来る世界を間違えた艦   作:無名戦士

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双胴戦艦近江

全長:423m
全幅:68m
排水量:13万4000トン
速力:64.9kt
主機:標準タービンε
ボイラー:融合炉IV
大型ヘリポート
装甲:対51cm完全

兵装
主砲:75口径61cm三連装砲 6基
副砲:75口径15.5cm三連装砲 8基
対空火器:35mmCIWS 8基、75口径12.7cm高角砲 30基
各種ミサイル発射VLS多数

艦載機
ハウニブーIV:2機
CH-47 チヌーク:6機

補助兵装
無限装填装置
超重力電磁防壁
自動迎撃装置III
自動装填装置γ
謎の装置ζ
イージスシステムIII
他多数

【挿絵表示】



第二話:対潜戦闘

 副長の後を追い、艦橋に連れてこられた私が最初に見せられたのは羅針盤であった。

 何の変哲もない、羅針盤だ。配置されていた位置も、形も私の記憶通りの物であったが一つだけ異変があった。

 

「羅針盤が……」

「我々が目覚めてからずっとこの調子のようで……」

 

 羅針盤がぐるぐると回転しているのだ。

 初め、私は自身の目を疑った。副長が説明してそれが現実に起きている事だと私は理解する。

 普通なら、ありえない。何らかの磁気異常であるというのは間違いないが原因が何なのか見当もつかない。

 

「……天測は?友軍との通信はどうなっていますか?」

「現在全周波数帯にて友軍との通信を試みていますが、通信が取れない状態が続いています。天測による現在地の推測も……」

「できてないと?」

「はい……」

 

 静かに、彼は頷く。

 彼らが目覚めた日の夜、天測で現在地の特定を試みたのだがそれも失敗に終わった。なぜなら空に浮かぶ星々は我々が知る物ではなく未知な星々が天空に浮かんでいたのだ。

 現在位置の特定も友軍との交信も出来ない今、我々が出来る手段はただあてもなく漂流し続けるだけだ。

 

「三か月分の食料が確認できましたがそれまでに補給をしなければ我々は……」

「飢えで全滅、か。八方塞がりですね……」

「はい、幸いなことに各種兵装は異常なく動作しております。各種レーダー兵装も異常ありません。もし仮に帝国軍と遭遇しても問題なく対処できるでしょう」

 

 いくら船が強力でも飯を食えなければ意味はない。

 機械化が進んだこの「近江」は人の手で動かされている。その事実は今も変わらない。

 食事の量を減らせば乗員の士気は落ち、最悪反乱の可能性だってありうる。そんな事態になる事は絶対に避けなければならない。

 しかし幸いな事に燃料、弾薬の補給は心配ない。機関が核融合炉である事と、解放軍の秘匿兵器である無限装填装置が搭載されており突発的な戦闘が起きても補給の心配はいらないのだ。

 この艦が損傷を受けたとしても何度だって修理は出来る。双胴戦艦近江()が常に最前線で戦い続けることが出来た理由もこれだ。

 

───シュルツ艦長なら、どうする?

 不意に、艦長の顔が思い浮かんだ。

 彼なら、彼ならこの事態に対処できる妙案を思いついていたのかもしれない。不可能と思われたことを何度も成し遂げた実績がある彼ならば……。

 これ以上考えるのを、私はやめた。今いない人間に頼ったところで何になる。今やるべきことは乗員と艦を守る事、その責任が私にある。

 

「しっかりしないと……」

「………」

 

 自分の言い聞かせるように、そっと呟く。

 兵器としてならともかく、人としての経験があまりにもない。頼れるのは私が見て来た戦いの記憶のみ、見よう見真似だけでこれからはやっていかなければならない。

 チラリと副長へと視線向けた。私の独り言が聞こえる距離にいるのだが何も言わなかったのを見ると、気を遣ってくれたようだ。

 その気遣いに私は内心感謝の礼を言った。

 

 

『感1!左70°より所属不明潜水艦が高速接近!』

「……っ!」

『速力45ノット、距離6800、接触まで5分30秒!』

 

 潜水艦、その言葉に艦橋……いや、艦全体が緊張の空気を纏った。

 さらに水中速力40を超える超高速潜水艦ともなると超兵器の可能性を疑わなければならない。

 超兵器。人類の技術の枠を遥かに超えた兵器の総称、そして全てを撃破しなければならない存在。もし本当に接近中の潜水艦が超兵器であるのなら、私達は相当な覚悟を持って事に当たらなければならないだろう。

