やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。   作:あべかわもち

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後編できました。


第12話 やはりカノジョの料理は独創的~後編~

 

 

料理とは、レシピどおりに作れば、まず間違いなく失敗はしない。

 

手間と言えば手間だが、材料や分量、調理の手順をレシピに従うことが、慣れないうちの鉄則である。法と言ってもいい。

 

にもかかわらず、経験の浅い者はなぜか無駄に自信があるのか目分量で材料を用意したり調理の手順を独自解釈で行う傾向にある。

 

それが失敗の原因なのだ。

 

俺も最初のころは小町と一緒に切磋琢磨して料理の腕を磨いたものだ。

 

思い出すなぁ。

 

あの修行の日々(遠い目)。

 

だが、しかしだ。

 

今日やってきたアホの子、もとい由比ヶ浜はひどい。

 

ひどすぎる。

 

なにが酷いかというと、最高の家庭教師が3人と最適なレシピがあるにも関わらず、出来あがった物体は『焼けた何か』であったからだ。

 

うん。

 

あれは暗黒物質に違いない。

 

NASAの皆さん!宇宙の謎はここにありますよ!

 

 

「由比ヶ浜さん・・・」

 

「結衣・・・あんたって・・・」

 

「たはは・・・なんでこうなるんだろうね?おっかしいな~レシピ通りのはずなんだけど」

 

「お兄ちゃん・・・小町・・・料理教える才能ないみたい。ごめんね。こんな妹で・・・」

 

「ばっかそんなわけないだろ。由比ヶ浜の周りだけ時空が歪んでいるから、俺達の常識が通じないだけだ。小町、お前は最高だ。ミカエル!ガブリエル!小町エル!」

 

「なにそれ・・・語呂悪いしドン引きなんですけど・・・でも小町的にはポイント高いかな。ありがと。お兄ちゃん」

 

「ちょっとそんなに自信無くすほど!?ていうかヒッキ―、キャラ違くない?」

 

「俺の小町への愛情はいつもこんな感じだが」

 

「えぇ・・・」

 

 

ちょっと。なんでガチで引いているんですか、この子は。

 

千葉の兄妹にとってはこれくらい常識だろ?

 

 

「結衣、諦めな。こいつのシスコンは酷すぎて、手の施しようがないんだから」

 

「あの・・・三浦さん、私警察に電話した方がいいのかしら?それとも保健所かしら?」

 

 

ケータイを持ちながら、オロオロと震える雪ノ下。

 

 

「おい!?それは俺を保健所に引き渡すとかそういう話か!?」

 

「違うの?」

 

「違うわ!」

 

 

小首をかしげる仕草が絵になるな。

 

くそ。可愛いじゃないか。

 

いやいや何考えてるの俺?

 

 

「雪ノ下さん、大丈夫ですよ。気持ちはまぁわかりますけど、ちょっとキモいくらいの方が兄らしいですから」

 

 

嬉しいこと行ってくれるじゃないか。

 

でも、気持ちわかっちゃうんだ。喜びたいのに喜びきれないぞ。

 

 

「小町さんがそう言うなら・・・」

 

 

そう言って、しぶしぶといった感じで、とり出したケータイをしまう雪ノ下。

 

納得したのなら、親の仇を見るような目で、こっち見ないでくれませんか。

 

 

その後、小町三浦雪ノ下による指導を受けながら、5、6回の試行錯誤の上、ようやくクッキーと呼べるような代物ができるようになった。

 

まだ形も歪ではあるが、最初の暗黒物質を知っているので、ここまで成長した由比ヶ浜を称えたい。

 

おそらく三浦達もそうだったに違いない。

 

事実、オーブンからクッキーが出てきた時、俺達は打ち合わせしたかのように、無言で拍手していたしな。

 

 

「由比ヶ浜、お前それ渡すのか?」

 

「どうしよう・・・まだ人に渡すにはちょっと抵抗があるかな・・・」

 

「はぁ、仕方ないな」

 

「覚悟を決めたのね。大丈夫よ、年に1回くらいは思い出してあげるわ」

 

「なんで最悪の状況になることが確定なんですかね?」

 

「あら、違うの?」

 

「違うわ!」

 

 

さっきと同じくだりじゃねえか。

 

 

「八幡、なにか思いついたんじゃない?」

 

「まぁ思いつきとは違うんだが、少し整理しようと思ってな。由比ヶ浜は、そのクッキーを渡して喜んでもらって、感謝の気持ちを伝えたいんだよな?」

 

「うん。そうだよ」

 

「なにが言いたいの?比企谷くん」

 

「つまり、クッキーは手段であって、目的は感謝の気持ちを伝えることだろ。うまいクッキーかどうかは問題じゃねぇんだよ」

 

「手段?目的?うーん・・・あっ!うん。そうだ!私喜んでもらうのが目的なんだ!」

 

「えぇ・・・由比ヶ浜、お前・・・」

 

「結衣・・・」

 

 

おいおいこいつ大丈夫か。

 

アホの子認定が正しかったとは。

 

おれの直感も捨てたもんじゃねぇな。

 

 

「・・・由比ヶ浜さんが、アレかは置いといて「ちょ、ひどくない!?」あなたの言うことも一理あるわね。でも、それは現状を整理しただけで、解決してはいないわ」

 

「あぁ、だから、結論から言うと、そのままでいい」

 

「そのまま?」

 

「そのままのクッキーを渡せばいい。一生懸命つくったクッキーを渡せば、それだけで感謝の気持ちは十分伝わるし、もらった側はそれだけで嬉しいってことだよ」

 

「へぇ、八幡、ちゃんとわかってるじゃん」

 

「そりゃ、な」

 

「そっか。そうだよね。うん。私、これを渡すことにするよ。ありがとう!ヒッキ―!お礼に、ここにあるクッキー好きなだけ食べてね」

 

 

由比ヶ浜の笑顔は、直視するのに照れるような、そんな眩しいものだった。クッキーは鈍く光っているが。

 

 

「お、おぅ」

 

「もちろん先生の3人も食べてね。いっぱいあるから」

 

「そうね・・・いっぱいあるものね。頂くわ」

 

「小町、食べよっか」

 

「はい!ゴミいちゃんには勿体ないですもんね」

 

 

比企谷家で開催されたクッキーパーティは、部活帰りにやってきた一色の参加により女子会へとその姿を変え、けっこうな盛り上がりを見せていた。

 

俺は隅っこでおとなしくしているだけだがな。

 

だが、楽しい時間は長く続かないようで、暗黒物質(処分せず残していた俺のミスだが)に手を出してしまった一色の手により、女子会はお開きとなった。

 

一色、お前のことは忘れない。

 

年に1回くらいは思い出してやるからな。

 

 

「人のセリフとらないでちょうだい」

 

 

なにか聞こえるような・・・どうやら自宅ですら、俺の休まる場所は無いようだ。

 

 

 


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