バズり女王なのに俺の声にだけフニャるひよの先輩   作:茉森 晶

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第5話 ストーカーじゃないですよ!

 

 

     *          *

 

 

 満員電車に揺られながら、鷹也はぼんやりとスマホの画面を眺めていた。

 

 

『ひよぴよ! 【ぴよ子っこチャンネル】でっす! 楽しく行きますよ~? ぴよ子に二言は無い!』

 

 

 朗らかに定型の挨拶をするその顔は、(たかや)がいつも見ている【ぴよ子】。

 

 散々、妹にカラオケを付き合わされた昨晩、帰宅してすぐに眠ってしまった鷹也は【ぴよ子っこチャンネル】生配信のアーカイブを朝になって視聴していた。

 

 

(ほんと……頭バグるよなぁ。何度『夢だったんじゃ?』って繰り返したかわからない)

 

 

 夢のような出来事。

 

 とはいえ、その後、最悪な誤解を与えたままの現状。

 

 

(部活……やっぱもう来ないかな。彼氏いるとしても、普通に話せたら……)

 

 

 その時、停車しドアが開き、幾人かの人が入れ替わる。

 

 そして、スマホ越しに見える開いたドアから、画面の中と同じ顔が現れた。

 

 

「あっ! Dr.……ち、違う、小埜君!」

 

「ひ、ひよの先輩!? おはようございます!」

 

「おは……ふにゃぁん!」

 

 

 イヤホンをしていたためボリューム調節がバカになっていた鷹也の挨拶に、陽代乃は膝から崩れ落ちる。

 

 その体を、隣の高身長イケメンが瞬時に抱き留めた。

 

 

「おい、小埜鷹也。文字で喋れと言っただろうが」

 

「す、すみま……んぐ……」

 

 

(やっぱ、夢じゃないんだよなぁ。うう……まさかこんな早く会ってしまうとは)

 

 

 慌ててLIME(ライム)を起動し、鷹也はスマホ画面を忙しなくタップする。

 

 

『おはようございます。先輩たちもこんな満員電車に乗るんですね』

 

 

「あはは、そりゃ乗るよー。ファンの人が話しかけてきたりすることもあるけど、ヘンな人は、がおー氏が対応してくれるしね」

 

 

(さて……どうする? いや『どうする?』じゃないな。昨日も言った通り、言い訳する=ひよの先輩とどうにかなる可能性を考えてるってことだ。先輩(むこう)から訊かれなけりゃ、言い訳はしない……)

 

 

 どんな顔をしていいか判らず、スマホに向かって何か書いたり消したりする。

 

 そんな鷹也に、陽代乃も陽代乃で遠慮がちに話し出す。

 

 

「小埜君、今日、部活は?」

 

 

『今日は特に何もないので、部室へ行こうかな……と』

 

 

「わ、私も……行っていいかな?」

 

 

 陽代乃はサラリと流れで通そうとしたが、その語尾を仕留めるような勢いで雅桜がドスの利いた低音を発する。

 

 

「ダメだ」

 

 

 秒で封じられ、陽代乃は深い溜息。

 

 

「何度でも言うが、俺は1限目で早退し撮影現場に向かう。自分がストーカーに狙われてること、もっと緊張感を持て」

 

「小埜君と一緒なら、だいじょぶじゃないかな? 部室は限られた人しか入れないんだし」

 

「だから、お前は緊張感が無いというんだ。小埜鷹也がストーカー本人という可能性もあるのだからな」

 

「お、俺、ストーカーじゃないですよ!」

 

「ふにゃあ!!」

 

 

 鷹也の声に、他の乗客と比べ身長がガクンと縮んだかのごとく、陽代乃はまた落ちていく。

 

 その体をガッシと抱き留め、無理やり立たせると、雅桜は鷹のような鋭い目で鷹也を睨んだ。

 

 

(声出して悪かったですよ! こえーなぁ……そんなに怒られること?)

 

 

 

 最寄り駅に到着し、校門までの道を3人で歩く。

 

 あらためて『美男美女』の隣に並んで歩く、その居たたまれなさに、鷹也はいつも以上に小さくなってしまう。

 

 

「ごめんね小埜君、ストーカー扱いなんて。あまり話せないんだけど……ちょっと危ない犯罪予告みたいなのがあってさ。がおー氏は全方位を疑って、プリプリしてるんだ」

 

「ピリピリ、だろうが」

 

『いえ、大事なことだと思います。警察には相談したんですか?』

 

「うん、届けてるよ。弁護士さんにもね。相手が特定できれば、警戒の方針を決められるんだけど……」

 

 

 陽代乃は大袈裟に溜息をつき、窮屈な現状から抜け出そうとするような伸びをする。

 

 不安そうなその顔を見て、鷹也は『自分が守れるか』考えてみるが、すぐに(かぶり)を振る。

 

 

『俺はストーカーじゃないですが、やっぱり二人っきりは普通にマズいですし。仲村先輩が一緒の時にした方がいいですね』

 

「そ、そうだよね。じゃあ、今日はテニス部の方へ出よっかなぁ」

 

 

(テニス部の方は……大丈夫なんだろうか? ビジュアル的にエロく見る男も多いし、よっぽどストーカーに狙われたり……)

 

 

 鷹也が疑問に思いながら、テキストを打つかどうか考えていると、雅桜が重々しく口を開く。

 

 

「隣の男子テニス部には信用できる腕の立つ者がいて、俺がいない間は警戒してくれることになっている。小埜鷹也(おまえ)が襲いに来たとしても、確実に撃退するので覚悟しておけ」

 

 

(だーかーらー! 目が本気(マジ)でこえーですよ! もうストーカーは俺で確定ってことになってない?)

 

 

     *          *

 

 

 『美男美女』と別れ、自分の教室(クラス)へ辿り着いた鷹也。

 

 緊張から解放されたはずだったが、昨日までと比べて周りの視線が自分に向いている気がしていた。

 

 

(もしかして、噂が広まってる? そりゃそうか……【ぴよ子っこチャンネル】に『ファンだ』と言われたのを、結構な人数が見てたもんな)

 

 

 とはいえ、誰か話しかけることもなく。

 

 鷹也はいつも通り席に着き、スマホに向かう。

 

 

(正直、コミュ障というほどのつもりはなかったんだけど、技術系のクラスって結構ライバル意識が高い気がするなぁ……ん?)

 

 

 ポコッと着信音が鳴り、目に入ってきたポップアップには『上高陽代乃さん』とある。

 

 メッセージはひと言――

 

 

『放課後、電網部へ必ず行ってね』

 

(どういう意味だ? 俺が電網部の部室にひとり籠もることで、ストーカー扱いされないように……ってこと? 仲村先輩にあらためて何か言われたのかな)

 

 

 そのうち本当に仲村雅桜にボコボコにされるのではないかと想像し、鷹也はブルッと悪寒に震えた。

 

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