婚姻決闘騒動から数ヶ月。最近10歳になったエルフリーデ・フォン・マルティンです。ちなみに誕生日は6/28で、誕生日祝いには修行道具を買ってもらった。念は現時点で相当鍛えることが出来たと思っているが、それを使いこなす肉体がそこまで鍛えられていないので、それを強化するためだ。
腕部、脚部、胸部に装着するタイプのウェイトなのだが、全てのウェイトに特殊合金のプレートが特殊繊維で編み込まれているのだ。その合計重量なんと、690kg。大体軽トラ並みの重さである。念無しだと立っているのがやっとである。いや、前世から考えると軽トラ背負って立っていられるあたり、私も人間離れしてきた感じがするが、ゾルディック家の皆様に比べれば、まだまだである。
ちなみにこの特殊合金、かなり希少な鉱石を使っているらしく、婚姻決闘の祝勝も兼ねて奮発してくれたらしい。それとなくおいくらだったのか聞いてみたところ、今回の婚姻決闘に掛かった費用よりは安かったらしい。……いや待って欲しい、10億が比較対象になるっていくらしたんだコレ。非常に気になるが、胃が痛くなりそうなので、これ以上は何も聞くまい。聞いてしまえば破損を恐れて修行どころではなくなるのが目に見えている。
さて、決闘が終わってからのことだが、しばらくは忙しいままだった。まず決闘を挑みたい人がいないか確認作業を行う必要があったし、それが終わったら法務省に決闘終了のお知らせをして、王家にもご報告して、家と街に常駐してもらっていた医療関係者や、決闘の立会人に謝礼を渡して帰ってもらって、庭師を呼んで決闘で荒れた森の手入れをしてもらって、と後始末のオンパレードだ。
決闘の準備から全てを手伝ってもらった家族には、早々にお礼を伝えておいた。何かあげたいところだが、生憎まだ親の庇護下で、お小遣いも貰っていない(代わり欲しいものを言えば大体買ってもらえる)立場なので、ハンターになれたら何かしら恩返ししたいところである。
パパはワインが好きだからワインで良いとして、ママはお気に入りのブランドのアクセサリーかドレス、レナさんは仕事外でも料理が趣味だから最新の調理器具とアカギレ用のハンドクリームなんか良さそうだ。喜んでくれるかな?
さて、そんな皮算用に利用されているハンター試験だが、現在は1981年で、一月に269期ハンター試験が終了している。いつのまにかジンが合格した267期を通り越していた。時系列的に、そろそろ遺跡の調査修繕だったり、グリードアイランドの開発をしている頃だろうか?まだどちらの情報も入っていないが、遺跡もグリードアイランドも一度は行ってみたいところだ。
私は今年いっぱいを準備に費やして、来年のハンター試験を受けるつもりだ。必要そうな物を少しずつ集め始めていて、修行道具もその一環だ。そして修行道具以外にも重要なものを一つ、すでに集め終えた。何かというと、仲間である。
それは決闘の後始末が終わって一月ほど経った頃、足の怪我も完治したしそろそろ修行再開だなぁ、とソファに座ってダラけながら考えているときに、パパママから社交界へのお誘いがあった。それもモドキではなく、本番の社交界。まだ年齢的に早くないか?と思ったが、今回は身内の集まりで、ほとんど近況報告とおしゃべりの場のようなものなので、今回は特例らしい。
詳しく聞いてみれば、今回の社交界は主にマルティン家も所属する鳩派軍閥と、それと関係を密にする派閥のメンバー限定で開催されるもので、このメンバー達は今回の婚姻決闘における根回しや情報提供、欺瞞情報の拡散など、見えないところで手助けをしてくれていた方達らしい。
なので一度顔見せも兼ねて、お礼を言っておきなさいとの事らしい。今後ハンターなることを考えれば、ハンターだからできる事、貴族コミュニティだからできる事、双方持ちつ持たれつの良好な関係を維持した方が良いとのことである。
あとパパママはみんなに私を自慢したいのと、他のメンバーは大騒動の発端であり、マルティン家始祖ヒルデガルドの再来と呼ばれる麒麟児兼問題児を肴に酒が飲みたいらしい。いつからそんな大層な称号ついたんだ、みせもんじゃねーぞ。