 

「艦長っ!」

「分かっています。総員戦闘配置、対潜戦闘用意!機関増速、回避運動!」

「おもーかーじ30°!」

「おもーかーじ!」

「対潜戦闘よーい!」

 

 奇襲を受ける形となったが混乱を招くことなく艦が動き出すのを見て、私は安堵した。

 少なくとも、戦う事が出来る。いかに強力な兵器を持っていてもそれを最終的に動かすのは人だ。人がまともに動かなければどんなにそれが強力でも瞬く間に海の底に沈むのだ。

 既に経験済みとはいえ、目覚めて早々に海の底で眠るのは御免だ。

 

「ソナーに異常反応は?」

「ありません。反応の大きさから超兵器に匹敵するサイズのようですが、スクリュー音も確認できなかったようです」

「私たちが知る超兵器、ではないようですね。対空、対水上警戒も怠らないでください」

「はっ」

 

 サイズ、速力ともに超兵器級、されど超兵器特有のノイズは確認されず……。

 相手がどんな武装を持っているか分からない以上、迂闊にこちらから攻撃は出来ない。……いや、ここは最大戦速で振り切りつつアスロックで相手の出方を見るべきか。

 いずれにしても45ノット程度の速力なら十分回避できる。潜水艦としては驚異だがその位置が分かっている以上、落ち着いて対処すれば問題ない。

 油断をしなければいい話だ。

 

「艦長、配置着きました」

「まずは敵の脅威度を測ります。艦首右VLS解放!アスロック、攻撃はじめ!」

 

 数秒後、対象へ向けてアスロックが発射された。

 暫く飛翔した後、ブースターと分離、パラシュートでゆっくりと着水し捜索パターンに従って目標へと追尾を始めた。

 

「さて、敵はどう動きますかな……?」

「まだ分かりません。敵の様子は?」

「ソナー員の報告によりますと、アスロックが着水しても回避行動はとっていない模様です」

「魚雷命中まであと30秒!」

 

 どういうことだ?

 着水した時点で本艦がアスロックを撃った事は既に露見している筈、なのになぜ艦めがけて向かってくる。

 超兵器と言えど潜水艦であれば撃沈に至らずともその速力が落ちていた。

 そもそもなぜこの距離で攻撃して来ない?ここまで接近していたのなら魚雷やミサイルで攻撃してきてもいい距離だ。

 

「命中まであと10秒!……5、4、3、2、1、命中!」

 

 さて、敵はどう出る?

 超兵器並のサイズで45ノットも出せる潜水艦にもなると魚雷一発では撃沈まで行かないはずだ。

 浮上して砲撃戦を挑んで来るか、魚雷戦でこのままやりあうか。砲撃戦なら我が方が圧倒的有利、魚雷戦なら相手の方に分があるかどうか……。

 弾薬が尽きることを心配しなくてもいい以上、どちらに転んでも問題ない。魚雷戦なら対潜魚雷を撃ち続ければいいだけの話だ。

 力押しだが、確実な戦法。補給の心配がいらない近江だからこそできる戦術だ。

 その時だった。

 

『こ、こちらソーナー!目標は潜水艦ではありません!生き物のような声が目標から聞こえます!』

「どういうことだ、詳しく説明しろ!」

『魚雷が命中した際悲鳴のような声が聞こえました。間違いありません、今も声が聞こえます!』

「副長、敵船の様子はどうですか?」

「……どうやら敵は潜水艦ではなく生物の様です。まさかこんな事が……」

 

 その報告に、私は驚いた。

 私たちが戦っていた相手が潜水艦ではなく、生物であったという事に。超兵器サイズの生物は聞いたことも、見たこともない。

 そんな事が、ありえるのか?現実に?

 だけど今まさに現実として本艦と対峙しているのだ。現実として受けれなければならない。

 

「まさか潜水艦ではなく、本物のリヴァイアサンだったとは。驚きましたな艦長」

「相手がなんであれ敵は敵です。油断はしてはいけません」

「はっ。ソーナー、目標は今どうなっている?」

『今も尚苦しんでいる様です。……あっ、目標移動開始!再度本艦に向け接近を始めました!現在浮上中、間もなく姿を現します!』

「目標の浮上を確認!……本当に生き物だ……大きい……!」

 

