バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

10 / 37
第10話 心まで小さくなっちゃ

 

 

(そうだ……仲村先輩はひよの先輩の彼氏じゃなかったんだ。だからといって、俺が身分もわきまえず彼氏に……なんてこと、現実になりえる、のか?)

 

 

 物語の中ならば、もう十分に立候補していいくらいの活躍をした鷹也。

 

 だが、彼の中の現実では『助けたからって付き合えるようになるわけじゃない』と、当たり前の理屈がベースにあった。

 

 

「あっ……こ、これ! 誤解の無いように言っておくけど……私と小埜君の関係上で、できる限りのこと、だからね?」

 

 

 スマホ越しに、陽代乃の腕がパタパタする音がかすかに聞こえる中、鷹也はその意味を考える。

 

 

「君には……かわいい彼女さんがいるからね。その、あの、エ、エッチなこととかは……ダメだけど……」

 

 

 何を想像しているのか、陽代乃は消え入りそうな声で言った。

 

 数秒、意味が理解できず、鷹也は5秒後ようやくハッとする。

 

 

(あっ……そ、そうだ。先輩は、千鶴が俺の彼女だと……)

 

 

「彼女さん、病院で話したよ。でも……超嫌われて、すごく怒られちゃった。あらためて……謝っておいてね」

 

 

(千鶴のやつ、まさか彼女のテイで先輩と話したのか!? ちょ、待て、アカンアカンアカン!)

 

 

 さすがに本気の否定をしたい気持ちが膨れ上がり、何度も声を出しそうになる鷹也。

 

 文字を送りたいとも思うが、どうしようもなく、ただただ心の中で右往左往するだけだった。

 

 

「『近づかないで』って言われちゃったし……これから小埜君との連絡はとらないようにするよ。でも……君のために何でもするって約束は、どうしても果たしたいの。退院する時までに……私に何をさせるか、考えておいてね」

 

 

(待って、先輩、待って! 隠しててすみません! 妹! アレ、妹!)

 

 

「最後に、もう一度言うね。今日は……ごめんなさい。そして、ありがとう。彼女さんには聞かせられないけど…………君は……私の大事な人です」

 

「ッ…………!」

 

 

 鷹也の胸は今日イチの高さで鳴り、頭が真っ白になった。

 

 『勘違いするな』と慎重派マインドが言ってきても、それは無理な相談だ。

 

 

「お大事に。おやすみなさい……」

 

 

 通話が切れても、鷹也は放心状態だった。

 

 陽代乃と出会ってから、ずっと心を乱高下させられて、もう何が正解なのかわからなくなっていた。

 

 

「おにー、親、来たよ……って、電話してた!? まさか声出したんじゃないよね!?」

 

 

 千鶴の声にハッとして、スマホを耳から離し、慌てて(かぶり)を振る。

 

 少し喉が痛む。

 

 

「鷹也、おまえ大丈夫なのか? 刺されたって……振り返れば奴がいたのか」

 

 

(なに言ってんだろ、このオジサンは……)

 

 

「ウチの長男様は、女の子を庇ったのよね? それは素晴らしいけど……心配させないでちょうだい。まぁ……生きててよかったわ」

 

 

(母さん……まぁ、そう言われれば言葉もないよ)

 

 

 両親と千鶴のお陰で、一気に騒がしくなった病室。

 

 『この時間に病院でうるさくするな』とジェスチャーするが、小声になっただけで話し続ける。

 

 そんな家族たちに、鷹也は『ありがたさ』と『めんどくささ』を半々で感じていた。

 

 

(ひよの先輩にチャット打つタイミングが……いや、でも『連絡とらないようにする』って言ってたし、そもそも見てもらえないのか? て言うか、何て送っていいかもわからないし……)

 

 

 あまりにも状況が変わるスピードが早すぎて、頭の中が整理できない。

 

 ただの呼吸も少し慎重になっている鷹也だったが、ゆっくりと深呼吸してみる。

 

 

(冷静になれ、小埜鷹也。先輩は『お礼を』と言ってるだけだ。それに対して『助けてあげたんだから』なんて言うのか? いや、ただ欲望に忠実になるなら、超言いたいさ! 男の本能としては、そうだが!)

