sideホークス
3月の某日。良く晴れた日の事。
俺と物間くんはヒーロー公安委員会本部へと招集を受けていた。
当然呼び出したのは公安委員長。
そして呼び出しの目的は……
「異能解放軍がネットを使って日本政府に対し独立宣言&宣戦布告ですか……」
そう、3月に入り異能解放軍が各種SNSや動画サイトにアップした、日本政府と我々国民へのメッセージ。
異能解放軍の独立宣言&宣戦布告。
その対応を検討をするためだった。
「独立宣言&宣戦布告の内容をまとめると、異能解放軍が立て籠もる群訝山荘を日本から独立した仮称『異能解放国』として独立を認めろ。これが認められない場合、異能解放軍は日本に対し宣戦布告を行い、戦争をしかける……と、まあ色々と長々演説かましてたけど、簡潔にまとめるとこんな所かしらね」
公安委員長のまとめは非常に分かりやすい。
「……参考までに一応聞いておきますが……日本政府が異能解放国の独立を認める可能性は?」
俺の問いかけに、公安委員長はキッパリと。
「ゼロよ。可能性はゼロ。決まっているでしょう?こんなアホらしい要求、政府が受け入れる訳ないでしょう」
「ですよね!」
念の為の確認に、明確に回答する公安委員長。
しかし……
「しかし……問題なのは、政府が受け入れる訳の無いこんな馬鹿げた要求を『何故このタイミング』で異能解放軍はわざわざSNSや動画サイトにアップしたのか?そちらが大きな疑問ですね」
物間くんが顎に手を当てながら、
「正直に言えば、異能解放軍が群訝山荘に立て籠もっていることなどとっくの昔にわかっていた。それでも泳がせていたのは、活動資金の枯渇や連続した実戦での敗北から来る士気の低下。組織からの脱落者が多数出れば儲けもの……からの綱紀粛正やら内部統制といった名目での組織内リンチなどの内部粛清などを狙う、という狙いがあり泳がせていました。過去にも山岳ベース事件やあさま山荘事件があったように、立て籠もった過激派は基本的には自滅の道を辿ります。あれほどの大組織であればリ・デストロも末端までは見きれないでしょう。勝手に暴走する現場の過激派を全て管理するのはリーダー1人では無理だ。だからこそ泥花市から僕らヒーローは異能解放軍の指揮官クラスを徹底的に逮捕してきた訳ですしね」
物間くんの言葉に頷く。
過去には日本でも過激派による山岳ベース事件やあさま山荘事件という例があったように、先鋭化し過ぎた思想は追い詰められると更に過激になり、生贄を求めるようにして仲間の血を求めるのである。
「……リ・デストロがそれらをコントロールし切れずに、乾坤一擲の大勝負に出た……それが今回の独立宣言&宣戦布告なのかしら?」
公安委員長の問いかけに、物間くんは更に深く考え込みながら……
「……もちろんその可能性はあります……しかし、どうにも違和感があります……そう、上手く言語化出来ない違和感が……」
「……そうなのよね。同感だわ」
物間くんの言葉に頷く公安委員長、そして俺。
そう、違和感だ。
確かに、追い詰められた異能解放軍が一か八かの大勝負に出る可能性……それは、ゼロではない。
このままではジリ貧なのだ。それは彼らもよくわかっている筈。
だから今回の事も、確かにお粗末な要求であるにしても、可能性はゼロではないのだ。
しかし……何だこれは……
……それが、違和感……
(……まるで、誰かの掌の上でいいように動かされている……そんな違和感が、消えてなくならないんですよね……)
sideリ・デストロ
「……スケプティック、犯人はわかったのかい?」
群訝山荘にある、私の執務室。
そこで私は腹心の……唯一まだ私の元に残っている幹部であるスケプティックと2人で向かいあっていた。
彼は首を左右に振り、
「……申し訳ありませんリ・デストロ……勝手に貴方の姿を使い、各種SNSや動画サイトに例の独立宣言&宣戦布告をした犯人……その正体は未だに掴めていません」
「……そうか」
そう言って、近頃めっきりと毛量の衰えた……というより既にハゲかかっている頭をペしり、と叩いた。
つい先日、私に変身した何者かが異能解放軍の名を使って行った独立宣言&宣戦布告……一体誰がそんな事をしたのかの調査をスケプティックには命じていたのだが……、彼からの報告は私が望んだものでは無かった。
神経質そうな顔をさらに厳しくしかめ、スケプティックが目の前の机を叩き叫ぶ!!
