バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

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第16話 退院したばかりだってのに

 

 

「あはは、ごめんてば。じゃ、また! サインありがとね~」

 

 

 陽代乃が口をパクパクさせているうちに、伊住隼介は店から出て行った。

 

 やり場のない怒りをぶつけるように急遽スマホへ文字入力しだすが、途中で全消しし、通話のコールに切り替えた。

 

 

『何だ? わざわざ通話で……小埜鷹也にフられたのか?』

 

「フ、フられてない! 成功したもん!」

 

『なら、なぜ不機嫌なんだ?』

 

 

 突然の電凸にも慣れたもので、雅桜はめんどくさそうに妹の言い分を聞いてやる。

 

 

「何なの!? 伊住隼介ってやつ! 最悪なんですけど!」

 

『どういうことだ? ヤツに会ったのか?』

 

「つい今、声かけられて……セクハラ発言された! マジで何!?」

 

『陽代乃を紹介しろ、と言ってきていたのでな。俺と付き合っているテイで適当にいなしていたんだが……まさか直接行くとは。だが、断ったんだろう?』

 

 

 雅桜のレスに、陽代乃はハッとする。

 

 

「『彼氏いるか?』って訊かれて、私、咄嗟に『いない』って言っちゃったわ……。『がおー氏だ』って言わなきゃだったよね」

 

『……伊住(ヤツ)は俺の言うことを信じてなかったようでな。陽代乃に直接鎌をかけた、ということか』

 

 

 学校外のことでもあり、雅桜としても安易に恋愛関係のニセ情報を流すのは悩ましいところだったが、せっかくついた嘘を伊住は見破っていたようだった。

 

 

『まぁ、お前達の付き合いを公表するのは、小埜鷹也にも影響が出ることだしな。近日中に伊住(ヤツ)と会うかわからんが……機会があれば釘を刺しておく』

 

「……ほんっと、お願いね?」

 

 

 通話を切り、陽代乃はすっかり冷めてしまったカプチーノをゴッゴと飲み干した。

 

 

(あんな有名人、今日たまたま会ったんだろうし、今後も会うことないと思うけど……いかにも人気者なのを当たり前だと思ってそうでキツかったな。『テレビに出してやる』とか言って会食セッティングされそう……)

 

 

 こちら、あくまで陽代乃内の芸能人イメージである。

 

 

(うう……鷹也くんの声が聞きたい! でも、家族水入らずを邪魔できないし……)

 

 

 そう心で唱えるより先にイヤホンを耳に入れ、陽代乃は【Dr.ホーくん実験室】の動画を再生していた。

 

 

「んはぁ…………ま、間に合ったぁ……」

 

 

 とても他人(ひと)には聞かせられない、重度中毒患者の嬌声が漏れ出ていた。

 

 

     *          *

 

 

「で? チッスくらいしたの? ぴよ子っこチャンネル様と」

 

「バッ………………!」

 

 

 貴重な親子三人のランチタイムのあと、母がまた仕事に出かけたタイミングで、千鶴は鷹也を煽る。

 

 

「千鶴、ひよの先輩とどんな話してたんだよ? 病院では何も言ってなかったのに……」

 

「別にー。陽代乃ちゃんは、アタシと友達になりたいって。女同士の話だから、おにーには関係無いよ」

 

「『陽代乃ちゃん』!? 千鶴、それはいくら何でも……」

 

「陽代乃ちゃんがそう呼べって言ったんだよ。だから、おにーには関係無いって言ってんじゃん」

 

 

(どういうことだ……おかしなことになってるぞ? 俺の知らないところで一体何が……)

 

 

 気にはなるが、『女同士の話』と言われると、それ以上何も言えない鷹也だった。

 

 

「これからは陽代乃ちゃんがちょこちょこ会ってくれるって言うからさ。おにーがアタシを構ってくれる時間、減らしてもいーよ」

 

 

(いや、それって……俺がひよの先輩に会える時間も減るってことじゃ?)

 

 

 嫉妬みたいでカッコ悪い、と鷹也は言葉を飲み込む。

 

 もちろん陽代乃(かのじょ)の友達付き合いに口出しなどできないが、なんとも釈然としないものを感じていた。

 

 

「ところで……おにー、アタシに隠してたことあるよね」

 

「え? な、何が?」

 

「Vtuberなんてやってたとは。アーカイブ見たけど、兄がキャラ背負ってるのって……ヘンな感じだったわー」

 

 

 鷹也の耳がカアッと紅潮する。

 

 いつかバレると思ってはいたものの、家族に見られる照れくささというのは、名状しがたい()()()()があった。

 

 

「い、いや、隠してた……といえばそうなんだけど。絶対知られたくない、とかじゃなく、そのうち話そうと思ってたんだって」

 

「……ま、どーでもいーわ。で、これからどーすんの?」

 

「これから……って?」

 

「向こうは人気Yo!tuber。がおー氏と付き合ってるっていう『美男美女』の認識が広まってる。急に『小埜鷹也とかいう冴えない普通人に乗り換えた』ってわけにいかないっしょ」

 

 

 アイドルではないし、世間にそんな報告をする必要もない。

 

 のだが、ネットでひと騒動起こる未来を想像し、鷹也は身震いする。

 

 

「そりゃそうだ。ネットでもリアルでも隠さないと。バレたら、俺も先輩も叩かれるだろうし……」

 

「はー、デートすんのもひと苦労だ。かわいそー」

 

「な、何なんだよ……言いたいことがあるなら言ってくれ」

 

「んー…………明日の予定は?」

 

「へ? いや、特にないけど……」

 

 

 その返事を聞きながらも、千鶴はスマホ画面をトットコ叩き、書き上げたテキストを送信する。

 

 その相手はもちろん――

 

 

『陽代乃ちゃん、明日もし時間あったら、兄妹ふた組で買い物行かない?』

 

『今後、アンタ達が外で会う用に、変装コーデとか探すのどうかなーって』

 

 

 千鶴のそのチャットを受け、自室に戻っていた陽代乃は7秒で返信。

 

 

『行きたい!! こっちは14時以降なら大丈夫!!』

 

 

 ポコポコとテンションの高いスタンプが続き、千鶴はクスッと微笑む。

 

 

『じゃ、陽代乃ちゃんが持ってる中で一番印象変わる、身バレしないと思うコーデで来て』

 

『むむ、これは新たな妹さんテストってことかな? オッケー、わかった!』

 

『雅桜さんも今後どんどん有名になるだろうし、全員テストするからね。とりあえず、4人のグループチャット作ろっか』

 

 

「あのぉ……千鶴さん? ひよの先輩と話してんの? 何が進行してるんだ?」

 

 

 文字だけで予定が決められていく中、置いてけぼりな鷹也は堪らず声を上げる。

 

 

「明日、服買い行くことになったから。ふたりのファーストデートだし、アタシ達が付き添いしてあげる」

 

「ええ!? そ、そんないきなり……」

 

「おにーも、いつもと印象が変わる服、用意しといてよ」

 

「??? ど、どういうこと?」

 

 

 今日の明日で突然デートの予定を入れられ、パニクる鷹也。

 

 それも、妹の付き添いアリ。

 

 喜んでいいのか、恥ずかしいのか、判断がつかないまま。

 

 

「退院したばかりだってのに……スピード感ありすぎなんですけど!」

 

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