 

 

 病院のベッドの上にいるというのに、煩悩を捨てるため寺で座禅を組んでいるような気分になる。

 

 

(ひよの先輩は元々、俺の声が好きだったんだ。その声も……もう彼女の望むものじゃないかもしれない。そうなったら、俺は……)

 

 

「ねぇ、おにー……あの人のこと、本気で好きなの?」

 

 

 ぼんやりと視線を落とす鷹也に、千鶴が問いかけた。

 

 ハッとして妹の顔を見つめる。

 

 

(本気で好き……なのか? 顔も、性格(見えている分には)も、確かに『好き』だ。『手の届くはずないあこがれの対象』『他人(ひと)彼女(もの)』 そんな条件が揃って、恋愛として考えないようにしてた。けど、その条件は……考えなくていいのか?)

 

 

 そこまで考えても、今まで見てきた【ぴよ子っこチャンネル】の動画が頭の中に流れてきてしまう。

 

 この葛藤、陽代乃の方でもほぼ同じ感覚があるのだが、今の鷹也にそれは到底想像しきれない領域だった。

 

 

(『お礼だ』とか『身分が違う』とか、何かと理由をつけて俺は否定する。あんな『美女』の隣に並んで歩くなんてこと、あり得ない……って。でも、それを『申し訳ない』『恥ずかしい』とするのは、俺の心が小さいからだ。体が小さいからって……心まで小さくなっちゃダメだよな)

 

 

 人間誰しも、多かれ少なかれコンプレックスを持っている。

 

 その重大さは、それぞれ本人にしかわからない。

 

 が、鷹也はその時、大事な何かに気づいたようだった。

 

 

(特別な誰かにどう思われるか、それだけ考えればいいんだ。ひよの先輩が『背の低い人なんて恥ずかしい』と思うか? そんな人じゃない)

 

 

 鷹也の胸がスーッと軽くなっていく。

 

 

(今、大事なのは……相手がどう思ってるかじゃない。俺の……俺の気持ちだ)

 

 

 睨むように見つめる不良娘に、鷹也はゆっくり頷いてみせる。

 

 心底呆れるように、千鶴は溜息を兄へと投げた。

 

 

「とにかく……今は余計なこと考えないで。たっぷり休んで、しっかり治してよね」

 

 

     *          *

 

 

 事件から二日経った日の放課後、小埜鷹也がいない校舎から、陽代乃&雅桜が現れた。

 

 陽代乃の表情はやはりどこか沈み気味で、雅桜はどうしたものかと小さな溜息をつく。

 

 

「1日休んだだけで、今日はちゃんと来れたし。陽代乃は偉いな」

 

「えらくないもん……昨日はしっかりズル休みしたし。今晩は生配信かぁ……だいじょぶかなぁ」

 

「普通に休めばいい。厄介ファンから文句言われて、今さら気にするタマでもないだろう?」

 

 

 その提案に、陽代乃はしばし考え込む顔をして、なぜか少し赤くなって呟く。

 

 

「でも…………小埜くんが観てくれるかもしれないし……」

 

「……じゃあ、やればいいだろう。ダルいな」

 

「『ダルい』って言わないでよぉ――っ!」

 

 

 気を遣っているというのに、いつまでもジメジメしている(ひよの)に呆れる雅桜。

 

 そんなことは解っている陽代乃だが、どうにも気持ちの整理がつかずにいた。

 

 

(彼女持ちの小埜君(ひと)に、あんなこと言っちゃって……絶対ヤバい女だと思われてる。『エッチなことダメ』とは言ったけど……冷静に考えたら、それ言うことがそもそもやらしいもんね? ふぎゅ~~~っ! やっぱ言わなきゃ良かったかも……!)

 

 

 勝手に悩んでグニャグニャ沈み込んでいく『美女』。

 

 そのまま()けないかと注意しながら隣を歩いていた『美男』だったが、校門の影から突然現れた人影に即反応する。

 

 

「陽代乃、下がれ!」

 

「ふえっ!?」

 

 

 『美男美女』の前に現れた刺客。

 

 その顔は、陽代乃が今一番会いたくない人物だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。