「一体誰が!!誰が何のためにこんな事を!!我々の!!リ・デストロの姿まで使って!!こんな巫山戯た真似をしでかしたんだ!!」
「落ち着くんだスケプティック……ここで取り乱しても何も始まらない。大切な事は『一体誰がどんな狙いでこんな事をしたのか?』を調べる事。そして『独立宣言&宣戦布告を受けたヒーロー達の取るであろう行動』への対応策を考える事だ」
「……失礼しました、リ・デストロ……取り乱しました」
「……いいさ。私も同じ気持ちだしね。正直、今すぐ机を殴りつけて叫びたい気持ちだ」
2人顔を見合わせる。
……そうだ、起こった事はもうどうしようもない。
だから、肝心な事はこれからの事なのだ。
「改めて状況を整理するよスケプティック」
「……はい」
そして、2人で状況を確認する。
「誰がやったのかはわからない。だけどスケプティック……君のハッキング等の技術を使っても犯人が特定出来ない程の、君と同レベルのハッカーか?もしくはハッカーを擁する組織が明確な目的を持ち我々異能解放軍の名を騙り独立宣言&宣戦布告を行ったという事」
「……そしてもう一つ、その独立宣言&宣戦布告を受けたヒーロー達が、間違い無くこの群訝山荘へと全面攻勢を仕掛けて来るという事でしょう」
「あんなふうに今の政府に対し好戦的な宣言をした組織を放置する事は、民度最悪の人々は決して許さない……間違い無く、我々をヒーロー達の全力で叩き潰すようにと世論は燃え上がるだろう。そして、ヒーロー達はそれを拒否する事が出来ない」
「……つまり、世論に押されてヒーロー達は我々へと全面戦争を仕掛けてくる……この一連の流れを望んでいた何者かの思惑通りに……」
……そこで2人、改めてため息をつく……
言葉には出さずとも、思うことはただ一つ。
「「一体誰がこんな事を……?」」
……来たるべきヒーロー達との決戦。
それ自体は望んでいたものだ。それに対しては何も不満はない。ないのだ。
だが……しかし……
(一体何なんだ……誰がこの絵図面を引いている)
我々もヒーローも全く把握していない第3勢力。
その『誰か』によりコントロールされた異能解放軍とヒーロー達の全面戦争。
望まざる決戦。
そんな決戦に、我々もヒーローも誘われていた……
……何者かの手によって……
side回原
「……そうか、やっぱ物間は来れないのか」
異能解放軍が立て籠もる群訝山荘。
異能解放軍のリーダーであるリ・デストロも立て籠もるその山荘へと攻勢をかけるメンバーに選ばれた俺達1年B組、後A組は、1人寮に残り俺達同級生を見送る物間とのしばしの別れの時を迎えていた。
「すまないね、皆」
物間は申し訳なさそうにしながら、
「……でも、今回の件は一見すると自然に起こり得る出来事のようで……しかし、明らかに理屈に合わない点もあるんだ。すまないけど僕は決戦には参加せずに、不測の事態に備える事にするよ」
そんな物間の言葉。
……確かに今回の件は、まあそうなる可能性はあるかもしれないと思いながらも、何処か不自然さを感じる……そんな流れの中で進んでいた。
追い詰められた異能解放軍が独立宣言&宣戦布告をする可能性は決してゼロではない。
……しかし、やる必要は決してないのだ。
……それでも、彼らはそうした。そうしたのだ。
……本当に?
