バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩 作:茉森 晶
突然ですが、ラブコメをアップさせていただきます! 7話までの短編です。
高身長美人インフルエンサー ひよの先輩が、ちっこい系サエナイ鷹也くんの声にフニャります(?)
よろしくお願いします!!
【挿絵表示】
「ほら、見なよ。『美男美女』が来たぞ!」
昼下がり、学生がパソコン使用するためのPC実習室。誰かが小声で叫んだ。
そんな小さな歓声がそこかしこで上がる中、文字通り『美男美女』なペアは空いた席に座り、接続したタブレットを覗き込みながら、仲良さげに打ち合わせを開始する。
男子の方は185cm、女子の方は170cmジャストくらいの長身。
それだけで目立つには十分だというのに、整った顔立ちに明るい髪色。
アイドルか、モデルか、そういう存在でなければ現実感がないと思えるまでの圧倒的ビジュアルパワー。
「マジでこの学校にいるんすね! スゲー……俺、有名人見たの初めてです!」
「言った通りだろ? 我がパソコン部は、このPC実習室を優先的に使えるからさ。ウチに入りなよ」
どうやらパソコン部が新入生を勧誘しているらしい、その隣で、
(『有名人を見物できる』をウリにして部へ勧誘するなんて、ろくなもんじゃないな)
そう切り捨て、鷹也はあらためて『美男美女』の方へ視線を移す。
(それはそれとして……スゴいスゴいスゴいぞ、本物のぴよ子ちゃんだ!)
何のことはない、
(まさか、いつも観てるYo!tuberが同じ学校にいるなんて……さすがは
この春、鷹也が入学した羽広学園。
生徒の芸能活動を支援する制度があり、多くの現役タレントや俳優などが在籍している。
鷹也はタレント志望ではないが、動画編集など映像関係の専攻があるということで、技術屋を目指し志望校とした。
そのはず、だった。
(俺はその辺のただのファンとは違う。ぴよ子ちゃんと同じ配信者だ。まぁ……顔出ししないVtuberだし、登録者数も4ケタだけど……)
ゲーム実況系Vtuber【Dr.ホーくん実験室】が、配信者としての鷹也の姿。
『鷹』をモチーフにイメージした、スラッとした長身のイケメンキャラ。
それこそ今、【ぴよ子】の隣にいる『美男』のようなビジュ。
リアル知り合いには秘密で運営しており、声だけなら家族にもバレておらず、マイペースに活動中だった。
一部の固定ファンは付いているが、100万人超えの【ぴよ子っこチャンネル】を1等星とするなら、肉眼でギリ見える6等星というところ。
(隣の『
【ぴよ子っこチャンネル】動画内でも、よく話題に上がる【がおー氏】。
【ぴよ子】を動画編集やディレクション面で支える師匠的存在で、番組内では謎の人物扱いされている。
羽広学園の中では公然と知られているが、新入生の鷹也には、その『美男美女』の並びはあまりにも眩しかった。
(ふたりとも同じ人間と思えないスタイル。俺だって、背はまだ伸びる予定だけど、顔はなぁ……」
高1で155cm。もちろん男子はまだ伸びしろがあるが、本人にとっては切実な悩み。
そういうコンプレックスから、Vtuberという選択肢をとった鷹也。
表に出たい気持ちがなくはないが、性格上、一歩引いてしまう。
(はー……普段、動画ではあまり見ない横顔も可愛いな。あれだけ身長あるのに『可愛い』って感想になるのが、ぴよ子ちゃんなんだよなぁ……)
すっかりファン丸出しで遠目に眺めながら、鷹也はふと我に返る。
(『美男美女』、お似合いだよな……。今時は『アイドルも恋愛して当然』みたいな勢力も強いけど……ファンって、よく考えたら何なんだろうな?)
好きなタレントを生で見られた喜び。それと同時に、ファンのあり方を考えさせられる。そんなひと
複雑な気分ながらも、やはり『好きな異性の顔を見る』というのは本能的な楽しみ。
進まない自分の作業は置いておいて、その横顔を眺めつつ、時は過ぎていった。
「おっけ。じゃー、がおー氏は引き続き、その線で調べといて。私も気をつけとくから!」
仲良さげに行われていた作業が終わり、『美男美女』の『美女』が立ち上がった。
鷹也は慌てて目を逸らす。
(同じ空気の中で見れる時間も終わりか。この教室に来れば、また……)
まんまモデルのように姿勢良く、スタスタと長身の美女が鷹也のすぐそばを通る。
その時、コツンと音がした。
目をやると、そこにはヒヨコのキャラクターのラバーマスコットが落ちていた。
「あ、あの、これ、落ちましたよ!」
「えっ……?」
咄嗟に拾い上げた鷹也の声に振り返る『美女』。
先程までよりも近い距離に美しい顔があり、鷹也の心臓はバクバクとテンポを上げていく。
(あれ……時間止まった? なんでぴよ子ちゃん、何も言わずこっちを見てるんだ? もしかして……めちゃキモがられてる?)
