社交界より数日後、約束通り2人が我が家へ訪問してきたので、応接室に案内して、そこで話を聞く。そして長々と続いた2人の話をまとめるとこうだ。
「で、要するに、2人は職探しのためにハンター試験を受けると、そういうことですね?」
「おうよ!」
「いや待ってください。僕は違います!こんな筋肉バカと一緒にしないでください!」
「なんだとアデル!テメェ!何も違わねえじゃねえか!」
喧嘩し始めたバカ2人は置いといて、2人の主張を整理しよう。
まずギュンターからだが、仕事を首になったからハンターになりたいらしい。正確に言えば、軍隊を除隊させられたらしい。軍閥の貴族として念の修行をしていた頃は良かったのだが、18歳になって本格的に軍人としての教育を受け始めた際に問題が起きた、というよりも問題を起こしたのだ。
自分より雑魚に偉そうに指図されるのが、まず性に合わなかった。そしてそれを隠し切れるほどギュンターは器用な性格をしていなかったようで、教官たちに目をつけられてしまったのだ。命令一つで死地へ赴く可能性もある軍隊において、そういった命令違反をしかねない跳ねっ返りは徹底的な”教育”を施されるわけだが、ギュンターみたいな強化系相手に、それは悪手以外の何者でもなかった。肉体的な嫌がらせ、ダメージ0で無意味どころかフラストレーションが溜まる。精神的な嫌がらせ、反省どころかフラストレーションが溜まる。初めはきちんと我慢していた。これは仕事なんだから、と。
だが我慢して真面目に訓練をこなして、勉学以外の各種成績もトップばかりなのにも関わらず、繰り返し繰り返し、執拗に繰り返される”教育”に、ついに溜まりに溜まったものが爆発した。理不尽な嫌がらせをされるたびに、殴り返すようになってしまった。教官だろうが構わずに、だ。
もちろん軍隊においてそんなことをすれば大問題なわけだが、問題になったところで軍の規律ではギュンターを扱いきれなかった。謹慎、停職を食らおうが理不尽な目に合わされれば必ず反撃をする。そんなことを繰り返すうちに、どんどんと処分が重くなり、最終的には除隊処分である。
除隊後は、中級貴族の三男ということもあり、食い扶持を稼ぐために何かしら仕事を見つける必要があった。その一つとして目をつけたのがハンターだったようだ。元々鍛えるのが好きで、その力を存分に振るえる先を求めていたのと、軍で上から物を言われることに懲りて、個人事業主になりたい。その条件に合致したのが、たまたまハンターだったというわけだ。
他にも天空闘技場でフロアマスターを目指すのも良いかと思ったようだが、大雑把で感覚派な俺じゃあ道場を開いても、まともに教えられないと考え直したらしい。(私に婚姻決闘を挑んだのは、大貴族である我が家なら、働かなくても良いかな、と思ったらしい。ゴミカスじゃねーか。)
ちなみに家に居られるタイムリミットは20歳までで、それまでに独り立ちしないとまずいらしい。今年19歳になるので、20歳までに受けられるハンター試験は来年の一回のみ。なのでどうしてもハンター試験に受かるために、私にも声をかけたようだ。
続いてはアデルの場合だ。こいつもギュンター同様、仕事を首になったかららしい。なんだこいつら2人も揃って。レオリオさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。正確に言えば、この国の警察の体質とアデルの正義感の不一致が原因で、警察をクビになったらしい。
まずはこの国、マニージャー共和国だが、共和政に移行して主権は民衆に移っているが、貴族が公然と存在できていることから理解できる通り、貴族層が国の中枢をかなりの割合で牛耳っており、旧態依然とした権力が未だに幅を利かせているのが現状だ。
そうするとどう言ったことが起こるかというと、権力による犯罪の揉み消しが罷り通るわけだ。そんな状態で青い正義感丸出しの真面目ちゃんが、警察なんかで働き出すとどうなるかというと、これまた扱いにくい跳ねっ返りになるわけだ。しかも、その跳ねっ返りが揉み消す権力側の人間というのもタチが悪かった。
警察としても真面目に仕事をしてくれる分には問題ないので、出来るだけそう言った権力絡みの事案から遠ざけてやりすごしていた。だがそう言った事案と遭遇するたびに首を突っ込み事態をしっちゃかめっちゃかに掻き乱すうえ、最悪の場合は警察を飛び越えて権力バトルを始めようとするのだ。
