そんなこんなで両親に秘密を全て打ち明けたわけだが、それがどうして婚約者候補をちぎっては投げ、ちぎっては投げすることに繋がるか。それを説明しようと思う。単純にいえば、それが1番後腐れなく、マルティン家に悪影響がない貴族の婚姻事情から抜け出せる方法だからだ。
もう少し詳しく説明しよう。時は遡り今から約500年ほど昔、その時代のマニージャー共和国、共和制に移行する前なので正確に言えばマニージャー王国には誘拐婚が存在した。それは読んで字の如く、女を誘拐して無理やりに嫁にしてしまう野蛮な風習である。そんなものが存在する時代の最中、後にベゲロセ連合国を形成することとなる諸国達と覇を競い、その武力により国を救い、王家より戦神マルスの名を冠する姓を貰い受け貴族になった女傑が現れた。後のマルティン家の始祖。ヒルデガルド・フォン・マルティンである。
当然優秀な女が現れれば血を取り込みたいのが、貴族社会の常である。それが救国の英雄という大層な肩書きをもっているならなおさらで、当然無数の婚約、婚姻の話が舞い込んだ。だが武勇を重視するヒルデガルドは、家格も何も関係なしに、にべもなく全てを断った。自分より弱いやつの子を産むつもりはないと。
そうするとどうなるか。実力をお求めならば、実力で答えて見せようとなるわけで、それが誘拐婚につながるのである。だがそこで終わらなかったのが我がご先祖様で、上から下まで、実力行使に出た力自慢の貴族男性をほとんど薙ぎ倒してしまったのだ。流石は武勇で名を上げただけはある。
そうすると、メンツを潰された貴族たちは王家に訴え出た。貴族的秩序を著しく乱す不届き者がいると。貴族的ロジックにおいて、確かにそれは正しい。だが、よってたかって1人の女性に、しかも王家が救国の英雄、勝利のシンボルとして担ぎ上げた人間に、その当時ですらあまり良い顔をされない誘拐婚を仕向けておいて、負けたからといって権力に縋るのは流石に品位に関わる。非貴族階級の英雄として庶民に人気のあった彼女を他国に取られてしまう可能性もあった。これは戦意に大きく悪影響を及ぼしかねないし、民衆の権力者階級への不信感を産みかねなかった。なので王家は貴族達のその訴えを退けることとなった。
その時に出来たのが、今回使うことなった婚姻決闘と呼ばれる慣習法である。結婚、婚約を申し込む場合、申し込まれた側は決闘において、その実力を試す権利を有する。決闘の敗者は他の如何なる方法においても、勝者を嫁にしてはならない。王家の名において勝者の栄光を穢してはならない。明文化されていない慣習法なので、無理矢理に文章化するならこうだろうか?
この慣習法、王家が関わって成立した慣習法だから、バチバチに拘束力が強く、決闘に負けたからといって嫌がらせでもすれば、負け犬のくせに王家の顔に泥を塗る者として後ろ指刺されまくりになるのである。貴族社会でそんなことをすれば、国内ではまともに生きていけないだろう。(逆に言えば、負ければ嫁に行くことが確定になる。普通の婚約とは違って、私から婚約破棄することなど不可能だろう。)
当然私はそんな話を知らなかったので、両親に秘密を打ち明けたあと、婚約をどうするか全員で頭を捻っている時に、藁にすがる思いでおじいちゃんおばあちゃんに相談したら、この古い慣習法を教えてくれた。力さえあれば、婚姻のしがらみから抜け出すことが出来ると。
それを聞いた私は、まず情報収集をした。したというよりも、家族にお願いして、この慣習法を利用した場合に、力試しをすることになりそうな人はどれだけいるのかを調べてもらった。
調べる時の基準として、まず10歳以上年上は除外。この慣習法が成立した当時はともかく、現在の価値観だとロリコンの誹りを受けかねないし、10歳差の男女の決闘など外聞が悪すぎる。19歳以下で、誰かと婚約を済ませていない、結婚していない人物で、私と結婚をして得をする人物を調べてもらった。
それだけでも結構な数になった。ざっと数十人、年齢が近いだけあってほとんど社交界で顔を合わせたことのある人物ばかりである。纏の精度が甘い連中なので、発さえ気にしていれば負けることはないだろう。気がかりなのは、私が社交界モドキに参加し始める前に本番の社交界に行き始めて、顔を合わせる機会がなかった18歳、19歳の人たちだ。
そうした人たちがどれくらいの力量が調べて貰おうともしたが、念能力の秘匿のためか、わかることは何もなかった。だがまあ、社交界モドキに参加していた連中の力量からして、18歳19歳の連中については、対して危機感は覚えてない。6歳の時に初めて社交界モドキに参加してから三年間、周りの能力者の纏の精度がどれだけ上がったのか逐一確認してきたが、大して上がっていないのだ。