時は流れて開催日、朝からママがドレス選びに夢中である。せっかくの社交界デビューなんだからと滅茶苦茶張り切っていて、もうずっと着せ替え人形状態である。あの、ママ、もうなんでも良いので終わりませんか?屋敷中からドレスを集めたせいで、ベッドの上からクローゼットまでドレスでパンパンになっているし、部屋そのものもハンガーラックごと持って来たドレスで埋まってしまっています。
あとパパは微笑ましげな目で眺めた後に退散しようとするんじゃない。オメーも引き摺り込んでやるからな。ぱぱぁ!パパも私の衣装選んでぇ?と甘えた声を出せばイチコロである。そんなヤベッて顔をしてももう遅い。逃さんからな。
衣装選びが終わりアクセサリー、化粧とやっていたら、いつのまにか夜である。いやもうね、グッタリである。パパと一緒にノックダウンだ。ママはめっちゃホクホクしてる。よく10時間近く衣装を取っ替え引っ替えしていて元気が残っている物だ。我が母ながら恐ろしい。もう今後衣装選びは全部自分でやろうと固く誓った、絶対に。
そんなこんなで準備を終えて会場に到着した我々だが、パパママは先に挨拶回りに行ってしまった。私は後で紹介の場が設けられているため、それまでは自由時間だ。
時間ができたので会場を見回してみると、私のことが気になるのか、会場中からチラチラと視線が飛んでくる。あんまり気分が良いものでもないので、視線を遮るものか、気を紛らわせる物を探す。
すると知り合いがいることに気が付く。知り合いというか、決闘で倒した婚約者候補なのだが、そういえば15歳以上の人たちは社交界モドキじゃなくて、本番の社交界のほうに出てるんだっけと思い出す。クレバーゴリラのミニウヴォーギンさんこと、ギュンター・フォン・ライデンシャフトさん。脚力自慢のゴンモドキさんこと、アデル・フォン・ガイストさん。2人ともあんまり悪い人という印象はなかったし、時間潰しに付き合ってもらおう。……やっぱり少しローキックし返しても良いだろうか?
若い男同士気が合うのか、2人は集まって話をしているのでちょうど良い、そのまま歩いて2人に近づく。するとこちらに気がついたのか手を振って声をかけてくれた。
「よう!お嬢じゃねえか、どうしたんだ?」
「いえ、視線が少し……。」
「ああ、気になるだろうが仕方がねえよ、お前さんは今日の主役みたいなもんだしな」
挨拶に対して正直に答えれば、ギュンターさんも周囲を見渡しながらそう言う。貴族としては言葉遣いが粗雑だが、こちらを気遣って気にするなと言ってくれているのだ。少しは気が楽になる。それに、聞き耳を立ててこの会話を聞いた周りの連中も、流石に不躾な視線だったと思い至ったのか、視線が幾許か減ったので助かった。
「ギュンター、お嬢やお前などと気安い呼び方はやめなさい。申し訳ありませんレディ。代わりに非礼をお詫びいたします。」
胸に手を当てて深々とお辞儀をしながら代わりに謝罪しているあたり、アデルさんとギュンターさんは親しい間柄なのだろう。声色は硬いながらも、ギュンターさんへの親しみのような物を感じる。
「いえ、気にしておりませんよ。それに堅苦しいのは苦手なので、気安い対応の方が嬉しいです。」
そうアデルさんに返せば、ホッとしたように胸を撫で下ろし、表情を少し崩す。多分だが、私が彼らより家格が上の人間だから、ギュンターさんの態度が問題になるのを危惧していたのだろう。
「ほらみろアデル!お前は堅苦しすぎるんだよ。もう少しリラックスしていけリラックス。」
「……ッチ。」
「おぉ、こっわ。」
そりゃ心配してフォローした相手からふざけた茶々を入れられたのだから、短いやり取りからも真面目とわかるアデルさんからすれば面白くないのだろう。小さく舌打ちをして、ギュンターさんの足にローキックをお見舞いしている。
こわいなどと言いながらも、どこか楽しそうに蹴りをいなしているあたり、このやり取りもいつもの事なのだろう。今世でこう言った関係を築けた友人はいないので、少し羨ましい。
「ふふ、お二人とも仲が良いんですね。」