これには警察も耐えかねて、アデルの両親と話し合い、他家にも悪影響を及ぼしかねないとして、アデルの自主退職という形で決着がついた。
そしてそんな正義感丸出しの真面目君がどうしてハンターになりたいのかというと、権力と隔絶された逮捕特権を持っているハンター、ブラックリストハンターになりたいかららしい。あとギュンター同様20歳までに独り立ちしないとまずいらしい。(ちなみに私と婚姻決闘に挑んだ理由は、大貴族である我が家の権力を持ってすれば、権力による揉み消しを防げるかと思ったかららしい。どっちも私じゃなくて家目当てじゃねーか、いや貴族としてそれが普通なんだが、少し複雑な気分だ。)
うーん、どうしたものか。ぶっちゃけてしまえば、2人と一緒にハンター試験を受けた場合の影響を懸念している。2人は間違いなく才能ある念使いで、このまま本編開始時点まで修行を怠らなければ、本編においても活躍できるような一角のハンターになっているだろう。
ハンター試験合格の確率を少しでも上げるために、これから数ヶ月行動を共にして修行すれば、2人をよりも強くできるだろう。だからこそ2人を見極めなければならない。2人とも、いかにも強化系らしい直情バカの気質が見えているが、根は良い奴なのだろう。これは志望理由と、これまでの言動を見ればよくわかる。
ならば確認するべきことは後一つ。
「2人とも、これからする質問に、真面目に答えてください。」
私の真剣な声色を聞き取ったのだろう、喧嘩していた2人が動きを止め、こちらを見る。そして私の目を見て、重要な質問だと理解したのだろう。静かに私の声に耳を傾けている。例え話は苦手だが、伝わってくれると良いが。
「世界を滅ぼしうる化け物が現れたとして、他の人に任せて逃げればあなたは安全に暮らせるだろう。逃げようが逃げまいが勝ち目はとても薄く、もし化け物を打倒出来なければ、あなたの家族達含め、全ての人類は死よりも恐ろしい体験をすることになる。あなた達ならどうする?」
「うーん、質問の意図が読めねえが、まあ答えはひとつだわな。」
「ええ、悩む必要すらありませんね。」
私の質問の意味がわからず困惑して顔を見合わせる2人だが、真剣に答えろという要求を受け止めてくれたのだろう。2人ともニヤリと不敵な笑みを浮かべながら答える。
「敵わなくとも、挑むまで」
一字一句違わぬ答え。性根が本当に似通っているのだろう。だからこれだけ仲が良いのだろう。2人は答えを出してくれた、ならば私も答えを出さなければならない。
「2人とも、ハンター試験、一緒に頑張りましょう。」
笑顔で握手を求めれば、それに応えて私の手を握る2人。こうして私は仲間を2人手に入れた。
「それで、お二人はハンター試験に向けて、どれくらい準備は進んでるんですか?」
2人を仲間に迎えたわけだが、それでハンター試験の準備が済んだわけでは無い。まだまだ準備することが山ほどある。当然2人もハンター試験に向けて準備をしてきているだろうし、情報共有はしておくべきだろう。
「……」
「あ、あの、お二方?準備の方は?」
「まだ、なにもやってねえ……」
「申し訳ありません、なにぶん、私たち2人ともハンターを志したのが直近で、ハンター試験に何を持っていけば良いのかすら分からない状態でありまして……はい……。」
「…わかりました。そうですね、まずは前提として、ハンター試験の形式からお話ししましょうか。」
そういえば2人ともそういった計画性があるタイプではない事を忘れていた。思わずため息をつきたくなったが仕方がない。私も本編に登場した287、288期の知識しかないが、準備を手伝うことにする。まずは準備をするにしても、どうして準備をする必要があるのか、何に向けて準備をするのかを明確に理解しておいてもらう必要があるだろう。
「まず前提として、ハンター試験はいくつかの試験に分かれています。そしてそれぞれの試験の内容を現役のプロハンターが決定して、試験官として合否を決定します。」
「そしてプロハンターと一口で言っても種類も千差万別。試験の内容も予想がつかない内容になるわけです。」