……そんな、微かな違和感……不自然さ……
その不吉さに対応するため、物間は俺達と別行動する事になったのだ。
「……けっ!んなことわかってんだよモノマネ諸々野郎!!」
「……そう来たかぁ……ちょっと予想外だなぁ……で、何だい爆豪?」
俺と物間の会話に入って来たトンガリ。
そのトンガリが力強く宣言する。
「今回の件に違和感があるのなんてわかるわ!!わかりきってるわ!!だから俺達はその不測の事態を想定して!!あらかじめイレギュラーが起こる事を想定して!!全てに備え!!何があっても罠があっても全て食い破ってヴィランを倒す!!それだけだろうが!!何か違うのかよアホドリル!!」
そんな力強いトンガリの言葉。
それに、
「ああ……そうだな、何も違わねえよ!!なあトンガリ!!」
「けっ!!」
その言葉に、代表して力強く頷く。
「俺のドリルは天を貫くドリルだ」
「……そうだね」
物間の相槌。それに勇気付けられて叫ぶ!!
「天を貫くドリルが罠とかにビビってたらザマァねえよなぁ!!罠でも不測の事態でもドンドンこいや!!全部ブチ破る!!トンガリ!!テメエは食い破れや!!俺が先頭に立って全ての災厄をブチ破ってやる!!だから!!皆でこの全面戦争を乗り切ってやろうぜ!!」
「は!!たりめえだ!!やってやるぞクソドリル!!」
「……異論は無いけど勝手に盛り上がらないで欲しいもんだね……一応、B組のクラス委員長は私なんだけど」
「A組は俺だぞ回原くん!!!」
俺の叫びにトンガリが呼応し、そして一佳と、飯田も呼応し、さらに他の同級生達も叫ぶ!!
「……全く……決戦に向けて士気が下がっていたら引き締める所だったが……」
「イレイザー……俺達の生徒達は強く育っているな」
「ああ……そうだな、ブラド」
そんな俺達の元に、ブラキン先生と相澤先生が合流する。
「全員揃ったな?」
その相澤先生の言葉に皆が頷く。
それを満足そうに見て、
「よし……では全員で戦闘エリアに移動する……物間は?」
「僕はヒーロー公安委員会の本部に入る予定です。そこで不測の事態に備えます」
「……よし、では物間以外は全員バスに乗れ!!移動するぞ!!」
「雄英高校のヒーロー科生徒・教師全員が予備兵力として参加する全面戦争だ!!現地へ向かうバスの台数も多い!!決戦前に余計な労力は使わせるな!!ここから既に戦場だぞ!!全てに細心の注意を払え!!気を引き締めろ!!」
「「「「「はい!!!!」」」」」
先生2人の激を受け俺達はバスに向かい、乗り込む。
他のバスにはねじれ先輩も、通形先輩も乗っているのだろう。
雄英高校から多くのバスが、群訝山荘での決戦に向けて出発していく。
……そして、決戦の地に俺達は到着して……
「……え?」
到着して……合流したホークスさんの言葉に……俺は、呆然と、間抜けな声を返す事になった。
「……やっぱり、君も知らないか回原くん」
目の前にはホークスさん。
頼れる暫定No.1ヒーロー。
そんな彼の、困惑を隠せないという、そんな顔……
まぁ……それは、そうだ……
一体……どういう事なんだ?
……そんな呆然とする俺の代わりに、隣にいた一佳が聞いてくれる。
「……たまたま隣にいたので、旋の代わりに聞かせてもらいますけど……」
「……うん、良いよ」
ホークスさんの許可をもらい、
「ん」
ぎゅっ……と、唯が俺の手を握る。
反対の手は……一佳が。
「エンデヴァーが来れなくなったっていうのは……一体、どういう事なんでしょうか……」
そうだ……今までも頼り切っていたあの背中。
No.1の地位を剥奪されても、それでも俺達の前に立ち、最前線で活躍を続けたあのヒーロー。
偉大なる、あのヒーローが……
「……理由はわからない……わからないけど……バーニンの話だと『どうしてもこれからある場所に行かなければいけない。いくら遅れても必ず後で追いつく。だからすまん……』って言って、エンデヴァーさんは1人何処かに立ち去ったそうだよ……この全面戦争の、ほんの直前に……」
「……」
風が、吹いていた。
3月半ばの風は、まだまだ冷たい……