バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

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第4話 普通のことに感謝しなきゃダメだなって

 

 

     *          *

 

 

 仏頂面でアイドルソングを歌う千鶴を視界に入れながら、鷹也はスマホで曲を探すフリ。

 

 『考えても仕方ない』と思ってはいるのに、陽代乃のことを考えてしまう。

 

 

(明日、先輩は部室に来るだろうか。いや、もう二度と来ないかもしれない。ファンだと言ってくれたのに『女と会うため途中で帰った』ってことになるわけで……)

 

 

 千鶴がチラと視線を向けてくるので、機嫌を損ねない程度に膝を叩いてリズムに乗る。

 

 バレバレにも見えるが、これくらいがこの兄妹(ふたり)にとって、ちょうどいい距離感だった。

 

 

(妹とふたりでカラオケ……やっぱ、他人(ひと)からしたらヘンなんだろうな。正直、家のリビングでのんびりテレビ見てるのと変わらないんだけど)

 

 

 少しだけ、妹の歌を聴くのに集中してみる。

 

 流行りのアイドルグループの少し前のシングル曲。

 

 明るく可愛い曲だが、千鶴はただただ『上手い歌い方』で歌う。

 

 

(千鶴も、俺と同じ感覚のはず。ソレ系の奴に知られたら『妹モエ』とか言うかもだけど……どんなに説明しても、(ウチ)の感覚は解らんのだろうな)

 

 

 歌い終わった千鶴は淡々とリモコンを取り、後奏カット。

 

 部屋の中が一瞬で静寂に包まれる。

 

 

「曲、入れてないじゃん。あんま気分じゃない?」

 

「あ、いや……そんなことないんだけどさ」

 

 

 鷹也はゆるっと拍手して、あらためて自然な笑顔で話し出す。

 

 

「今の歌、千鶴の音域に合っててよかったな。最近の若い女子の曲はわからんけど」

 

「ザ・オッサンみたいなセリフ吐かないで。ま……割と気持ちよく歌えたかな」

 

 

 マイクをスマホに持ち替え、次の曲を検索し出す千鶴。

 

 歌さえ歌っていれば機嫌よくなるので、鷹也は基本的に聴いて褒める。

 

 それが兄の仕事だと思っていた。

 

 

(俺にとっては、普通の妹。でも……先輩には彼女だと思われた。さっきは訊かないでくれたけど、あらためて説明しなきゃいけない場面になったら……なんて言おうか)

 

 

「……なんかさー、ぴよ子っこチャンネルに似てなかった?」

 

「へは!? ぴ、ぴ、ぴよ……ぴよ?」

 

 

 不意を突かれ、鷹也の目は忙しなくクロールで泳ぐ。

 

 

「え、マジ? そういう学校だし、もしかしてって思ったけど。はー……有名人+女目当て?」

 

「ち、違う! あの人の方が後から入ったんだって、さっきも言っただろ!」

 

「じょーだんだってば。ぴよ子っこチャンネルが相手にするわけないもんね。おにーが編集スタッフとして業界に入ったとしても」

 

「……まぁ、そうだよ」

 

 

(Vの活動を隠し続けるのも、限界あるよなぁ。なんか……いつの間にか秘密が多くなってきて、めんどいな)

 

 

「おにー声イイんだし、演者だったら得だったのに。結局、自分が出る気はないわけ?」

 

「えっ? そ、そうだな、顔出して動画残すなんて……そんな自信は無いよ」

 

 

(ビックリした……俺の声がいい、だって? 千鶴(いもうと)まで、そんな風に思ってたのか?)

 

 

 普段、千鶴の方から兄を褒めるようなことはないので、鷹也が驚くのも無理はない。

 

 『どういう心境の変化だ?』とは思うが、何か駆け引きするような妹でないので、鷹也は素直に受け入れた。

 

 

(確かに【Dr.ホーくん】でそう言ってくれる人はいる。続けていれば、自然と支持は増えるものだけど……少しは自信持っていいんだろうか)

 

 

 少し考え込む鷹也に、照れ隠しで複雑な表情になった千鶴は目を逸らしながら切り出した。

 

 

「あの……さ。いつも付き合ってくれて、褒めてくれて……感謝してる」

 

「ん? な、何だよ今さら……」

 

 

 一度は受け入れた鷹也だったが、思いもよらない言葉が続き、あらためて少し戸惑う。

 

 

他人(ひと)がどう思おうが、俺達にとっては『普通のこと』だろ」

 

「んー……普通のことに感謝しなきゃダメだなって。こんな風に、おにーの学校まで行ってワガママするのも控えないとね」

 

 

(さっきは茶化したけど、ひよの先輩に見られた件を気にしてるのか? 千鶴ももう中2……俺が思ってるより成長してるってことかな)

 

 

 ほほえましいのを堪え、鷹也は自然体の顔を作る。

 

 

「まぁ、俺が付き合ってやれるうちは無理しなくていいさ。焦って友達作ろうとして、悪い奴らの仲間になられても困るし」

 

「約束したし、そんな付き合いないよ。お嬢様学校だし、このカッコしててもイジメめられたりもないし。まぁ……先生にも生徒にも問題児扱いはされるけど」

 

 

(できれば目立つ見た目もやめて欲しいんだけど……ま、少しずつ変わってるみたいだし、もう一歩かな)

 

 

「おにーも歌いなよ。せっかく来たんだし」

 

「わかったわかった。えーと……」

 

 

 急かされ、鷹也は好きなバンド【キーウィ・リスタート】の『子供時代の俺へ』を入力。

 

 手拍子とエモめギターのゆったりとしたイントロが流れ、爽やかな曲調のバラードが始まる。

 

 

「これ、毎回歌ってるけど、聴いてて飽きないな。おにーの声に合ってるし」

 

「そ、そう? 歌い慣れてはいるけど……」

 

 

 歌い慣れた歌のはずが、鷹也は少し緊張気味に歌い始める。

 

 『自分を気にしてくれる親しい人への感謝』が歌詞になっていて、奇しくも千鶴の言動をなぞるようで……少し気まずくなる。

 

 

(まぁ……合わせたわけじゃないのは千鶴もわかってるだろうけど)

 

 

 歌いながら横目で窺うと、千鶴は目を閉じたままメトロノームのようにリズムをとっていた。

 

 鷹也はホッとしつつも、あらためて『そんなに聴き入ってくれるんだな』と、むずがゆい気持ちになる。

 

 

(自分の声をじっくり聴くのって、いまだについ避けてしまうけど……やっぱVtuberとしても、向き合って研究すべきなんだろうな。マジメに……考えてみるか)

 

 

 上高陽代乃と出会い、小埜鷹也の見える世界は少しずつ変わりつつあった。

 

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