あれからさらに数日、生まれてからは十数日といった所だろうか。遂に目が開いた。いつも通り両親にお世話されながら食っちゃ寝、時々本能的に泣き、疲れたらまた眠る生活を続けていたら、いつの間にか目がパッチリである。
じっくり景色を見ようと周囲を見渡すと、ママと目が合う。そのあとはもう大変だった。ママがパパとお手伝いさんを呼ぶために興奮のまま叫び、何事かと焦りながら集まった2人も、事情を聞くと興奮状態になり、3人揃ってパパでちゅよー、ママでちゅよー、レナでちゅよー、と大の大人が赤ちゃん言葉でこちらに喋りかけてくるカオス状態である。(お手伝いさんの名前を初めて知った。)
しばらく我慢していると、嫌がっているのを察してくれたのか、それとも騒ぐのは子供にとって悪影響だと理性が働いたのか、パパとお手伝いさんは少し離れて小声でキャッキャしている、ママはそのままママでちゅよーbotと化している。目線と手足バタバタで勘弁してください。まだ喃語どころか、意図して発せられる声が泣き声しかないので、もう一年位待ってください。
それにしてもだ、3人とも顔が良い。まず目鼻立ちがはっきりしている。彫りが深く、鼻筋が通っていて、鼻が高い。全員色素の濃淡があるものの、ブラウンの髪、緑の瞳。どうやら日本語話者ではあるものの、3人とも典型的な日本人というわけではないらしい。それでも3人の会話は日本人の私から聞いても完璧で訛りのない標準語なので、相当長い間日本に住んでいるか、日本で生まれ育ったのだろう。
よくわからない外国ではなく、馴染みのある日本に生まれた確率が高そうで、内心ウキウキである。と言いたいところではあるが、ひとまず放置できない事柄が一つ。全員頭から出てるアレなに?と言うことである。
3人全員の頭から、湯気のようにユラユラと立ち上る謎の光?が見えるのだ。しかもなんか色もそれぞれ違うし。もう内心ウキウキとか言っていられない。え?なに?生まれ変わりとか言う特殊な経験をしたせいで、スピリチュアルな能力に目覚めちゃったのか?と困惑しながら、はたと気づく。私の体からも謎の光が出てるやんけ!と。
謎の光。認識するまではなんともなかったが、意識してからは、なんとなく体を覆う暖かな油?スライム?とにかく粘度の高い暖かな液体に覆われている感覚がある。まだ首が座っていないため全身の確認はできないが、視界の端に見える手や足の状況から見て、おそらく私の体を謎の光が覆っているのだろう。
スピリチュアルに詳しくない私が考えて思いつくのは、気、オーラ、魔力、霊力みたいな漠然とした概念のみで、どれがどんな特性を持っていて、どんな判別方法があるのかすらわからない。謎の光のせいで前世の記憶を持ってるのか、前世の記憶を持ってるせいで謎の光を認識できているのか。わからない事だらけである。
考えに耽りながら、前世の癖で唸りながら考え込んでいると、むずがっていると思ったのか、オムツか?ごはんか?機嫌が悪いのか?とパパママお手伝いさん、3人揃って寄ってくる。まるで宝物を見るような、目尻の下がった優しげな微笑みを浮かべて。そしてママに抱き上げられ、優しくあやされる。
生まれ変わった直後から薄々感じていたが、どうやら私は家族たちから結構愛されているらしい。前世、独身一人暮らしの男であった私が、親兄弟とも疎遠で都会に出てきた私が、ここまで愛を感じたのはいつぶりだろう。
わけわからん生まれ変わりに、視界の閉ざされて動けない不自由な生活、視界が戻ったと思ったらわけわからん謎の光。突発的な意味不明な現状の連続に、不安感、緊張感、怒り、悲しみ、焦り諸々含めた精神的な疲労を蓄積していたが、唯一まともにできる思考という1人遊びで何とか誤魔化してきた。
でももう甘えても良いのだろうか?もう心を許しても良いのだろうか?もう1人で考え続けるのが辛いのだ。意味不明な状況の連続を、孤独に分析し続けることに疲れてしまった。
今はもう、温もりに身を委ねることにした。すると、マイナスの感情が、精神的な疲労が溶けて無くなっていくのを感じる。生まれ変わり?家族たちにこんなに愛されてるんだから良いや。体がうまく動かせない?こんなに愛されてるんだからいいや。謎の光?こんなに愛されてるんだからいいや。いや、成長したら絶対正体を暴いてやるつもりだけど今はいいや。
生まれてからずっと抱え続けてきた精神的負荷から解放され、微睡み始めた脳は、ママの温もりに、お手伝いさんの子守唄に、パパの優しく撫でるゴツゴツした手に、眠りに落ちていった。
自立した大人が転生した場合、冷静に振る舞おうとして客観的に自分が生まれ変わった事を受け入れるのは早いけれど、主観的に、感情を伴って受け入れるには時間がかかると思うのですが、皆さんはどう思われますか?大人として冷静に判断する癖のせいで、1人で物事を解決する能力を求められる環境に置かれていたせいで、あるがままを受け入れる子供としての感性を失ってしまう。転生物が好きな世代が中学生、高校生が多いのもそうですが、そうしたあるがままを受け入れる感性を残している世代だからこそ、転生物の主人公の年齢層も、自ずとそうした年齢層になっているのではないかと思っています。