実際の時間は5秒ほどだろうか。無言の時間としては、確かに長め。
「あなた……Dr.ホーくん様?」
「……へ?」
やっと発せられた『美女』の言葉が予想外すぎて、鷹也の脳は一瞬でショートした。
(どういうことだ!? ありえない!! なんで!? そんなわけない!!)
バカみたいな言葉しか浮かばない。
が、『とにかく返事を』と鷹也は声を絞り出す。
「な、なんで俺のこと知ってるんですか?」
「ふにゃっ!」
「ふにゃっ?」
『美女』の口から出た答えは『ふにゃっ!』であり、鷹也はさらにフリーズ。
「ウソ……ほんとに? まじで会えるなんて……!」
ほんのり頬を赤らめ、『美女』はモジモジどぎまぎと大柄な体をよじる。
いつも観ている動画では見たこともないその表情に、鷹也の混乱ゲージは青天井で上がっていた。
「あの……私、ホーくん様のファンなんです! ごめんなさい、こんなのルール違反ですよね……」
『これでもか』と、ありえない一撃。
鷹也は一周回ってフリーズから戻ってくる。
「はあッ!? いやいやいやいやいやいやいやいや!!」
「信じられんだろうが……彼女が言っているのは本当のこと。2年前……【Dr.ホーくん実験室】の初投稿が上がってから数時間後には、その動画を視聴していたはずだ」
突然の低音エエ声。
遅れてやって来た『美男』が『美女』の代わりに答えた。
その顔は無表情すぎ、どういう感情で会話に参加しているのか読み取れない。
「Dr.ホーくん……つまり、お前の声がとにかく好きでな。寝る前にいつも……」
「やややややややめてぇ――――――――ッ!!」
『美女』はさらに顔を真っ赤にし、『美男』の口を塞ぐ。
そのやりとりだけ見れば、かなり長い付き合いの恋人同士だ。
(これを見せられながら……俺は今、ぴよ子ちゃんから『ファンです』と伝えられている? マジで何なの? この状況???)
混乱の極地、あらためて固まる鷹也。
それに追い打ちをかけるように『美女』はキラキラ目を輝かせる。
「実は私……ホーくん様が
(いや、いやいや、逆! 逆!! 痛いファンやってたのは、俺の方だってば!!)
「あの……痛いファンですみません! でも、私、ほんとにずっと好きで……!」
髪の毛をクルクルと弄りながら必死に言葉を紡ぐ、健気で可愛らしい表情。
画面越しではない、生【ぴよ子っこチャンネル】。
そんなサービスアクションを見せられ、鷹也は脳内で赤いスパチャを投げた。
「いやいやいや! ぴよ子さんがこんなマイナー配信者に、それはないでしょう!」
「ふにゃあ!!」
鷹也の全力ツッコミに、『美女』はまたヘンな声を上げる。
「や、やっぱ生声……ヤバいですぅっ!」
アイドルのライブでたまにいるらしい『クラッと失神するアレ』が発動し、後ろへ倒れ込む『美女』。
その体を『美男』が支える。
そして深いため息をつき、『やれやれ』という顔で『美男』は鷹也を見下ろした。
「こんな状態なんで、一度失礼するぞ。で……こいつはあらためて話したいだろうからな。お前の連絡先を送ってもらっていいか?」
そう言って、鷹也に名刺を渡す。
そこには『俳優
「
「あ、
「
抱きかかえた『美女』に目線を落とし、雅桜は鷹也に問う。
「い、いえ、本名は知らないです」
「そうか。まぁ、調べれば判る」
(ええ……)
(理不尽だけど、絶対怒ってるよね? 俺、ボコボコにされるのか?)
「ふん……今まで調べようとしていなかったあたり、ゲスな奴ではなさそうだな」
相変わらずの無表情でそう告げ、仲村雅桜は『美女』を負ぶう。
信じられないことだが、『
「小埜鷹也、こいつはお前の声が好きなだけだ。くれぐれも……調子に乗るな」
「は、はい……も、もちろんです」
『美男美女』が教室を去り、静かになっていた周辺が一斉にザワザワし始めた。
鷹也に話しかける者がいるわけではないが、当然、その話一色に染まる。
(【ぴよ子っこチャンネル】が【Dr.ホーくん実験室】のファン? 俺の声が好き? マジでこれ……現実なのか?)
