「回原ぁ!!回原ぁ!!だ!大丈夫かよぉ!!エンデヴァーいないんだってよ!?本当に!本当に俺達大丈夫なのかよぉ!?」
切実な峰田の叫びが周囲に響く。
異能解放軍が立て籠もる群訝山荘。
それを包囲する俺達ヒーローとヒーロー候補生。
これからヴィランへと総攻撃を仕掛ける大事な局面。
そこに、本来であれば最主力となるべきあの頼れる背中……エンデヴァーさんが、いないのだ……
……それが、正直皆を……クラスメイト達だけでなく1年A組他の雄英生徒、他校のヒーロー科の生徒……更には周囲のプロヒーロー達ですらも不安に感じていた……正直、全員の士気が下がっているのが目に見えてわかった。
(わかるぜ……、正直、その不安はよくわかるぜ峰田……)
福岡の戦い以来、ずっとあの人と一緒に戦って来た俺だからこそ、正直言えばその不安はより大きい。
あの力強く頼りがいのある大きな背中。
卓越した戦闘力と、圧倒的な現場経験から来る適切な判断力。
本当に偉大なヒーローであるエンデヴァーさん。
そんな彼の不在は、正直言って俺ですら不安に感じ、心に大きな重石をのせる……そんな不安要素なのだが……
(でも……だけど……)
「……安心しろよ、峰田」
「……回原?」
『……背筋を伸ばせ。そしてしっかりと力強く歩けスパイラル』
『……今も何処で誰がお前のその歩く姿を見ているかわからない……疲れているのも、辛いのもわかっている。当然だ。しかし、それでも背筋を伸ばせ。そしてしっかりと前を向き力強く歩け』
「……大丈夫さ。確かに、エンデヴァーさんが居ないのは大きい。でも逆に言えばエンデヴァーさんが居ないだけで、俺達はそれ以外は万全の状態でこれから戦いに臨めるんだ。だから大丈夫だよ峰田」
「回原ぁ……」
だけど……エンデヴァーさんの厳しくも俺の為を考え、皆の為を考えて教えてくれた言葉が、ただ不安がるだけでは駄目だと俺に教えてくれる。
あの人は今ここにはいない。しかし、泥花市で俺に教えてくれたその言葉は、今も俺を支えてくれている。
だから俺は胸を張って前を向こう!!
そして力強く仲間を励まそう!!
(そんな俺の力強い姿を見せることで!!皆が安心して実力通りの力を発揮出来るように!!どれだけ疲れていても!!不安だとしても!!それでも!!それでも俺は胸を張って前を向かなきゃ行けないんだ!!!)
それがきっと!!今この場での俺の立ち位置!!俺の役割なんだ!!
だから、叫ぶ!!
「エンデヴァーさんがいない!?だから何だ!!エンデヴァーさんがいない分、俺達1人1人が限界をちょっとだけ超えて!!一步分だけ超えて頑張ればいいだけだろ!!皆で片足一步分だけ限界を超えて行こうぜ!!そんでエンデヴァーさんの不在を皆で超えて行くんだ!!そんでこの戦いを俺達ヒーローの勝利で終わらせて!!遅れてやって来たエンデヴァーさんに皆で『やあ遅かったですねエンデヴァーさん!!貴方が来る前にもう俺達だけで勝っちゃいましたよ!!』って!!皆で胸張ってそう高らかに言ってやろうぜ!!!」
皆の方を向いて力強く叫ぶ。
あの人が俺に期待してくれた役割の通りに。
皆と同じで不安に打ちのめされて、下を向いていてはダメなんだ。
だって俺は、どれだけ辛くても胸を張って前を向いて歩け、と。そうエンデヴァーさんに期待してもらっているのだから!!
「……ま、そう言う事っすね」
「ホークスさん」
そんな俺達の様子を見ていたホークスさんが、こっそり俺にだけ見えるように『良くやったね!』とサムズアップしてから言葉を続けてくれた。
「エンデヴァーさんがいない……確かにそれは大きい要素ですけど……だからって、それだけで俺達ヒーローは負けちゃいけない……負けるわけにはいかないんですよ。当たり前じゃないすか」
俺を、他のヒーロー候補生達を、その他プロヒーロー達を見渡し、ホークスさんが力強く言葉を発する。
「たまたまこの直近の戦闘が敵を策にハメてヒーロー側優位で仕掛けられたってだけの話です。本来ヒーローってのは、不利な状態からのスタート……マイナスの状態をプラスに戻す……それでも勝つのがヒーローってものでしょ?それを考えれば、エンデヴァーさん不在だとしても、それでも今回の戦闘は恵まれている位だ」
オールマイトさんとも、エンデヴァーさんとも違うトップヒーロー。
暫定No.1のヒーロー。
「……ま、だから皆さんも集中しながら気楽にいきましょうよ」
「「「「「え?????」」」」」
……そんな彼の言葉を、皆が真剣に聞く。が……
……突然の気の抜けたような言葉。それにキョトンと反応する俺達。そんな力の抜けた俺達の様子を見て、してやったり、という感じでホークスさんは意地悪く笑い。
「エンデヴァーさんは居ないですけど……それでも、余裕を゙もって勝つだけの計算はしっかりしてきています。それこそ、皆さんが限界を超えるまでもなく、今ある自分の力をしっかり発揮出来れば完勝出来る程度にはね。だから皆リラックスして、いつも通りにしっかりやれる事をやりましょう。そうすれば俺達ヒーローの勝利ですよ!!まぁ、これがヤバい決戦とか考えずに、いつも通りに行こうぜ!!って事ですよ。さぁ!!やりましょうか!!」
「えぇぇ……」
「い、いいのかそれで……」
「まぁ……ホークスが言う訳だし、まぁ……」
そんな感じでざわざわ多少しながらも、混乱が少しづつ落ち着いていく。
「……いい激デニムだったぞスパイラル」
「ベストジーニストさん」
俺の肩をポンと叩き、それだけ言ってベストジーニストさんは持ち場へと戻っていく。
「相変わらず生意気だなテメエは」
ゲシ!!
