バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

11 / 37
第11話 8回裏、2対13

 

 

「ぴよ子っこチャンネル! ちょっと顔貸しな!」

 

「か、彼女さん……!」

 

 

 ピンクのメッシュがいつも以上に気合入って見える千鶴。

 

 170cmの陽代乃を見上げながら、精いっぱい眼光鋭く睨みつける。

 

 

「お前は……小埜鷹也の彼女、だったか? 陽代乃に何の用だ」

 

「アンタは黙ってな! これは……女と女の話だよ」

 

「そう言われても、コチラ陣営は完全に警戒を解いたわけじゃないんでな……」

 

 

 雅桜がズイと一歩前に出る。

 

 その迫力に、千鶴はビクッと飛び跳ねながら一歩下がる。

 

 

「ちょ、がおー氏やめて! その子はだいじょぶだから!」

 

 

 女子中学生にすら圧力をかけようとする雅桜を制し、陽代乃は代わりに頭を下げた。

 

 

「あ、あの……それで、どこに行けばいいかな?」

 

「さ、最初からそう言えばいいんだよ! こっちだ、来な!」

 

 

     *          *

 

 

 千鶴に連れられて辿り着いたのは、駅とは反対方向にある川の土手。

 

 いかにも往年の不良ドラマに使われそうな、夕焼け前の決闘シチュエーションが出来上がった。

 

 

「え、えっと……小埜君に電話したこと、かな? ごめんなさい! どうしてもお礼が言いたくて。でも、小埜君はひと言も喋らなかったから……」

 

「んなことぁどーでもいーんだよ! アタシが喋る前に喋るな!」

 

「は、はいいっ!」

 

 

 強がってツッパる157cmに、ビビり散らかす170cm。

 

 端から見ている185cmには、子供が大人に因縁つけてるようにしか見えず。

 

 

「陽代乃、ビビりすぎだぞ。大人の余裕が無いな」

 

「ちょ、黙ってて! 空気読めないの!?」

 

 

 千鶴が鷹也の彼女だと思い込んでいる陽代乃は焦るが、雅桜はなんとなくオチが見えているようで。

 

 陽代乃は無意識に腕のガードを上げており、それがむしろファイティングポーズのようになっていた。

 

 

(うう……諦めなきゃって悩んでるのに、彼女さんに詰められるとか……泣きっ面にハチなんだけど! やっぱりシメられるのかなぁ? 顔はやめて欲しい……)

 

 

 可能な限りで体を小さく見せる陽代乃。

 

 それを睨み続けていた千鶴の口がようやく開いた。

 

 

「ぴよ子……アンタ、アタシ以上に鷹也のこと好きだって自信、あるわけ?」

 

 

 千鶴からの予想外な質問に、陽代乃は5秒間フリーズ。

 

 頭の中で氷が砕ける音が鳴った気がして、ハッとする。

 

 

「ふええっ!? いや、ちょっと待って! 私、そういう方向性のことを伝えたわけじゃなくてですね……」

 

「じゃ、好きじゃないんだな?」

 

「うっ…………」

 

 

 夕焼け色で誤魔化せてはいるが、カーッと耳まで赤く茹で上がる陽代乃。

 

 心の中で全陽代乃によるバトルロイヤルが行われた結果、観念したように真剣な表情で呟いた。

 

 

「好き……です」

 

「ほ~ん……いい度胸じゃん」

 

「いや、だって、訊くからぁ!! で、でもでも! 好きになっちゃうのは自由でしょっ?」

 

 

 パタパタと腕を羽ばたかせ、ひよこのトレードマークにふさわしい動きで悶える。

 

 そんな仕草を見て、千鶴はニヤついてしまいそうな口角を必死で抑えていた。

 

 

「助けてもらったから惚れたって? 出会ったばっかのくせに……今だけの勘違いだろ」

 

「そ、そんなことないもん! 彼がVtuberとして動画配信スタートしてからずっと……言葉を覚えるくらい声聞いてるもん!」

 

 

 千鶴の耳に予定外の情報が入り、鋭い目つきが一瞬でゆるむ。

 

 

「…………ぶい……ちゅーばー?」

 

「あ……もしかして、あなたには秘密にしてるのかな? それは……バラしちゃって、ちょっと悪いことしたかもだけど!」

 

 

 千鶴の戸惑いの表情に、陽代乃は『やっちゃった?』という顔でモゴモゴ小声になっていく。

 

 が、それを振り払うようにボリュームを上げ、まくし立てた。

 

 

「とにかく! 私だって2年以上、彼のことを見てるもん! そりゃ声だけだし、キャラ演じてる面が多いかもだけど! 彼女さんがいることも知らなかったし! 好きだけど……好きだけど! 告ろうなんて思ってないからぁっ!!」

 

 

 言うべきことを並べ立て、ハアハアと息を切らす陽代乃。

 

 そんな決死の顔を、千鶴は品定めするように見つめていた。

 

 

「か、彼女さんは……あなたは小埜くんと知り合って、どれくらいなんですかっ?」

 

 

 自分より年下とは見えるので『そんなに長くないんじゃないか?』と思っての質問。

 

 それは、すっかり失恋気分の陽代乃が無意識に発動させた、健気でささやかなマウント行為だった。

 

 が、それに対し、千鶴は淡々と切り返した。

 

 

「13年」

 

「13年!?」

 

 

 ありえない数字が返ってきて、ボケられたのかと思う。

 

 が、当の千鶴は変わらない表情でニラミを利かせていた。

 

 

「アンタ……動画の中ではキラキラしてるくせに、実際会ってみたら抜けてるよね。アタシの名前は……小埜千鶴。鷹也の、実の妹だよ」

 

「…………えええええ!?」

 

 

 陽代乃の素っ頓狂な絶叫が響き渡り、少し離れたところで散歩中の犬が『何ごとか』と吠えた。

 

 ずっと我慢していた千鶴は、プッとひとつ吹き出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。