちょっとした遊び心。ええ、勿論。できるわ。あなたの存在は<座>とやらに登録されているはず。先生がくれたこの蒼のペンデュラムが反応しているもの」
蒼い色の鉛のペンデュラムは8の字を描きながら目の前の空間を舞っている。
このペンデュラムは特定の神秘に悪意があるか、敵意があるか、覆蔵心があるかをYESかNOだけ知らせてくれる何だかよく分からないけど、重宝するのよね。ただ、これを使うときは、大抵、くだらない厄介ごとに巻まれるんだろうなあというジンクスを感じた時だけなのだけど。
「まあうちのセンセイは、ちょっとした人でね?こういう破格の礼装はたくさん持っているの。
もっと複雑な駆け引きを予想していたのだけど、とりあえずカードを後生大事に抱えていてもしょうがないものね。ホールドしていられるカードは限られているのだから。私はオトナであり、かつ同時に特級のせっかちなのです」
少女はすこし潤んだ涙声で、大きく安堵の溜息をついた。
「で、探偵さん。あらためてこんにちわ。こんなしがない労働階級の三流魔術師に何の用かしら?」
「ふ、ふーん、それがどんな礼装かは知らないけど、私の言葉を信じてはくれるわけだね。中々お人よしなんだなあ、ふふふ」
前言撤回しようかしら。今すぐ
「では本題に入ろうか。実はね……」