回原のドリルは天を貫く   作:のりしー

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夢見月

sideトガヒミコ

 

「……んぅ……ふぁ……ぁ……」

……覚醒しきらない意識の中、無意識に身体をもぞもぞと動かす。

昨夜まで、というかついほんの少し前まではそこにあった筈のぬくもり、それを無意識に求める本能的な動き。

 

「……むぅ……」

 

……しかし、あるはずのぬくもりがそこにない。

 

「……ふわぁ……目が覚めてしまいました……」

……その冷たさの所為で、意識が覚醒する。

 

一人で寝るには少し広いベッド。

そこから上半身だけ起こして軽く身体を伸ばす。

ここはとある地方都市のビジネスホテルの一室だ。

 

「うぅ……やっぱまだまだ朝は寒いのです……」

 

……で、伸ばした身体に再び布団を引き上げまとう。

 

3月に入って少しは暖かくなってきたが、相変わらず朝はまだまだ寒い。

何も着ていない状態での無防備な上半身では、とてもその寒さに耐えられそうになかった。

 

「うーん……、あれ?下着とか何処でしょうか?……困っちゃうよねぇ、もう……」

 

困った事に下着が近くに見当たらない。まあ見つけた所で間違い無くもう一度身につけるのはどうかという状態なのだろうから身につける事はしないけど。

 

さて着替えはどこに置いたでしょうか……?

……なんて、そんな事を考えながら室内を改めて見渡し……

 

 

 

 

「……俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない……」

 

 

 

 

……ツインで取ったビジネスホテルの一室。

その窓際でカーテンをあけ、朝日を目一杯浴びながら天に祈りを捧げている三十路の男性に声をかける事にした。

 

「あっくん!!ねぇあっくん!!着替えの入ったカバンその辺にないですか?こっちに持ってきて欲しいのです」

 

俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない……と祈りを捧げていた彼は私の声に反応しこちらを向き、

 

「ああ……おはよヒミコちゃん」

「おはようございますなのですあっくん!!」

 

そう祈りのポーズのまま朝の挨拶を私達は交わした。

 

「毎朝の朝のお祈りご苦労さまなのですあっくん!でも昨夜も含めてこれまで何度も何度も未成年に手を出しているにも関わらず、わざわざ毎朝毎朝言い訳がましく天に祈るのはいい加減どうなのでしょうか?正直、義賊を名乗る三十路男性の行動としてはどうかと思うのです」

 

「ぐはぁ!!!」

 

そう心の臓に致命的なダメージを食らったかのように胸を抑えうずくまった。

 

そんな彼の名前は迫圧紘。Mr.コンプレス。

そして御年32歳!!32歳にして32歳なのである!!

 

そのうずくまったあっくんを見ながら、昨夜の熱烈な情事を思い出す。

……こんな仕草をしているのに、昨夜は昨夜でこちらを熱烈に求めてきている訳で……困った義賊である。

 

困った義賊、ロリ義賊。

 

ロリコンのおじさんがとぼとぼと歩き持ってきてくれたカバンの中から着替えを漁り手早く着ていく。

 

そしてベッドから降りて、

 

「あ、パンツめっけました。脱がされるのはこちらも望むところですけど、床の上にポイ投げはやめて欲しいのです」

 

「ぐぁぁぁ!!!すいませんでしたぁ!!!!」

 

そう叫んだ義賊(笑)が盛大に土下座をかます。

ゴン!!とまあまあな勢いで床にぶつかったロリコンの額から大きな音が室内に響く。全く、下の部屋の人に迷惑なロリコンですねえ。

 

なんて事を考えながら、

 

(……そう言えば、あれからもうすぐ3ヶ月なのです)

 

ふと、そんなことを思い出す。

 

あれから色々ありましたねえ……

 

短い期間ではあるが、今のあっくんとの関係も含め物凄く濃密な時間だったのだ。

 

その思い出を、大変だったけど今になってみるとまあ大切な思い出を、その一つ一つを振り返っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりは12月の泥花市。

