「あっ、いや待てよ、そうだな。ひみつを打ち明ける前に、姿を現さないのは
少女の声がそう告げると、私の目の前には一体の人形が現れた。
人形だと思った。本当に。
そう思えることがまるで当たりまえのように彼女の容姿は完璧だった。人間という
肩まで短く切った金髪。
透き通るような碧眼。
豪奢な精細な意匠を施された少女服。
本当に未来の人物なのか。
なんだったら19世紀の英国からそのままふらっとこの国に立ち寄ったような。そんな出で立ちでエイレーンと名乗る少女は姿を現した。
「うんうん、私を見る人はそうして、驚嘆の心を以て私に挨拶するんだ」
少し、満足した風に、それでもいつも通りのことさ、とでも言いたげな顔で少女は微笑した。
なるほどね。何がなるほどなのか自分でも分からないけれど。そういう手合いかあ。
ああ、そう。うん。理解した。
あの時、
嘆息を漏らしながら、私はしぶしぶ覚悟を決める。
「ん、今の溜め息は何かな?ちょっと失礼だぞ、君」
「ううん。こっちのこと。失礼、気に障ったのなら謝罪するわ。未来の英霊さん。あなたがとてもきれいなので、ちょっと息をすることを忘れてしまったの。
それで、さっそくだけどさっきの話の続きを」
エイレーンは一瞬、目をぱちくりさせて、それから
「おほん、では。
喜びたまえ、
これは依頼申請だ。顧問探偵である私が、探偵ならざる君に事件の解決を依頼するのは正直いって悔しいが……これも私のマスターの命令でね。
君にはこの度の
つまるところ、この戦いにマスターとして参加して欲しいんだ。私のマスターは中立かつ監督役をつとめていてね。立場を明かすことはできないが、君の是非とも参加して欲しいそうなんだ。報酬が何かはもちろん分かっているね?」
「ええ。報酬は消えぬ業火と絶望、悲嘆。そんな話をセンセイからは聞いたわ。聖杯には人の願いを汲むだけの機構は本来組み込みえない。あれは万能の願望機にみせかけた小終末装置」
「よろしい正解だ」
「はぁ~やっぱり厄介ごとなのね。まあいいけれど」
「やっぱりとは何なのさ。そうかさっきの溜息はそういうことだったのか。些か自尊心を傷つけられた」
エイレーンは頬を少し膨らませる。
「細かい事はキニシナイ、キニシナイ。それで、もう最速でこの艱難辛苦を乗り越えるから、準備をして頂戴」
「……君と話していると私の心がかき乱されるなあ。あーまたワッサワッサしてきた……。
まあいいか……、では君に仮想令呪を授けるから、使い魔を召喚して欲しい。術式くらいは知っているでしょ?」
エイレーンはか細い右腕を指し出す。
んーと、これはこっちも右腕を指し出す流れ?
「そうだ。それでいい。仮想令呪は三画しかない。大事に使い給えよ」
私の右手に花を模した紅い印象が浮かび上がる。
私は左手で小さな炎を呼び出して木の元素と連動させる。
炎は黒い灰を落としながら私の部屋に円陣を描き始める。細かな
よし、準備オッケーね。
「────告げる。我は東方にありて、法の頂きを目指す者。
我に力を。そして神々よ、
空気が静まり返って、音が消失する。頭に三半規管をゆすぶられたような、軽い
────静寂だけがその場を満たす。
ややあって。私は背後に神秘の気配を感じる。うん、どうやら成功したみたいね。私は後ろを振り返る。
そこには───。銀髪に髪をおさげに結った中性的な女性が跪いて頭を垂れていた。
彼女は口を開く。
「問うことは無粋なれど、これもまた作法ゆえ。敢えて問い奉る。汝は我が主なりや、いなや」
「
「私は───アーチャーの身にて。」
「弓兵ね。真名を問うても?」
「承知。私はインドラの娘、
ふーん、よく分からないけど、インドラの娘か。良いカードを引き当てたんじゃないかしら?
彼女はうつろなまなざしでエイレーン見て。
「失礼なれど、あるじ。そこもう一人いる少女はサーヴァントではないのですか?」
エイレーンが承けて答える。
「その通り。私は未来の英雄にしてキャスターのクラスに属する。エイレーン・ホームズさ」
両腕を汲んで、エイレーンは誇らしげに身を反らす。
とりあえず私からも何か言っておくか…。
「私の名前は
桓雄は表情を変えず、うつろな表情のまま、微笑んでいる、よう、な気がする。
「それはこちらも同じ心にて。ではさっそく、この戦いに勝利しましょう」