念能力者との交流が皆無で、本編以外で得た念能力者の情報が社交界モドキと、テレビ越しに見た天空闘技場の中継映像くらいなので、見立てが甘いかもしれないが、社交界モドキを卒業する15歳前後の実力は、平均して天空闘技場編終了時のズシと同等くらい、どれだけ強く見積もっても裏ハンター試験を合格した直後のゴン、キルア程度と見て良いだろう。
だがこうして考えてみると、貴族として念の教育を10年近く受けているだろうとはいえ、15歳までにはズシ含め天才たちと同レベルに達しているのだから、案外レベルが高いのかもしれない。ゴンとキルアが四ヶ月で到達するレベルに10年掛かると考えると、才能ってすごい理不尽だとも思うが。
社交界モドキから本番の社交界に切り替わるのが、大体この国の成人年齢である15歳。今まで見てきた15歳の連中の練度から18、19歳になるまでの三、四年修行していたとして、果たしてまともに念能力者としての戦闘に耐えられる技量に達しているか甚だ疑問だ。
先ほどの例を使って考えると、ゴン、キルアの2人で四ヶ月で済む修行に10年=120ヶ月かかる。修行効率が30倍違うのだ。最大の19歳までの四年間=48ヶ月で計算すると、ゴン、キルアでいう1.6ヶ月、多く見積もって二ヶ月。
天空闘技場編が終わってまとまった修行をしたのが、グリードアイランドでビスケに出会った後で、その二ヶ月間でビノールトとの修行から流の修行を済ませている。そう考えると、19歳の連中の実力もおおよそそれくらいで、高く見積もってもゲンスルー以下だろう。
あれ?やっぱり結構レベルが高いな。真面目に修行を継続していれば、中堅ハンターとまでは行かなくても、グリードアイランドクリアを目指せる程度にはなっている計算になる。
ちなみに今の私の実力だが、発を開発していないこと、肉食動物相手ばかりで対人経験が皆無である事を差し引いても、キメラアント編のゴン、キルア、シュート、ナックル以上、モラウ、ノブ以下だろうか。系統別修行が進みすぎて、発が無くても応用で色々出来るようになってきたので、それくらいと見て良いだろう。
発なしの純粋なオーラと肉体による攻防に限定するなら、護衛軍や王などのオーラ量が規格外で肉体強度が異常な連中、ジンやビスケ、ネテロ、ヒソカ、クロロ、ゼノ、シルバ等の技量やセンス、積み重ねてきた戦闘経験が豊富な連中以外なら、そうそう負けない自信がある。あとウヴォーギンとかもそうかな、極まった強化系とも発なしでは戦いたくない。戦車をお釈迦にするバズーカ喰らって無傷って、どんな肉体強度してるんだアレ。キメラアントでも師団長クラスよりも頑強だろう。そのうえミサイル並みの火力を連発してくるなんて嫌すぎる。
こうして彼我の実力を比べてみても、婚約者候補相手ならば十中八九負けは無いと考えて良いだろう。もちろんコンディションやら相手の発によっては多少危うい場面が出てくるかもしれないが、こちらには、これまでの修行で、発なしでも使える切り札がいくつもあるのだ。そう言った場面を切り抜けるのは容易だろう。
それに、今回の慣習法はあくまで試す側がこちらのため、いろいろと有利な条件を設定出来る。武器の有無、会場、日時。基本的に無手の修行しかしていない私は武器無しの方が良い。会場は事前に念の仕掛けがされずらい我が家の森にでもすれば良い。日時は私の体調が良い日、もしくは相手のコンディションが悪そうな日を選べば良い、例えば我が家に来た直後の移動の疲れが抜けていない時とか。
勝てる確信が持てたなら、後やるべきとこは準備をするだけだ。決闘場設営、何か仕掛けられた時用の予備決闘場をいくつか、相手がまともに念を使えない時のための手加減の練習、連日の決闘を予想して長期間お願いできる決闘立会人の確保、怪我をした際に手当をできる設備とそれを使いこなせる医療関係者、近くの街において本格的な治療ができるように人員と設備の確保、決闘に来た人とその関係者のための宿泊施設の確保、決闘衣装の注文、古い慣習法を使うから事前に法務省に連絡と、法務省に関わる貴族に根回し、王家の権威に関わる慣習法なので王家にもあらかじめ根回しと、軽く思い出すだけでもこれだけ、実際はこの数倍の事前準備が必要なのだから、もうてんやわんやなんてものじゃない。私では出来ない部分は家族に手伝ってもらう。
しかもこれだけ準備するには当然お金がかかる。我が家の財務管理を任せている先生とパパが話しているところを聞いていたが、今回の事前準備だけで、諸々込みで大体10億ジェニーらしい。じゅじゅじゅじゅ10億?ヒェーッ!ジェニーって大体円と当価値じゃありませんでしたっけ?10億円!?私の前世の生涯収入の5倍!?