 

私達ヴィラン連合は異能解放軍との決戦に臨み、そして奇襲を仕掛けてきたヒーロー達の手によって壊滅的な被害を受ける事となった。

 

私達と異能解放軍、そしてヒーロー。

三つ巴の決戦はヒーロー以外に甚大な被害を与えた。

 

仁くん・弔くんはその場でヒーローに捕まり、荼毘くんは行方不明。

 

混乱に混乱を重ねる戦場で何とか合流した私とあっくんは、ボロボロのボロボロのボロ雑巾のようになりながらも何とか戦場からの逃走に成功した。

 

それからは2人での逃走の日々。

 

エンデヴァーの一件以来悪化を続けていた治安の悪さは、私達の逃走生活にプラスに働いた。

 

街を歩けばヴィランに当たる。

そんな街中は私達2人が歩くのに好都合だった。

 

私達は2人、街の闇に溶け込むようにして市内に潜伏した。

 

お金が足りなくなったら適当なヴィランを倒して財布を奪い、私達を倒しに来たヴィジランテを倒して財布を奪った。

 

そうしてその街で私達の事が噂になったくらいで、次の街に移動する。そうして私達は過ごして来た。

 

クリスマスも2人で過ごした。

 

「クリスマスくらいケーキが食べたいのです!!」

「……じゃあ、俺もビールでも飲むか……発泡酒じゃないヤツ」

 

そんなささやかなクリスマスパーティー。

 

年越しを過ごしたのは広島だっただろうか?

 

「おもち!!おもち入りのお好み焼き美味しいのです!!」

 

「粉物ってホントにビールがあうよなぁ……」

 

私達は2人、こうしてささやかな年越しのパーティーを楽しんだ。

 

……この頃まではまだ荼毘くんを探し、仁くんと弔くんを助け出すのだ!!なんて事を2人で話ながら過ごしていたと思う。

 

……正直に言って、現実的には難しいだろうなあ……なんて2人とも心の何処かで思っていながらも、私達はまだ『ヴィラン連合』として活動していたと思う。

 

 

……それが、ハッキリと切り替わったのはいつだっただろうか?

その明確な時期は思いつかない。

 

私が彼に向ける感情が。

彼が私に向ける感情が。

 

ハッキリと切り替わったのはいつだろうか?

これも明確な時期はわからない。

 

でも、逃亡生活中に私を助けてくれる彼に私は徐々に惹かれていったのだと思うし、彼は彼で身近な女の子に徐々に惹かれていたのだろう。

 

そして2月のある日、私達の関係は明確に変わった。

 

いつものように資金調達の為に手頃なヴィランを襲い財布を奪ったのだが、中々相手も手強く、私を守る為に彼がケガしてしまったのだ。

 

……まぁ、それ自体はこれまでもよくあった事だ。

いつも通りに私は彼の手当てをし、少しだけ血を吸わせてくれ、と頼む。そして、彼はそれを受け入れる。

 

 

……これまでの逃亡生活で、何度も何度もあった事。

これまでと全く同じ、テンプレートなイベント。

 

……しかし、何故かその日の私達はそこで明確に一線を越えた。

 

どちらかから相手を求めた、というよりは、同時に互いに互いを求めた。そんな夜だった。

 

 

他人の血を吸う高揚感が私を昂らせ、若い女の子に至近距離から血を吸われるという背徳感が彼を昂らせた。

 

 

彼と違い、そう!!彼と違い!!初めてだった私はとてもとても痛かったのだが!!私達はその夜を楽しみ、そして私達の関係はそれまでとは別のものになったのだ。

 

彼は私をヒミコちゃんと呼ぶようになった。

私は彼をダーリンとか呼んでみたかったのだが、流石にそれはロリコン義賊的にもハードルが高過ぎたらしく、あっくんと呼ぶ事で最終的には落ち着いた。ダーリンって呼んでみたかったけど。

 

