バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

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4人のお忍びデートコーデ


第17話 めちゃめちゃモテコーデじゃん

 

 

     *          *

 

 

 雲は多めだが、いい陽気の日曜午後2時すぎ。

 

 隣県、その2番目くらいに賑わう街。

 

 駅前のスタボ(スターボックス)店内、一番奥の席に、鷹也と千鶴は居心地悪そうに座っていた。

 

 

「スタボとか一軍の人専用だしなぁ……。何かマナー的な決まりとかあったりしないかな?」

 

「ビクビクしてんじゃないよ! ただの喫茶店なんだから、飲むもん飲んでればいーの」

 

 

 鷹也も千鶴も、普段は基本ファーストフード店ばかり。

 

 複雑怪奇なオーダー形式もよくわからず、ふたりして指差しで出てきたほうじ茶ラテをちびちび味わっていた。

 

 

「日曜日の14時過ぎは、やっぱどこも混んでるなぁ。ほんとにあのふたり、身バレして騒ぎになったりしないかな」

 

「それは……頼んでおいた【オーラ消しコーデ】の出来次第ね」

 

 

 少し前に陽代乃からは『少し遅れる』と連絡(チャット)が入っており、小埜兄妹はとにかく平静を装って待つ。

 

 10分ちょっと過ぎた頃、店内に『高身長な美男美女』が入ってきて、カウンターの列に並んだ。

 

 周りの女子数人がチラチラと視線を送るが、陽代乃はそれを気にも留めず、店内を見渡しながらスマホを弄り出す。

 

 

「『着いたよ! ほんと遅れてごめん! 今、注文してます!』っと……。鷹也くん、どこにいるのかな?」

 

「あそこだ、奥の方。ほら、目立つピンク髪がセットでいるだろ」

 

 

 たった今送ったメッセージが届いたようで、小埜兄妹ふたりともが同時にカウンターへ顔を向けた。

 

 

「あっ! 鷹ふむっ!!」

 

 

 反射的に手を上げ、名を呼びそうになる陽代乃の口を、雅桜がマスク越しに塞ぐ。

 

 

「おい、今日のテーマは目立たないことだったろう。浮かれるなよ」

 

「そ、そうでした……。いや、浮かれてないし?」

 

 

 陽代乃は小さく手を振り直し、何ごともなかったかのように注文を始める。

 

 それを遠目に眺める鷹也たちも、なんとなく察して不安になっていた。

 

 

 

「千鶴、今日一日あの人は身バレせずに行けると思う?」

 

「…………行けないと思う」

 

 

 腕組みで今後の展開をイメージするふたり。

 

 そこへ、注文の品を受け取った陽代乃&雅桜が到着する。

 

 

「遅刻ごめんね! だいぶ待っちゃった?」

 

「いえ、ちょうどくらいに着いたので全然大丈夫ですよ。それより、何か忙しかったんじゃないですか?」

 

「がおー氏の現場が少し押してね。私だけ先来てもよかったんだけど、この人、方向音痴だから……」

 

「余計なことは言わんでいい」

 

 

 雅桜は陽代乃の後頭部を軽く押し、抗議の意を示す。

 

 

「遅れて悪かった……とは思うが、それ以前に、なぜ俺まで付き合わされているんだ?」

 

 

 一応の謝意は伝えつつ、席に着いたそばから不満げに眉根を寄せる雅桜。

 

 そんな雅桜の頭から爪先までをひと通り眺め、千鶴は口を開いた。

 

 

「あー……早速、感想を言わせてもらうんすけど。雅桜さんは、街で顔バレしたい(タイプ)なんすか?」

 

「そんなわけないだろう。今日も『身バレしないような服装にしろ』と言うから、こうして……」

 

「インテリヤクザか!!」

 

「なんだと」

 

 

 千鶴がそうツッコんだ(がおう)Today's outfit(きょうのコーデ) は――

 

 ダークブラウンのマオカラースーツ・銀ブチ眼鏡・金具がゴールドのクラッチバッグ。

 

 185cmの身長と合わせたその威圧感に、周りが勝手に避けていきそうではあった。

 

 

「声はかけられないかもだけどコレ『え、アレ仲村雅桜じゃない? ヤクザ映画の衣装ってことは撮影? でも、カメラ無さそう……ウソ、まさか私服!? うわ、実はヤバい人なのかも……』とか思われてるっすよ、アナタ」

 

 

 千鶴はしっかり一般人役の小芝居をしたあと、間髪を入れず、雅桜をビシと指差した。

 

 

「そんなはずはない! 今日のコレは俳優の先輩に貰ったもので、初めて着たんだ。『いつものイメージと違うように』と言うから……。普段は、普通のスーツやセットアップだぞ」

 

「たいして変わんないでしょ。なるほどね……今まで、陽代乃さんに人を寄せ付けないのも成功してたけど、それは『極道のお嬢として』だったわけか」

 

 

 千鶴に同情の眼差しを向けられ、陽代乃は含んだキャラメルマキアートをストローに逆流させそうになる。

 

 

「わ、私、そんな風に見られてたの!?」

 

「アタシが思うに、だけどね。ま、今日のメインは陽代乃ちゃんだから、雅桜さんはあと回しとして……」

 

 

 千鶴は次に、陽代乃の服装をまじまじと見回す。

 

 パステルオレンジのニットワンピース・深いピンクのレザーショートブーツ・ヒヨコ型のショルダーポーチ。

 

 髪は下ろして巻き髪に。

 

 普段、頭の上に乗っているヒヨコは、胸の前に下ろした髪の片方にだけワンポイントで付いている。

 

 薄いピンクのサングラスは、いかにも『バレないようにオーラ消す用です!』と主張しているようだった。

 

 

「ど、どうかな? いつもとは違うだいぶフワフワ系で……無難にまとめてみたんだけど」

 

「すっ………………」

 

 

 しばらく声を発していなかった鷹也が、やっと口を開いた。

 

 実は、ずっと陽代乃に見とれていたのだった。

 

 

「すっごく……綺麗かわいい……ですっ」

 

「ふにゃあ……ッ!」

 

 

 本日、最初に浴びた鷹也ボイスが自分を褒めてくれる言葉。

 

 体の奥を駆け上がるゾクゾクに耐えられるはずもなく、陽代乃は崩れ落ちた。

 

 

「え、えへへ……嬉しいな! あまり着ない系だし、どう見られるか心配だったんだ」

 

「バッチリだと思います。またイメージ違って……」

 

 

 バカップルらしく幸せそうに照れ笑い合うふたり。

 

 それをぶち壊すべく、千鶴は大きく息を吸い込んだ。

 

 

「ハァ――――――…………。陽代乃ちゃん、ダメダメなのよ」

 

「うそぉ!? なんでなんで? ちゃんと地味目になったと思うんだけど……」

 

「めちゃめちゃモテコーデじゃん! 『鷹也くんに可愛いと思われたい欲』がムンムンあふれ出てるわ!」

 

「はひ…………!!」

 

 

 千鶴は陽代乃を指差し、ズバリ小声で叫ぶ。

 

 

「いつもと違えばいい、ってもんじゃないんよ。他人(ひと)の目が来ないようにするってコンセプトなのに、彼氏をメロメロにするためガチガチに考えてきたでしょーが」

 

「やややややめてぇ~! そんなことない! そんなことないもん!」

 

 

 真っ赤になって腕をパタパタさせる陽代乃に、千鶴は容赦なく各アイテムに含まれるモテ意識を解説する。

 

 どんどん陽代乃は小さくなっていき、やがて、何も言い返せなくなった。

 

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