バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩 作:茉森 晶
そして、またスパチャ(少額)のコメントが上がる。
「あっ、ナイスパです! えっと……『アンタの声聞くと、生きるのが楽しいって思える。でも、声だけじゃなく、アンタの人柄で会いに来てるんだ。いのちだいじに! ちゃんと生きろよー』 うぇっこーさん……ありがとうございます。本当に……来てくれるみんなのお陰で生きてるって、僕も思います」
必死に堪える鷹也だが、どんどん誤魔化せない涙声に。
その声を聞いていると、画面のDr.ホーくんも泣いているように見えた。
「入院中……色々考えました。声が出なくなったら、僕はどうなるんだろう? このチャンネルは閉鎖? それとも、読み上げ音声で続ける? どんどんネガティブになってしまって……」
当時の感情を再現し、鷹也の声はまた震える。
コメントは空気を読んで静まり返っていた。
「でも、家族や友達……大事な人たちのお陰で、帰ってくることができました。もちろん、みんなのメッセージにも支えてもらいました」
鷹也の中で、その
そして、もちろん陽代乃の顔が何より強く心に浮かび上がる。
「本当に……ありがとう。大好きです」
シンプルな言葉は、その瞬間、視聴者全員の心に染み渡った。
リアルタイムで50人ほどが、自分ひとりに向けて言ったようにしか思えず、告白された気分でいた。
「ぐすっ……あ、えーと……『迫真すぎてヤバい』? 何が? 『ガチ恋ストーカーに気をつけて』? 『ホーくん、罪な男やで』? な、何が何が?」
エエ声の天然タラシVtuber【Dr.ホーくん実験室】の登録者数は、まもなく1万人を突破する。
一歩一歩、着実にファンを増やし、陽代乃の心配するガチ恋案件も時間の問題かもしれない。
ただ、鷹也は、陽代乃と同じ動画配信の道を歩むことが嬉しかった。
「と、とにかくですね。みんなに僕の声を聞いて欲しい気持ちが一層強くなりました。これからも……ここに来てください! まだの方はチャンネル登録を。いいね・ハイプもよろしくお願いします!」
まとめるような言葉を言ってからも、それから10分ほどコメントに答え続け、ようやく生配信は終了した。
昼間のデートとは違い、顔も知らないユーザーたちとネットを介しての会話。
(カノジョができても……視聴者さんと喋るのは、また全然違う楽しさなんだよな。それどころか、
「ひよの先輩……いや、【ぴよ子ちゃん】もこの気持ちなんだろうな」
安めのゲーミングチェアに背中を預け、天井を見上げる。
夜中ではあるが、その天井の向こう側の大空を鷹が羽ばたくイメージが見えた。
(配信者としても、少しずつ【
胸に満ちた前向きな充実感は、ひとりのスーパー美人インフルエンサーと出会ってからずっと膨らみ続けていた。
「いつか一線級の役者になって、
* *
「…………ハッ! 配信終わってる!! またやらかした……!」
鷹也が未来を夢見て決意するその時、陽代乃は垂らしたおヨダを拭いながら飛び起きた。
「
普段、視聴用で使っているアカウント【とさか】で入室していなかった陽代乃。
だが、しれっとサブアカウントのひとつ【うぇっこー】として序盤から視聴していたのだった。
「アーカイブ来るよね? うう~、録画しとけばよかった! いや、待って? 私は今、カッ……カノジョなんだし、あとで直接データを……いやいやいや、それは一視聴者としてどうなの?」
頭を抱えながらブラウザを再読込する。
と、タイミングよく先程の雑談配信アーカイブのサムネイルが表示された。
「アーカイブ来た! ホーくん様ありがとうございます~! えーと、フニャッたのは……この辺か」
『ぐすっ……あ、えーと……迫真すぎてヤバい? 何が? ガチ恋ストーカーに気をつけて? ホーくん、罪な男やで? な、何が何が?』
「ほら~! やっぱこうなる! い、いや……学習しなさい上高陽代乃! オトナの余裕をぶっ放すのよ!」
嫉妬心を抑え込み、ヘッドホンから聞こえてくるDr.ホーくんの声に集中。
(声の成分に、吹っ切れた決意みたいな色が見える気がする。多分このチャンネル、近いうち爆伸びするだろな)
「その時、彼にふさわしい先輩でいられるように、気を引き締めていかないと」
学校で直接の先輩として、動画配信者の先輩として、陽代乃は気合を入れる。
【ひよの先輩】は、スーパー美人インフルエンサーであり、みんなの憧れの存在なのだ。
「……もっかいだけ聴いとこうかな。2回目なら
神妙な顔で、動画のシークバーを動かす。
そのポイントに合わせ再生スタート。
『本当に……ありがとう。大好きです』
ゴンッ
即堕ちでデスクに沈んだ陽代乃の頭がハデな音を立てた。
【ひよの先輩】は、Dr.ホーくん限界オタクであり、鷹也にベタ惚れのフニャるヒロインなのだ。
「ホーくん様……鷹也くん…………しゅきです……ふにゃあ~~~っ!」