それ以来私達は恋人同士となり、それからの2月の日々を楽しく過ごした。

バレンタインにはチョコもあげた。

デートもした。むしろこの2人での逃亡生活自体がもはやデートな気もするのだが、わざわざ2人でデートしよう、と決めてちゃんとデートもしたのだ。

 

街と街を移動しながら、手頃なヴィランの財布を奪いながらの逃亡生活デート。

 

これはきっと世間の一般が言うような普通のデートではないし、普通の恋人関係でもないとわかっている。だって私は未成年であり、相手はロリコン義賊なのだから。

そして私はヴィランだし、彼もまたヴィランだった。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「普通じゃないのはわかってますし……もう、今更普通にはそんなにこだわりもないですけど……まぁ、私は幸せです!!」

 

回想から戻り、時刻は昼過ぎ。

 

あの後もロリコンをイジったりロリコンとイチャコラしたり……と、楽しい時間を過ごしているうちに、いつの間にやら昼となった。

まあいつもの事だ。

私は個性で姿を変え、お昼ご飯を買うためにホテル近くのコンビニへ向かって一人で歩いていた。

 

姿を変えることの出来る私の個性は逃亡生活にうってつけで、これまでも何度も私達の旅を助けてくれた。  

 

「ふんふ〜ん♪ホント、尽くす女の子ですねぇ私は!!」

 

外食は高いし、人目につくところでの食事は万が一の可能性がある。だから私達はコンビニやスーパーでさくっとご飯を買って食べる事が多い。

 

今もこうしてコンビニに向かっている。

いつもの通りに。

 

歩きながら思うのは彼の事。

そう、最近の私はいつもいつも彼の事ばかり考えている。あんなにいっつも一緒にいるにも関わらず、だ。

 

少し、というかかなりなのだが、自分の単純さに呆れてしまう時もある。

 

「……こんな世界壊しちゃおうよ……とか、ほんの少し前までは思ってた筈なんですけどねえ……」

 

好きな男と恋人同士になれただけで、ただそれだけでこの世界に続いて欲しいと思ってしまっている自分がいるのだ。

そんな自分を情けなく思い……でも、それでもいいのだと思ってしまう。

 

あっくんはどうだろうか?

絶望的な状況だとはわかっていながらも、まだ心の何処かで弔くんを、仁くんを彼が助けたいと思っているのは知っている。そんな彼が好きなのだから当然だ。

 

ただそれは世界を壊す為ではなく、ただ単に同じ時を過ごした仲間を助けたいと……助ける為だけなのだとはわかっているけれど。

 

そんな事をカッコいい顔で考えているロリコンの顔を見るのが私は好きなので、だからこれは間違い無くバカップルというヤツなのだろう。

 

そう、顔だ。

なんせウチのあっくん、顔が結構良いのである。

 

少なくともヴィラン連合の中では一番だと思う。

女の子的には顔は大事。

顔だけで好きになる訳じゃないけど、顔の配点は決して低くはない。

 

こんな感じで幸せな2月が過ぎ、3月に入り少しの時が過ぎた。

3月の風はまだ冷たく、風が吹くたびに身体が震えてしまうが、

 

「……でも、もう少し我慢すれば3月も終わりますし……そうだ!!もうすぐ桜も咲きますね!!カアイイです!!」

 

桜を見に2人で出かける。そんな単純な事を考えるだけで心がウキウキしてしまう。我ながらホント単純。

 

……でも、こんな単純でささやかな幸せが今までの私には無かったのだ。

 

私の個性を受け入れてくれて。

私を守ってくれて。

私と一緒に過ごしてくれる。

そんな、男。 

そんな人と一緒に過ごす、ただそれだけの、たったそれだけの、私にとってそれだけの幸せ。

 

 

「だから!!それだけで世界が金色に輝いて見えるのです!!毎日がカアイイのです!!」

 

一人で満面の笑みを浮かべ、思わずそんな事を口ずさむ。

 

今までの人生と違い、今は毎日が幸せだ。

それが世間一般で言う所の幸せとは全く違うとわかっているけれど。

でも、私は今が幸せで、日々日々過ぎていく1日1日を楽しみに過ごしていた。

桜が咲き、散った頃には4月だ。

今年は花粉症大丈夫かな?

