やはり俺の幼馴染と後輩がいる日常は退屈しない。 作:あべかわもち
「えーー!!せんぱい、部活に入ったんですか!?」
奉仕部初日の活動で心身ともに疲れ果てた俺は、家に帰ってベットにダイブしてから小町の「ご飯だよー」の一言で階下のダイニングに向かった。
今日も小町との楽しい夕食のはずだったのだが、うちのダイニングテーブルに、三浦と一色が隣り合って座っており、余っている席は小町の隣なので彼女らと向き合う形で、比企谷家の食卓を4人が囲う構図が出来上がっていた。
実をいうと、今年の4月からなぜかこういう形がデフォルトになっているので、あまり驚きではない。
こいつらの両親も、うちの両親も仕事が忙しいことと、そして全員子供達が寂しくなければ全て良し的な考えを持っていること(うちは小町限定だが)もあり、こういう形になっている。
もちろん、俺は小町と二人きりがいいと主張したのだが、小町の「大勢で食べた方が嬉しいな」の一言により、このように決定した。なんでこうもうちの両親はここまで小町を溺愛しているのだろうか。
八幡も溺愛してくれてもいいと思う。
「飯くらい静かに食べろよ一色。それに俺が部活するのがそんなに驚きなのか」
「あたりまえです!あの引きこもりの、捻くれもののせんぱいが、部活に入るなんて・・・しかも三浦先輩まで・・・ずるいです」
「そ、それは、その、成り行きで仕方なかったし」
「成り行き、ですかそうですか」
「いろは、顔怖いんだけど・・・」
一色は満面の笑みなのだが、なんだろう、黒いオーラ的な何かが見えるような?さすがあざといの塊、小悪魔いろはだな。
「せんぱい、なにか失礼なこと考えてませんか?」
「べ、べ別になにも考えてねぇよ」
「ここまで嘘つくのが下手な人が部活に入ったなんて嘘つけませんよね。はぁ、やっぱり部活に入ったんですね・・・」
「そう言えば、いろは先輩って、たしかサッカー部のマネージャーでしたっけ?」
「うん。せんぱいも三浦先輩も入らないって言ってたから、一番私が役に立つ部活に入ったの。ほら、一生懸命な人たちってすごくカッコ良くない?誰かさんと違って」
なぜそこで俺をみるのか。
俺ほどカッコイイ奴とか・・・まぁ結構いる気も若干するけどよ。
そういえば、一色が部活を探している時には、散々、俺も一緒の部に入りましょうと誘われたっけ。
あの時はあれこれ理由つけて入らなかったのに、結局入ってしまったな。
物理的に仕方なかったわけだから勘弁してもらうとしよう。
「そうだ!なぜこんなことに気付かなかったんだろ」
突然、一色が大きな声を出す。
微妙に上目遣いで、目を輝かせている。
流石あざとい可愛いなこいつ。
ではなくて、これはろくでもないことを思いついた顔だ。
「私も入ります!掃除部!」
そうきたか。
というか掃除部なんてあるわけないだろ。
でも毎日の掃除が無くなるんだから誰かやってくれよ。
俺は絶対嫌だけど。
「盛大な間違いだな。奉仕部だ」
「奉仕・・・せんぱい、そういうのが趣味なんですか?メイドですかオタクですか正直キモいですけどそんな先輩が望むなら別にそういうのも悪くないというかまだ早いかも知れなくてやっぱりごめんなさい」
「ち、ちげーし!というか何言ってるかわからんがよく噛まずに喋れるな」
「あっ、えっと、とにかく!誰に言えば入れるんですか?早く教えてくださいよ!」
「そうはいっても、お前はサッカー部のマネージャーなんだろ?」
「はいそうですけど」
「たしか部活をやめることはできないんじゃなかったか?少なくとも半年は」
「え?なんですかそれ。いつもながら全く面白くない冗談ですね」
「いろは、八幡が言ってること、珍しく冗談じゃないし、ほら」
「!・・・まさかそんなからくりがあったとは・・・うぅ失敗したなぁ」
三浦にみせられた生徒手帳の裏に載っている校則の抜粋を見て落ち込む一色。
というか俺がいつも冗談のようなウソしか言ってないような発言は控えてほしいんだが。
「全く落ち込む必要ないぞ。その奉仕部にいるのは、毒舌女部長殿だからな。入らない方がお前のためだ」
絶対相性が悪いだろうからな。
それでも入った三浦は謎だけど。
「そんなこと気にしないですけどね・・・あれ?もしかして部長さんって女の人なんですか?」
「あぁ、雪ノ下雪乃って知らないか」
「え・・・雪ノ下さんって、あの?」
「そ。あの雪ノ下さん。ただの偶然というか、平塚先生の陰謀というか、まぁそんな感じかな。あっ、でもいろはが考えてることはないから。ね?成り行きって言ったっしょ?」
「うーん。でもそれって、うーん・・・」
うーんと腕を組んで険しい表情の一色。
まさか一年のこいつまで知ってるとは。
さすが雪ノ下だな。有名人は大変だ。
会ったことない奴にも名前を覚えられて、勝手にイメージをつくられてしまうんだから。
はぁ、これだから人間ってやつはry)
「お話の途中、申し訳ないんですけど、せっかくの料理が冷めつつあるので、早く食べてもらえませんか?今日のは自信作なんですよ」
「ごめんね小町ちゃん!うん!このハンバーグ美味しい!」
「相変わらず美味しいわね。小町、今度作り方教えてくれない?」
「はいもちろんいいですよ!いろは先輩もどうですか」
「もちろん!よろしくね」
こいつらは本当に仲が良いな。
はたから見てると本物の姉妹に見えないこともない気もする。
ただ、あくまでそう見えるだけであって、小町が俺の妹であることは揺るぎないけどな!
