「でもよお、お嬢の系統って一体なんなんだ?強化系の俺と組み合いが出来る。並の放出系よりも念弾が強力。念弾の操作もお手のもの。オーラの形状と性質を変化させて乗ったり攻撃に使ったり出来る。系統の習得率からして、強化系か放出系のどっちかか?」
休憩も終わり、屋敷から決闘場に戻る道すがら、そんなことをギュンターから尋ねられる。これから戦う私の能力を分析していたが結論が出なかった、といったところだろうか?そこで本人に対してあけすけに聞いてしまうあたり、ギュンターらしいといえばらしいが、まあ、もう仲間なので隠す必要もないし、教えてしまっても良いだろう。
「うーん、多分特質系なんですよね。」
「特質系!うわ珍しっ、王家の連中以外で初めて見たぜ」
「なるほど。そういうことでしたか。」
私が特質系であることを伝えれば、珍獣を見る目で私を見ながら、だから色んな系統を使ってたか〜、と何だか納得しているようだ。多分特質系といっているが、最近は特質系であることはほとんど確信している。なぜなら系統別修行で具現化と特質系以外の全ての系統の修行をやっているが、具現化系にしては習得率が40%の放出系や60%の強化系、操作系が苦手という感じが全くしないのが決め手だ。というか距離を離して安全に戦えるのと、オーラの増減と威力が直結していて手加減がしやすいので、戦闘においては放出系をベースにしているくらいだ。
「でもよぉ、特質系であることを俺達以外に隠しておいたのは正解だったと思うぜ?」
「…?どういうことですか?」
「特質系なんてバレたら、婚姻決闘ごときじゃ逃げられなかっただろうってことだよ」
「え!?それはなぜですか?」
驚愕して思わず聞き返す。婚姻決闘を準備する際に法律関係は専門家に調べてもらって、法的拘束力的にも、貴族社会的秩序においても問題なかったはずだが、どういうことだろうか?しかも特質系なら、なんて但し書きが付くとはどういった理由なのか。本編において特質系に、それ単体で狙われるような、希少で特殊な系統以外の特別な意味は今のところ無かったはずだ。この国においては特質系は別の意味でも持つのだろうか?
「うーん、エルフリーデさんは王権と念の関係性をご存知ですか?」
回答を待っていると、少し言いにくそうにアデルから疑問を投げ返される。なぜ特質系と婚姻決闘の話に王権が関わってくるのかまるでわからないが、嫌な予感がビンビンする。カキン王族の例を知っているから偏見を抱いているだけかもしれないが、絶対に碌でもない話に違いない。
それに、世間一般で取り扱われているような歴史の勉強用テキストを情報源とする私には、この国における念の歴史なんて知りようがない。なのでアデルには正直に知らないことを伝える。
すると、どこから話し始めれば良いのか決めかねたのか、数秒考え込んでからアデルはおもむろに話し始める。
「それなら少し歴史のお勉強の時間にしましょうか。まず、エルフリーデさんは王権神授説という単語は知っていますか?」
「それって、王様の権力は神様から授けられたものだから、侵してはならないとかいうやつですよね?」
「そう、その通りです。表向きは神の権威を用いた、王による統治の正当化のことです。」
「ですが、神から授かった事を証明するのは当然不可能です。それならばどうやって証明無しに納得させたのか」
「教会に頼る等、いろいろと手段はありますが、その一つが念です。念について詳しく知らず、信心深い過去の民衆からすれば、念は神から賜った超常の力以外の何者でもありません。特に特質系は他の系統よりも人間離れした能力になる場合が多いので、なおさらです。」
「マニージャー王家の取った手段は、念による王権神授の証明でした。これには教会からの干渉を排除できる利点があるものの、副作用も存在しました。それは信仰という強固な思想体系を利用できないために、継続的に人知を超えた超常の力を民衆に見せつける必要があることです。」