あまりに要素が多く、頭が整理できないのも当然で、鷹也はまだ呆然としていた。
(嬉しい……でいいんだよな? いや、しかし、その彼氏にめちゃ敵視されたんだが? 嬉しい……なのか?)
「やあ、君スゴいね! あのぴよ子ちゃんがファンだなんて……」
ひとりだけ、鷹也に話しかける生徒が存在した。
眼鏡をかけた、いかにも裏方タイプの中肉中背。
さっきまでスーパーなビジュを見すぎていた鷹也は少しホッとする。
「ど、どうも。いや、俺も何が何だか……」
「いきなりすまないね。僕は3年の
まるで、ギャルゲーで情報をくれる友人キャラのように勝手に話し出す乃村。
ご丁寧に、手にしたタブレットでテキストも表示し、名前の表記も判るように。
「【ぴよ子っこチャンネル】の【ぴよ子】こと、
(
「仲村雅桜氏は、すでに俳優として活動している3年生。ぴよ子っこチャンネルでは【がおー氏】として話題に挙がるよね。古い知り合いで、動画編集などを教える師匠的存在。いつも一緒にいるため、ここの学生はみんな、ふたりが付き合ってると思ってる」
「『思ってる』?」
「本人達は肯定も否定もしてなくてね。実際、
(うん……まぁ、そりゃそうだ。実際、付き合ってるんだろうしなぁ……)
「あと、噂なんだけど……最近、上高さんにはストーカーまがいの厄介ファンが出てきたらしくてね。近頃は特に、彼女ひとりの行動とならないよう、仲村氏が目を光らせてるみたいだ」
「ストーカー!? そっか、有名人はそういう弊害もあるのか……」
「仲村氏も俳優で売れそうな気配があるし、忙しくなると心配だろうね。とはいえ……雅桜氏はデカいだけでなく柔道黒帯。後のことを考えれば、滅多なことはできないと思うけど」
「な、なるほど……」
(がおー氏、見た目だけじゃないんだな。やっと頭が冷えてきた。ありえないことだらけでパニクったけど……俺は一マイナー配信者。見えない角度からラッキーが降ってきたからって、舞い上がるんじゃない)
鷹也はひとつ深呼吸し、いつもの自分に戻ろうとする。
が、そう簡単に片付くものでもなく、間近で見た【ぴよ子】の顔が脳内にチラついてしまう。
「ところでオノ君、部活は決めた?」
「え? いや……今のところ、考えてないですが」
「ズバリ、
早口だがハキハキと聞き取りやすい喋りで、乃村は屈託のない笑顔を見せる。
「で、でんもう……電網部? ネット関係の部……ですか?」
「さすが、察しがいいね。インターネット関連全般、各種SNS・通信を必要とするゲーム・Web広告の研究……何でもアリさ。インターネット黎明期に発足した歴史ある部なんだよ」
(ああ……その時代に作られたから、当時は細かい区分けが無かったのかな。でも、確か
「君が考えていることは大体わかるよ。『何でもアリ』だからこそ、特化した何かは得られないんじゃないか……そうだろう?」
「あ、まぁ……そうですね」
「否定はしないよ。でも反面、『動画編集に集中できるスペースがあれば』って時、気軽に使える部屋を確保できる……そんな不純で自由な捉え方をしてもらってもいいんだけどな」
「……面白い勧誘ですね。悪い言い方するなら、目的がなくても好き勝手に入り浸っていい、ってことですか?」
乃村は『ほぼ肯定』という笑顔で続ける。
「そんな風に駄弁ったりする生徒がいた時期もあったんだけど……今、部室に来る部員は僕ひとり。部員数で廃部という規定はないものの、さすがにゼロはね……」
そう言いながら、少し寂しそうな表情。
その顔を見て、鷹也は無意識に好感を持つ。
(ひとりでやってきたくせに、ゼロになって部が廃れるのはイヤなんだな。とはいえ、自宅で家族にバレないよう収録している身としては、確かに魅力的だ。うん……いいかも)
「実は……昨日まで『部が無くなってもしょうがないか』とも思ってたんだ。けど、今日、君に会って『部を継いで欲しい』と思えてね」
「なんで俺を? 別に誰でもよさそうな……」
「人を引きつける何かを持つ君なら……少しずつ変化が起こったりして、さらに長く続いていく部にしてくれそうな気がしてね」
(『有名Yo!tuberに目を付けられたから』って理由だけでそれは早計だと思うけど……この人なりに『部が存続していって欲しい』という想いがあるんだな)
「そうですね……入部、しようかな」
「そうか! それじゃ、このコードをスキャンしてもらって、学園IDで手続きを……」
立て続けに起こる変化を受け、鷹也はなんだかフワフワした気分だった。
(