「八幡、ニヤケ顔キモいんだけど」
「せんぱいはこれだから」
「全く、困ったごみぃちゃんですね」
「・・・」
泣いてもいいですか?
「おい二人とも、飯も食い終わったんだし、そろそろ帰ったらどうだ?」
夕食を食べ終わった俺達はダラダラと雑談をしたり、リビングでTVを見たりしていたが、そろそろ良い時間になってきた。
「お兄ちゃん、空気読もうよ。明日お休みだから、別に泊ってもらっても良いんだし。小町にとっては家族が増えたみたいで嬉しいんだよ?お喋りも楽しいし、義妹の手料理を振る舞って、お兄ちゃんのお嫁さん候補に喜んでもらいたいし。あ、今の小町的にポイント高い!」
「・・・なんだそれ」
お嫁さん候補って、こいつらにとっては拷問でしかないだろ。
というほど自分を貶めて考えるわけではないが、ありえないだろ。
常識的に考えて。
「「お嫁さんって・・・」」
「ほらみろ。絶句しているじゃないか。」
二人とも固まってしまって、顔を真っ赤にして俯いているじゃないか。
耳まで真っ赤にしてるような?
チラチラこっちを見てる気もするが、きっと反応に困っているんだろうな。
うん、きっとそうだ。
さすがに経験豊かな俺は騙されませんことよ!
「いやいやあれはそういうことじゃないと思うんだけど・・・」
「どういうことだ?」
「うーん。ごみぃちゃんにはわからないんじゃないかな」
たしかにわからんが。
というか、ごみぃちゃん呼びに慣れつつある自分がいるんですけど。
人間の慣れって怖いな。
なんか凹むぞ。
「そ、そういえば、せんぱいはなんで部活に入ったんですか?あれだけ私が誘っても入ってくれなかったのに」
「ばっか、お前、ボッチの俺がリア充(笑)の集団に入るわけないだろうが」
「うわーすごい説得力ですね。悪い意味で」
「八幡らしいというか、なんというか」
「なんと言われようともそれがあの時の理由だ。ただ、今回は一から十まで平塚先生の陰謀のせいだ。入らなければ、物理的に平面ガエルになっていたから、仕方なかったんだ」
「かえる?のことはよくわかりませんけど、雪ノ下先輩のことと言い、平塚先生が色々の原因なのはわかりました」
「これがジェネレーションギャップか・・・」
「?」
「なんにせよ平塚先生に聞いてみろよ。どうにかなりませんかって」
「そうですね。とりあえず聞いてみます」
「あーしも行こうか?」
「はい。お願いします」
自分で勧めといてアレだが、たぶんダメだろう。
あの人決まったルールは守るんだよな。
決まってないならなんでも自由だとも言ってたけど。
・・・いったい教師ってなんだろう?
正直、こいつらと一緒に部活をするのも悪くないかなと感じる自分もいるんだが、周りのことを考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。
これだと臆病と言われても仕方ないかもな。
「・・・半年、か。長いなぁ」
ポツリとつぶやいた一色の言葉は、なせだかわからないが、俺の耳に残って、その日眠りにつくまで離れてくれなかった。