「なんてったって赤ん坊の頃からの付き合いだからな。」
「腐れ縁ですよ。姓は違いますが、親戚なんです、私たち。」
ずいぶん仲が良さそうだとは思っていたが、それならこの距離感もわかる話だ。そう納得しているとこちらに話が飛んでくる。
「ところで聞きたかったんだがよ、どうして婚姻決闘なんて古いもん引っ張り出して来たんだ?」
確かに事情を知らない外部の人間から見れば、私のやりたい事が見えてこないのだろう。家督を継がない貴族女性として、家同士の結束を強めるために婚姻をするのが普通のところを、わざわざ婚姻決闘をする意味がわからないし、その上で全勝して誰とも婚姻関係を結ばないのだから、余計にわからないのだろう。
「あー、……まあ良いか。私、ハンターになるつもりなんです。それで婚姻で家に縛られるのが嫌で、こんな方法になってしまったんですよね。」
「はぁ!?そのためにこんな大層なことやったのか!?名を挙げるためとかじゃなくてか!?ハンター試験なんて家出して受ければよかったじゃねえか。」
パパママからは、婚姻決闘が終了した時点で、ハンター試験を受けることは公言しても良いと言われている。遅かれ早かれ知られることになる事だから、タイミングは好きなようにしなさいと。なので、今公言することになった。今まで誰にも聞かれなかったからね、仕方ないね。それに対してギュンターさんは目ん玉ひん剥いてでかい声で驚いている。まあ多分これが正常な反応なのだろう。
「いやー、それも考えたんですけどね。でも家の名前に傷が付くのも嫌だったので、こんなことを。それに、負ける気がしませんでしたから。」
「ハハハハ!言うねぇ!だがあれだけ強いなら、その自信も納得だわな。俺も相当鍛えてるし、自信あったんだが。いやぁ強かった。」
隠す必要もないので正直に話すと、ギュンターさんは手を叩いて笑う。そしてひとしきり笑った後、周囲を見渡し、盗み聞きを警戒するかのように私の耳元に口を寄せる。
「……そんな強いお前さんに提案なんだが、ハンター試験、俺たちと一緒に受けるつもりはねえか?」
一体何を話すつもりなのかと耳をすませてみれば、小声でこんな提案をしてきた。初めは冗談か何かかとも思ったが、今までの朗らかで優しげだった目が、酷く真剣だ。困惑してアデルさんの方を見ても、こちらも真剣な目をしてこちらを見ている。
「……それは、どうしてですか?」
思わずそう問い返す。ハンターライセンスは確かに有用なものだ。取得して損はないだろう。そして同時に、貴族として生きていくには、ただの箔付以上の意味は薄いだろう。私の場合は貴族としてのシガラミから抜け出すためにも個人としての箔があった方が良いし、未来のために取得しておいた方が都合が良いので欲しい。だがギュンターさんが欲しい理由、俺たちと言っているあたりアデルさんもなのだろうが、理由の想像がつかないのだ。念を習得しているし、そうそう無いとは思うが、死のリスクもある試験を受ける理由が。
「あぁ〜……。まぁ、話は少し長くなるんだけどよ……。」
そう言いにくそうにモジモジしている長身筋肉ダルマに、さっきまでの威勢が良さそうな感じはどうしたんだと思っていると、パパママが壇上で話し始めているのに気がつく。流石にお礼を申し上げる場に本人がいないのは心象的にまずいので、急いで向かう。
「私はこれにてお暇させていただきますが、また詳しい話をお聞きしたいです。私は来年のハンター試験を受けるつもりです。それまでなら私はいつでも家におりますので、ご都合の良い時にお越しください。」
時間がないので手短に伝えたい内容は全て伝えて、返答を待たずに背を向ける。多分この後、パパママに連れられて挨拶回りになるだろうから、今日話を聞いている暇はないだろうから。
「必ず行く」「必ず訪問させていただきます」
去り際に背後の2人から、こう返答が返ってきた。2人の受験理由が気になるところだが、今は悠長におしゃべりしている余裕はない。急足でそのままその場を後にした。
それはそれとして1番読みたいのは原作の続きなんだよなぁ。愛してる冨樫先生、フォーエバー冨樫先生。