やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
放課後。
それは甘美な響きを持つ、自由の象徴。
学生にとっては、一日で最もそのチャイムが待ち遠しいもので、俺もその一人だ。
特に孤高のボッチである俺クラスになると、チャイムと同時に教室を出られるように、椅子を机から後ろにずらしておき、いつでも体が脱出できるように準備している。
今日もチャイムと同時のスタートダッシュに成功したはずなのに、ドアを開けた先に待ち受けていたのは俺を夜な夜なラーメン屋に連れ出す生徒指導の平塚女史だった・・・
そんなこんなで俺は結局昼休みに連れてこられた教室の前にいるわけだ。
いつまでもドアの前なのもアレだし、入るか。
おっとノックしないと怒られるんだっけか。
「ちーす」
「あら?どなたでしたっけ?」
「さっき昼休みに紹介しただろ」
「昼休み?あぁ、今すぐ帰りたいや君ね。今すぐに帰ってもらって構わないわ」
「俺をそんなやる気ない奴みたいに言うなよ」
「やる気あるようには到底見えないのだけど」
「・・・正解だ」
そうでしょうと言わんばかりに頷く雪ノ下。なんでそんなドヤ顔なんですかねぇ。
「それよりも、いつまでそこに突っ立ってる気?そこにいると他の人の迷惑になるわ。あなたの面倒をみるのは平塚先生の頼みでもあるし、本当に、全くもって遺憾ではあるのだけど、この部屋に入ることを許可します」
「俺はこの部屋に入るのにいちいち許可がいるのかよ・・・」
「私は部長で、あなたは部員。部長の決定に従うのが、部員の務めなのよ」
「どこぞの団長さんだよ」
「団長?何を言ってるのかしら。眼だけじゃなく耳まで腐ってしまったのね。なんて可哀想な人」
「ちょっとしたボケでもそれだけ罵詈雑言を浴びせることができるのはもはや才能だな」
「あらそんなに褒めないでくれる?て、照れてしまうじゃない」
「全く褒めてないんだが」
なぜ本気で照れているのか。
「まぁいいや。それで俺はここでなにをさせられるんだ?」
「平塚先生からなにも聞いていないの?」
「あぁ全く」
「そう――じゃぁゲームをしましょう」
「あん?なんのゲームだよ」
「この部活がなんの部活か当てるのよ。質問はしてもいいけど、答えるかは私の気分次第よ」
「気分かよ!?・・・この部活の他の部員は?」
「いないわ。質問終了ね」
「もう終わりかよ!」
ヒント少なすぎでゲームとして成立しているとは言えないだろこれ。
まぁ、とはいえ、なんとなくの目星はついているんだが。
これでも国語学年3位の俺を舐めないでもらいたいね。
まずこの部活が少人数で出来ること、そしてこいつはずっと一人で読書していることを考えれば、、、真実はいつも一つ!
「わかったぞ」
「どうぞ」
「文芸部だ」
「その理由は?」
おれはつらつらとさっきの話をする。
決まったな。
「外れよ」
「ばかな!?」
「なにかしらその反応。ひどく不愉快なのだけれど。まぁいいわ。それであなたは・・・その眼を持って生まれたことを後悔していないかしら?大丈夫。私が腐ったその眼で生きることを認めてあげるわ」
「お前は一体何者なんだよ。認められんでも生きていくわ。というか、その話とこの部活がどう関係するんだ?」
「困っている人には救いの手を、自分を許せない人には慈悲の心で接し赦す、モテない男子には女子との会話を。つまり、奉仕、ということよ。それがこの部の活動」
奉仕部?そんなもんがあったとは驚きだ。というか赦すって、おれの眼は罪なんですか。そうですか。どこぞの竜の人の気持ちがわかる気がする。主夫スキルで言えばいい勝負だろうしな。
「優れた人間には、哀れな者を救う義務がある。だから、あなたの問題も解決してあげる。感謝なさい」
すげー上から目線だなおい。こいつさては友達いねぇな?
「歓迎します。ようこそ奉仕部へ」
百歩譲っても、到底歓迎されているとは思えんが、どうやら俺は奉仕部なるよくわからない部活に入ってしまったようだ。