アーチャーが無表情で”微笑む”と、うずうずしていたエイレーンが口をおおきく開いて。
「で、わ!さっそくランサーと対戦してもらおうか。ランサーおよびそのマスターを探し出しそのマスターと接敵してもらう」
監督役のマスターの従者を名乗っておいてエイレーンはこともなげにいう。
「あれ、あなたのマスターは中立の立場じゃなかったの?」
まあ、大体分かっているけれど、一応、ね。
「おやおや、
エイレーンは、ふふん、とばかりに威張って言う。
「中立とは一体、いかなる観点から言いうるかの講義をここで行なってもいいが、そんな野暮なことは言いっこなしだ。
ふふ。私は未来の英霊。私のマスターは監督役。それなのに、特定のマスターに聖杯の処理を依頼しているんだから。
そこは、君のような
あまりの身勝手に呆れてものもいえないけど、自分で決めたことだものね。
面倒事に、
「そうね。それで?ランサーとそのマスターの居場所は分かっているのかしら?
それと聖杯の破棄に賛同したマスターはわたしのほかに誰が?」
「うん。貝木市内の民家にランサーのマスターはいる。彼も聖杯の破棄には同意している。ゆえに彼と共闘し、無事依頼を完遂して欲しい。
接敵といったが何、摸擬試合みたいなものだ」
ふぅと……エイレーンは息を漏らす。
「そして、聖杯の破棄に同意したマスターは彼だけだ。他のマスターは対話を拒否した。
ゆえに、わざわざ君のようなもの好きを探し出して、マスターとしてスカウトしているわけ。聖杯が自らの意志でマスターの欠員を埋めてしまう前にね」
ふぅん、なるほどね。アーチャーにも意見を聞こうかな。
「まあ。だいたい呑み込めたけれど、アーチャー、あなたからは何か言いたいことはある?」
アーチャーは相変わらず無表情だけれど、少し思いつめた顔で口を開く。
「その。私から申し上げることは些か私事につき、多少ためらわれることにて。
されど、推して申し上げるならば、こたびの戦いに、インドラの縁者はおられますか」
へ?と私とエイレーンは少し拍子抜けしてしまう。
「いや、今回のマスターがどんなサーヴァントを召喚したかはわたしの知るところではないさ。
しかし、何か気になることがあるのかい?」
ますます思いつめたような、気がする無表情のその表情で、彼女は。
「いいえ。私事につきこれ以上申し上げることはなく。ただ、ぜひお会いしたい方がおられるのみにて」
まあ、英霊だって聖杯儀礼の呼びかけに応じる以上、願いはあるものね。
「もしかしたら、これから敵対マスターと会敵する内に出会えるかも。
でも、それはこの儀式の性質上、友好的なものでないと考えるのが自然。それでも貴女はその人と会いたいの?」
「はい。たとえ
「いったい誰に会いたいのかしら?」
「いいえ。いいえ。余りに
「そう?なら無理には訊かないことにするわ」
うん、これ以上、無理に訊きただすことでもない。いまは彼女との信頼関係をもっと強くしておきたい。
それに友好的な”第二印象”を作るのはしんどいし、ね。
「それじゃあ、エイレーン。そのランサーのマスターさんに会いに行くわ。場所を教えて頂戴。事善ならずとも急ぎて為すべし、為すべし。さっそく向かいましょう!」
私はエイレーンに教えられた地所を目指して、スクーターで進むことにしたのだけれど。
三十分ほどした道中。
奇妙な光景を目にした。
「ねえ、エイレーン?あれって……」
私が左手で指指した先では。
巨大な切っ先の長物を構えた戦士が、空中からの赤い青い色とりどりの閃光を躱しながら、人家から人家へ屋根伝いに回避しながら移動していた。
戦士が躱した閃光は家々の屋根を砕き、粉塵が舞い散る。
私はスクーターを右回りに向けて急停止させる。
槍と思しき大きな武具、強靭な跳躍力、あれは間違いなくサーヴァント。
それが魔術師
そうか、こんなに強大な魔術を難なく行使できるってことは向こうもサーヴァントか。
「しまった。先に手を打たれたか。どうやら、ああ、その通り。アレはランサーだ。つまり……」
苦々しげにエイレーンはつぶいた。
そのとき突然、私とエイレーンの会話を断ち切って、
アーチャーから轟音と空気のうねりが、
空中の魔術師にむかって発せられていた。
アーチャーは宝飾をたたえた金色の弓から矢をひとつ放った後だった。
凄まじい速さで空中の魔術師の元に届いたはずの矢撃は、葉脈をたたえた木の葉のような壁に阻まれて、虚空の魔術師には届かない。
あんなに
……とてもじゃないけど今相手にすべきじゃないわね。
「チッ、未熟」
大きな弓を自ら消失させたアーチャーは、静かだけれど激しい敵愾心をむき出しにして嘆息する。
声音は静かなのに、微弱な恚りを孕んでいるのが感じられる。
「待って、アーチャー!こっちは防御体勢が……今反撃されたら……!」
「いえ、心配は無用なれば!」
アーチャーは龍の意匠の描かれた厚手の大きな麻布を右手に持ち、左手に蒼い太刀を携えて相手に向かって行こうとする。
大きく身を屈めて今にも跳躍しそうな感じだ。
ほの見える顔はいつもの無表情。
けれど険しい気配が感じられた。
まずった。この子、ちょっと冷静さを欠くタイプだったか……。
しょうがない、勿体ないけれど初手でやられてしまっては元も子もない。
令呪……!
花の紋様の令呪が淡い光を放った刹那、その一画を消失させるとアーチャーは屈めた身を起こす。
「………………どうか寛恕を。いささか主に礼を失した
「やれやれ、見ていて冷や冷やしたぞ」
エイレーンはわたしを促す様に目配せする。
そうね、今は此の場を離れないとランサーとアーチャーどっちも共倒れになる。
「この場から撤退。一時避難するわ。アテはあるからそこで対策を練りましょう」
「ああ、そうするとしようか」
「エイレーン!スクーター任せた!」
「はぁーーーーー!??」
「アーチャー!私を抱えて迅速に撤退すること!!いいわね?」
「御意!!」