「なので王家は優秀な念能力者の血を取り込む必要がありました。特に特質系の人間を。そして代々国王に超常の力を遺伝させ続ける必要がありました。」
「そしてそれは成功しました。我が国の初代国王は、その未来視によって国を導き、三代目国王は、その千里眼により戦乱を平定し今の国の形を成したと言われています。その後の時代においても、代々国王は神から授かった力を持つと言われています。」
「たしか今代の国王は異常なほど幸運だそうですよ。王家の始めたビジネスは軒並み成功し、国王に危害を加えようとしたものは、大小様々な不幸に見舞われ、その企みは全て阻止されたといいます。」
「でもそれは過去の話ではないですか?王家の権威は生きているものの、すでに共和制に移行して王権は存在しない。ならば今も神授の証明たる特質系を求める必要はないはず」
「王権を失ったからこそです。失ったからこそ、権威を支える存在が必要なんですよ。」
「というと?」
「皆は認めたがりませんが、王権を失った王家、貴族もそうですが、権威すらも徐々に徐々に失っていっています。今は権力の中枢に居座れていますが、数十年もすれば我々の居場所は半減しているでしょう。」
「最終的には良くてお飾り、悪ければ何も残らないでしょうね。これは他国の王家や貴族の末路を見ていればおのずとわかる話です。」
「だからこそ、これ以上失わないために特質系の血を求めているのです。今まで特質系の念能力者の血を取り込み続けることによって完成した、特質系という希少かつ強力な才能を生み出す血統としての地位は死守したいのです。」
「そうして生み出され強力無比な能力を背景に、権威を維持しようと、こういうわけです。」
「なるほどねぇ……。」
アデルの解説を一通り聞き終わったが、確かにそれなら王家が特質系を求める理由にも納得できる。王権神授の証明たる神の力=特質系の強力な念能力が、時代を経て権威維持のためのパフォーマンス装置に成り下がったわけだ。
それでも何もしなければ失われゆく権威の維持のためには手放せないのだろう。そりゃ血眼になって特質系を探すわけだし、慣習法なんて無視するくらいなりふり構ってられないわけだ。強い奴が来た時の保険として、意表を付くために放出系を装っていたが、それが予期せぬ形で功を奏したわけだ。
多分この話はギュンターも知ってそうだったあたり、念能力者の家庭では皆知っているような話なのだと思われるが。私が念能力者だから、ギュンター、アデルを含めた周りの人間も知っているだろうという大前提で話が進んでいたのだろう。
そりゃ念の師匠もいなければ、家族も非念能力者なんて状況で婚姻決闘なんて始めるとは、私たちの所属する派閥の人間も思っていないだろう。もしかしたら念の秘匿の観点からも情報のやり取りが少なかったのかもしれない。だからこんな基礎的かつ重要な情報が入ってきていないわけだ。
「なあなあ、歴史もお勉強も良いけどよぉ。早く模擬戦やろうぜ。バレてないんだからもう良いじゃねえか。」
知らぬ間に結構ヤバめの綱渡りをしていたことに、冷や汗ダラダラになっていると、話を遮りギュンターから催促の声をかけられる。戦闘好きで権力に興味が無いっぽいギュンターからすれば、過ぎたことより模擬戦の方が優先なのだろう。私としてはハンター試験を受けに国外に出るまでは他人事ではないので気が気ではないのだが。まあ、お気楽なやつを見ているといくらか気分が晴れたので結果オーライだ。
「はいはい。それじゃあ模擬戦始めましょうか。」
「よっしゃあ!アデル!早く始めろよ!」
「わかってるって。それでは両者、位置について!」