5月って何かイベントあったかな?

6月は梅雨でしたっけ?

7月になったら海に行きたい。あのロリコンを゙私の水着姿の魅力でノックアウトしてやるのです!!

 

そして、8月になれば……

 

「……私は誕生日で……18歳になります。成人です。良かったですねぇ!!これで晴れてロリコン卒業ですよあっくん!!」

 

そう。8月になり7日になれば私は誕生日。これにて晴れて成人となる。

そうすれば彼はロリコン卒業だ。

 

「さて……そうしたらどういう風にイジったりしましょうか?」

 

少し考え……そして閃く!!

 

「そうです!!誕生日になった瞬間に!!『ロリコン卒業おめでとーです!!』って言って婚姻届を差し出すのはどうでしょうか!!」

 

なんだか名案に思えて来ましたよ!!

そんなサプライズを思いつき、それを受けた彼がどんな顔をするのか想像するだけで幸せな気分となる。

私が成人した日に彼はロリコンを卒業し、2人は新たな関係に進むのである。祝ロリコン卒業!!未成年でなく成人と付き合うんだから結婚くらい当たり前ですよね!!

 

「あっくんはどんな顔をしますかねぇ?」

 

彼は笑うだろうか?困った顔をするだろうか?

……でも、どちらでも最後には笑って婚姻届を受け取り、サインしてくれる気がする。

 

2人でサインした婚姻届はどうやって役所に出そうかな?

昼間に正々堂々と押しかけるか?

もしくはヴィランらしく夜に忍び込んでこっそり提出しておくか?

 

……そんなことを、そんな楽しい未来を想像しながら街を一人歩く。

 

3月の風はまだ冷たく、でも私の心は暖かい。

だから、平気だ。

 

出来るならば今日この日のように普通じゃない普通で平凡な1日を、平凡でない普通に普通の1日をいつまでもいつまでも過ごして行きたい。

国内に居づらくなったら海外とか行ってみたいとかもある。

不安もあるけれど、でも彼と一緒ならばどこに行っても平気だと思う。

それは、そんなささやかな私の願い。

 

これまでの日々には色々あったけれど、そんな辛い日々の果てにようやく掴んだ、私だけの、ちっぽけな幸せ……

 

 

「………」

「……?」

 

 

そうして姿を変えて街を歩く私の前に、一人の男性が立ち塞がる。

白い髪の毛の、まあ結構なイケメン!!

 

そんな彼の目は明らかに私をロックオンしており……困りました、もしかしたら姿を借りているこの人の知人なのかもしれない、と考えて少し悩む。

 

どうしましょう?この人が私が変身している人の知り合いだと面倒だ……

 

……と、考えいる私を見て、目の前の彼は笑う……

 

笑う……

笑う……

 

何故だろう……その笑顔が……見たことのない筈のその笑顔が……どこか前に見たことのある知人の笑顔に重なって見えて……

 

ああ……

ああ……そうだ……

 

目の前の白髪のイケメンを見て、思い出す。

ああ……そう言えば出会った頃に考えた事があった。

 

この人は……この酷い火傷をしている彼は……きっと彼が火傷をしていなかったら……それはもう、とてつもないイケメンだったんじゃないか?って。そんな事を考えた事を思い出す。

 

……そして、風が吹く。

 

……3月の風は冷たく、心まで凍らせていくようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………荼毘、くん……?」

 

 




祝!!101話!!

ニッコニコニッコニコニッコニコ!!
……からの最後の最後の一文で「ひゅっ!」ってなるやつを書いてみたくなったりもする駄文書きです。まあ前フリはしてましたし皆さん余裕てすよね(白目)

マジで話数調整してなかったので、これが記念すべき100話目になってた可能性があるんですよねぇ……
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