そんなにお金がかかるなら私適当な家に嫁ぎます!と思わず言うと、パパが笑って言った。安心しなさい、10億程度なら数ヶ月で稼げる金額だから。と
可愛い娘のためならこれくらい端金だよ、と優しく抱きしめながら諭してくれる。やっぱり持つべきものは金持ちのパパだよね。安心感が違う。
そんなこんなで、数ヶ月かけて準備を済ませて、ついにその時が来た。いつものドレスでは無く、決闘用に用意した各種衣装を着用して、髪も纏めてハットにしまってある。私が社交界モドキの会場に入場すると同時に、会場内の人間が一斉にこちらを見る。服装が異質なのもあるだろうが、ある程度アンテナを張っている家なら、私が色々と根回しをしている事から事前に何かしら察しているのだろう。
痛いほど突き刺さる視線を無視して、沈黙が支配する会場に足を進める。決闘用に用意したブーツの低く重苦しいコツコツとした音を響かせながら、一段高く会場を見渡せる演説台まで辿り着き、会場を見渡す。そして事前に覚えた口上を述べる。
「我こそはマルティン家の長子、エルフリーデ・フォン・マルティンである!我を妻に望む者。決闘にて我に勝利し、その実力を示されよ!腕に覚えのある者よ、手袋を持ってマルティン家へ参られよ!ここに神と王とマルティン家の名のもとに、婚姻決闘を宣言する!」
口上の後、ざわつく会場。威厳を出すために、垂れ流しにしていたオーラを止め、一気に練り上げたオーラを放出する。込める意思は闘志、必ずお前達を打ち倒す、勝つのは私だという必勝の意思。そのまま出口に向かうとモーゼの如く人の波が割れる。
歩きながら観察する。会場の念能力者達が狼狽えているのがよくわかる。非念能力者だと思っていたら格上の念能力者だったのだから、驚くのも無理はないが、これくらいの威圧で狼狽えているようでは私に勝てる可能性は万に一つもないだろう。最近一緒に修行しすぎて念に目覚め始めてしまったオオカミの方がよっぽど度胸も気概もある。
個別に威圧するというのも難しいので、婚約者候補以外の人たちもひとまとめに威圧することになってしまったのは申し訳ないので、出口で会場に向き直り、お辞儀をする。
「私事により、貴重なるご歓談の席をお騒がせいたしましたこと、まことに申し訳なく存じます。私はこれにて失礼させていただきます故、皆様方にはどうぞごゆるりとお過ごしくださいますようお願い申し上げます。」
きちんと詫びも入れたし、これで問題なし。これにてついに、婚約者候補をちぎっては投げ、ちぎっては投げする日々がスタートしたのである。
婚姻関係を片付ける便利法律として、マニージャー共和国という存在、マルティン家という存在に深みを与えるテキストとして婚姻決闘なる法律とその歴史を捏造しました。超人的な強さを誇る念使いのいる世界なんだから、わりかしなんでもありな気はしますが、ご都合主義的すぎると思われないと良いなぁ。