「ですが、すべてのプロハンターに共通するスキルがひとつあります。それが武力です。そのため、私の知る限りですが、試験において身体的能力や武力を試される場合が多いです。」
「なので、念を覚えている我々は非常に有利です。私たち念能力者同士で潰し合わせる様な意地の悪い試験がなければ、武力において、ほとんど問題はないと言って良いでしょう。」
「ですが、一部の試験においては、それが通用しません。私が知る試験のひとつに、美食ハンターの出した寿司を作るという試験があります。用意された道具と試験官の言動から情報を読み取り、未知の料理を作るという洞察力をためされる試験。」
「こうした念では解決が困難な試験を少しでも有利に進めるために、有用な道具を選んで持っていく必要があります。」
「ご理解いただけましたか?」
これで私の伝えたいことはすべて言い終わったが、2人はウンウンと頷いて理解の意を示してくれている。
「有用な道具って言うけどよぉ、結局それってなんなんだ?」
これは当然の疑問だろう。結局何を試されるのかわからないなら、それに対して準備するものなんてわからないじゃないか。何を準備すれば良いんだという疑問。
「ナイフとかマッチでしょうか?」
「考え方としては間違っていないと思いますよ。こちらは実際に私が用意している物になりますが、元軍人のギュンターなら見覚えがあるんじゃありませんか?」
クローゼットからA4サイズの缶の容器を取り出し2人に見せる。これは疑問に対する答えのひとつであるサバイバルキットだ。何が起きるかわからず何を用意すれば良いのかわからないなら、いろんな事に役立つ物をいろいろ持っていけば良いのだ。
「あー、確かサバイバルキットだったか?」
「そうです。サバイバルキットです。緊急事態を生存するために必要な物資や道具をまとめたキットで、あらゆる困難に立ち向かうために必要な道具が取り揃えられています。ハンター試験のような多種多様な試験を想定するならば、これくらいの用意は必要だと考えています。もちろんナイフ、マッチもこれに含まれますね。」
「軍が使っている物だけあって、その信頼性は抜群です。あとはこれをベースに、不足している物を継ぎ足していけば問題ないでしょう。」
初めは全て個別に集めることも考えたが、いざ選定しようとすると、素人目ではどれが実戦において役立つものかわからなかったし、実際に色々買って試してみるにはあまりに膨大な時間が必要だ。なので、実戦を幾度も超えてきた軍という集合知に頼ろうと言うわけだ。
「おお、説得力あるな!」
「確かに理にかなった選択だと思います。ギュンターのご家族が軍人なので、用意してもらうことは容易でしょう。」
私の説明に納得してくれたようで、2人とも肯定的な反応を示す。私もサバイバルキットは軍に所属しているおじいちゃん経由で手に入れたものなので、ギュンターとアデルの分のサバイバルキットは、ギュンターの家族経由で手に入れてもらうのが良いだろう。
「ギュンターはサバイバルキットの使い方は習いましたか?」
「いやぁ。基本教習課程の途中で除隊になっちまったからよぉ。実はまだサバイバル訓練はやってねぇんだ。」
「うーん、それは残念ですね。私もキットについてきた説明書と軽く調べた程度の知識なので、その道のプロの話を聞きたかったのですが……。」
「それなら教本があるぜ。それぞれの道具の使い方から、実際にそれが役に立ったシチュエーションまで網羅されたやつが。」
問題はそのサバイバルキットを使いこなすスキルの方だったので、教本の存在は非常にありがたい話だ。でも、こう言った教本って普通は除隊の際に回収されるはずだが、問題児すぎて回収すら嫌がられたのだろうか?まあサバイバルキット自体も軍からの横流し品ではあるので、我が国の軍ではよくある話なのかもしれない。それで軍として大丈夫なのかとも思うが、今回はありがたく使わせていただこう。
「それは良いですね。お二人の時間の都合がつく時にでも、サバイバル訓練でもしながら、実際に練習してみましょうか。」
こうして私たちに足りない物を補う予定はたった。あとはハンター試験までの約半年間、出来る限りの経験を積むだけだ。
そろそろ書き溜め分が尽きそうなので、そのうち休載に入って書き溜めを作るか、数日おきの投稿に変わると思います。