模擬戦前に嫌な話を聞いてしまったせいで、ギュンターの戦闘スタイルを考える時間がなくなってしまったが、アデルほど取れる選択肢が多くないので、考えるまでもないだろう。
攻撃は盾で防ぎ、ナイフ投擲による中遠距離攻撃と牽制。近距離はナイフによる斬撃か、シールドかステゴロによる打撃。移動速度は以前戦った時ですら、そのデカい図体のせいか強化系ながら私より少し遅いくらいだったので、30キロ近いバリスティックシールドを持った今なら、鈍重と言って差し障りはないだろう。足に込めるオーラが少なく、盾にオーラを多めに配分していることからも、回避を捨てて防御するつもりであることが読み取れる。
本来の私ならば、投げナイフに注意しながら距離を取って念弾でチクチク攻撃するのだろうが、休憩を1時間ほど取ってもオーラ残量は三割五分から四割といったところ。オーラ消費の激しい念弾の連打をしていては、念による強化無しでもライフル弾を耐えてしまう盾相手に削り切るには心許ない。ならば無駄なく最高火力を叩き込むまで。オーラをほとんど片手に配分して準備は完了。あとはアデルの合図を待つのみだ。
「試合開始!」
アデルの合図と同時に投げナイフが飛んでくる。狙いは正確で、私の胸部、いわゆるバイタルゾーンを正確に撃ち抜くために飛来する。だが盾にオーラ配分を多くしているためか、ナイフに込められたオーラは多くない。以前使用していた発による威力強化を加味しても迎撃可能と判断。
手に込めたオーラを念弾に形成して射出する。今回の念弾は全長二十センチ程度のツララ型。出来るだけ頑丈になるように、貫通力が高くなるように、オーラを圧縮し、先端を鋭く形成し、オーラの性質を硬い物質寄りに変化させる。形成難易度は高いものの、私が乗る用の円盤や切断用の円盤のようにデカいわけじゃない。連射速度は最高よりもだいぶ落ちるが、秒間3発程度は確保できる。そして威力はライフル並みで、2センチ程度の鋼材なら1発でぶち抜ける。
ナイフに向かって射出した念弾はそのままナイフと衝突、凄まじい破裂音と金属音が響き渡り、ナイフは多少曲がる程度で破損には至っていないものの、弾道は大きく逸れて飛んでいく。だがそれで十分。そのまま盾に向かって念弾を放ち続ける。
私の想定通り、ギュンターは回避せずに盾で防御を選択。念弾と盾が立て続けに衝突し、凄まじい破裂音が響き渡る。本来ならこの威力の念弾が連続でぶつかり続けたら、いくらライフル弾を数発耐える盾を強化系が強化しているとはいえ、破損は必須のはず。しかし現実は軽微な表面の傷と、多少のひび割れ。
込められたオーラ量と防御力が明らかに比例していないあたり、おそらくは、あの盾にも発の効果が適用されている。以前の私は投擲物限定の能力かと思っていたが、どうやら手に触れている物なら全て効果対象になるようだ。
ギュンターが現状取れる選択肢は3つ。
一つはこのまま防御を続けて持久戦に持ち込む。
一つは盾強化分のオーラをナイフの投擲に回す捨て身。
一つは盾を捨てた以前の戦闘スタイルに戻る。
どの選択をするかによって私の対応も変わってくるので、しっかりとギュンターの動向を観察する。オーラの損耗を考えれば、盾による持久戦をされるのが1番私に取って不利なのは明白。そしてギュンターもそのように考えたのか、盾を構えたまま動く気配はない。
ならば私から動くまで。念弾で攻撃を続け、攻撃も移動もさせずに、防御のみに集中させる。そして反撃に注意しながら、徐々に徐々に距離を詰める。そしてギュンターの間合いの外。一歩踏み込んでナイフや盾を振るわれても届かない、その間合いのギリギリ外に到達した瞬間、念弾放出のために片手に集めたオーラを片足に集中させる。
