幼稚園児くらいの頃から、俺はじいちゃんの家に入り浸っていた。
何せ、自分の家では見れないようなアニメやマンガやゲームが山程あるのだ!
それは全て古い物だとじいちゃんは笑いながら言っていたけど、例え古くても面白いものは面白かった。
その中でも特に、俺のお気に入りのアニメがあった。
『天元突破グレンラガン』
自分に目覚めた個性
『旋回』
の事もあり、俺は幼い頃からグレンラガンを繰り返し繰り返し何度も何度も見るほどに好きになっていた。
「俺!将来こんなヒーローになりたい!!!」
天を貫くドリル。
世界を、宇宙を、次元を貫くドリル。
目の前に立ち塞がる全ての絶望を貫き、進んでいくようなドリル。
無理を通して道理を蹴っ飛ばすような、そんなドリル。
周りの全ての子供達がオールマイトに当たり前に憧れるなか、俺は一人グレンラガンと、その中の登場人物と物語に憧れたのだ。
これは、俺がオールマイトではなくグレンラガンに憧れた物語。
回原旋のドリルが、天を貫く物語だ。
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そうと決まったらやる事はたくさんある。
俺は自分を鍛えなければいけない。
「…ウチの近くに、冗談みたいでマンガみたいな武術の道場がある。旋、そこに通ってみるか?」
「うん!通う!!」
大丈夫かなあ…
心配そうなじいちゃんに連れられて、俺はその門を叩いた。
『梁山泊』
個性社会となり、今やスポーツとしても価値が薄くなりつつある武術。
そんな個性社会に馴染めない、武術を究めた豪傑や達人、超人達が集まっている武術道場だそうだ。
6歳の誕生日。
小学校に入学し、しばらく経った頃に俺はその門をくぐり、梁山泊の弟子となった。
なって5分後には死ぬ程後悔した。
1時間後には「うおー!!やるしかねー!やってやるぜー!!」と心に決めた。
ドリルで天を貫く。
そんなとてつもない目標なのだ。
厳しくてもやるしかないと思った。
修業が厳し過ぎてたまに抜け出した。逃げ出すとも言う。
でもすぐ師匠達に見つかって連れ戻された。
絶望した。
腹筋するのも毎日命がけだった。
誤字ではない。
梁山泊の腹筋は鉄棒みたいなものに逆さ吊りにされて行う。
ご丁寧に下では焚き火。おやつ用にサツマイモも焼いていた。
つまり、腹筋し続けないと焼死である。
命がけで毎日腹筋した。
ある程度楽にこなせるようになると重りをつけられた。
絶望した。
走り込みも毎日命がけだった。
とにかく河川敷を毎日全力疾走した。
倒れるまで走った。倒れても3回までなら大丈夫みたいな謎ルールで更に走らされた。
少しでも速度を緩めると師匠達から愛のムチが飛んできた。
比喩でなく、マジの鞭だ。
慣れてきて距離が伸びてくると、やはり重りがつけられた。
慣れれば慣れるほどにドンドン重りが重くなっていった。
絶望した。
そんなこんなで足腰は重点的に幼い頃から鍛えられた。
当然、上半身が下半身と比較し緩いなんて事はなかった。
同じような事を同レベルで上半身も行った。
絶望した。
トレーニングの合間に武術の修業も行った。
たまに手加減下手な師匠にマジで殺されかけた。
殺されかけるたびに、なんか謎の不思議な薬で生き返った。
死んでも逃げられなかった。
絶望した。
そんな生活を続け、俺は小学6年生となった。
正直かなり身体は鍛えられた。
強くもなっている。
だけど、俺のドリルはまだ天を貫けなかった。
グレンラガンで見た必殺技。
ギガドリルブレイク。
空を飛び巨大なドリルで突撃する大技。
これだけ鍛えたのにまだ出来なかった。
よく考えたら、グレンラガンは背中に翼とブースターが付いていた。
俺には翼もブースターもない。
ならば、他の何かで代用するしかないと考え、またじいちゃんのゲームやアニメや漫画を漁る。
手頃な物を、見つける。
真ゲッター2
手の巨大なドリルから竜巻を放つロボット。
翼がないなら竜巻で代用して飛べばいいじゃない。
思いついた時は名案だと思った。
上半身と下半身を逆回転。
前に掘り進むドリルと、竜巻を起こし前に進むドリル。
これならギガドリルブレイクが俺にも出来る!
だが、小学6年生になっても上手くいかなかった。
何故だろう?
「旋くん。確認するが君の個性は単純な増強型だそうだね?」
「はい。学校の先生にはそう言われました」
悩みを相談すると、師匠の一人がそう聞いてくる。
「増強型の個性を使い、やりたい事がまだ出来ない。そうだね?」
「はい」
「ふむ…ならば答えは1つだ」
「え!何でしょうか!」
カッ!と目から光を放つ師匠!
「それはつまり!君の目標を叶える為の力がまだ君には無い!!君の鍛え方がまだまだ全然足りないという事だ!!」
「ええええ!!!!」
「梁山泊各位、全員集合!!!」
その言葉に、師匠達が全員集まってくる。
「これより!旋くんの修業のレベルをさらに引き上げる!!!」
その言葉で、梁山泊の達人達が…つまり俺の師匠達が目からカッ!と光を放つ!!
「ひいいい!!!!!」
皆さんやる気満々じゃないですかヤダー!!!!
「旋くん。頭の中で思い浮かぶ限りの、つらい特訓を考えてみたまえ」
そう言われ、思わず吐きそうになりながらこれまでの絶望の日々を…特訓を思い出す。
「考えたね?」
そう言うと、さらに目をカッ!と光らせクワッ!と叫ぶ!