 浮上した目標の外見は私の知識に持つ生命体とは異なる外見をしていた。

 まるで牛のような顔に白と深緑の班模様、翼に近い形状をもつヒレ……明らかに地球の海に生きる生物ではない外見だ。

 その表情は見るからに怒りに満ちており、凄まじい本艦に近づこうとしていた。

 

「対水上戦闘よーい!副砲で対処してください!」

「はっ、対水上戦闘よーい!右砲撃戦準備!」

「目標との距離3500ヤード!」

「副砲の砲撃間隔は5秒、準備出来次第砲撃を開始してください!」

 

 右舷の75口径15.5cm三連装砲4基が一斉に動き出し、迫りくる生物へ照準を合わせる。副砲の装填速度は0.1秒、その気になれば骨の一本も残さず目標の撃破ができるだろう。

 しかし相手は魚雷の攻撃に耐えた生物、15.5cm砲弾が聞かなければ主砲による砲撃も視野に入れる必要がある。

 

『右舷副砲群目標にロック完了、砲撃間隔5秒!うちーかたーはじめ!』

『うちーかたーはじめ!』

 

 同時に、砲撃が開始された。

 計12発の砲弾は放たれ、目標へと飛翔する。命中率が高く、爆撃機の迎撃にも使われていた副砲の精度は非常に高い。

 しかし、目標は砲撃と同時に海中に潜ってしまう。1発が目標に命中し、その他の砲弾は周囲に水柱を発生させた。

 

「目標に命中!効果甚大、されど依然として本艦に接近中!」

「目標との距離3200ヤード!」

「砲撃を継続、何としてでも目標を無力化してください」

 

 数秒後、副砲が砲撃し再び目標に砲弾が命中した。

 あまりの巨体さが故にその外皮は軍艦の装甲板に匹敵するのか、一斉射目での無力化は失敗に終わった。それでも、砲撃は効いている様で泳ぐスピードは低下し始めていた。

 生物の目はまるで親の仇を見るような目で私たちを睨みつけ、砲撃による大きな傷を受けても尚その闘志は失われていない。

 怒りに我を忘れているのは明らかだった。

 

「目標に命中!目標の航行速度が低下しつつあります!」

 

 最終的に、その生物は三斉射目の砲撃でようやく無力化された。

 こちらに対する被害は無かったものの、乗員に与えた衝撃は超兵器以上のものとなる。艦橋は安堵の空気が流れ、静寂が支配した。

 何せ、人の姿になって初の戦闘なのだ。相手が生物でミサイルや砲弾が攻撃してきた訳ではないが、それでも実戦を経験した事に間違いは無かった。

 

 

 

「すげぇ……こんなにでかい生き物始めて見たぞ……」

「なんか牛みたいだな。うまそう……」

「お前それ腹壊すぞ……。にしてもへなちょこな見た目してるなぁ」

「こんなのが本当にいたなんて信じられねぇ……」

 

 既に息絶えた生物を前に群がっていた乗組員が口々に感想を口にし、見上げていた。全長200m超、全幅30mという巨大生物を間近で見る彼らの姿はまるで動物園に来た子供のようだ。

 

「まったく……、貴様ら状況が終わった途端にこれか!」

「まぁまぁ……」

 

 群がる乗員に副長は目くじらを立てる、怒声を浴びせる横で私は彼を宥めさせていた。

 叱られるのを承知で来ていたのだろうが、わざわざ甲板に来てまで見にくる彼等の気持ちもまあ分かる。なんせ都市伝説的存在が目の前に存在しているのだから一度目にしたいのだろう。

 副長を宥めながら私は巨大生物を見た。戦艦に匹敵する巨体を持つ生物、明らかに地球の生き物ではない。

 

「本当に大きいですな……」

 

 副長の口から洩れた言葉に、彼女は頷いた。

 戦闘には勝てた。しかし、それだけだ。

 勝っただけで元々あった問題が解決したわけではない。食料の補給の目途が立って初めて一息できる。

 乗員の中にはこの怪物を食料補給源にしたらいいじゃないかという声も出ているが、人にどんな影響を与えるか分からない以上迂闊に手を出す訳にもいかない。

 

「艦長、やはりここは我々が知る地球とは別の世界ではないでしょうか?」

 

 副長のその発言に、私は頷いた。

 不可解な挙動をする羅針盤、自分たちと知る物が違う夜空、突如襲ってきた正体不明の巨大生物……。どれも私が知っている地球で起きる現象とは思えない。

 私たちがいる世界地球だとしても、別の世界だとしても私の役目は変わらない。

 この艦と、乗員を守る責任が私にあるのだ。

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