まだ飛来する念弾を処理しきれていないながらも、視界を確保するための防弾ガラス越しに、こちらを凝まで使って注意深く観察している様子がよくわかる。蹴りをしてくるのか、回避からのカウンターを狙ってくるのか、色々思いつくだろう。でも問題はない。こちらに意識がこちらに向いていればいるほど、気が付かれないのだから。
念弾を処理し終わった瞬間、シールドでそのまま殴りつけるためか、一歩こちらに踏み込み、シールドを振りかぶる。だが振り下ろすことはなく、ウッと呻き声をあげたかと思うと、地面でのたうち回り始めた。
ネタバラシをしてしまえば単純で、隠を施した念の刃をモグラのように潜行させて、ギュンターの足元から飛び出させただけだ。一応、致命傷や大怪我にならないように、土の中から出すときに刃を切れない状態にした。
「テメェ…だからって、股間は無しだろ…股間は……。」
股間を抑えて地面に這いつくばりながら、ギュンターからは恨みがましい目線が飛んでくる。いや、だって地面から1番近くて狙いやすい急所なんだから仕方がないじゃないか。そこ以外で一撃ノックアウト出来る場所を狙おうとすると、凝をしている視界に入ってバレる可能性があった。それに、盾と目にオーラを集中させてオーラが薄くなった箇所を、刃を付けたまま斬りつけて大怪我するよりは良いでしょ?
「勝負あり!これにて模擬戦を終了する!」
なぜか攻撃されたわけでもないのに内股になっているアデルが来て、模擬戦の終了を告げる。いや、元男として気持ちはわかるんだけどね?少し締まらないというかなんというか。
2人との模擬戦を振り返ってみると、やはりというべきか、私の対人戦闘における経験不足が如実に現れているように思う。結局2人に対して私が取った戦法を単純な言葉で表してしまえば、安全地帯からのオーラ量と技量によるゴリ押し以外の何者でもない。それは悪いことではないのだが、問題なのはそれしか戦法が思いつかないし、それしか戦法を取れない現状がまずい。
そのせいでオーラ量においても、技量においても2人より圧倒的に上のはずなのに、オーラがもうほとんどすっからかんだ。だから強化系相手に間合いギリギリまで近づくリスクを取る必要が出てきてしまったし、少しでもタイミングが遅れていれば、30キロの鈍器による攻撃を、オーラが薄い状態で受けることになっていただろう。
わかりやすく言えば、私の今の状態は、イルミの針を抜く前のキルアに近い。私が生き抜くだけならそれで良いかもしれないが、キメラアントみたいな化け物と戦う可能性を考慮するなら、それではやっていけないのが目に見えている。幸い2人も仲間が増えたのだから、模擬戦含めて訓練をこなしていく中で、少しでも改善できれば良いのだが…。
反対に、2人に対する私の評価は高い。自分で言うのもなんだが、特質系の特性もあって私の手札は相当多い。本編においてこういった戦い方をする人がいないあたり、相当特殊な戦い方なのだろう。だが、それを自分の得意分野を活かして、冷静に観察して捌き切り、きちんと反撃を入れてくるその胆力と技量は素晴らしい物だと思う。
これから共に切磋琢磨していけば、2人ともさらに強くなると思うと、他人事ながら少しワクワクする。幸い、いろんな系統の技を使える私は修行相手として最適だろう。今から修行が楽しみだ。
婚姻決闘の時に特質系だと判明していた場合、十代の王子と決闘するハメになり、王家嫁入りコース確定でした。この国で暮らせなくなるよー、家族の今後の将来がまずいことになるよー、決闘とは言え王族傷つけたらわかってるよね?と無数の政治的圧力をかけられて強制嫁入りコースです。ちなみに嫁入りコースの場合、内政系の念能力を開発した上で原作知識と権力を利用してカキン帝国に圧力をかけて、キメラアントと暗黒大陸行きを潰すことになっていたでしょう。血のためとはいえ案外大切にされて、子宝にも恵まれて順風満帆な生活を送ることになるので、案外このルートが1番幸せだったかも?