「そんな物は天国だ!!!!!!」
「いやああああ!!!!!!!!」
そしてこの日から、さらに修業の地獄度が跳ね上がった。
…しかし、そこから1年が経っても、俺はまだドリルで竜巻を起こす事は出来なかった。
俺は中学1年生になっていた。
「人一倍伸びるのが早いのにある一線から上へ行けなくなる者。たとえ才能がなくてもじりじり上へ向かって行く者。わしも色々な人を見てきたつもりじゃが…」
長老が…この梁山泊を束ねる長老が、そうポツリと悩む俺に語りかけてくる。
「次の段階への第一歩を、踏み出す勇気があるかどうかじゃと、わしは思っとる」
「………」
なんだろう…
自分としてはかなり死ぬ気で頑張って鍛えてるつもりだった。
でも、長老から…師匠達から見ると、まだ俺には足りないものが…まだ俺は本当に踏み出す勇気が無いことを、見透かされていたのかもしれない。
訓練しながらも、どこか燻っている。
そんな日々だった。
修業の休みに、久しぶりに街に遊びに出かけた。
夏休みに入る前、7月の3連休。
街は人で賑わっていた。連休ということもあり、旅行で来てる人も多いのだろう。
だから、それに目をつけるヴィランも当然いるのだろう。
気がついた時、人々の悲鳴がすでにあがっていた。
慌ただしく逃げ惑う人々。
街のど真ん中で暴れる巨大なヴィラン。
まだここにこないヒーロー。
ヴィランはその巨大な腕を振り回し、周囲のビルを破壊する。
…その破片のうち。
その1つ。
特別大きなコンクリートの破片。
人間なんて簡単にぺちゃんこにしてしまうような、そんな巨大な破片。
それが、俺の少し先。
俺と同じくらいの年の、とても可愛い黒髪の女の子。
…その子の上に、破片が落ちようとしていた。
直撃コースだった。
少女は、呆然とその破片を見ていた。
まるで、自分の身にこれから何が起こるのか理解出来ていないような様子。
理解はしているが、心と理性が拒否をしている。
そんな、顔。
『考えるより先に体が動いていた』
気づけば俺は駆け出し、飛んだ。
両の脚がドリルのように、凄まじい勢いで回転していた。
個性 旋回
両の脚は竜巻を起こし、俺の体を前に飛ばす!
俺は空を駆けた!
目の前には、人一人を容易に殺すのに足る、巨大なコンクリートの塊!!
俺は右手を前に伸ばす!
これから、コイツを、貫く。
その決意とともに。
「ギガドリルゥブレェェイクゥゥゥゥ!!!!」
右手を先端に、上半身を全力全開で回転させる。
俺は、ドリルだ。
誰かを守るために。
その障害を貫く、ドリルだ!
両足のドリル回転から生まれた竜巻が俺を更に加速させる!
「うあああおおおおおおお!!!!!!!!」
いつしか、俺は夢中で叫んでいた。
俺の右手から、コンクリートの塊に突撃する!!
僅かな拮抗。
その一瞬の後。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
俺の右手が、コンクリートの塊にめり込む!
めり込んだまま、前に突き進む!!
巨大なコンクリートの塊を砕きながら、俺は更に前へ前へと突き進む!!
やがて、コンクリートの塊を粉々に粉砕し、俺はコンクリートの塊の後方へ突き抜けた!!
「おおおおおおお!!!!!!!」
思わず、叫んでいた。
俺の心の奥底からの叫びに、両足が応える。
両足の回転は更に勢いを増し、竜巻が更に大きくなる。
俺はそのまま、上空へと飛び上がった。
更に加速。
更に高く。
「おおおおおおおお!!!!!!」
俺は空の上。
一人叫びながら、更に更に空高くまで飛び上がった。
地上のビルが豆粒のように見える。
人の形なんて全く判別出来ない。
空は青く青く、白い雲がたくさんあった。
7月の厳しい太陽の光は、俺の目を焼いた。
美しい青空の中、俺一人しか周囲にはいなかった。
「は、ははは…ははははははは!!!!!!」
出来た。
出来た。
出来た出来た出来た!!!
ついに、俺は旋回の個性で竜巻を起こす事が出来た!
『第一歩を踏み出す勇気』
きっと長老も他の師匠達もわかっていたんだろう。
わかった上で、俺の事を見守っていてくれたんだろう。
俺が自分の限界以上の力を。
無理を通して道理を蹴っ飛ばす力を。
今の今まで、俺は少し諦めかけていたってことに。
小さい頃からの過酷な鍛錬。
当然楽しんでもいたが、辛い日々をこなしながら目標を達成出来ない日々。
それは、俺の心から最初の憧れへの気持ちを少しづつ少しづつ擦り減らしていっていた。
頑張っても頑張っても出来ない日々は、幼少の憧れの気持ちを少しづつ薄めていった。
出来なくても、仕方ないって。
でも、今。
今の今。
さっき、あの子を助ける時。
あの時は、別だった。
出来なくても、仕方ないで、済ませられなかった。
だから、俺はやるしか無かった。
出来る。出来ない。
ではなく、やるしかなかった。
あの子を助ける為に。
自分の限界の、その更に限界の限界を超えて。
きっとそれが、俺に足りなかった『次の段階への第一歩を、踏み出す勇気』だったんだ。
俺は、今日踏み出せた。
今、目の前に広がる広くて青くて青くて綺麗な空を見る。
眼下には豆粒みたいな建物の群れ。
俺以外誰もいない、果てしない空。
無限の可能性が広がっているような世界。
俺はそれを独り占めしていた。
憧れに押し潰されて、あきらめてしまう所だった。
こんなにも、果てしない空の景色も知らないで。
だから、これが俺の本当のはじまり。
回原旋という男の、本当のはじまりの景色なんだ。