バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

29 / 37

【挿絵表示】
今回終了時のキャラ衣装(画: 亜方逸樹)


第29話 その歌声に、鼻血プー

 

 

 スマホ画面をタップし、安定の『子供時代の俺へ』を選曲。

 

 歌い出す。

 

 歌い慣れた、歌詞も見ないで歌える曲。

 

 歌いながら、チラリと陽代乃の表情をうかがう。

 

 

「…………っ」

 

 

 (まぶた)を閉じ、賛美歌に祈りを捧げる信者かのように聴き入る陽代乃。

 

 どうやらフニャッてはいないようで、鷹也はホッとして歌い続ける。

 

 

「♪つらく~ても~ 泣きそでも~ 今を生き~てるんだ~~~♪」

 

 

 サビを気持ちよく歌いつつ、またチラリ陽代乃を見る。

 

 変わらぬ微笑みで聴き入る陽代乃だったが、その鼻孔から鮮やかな赤色がツウッとひと筋。

 

 

(え…………?)

 

 

 鷹也の疑問符とほぼ同時のタイミング。

 

 陽代乃はプパッと鼻血を噴き、そのままゆっくりと前のめりに倒れ込んでいく。

 

 

「ちょっ……!!」

 

 

 テーブルに頭をぶつけそうな陽代乃を受け止めようと、咄嗟に手を伸ばす。

 

 

(これ……以前(まえ)にも同じような光景を!)

 

 

 スローモーションのように感じる時間の中、以前(まえ)と同じ受け止め方にならないよう考える。

 

 が、体は思うように動かず、結局そのボリューミーな胸をまた手のひらで受けた。

 

 

(◆※○☆▲★◎◎◎◎◎!!!!)

 

 

 鷹也の脳髄は情報を処理しきれず、ショートしたように機能不全。

 

 ノーブラの胸の感触はあまりにも刺激的で、鷹也はそれを抱えたまま固まってしまった。

 

 

以前(まえ)と……全然違う! 柔らかさが想定外で、すぐに手がズレていっちゃうよ! それに……手のひらの中心……この感触ッ!)

 

 

「ハッ……いかんいかんいかん!」

 

 

 陽代乃が言っていた『本来の初めてシチュにおける感動』のため、鷹也は記憶を消し飛ばす勢いで(かぶり)を振る。

 

 そして、脱力した陽代乃の体をなんとか抱え上げ、ソファへ寝かせた。

 

 

(あんなに……俺との今後を大切に想ってくれてるんだ。裏切るわけにはいかない……よな)

 

 

 深い溜息をつき、ポケットからティッシュを取り出す。

 

 一瞬ためらうが、一度頭を下げ、丸めたティッシュを陽代乃の鼻孔に突っ込んだ。

 

 

(うまいこと床に向かって噴射したみたいだな。服にはそんなに付いてない。顔も拭いた方がいいか? でもメイクがあるし……)

 

 

     *          *

 

 

「曲は鳴り続けているが、声が聞こえなくなったな。おそらく小埜鷹也の歌で、陽代乃が気絶したのだと思うが……」

 

 

 いともたやすく陽代乃の現状を言い当てる雅桜。

 

 千鶴はそれを聞いて『マジか』という顔。

 

 

「そこまでヤバいの? ほんと陽代乃ちゃんて変わってるよね。ま、おにーの歌がいいのは認めるけど……」

 

 

 呆れたようなその呟きに、雅桜は無表情のまま千鶴の顔を見つめる。

 

 

「な、何すか。こっち見ないで」

 

「いや、兄の歌を認めているのだな、と思っただけだ」

 

「そんな意外そうに言われても困るっすわ。『好きとかじゃなく、兄に依存してる』って言ったけど、『嫌い』とはひと言も言ってないし」

 

「確かにそうか。勝手なイメージで判断してすまない。思ったより、可愛い妹なんだな」

 

「なっ……か、可愛い妹ではねーわ! キモいことゆーな!」

 

 

 突然、無愛想ガイから『可愛い』という言葉が飛んできて、千鶴は力いっぱい動揺する。

 

 

(今、こんな服着てるのもあって、アタシ自身に言われたみたいでザワッとしたわ。この人、なんでこんなにヘンなんだろ。こういう比較対象があると、おにーはマシな男なんだって思うな……)

 

 

     *          *

 

 

「ん…………ハッ?」

 

 

 陽代乃が飛び起き、現状を確認すると、鷹也はティッシュで床を拭いていた。

 

 気絶していたのは、ほんの2・3分。

 

 もちろん、曲の演奏は止まっていた。

 

 

「ごごごごごごめんなさいっ!! 私、歌の途中で……あああ最悪……」

 

「気にしなくていいですよ。歌なんて、いつでも歌えますから」

 

「ううう、ほんとごめん……あっ、私が拭くよ!」

 

「もう終わりました。床は大丈夫だけど……パーカーに少し付いちゃったので、すぐクリーニング出した方がいいですね」

 

 

 陽代乃が自分の胸を確認すると、点々と小さな赤丸が付いていた。

 

 

「わわ、やらかしちゃった……買ったばっかなのにぃ~!」

 

「探せばクリーニング屋さん近くにあるでしょう。トイレで元の服に着替えてきてください」

 

「で、でもでも、せっかくのカラオケが……」

 

「またいつでも来れますって。早く処置した方がいいし、行きましょう!」

 

 

     *          *

 

 

 ふたりがカラオケ屋を出た時、街は夕焼け色に染まり始めていた。

 

 

「ほんとごめんね……耐える予定だったんだけど。うう、鷹也くんの歌、もっと聴きたかったな」

 

 

 元のワンピースに着替え、マスクの下では鼻に詰め物。

 

 鼻声でボソボソ言う陽代乃。

 

 

「いえ、俺の方こそカラオケ誘って、すみませんでした。その……もう少し慣れた頃、また行きましょう」

 

「慣れるかなぁ? 毎日、好きの気持ちが大きくなるばっかで……あっ、いや、ウソ! 違う、ウソじゃないけど! 忘れてっ!!」

 

 

 自爆して赤面する陽代乃に、鷹也も顔を合わせられず、誤魔化すようにスマホを触る。

 

 

「一番近いクリーニング屋さん、ここから10分くらいみたいです。とりあえず行ってみましょう!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。