「……痛いっすよミルコさん……」
ミルコさんは軽く肩パンしてそう言うと去って行く。
「………(グッ!!)」
エッジショットさんは遠くから軽くサムズアップし、何も言わず持ち場へと向かっていった。
「困ったもんだよねぇ……皆遠目で見てて、何かあったら助けに入るつもりでいたんだろうけど……結局俺達2人にこの場を任せちゃってるんだもんねえ」
「ホークスさん」
先輩達からの励ましやら労いらしき洗礼を受け終わった俺に、ホークスさんが話しかけてきた。
「……わかってるよね?皆の前ではああは言ったけど、エンデヴァーさんが居ない以上決して余裕がある訳じゃないよ。それに、エンデヴァーさんがこの場に来れなかったように……正直、俺達の予想外からの何か、例えば第三勢力からの妨害を、もしかすると攻撃を受ける可能性は十分ある。そう言う不測の事態に備えるとしたら更に安全マージンは少なくなる」
「……はい、わかっています」
物間が不測の事態に備えると宣言したように、正直何か不穏な空気は感じている。
でも、それでも俺は力強く前を向くのだ。
「……不測の事態が起こる事を前提として、それでも起こった全ての苦難を貫くって事ですよねホークスさん」
俺のその言葉に、にやりと笑いホークスさんは、
「ああ!!そう言う事さ!!今回も期待してるよスパイラル!!」
「はい!!」
そう言ってお互いに笑い合う、
「ま……今回はとりあえず君のクラスメイトに先に大活躍してもらうことになるんだけどね」
「ですね」
そう言って2人、こちらに向けて歩いて来た小柄な少女の方に目を向ける。
「……ノ、ノコ……な、何か聞いちゃいけない話を聞いてしまった気がするノコ……」
「大事な作戦への協力感謝するよ。この作戦の肝は君だ。君が今回の作戦の勝利の女神だ」
「イケメンの甘い言葉ノコ……これ絶対滅茶苦茶に利用されるヤツノコ……私は可愛いアイドル系ヒーローになりたかったのに……何でこんな最終兵器彼女的な決戦兵器扱いになってるノコ?一体いつからこうなってしまったノコか……?」
そんな事を嘆く小柄な俺のクラスメイト。そして、
「スパイラルさん!!お会い出来て光栄っス!!さっきの激もアツかったっス!!最高でしたっス!!」
「ああ!!こちらこそ!!頼りにしてる!!お互い頑張ろうぜ!!」
俺に向けて駆け寄って来てその勢いのまま地面に頭を叩きつける挨拶をかます長身のヒーロー候補生。
小森希乃子。
夜嵐イナサ。
この2人。
この2人がこの群訝山荘攻略作戦のキーマンとなる。
side異能解放軍モブ
「……ついに来やがったか……」
俺は遠耳の個性……遠くの話し声を聞き取る事が出来る個性を持つ異能解放軍のメンバーだ。
この群訝山荘に集結した異能解放軍の中の、索敵担当となる。
例の我らがリーダーであるリ・デストロを騙った卑劣な動画から数日。予想された通りに憎きヒーロー達の我らへの包囲作戦が始まろうとしていた。
ヒーロー達は強く、我々は追い詰められている。
だがしかし、それでも我々はタダでは負ける訳にはいかない。
我々が信じる素晴らしい解放思想。それを世に送り出し浸透させる為にも、ここで簡単に負ける訳にはいかないのだ。
最後には負けたとしても、ここでヒーロー達にも甚大な被害を与え、解放思想の偉大さを世に知らしめるのだ。
後の世での解放思想を根付かせるためにも、ここで我々は死兵となりヒーローと戦わねばならない……
そんな思いで索敵を続ける俺………
そんな俺の耳に、これは女の子?幼い……もしや学生?ヒーロー候補生らしき女の子の声が聞こえてきた。
……それは、どこかとても申し訳なさそうな声で……まるで、自分がこれから俺達異能解放軍に与える被害……その大きさを悔やむような、そんな声で……
『突然こんなこと言って、ごめんねノコ。
実を言うと、異能解放軍はもうダメノコ。
でも本当ノコ。
……
この言葉と同時に、特殊なキノコの胞子を群訝山荘に風に乗せて飛ばしてるノコ。
つまり、今のこれが終わりの合図ノコ。
程なくヴィランさん達全員の呼吸器官に大きめのダメージが来るので気をつけてノコ。
それから少しだけ間をおいて、トップヒーロー達のガチの襲撃が始まるノコ』
「……………………………は?」
今……この子は、なんて?
判断が遅れたのは僅か数瞬。
しかし!!
「ごほ!!ごほぉ!!!」
突如!!喉!!というか呼吸するだけで呼吸に関わる全ての場所に凄まじい痛みが襲いかかってきて!!
「な!!何だこれは!!ごほぉ!!」
しかも俺だけではない!!俺以外の異能解放軍の仲間達も同じように息をするだけで凄まじい痛みに襲われているようだ!!
何だこれは!!まさか!!先ほどの声の主の個性による攻撃か!?
そんな俺と同様の事を考えた多くの仲間達が!!
「ごは!!くそ!!ヒーロー共の個性攻撃か!!」
「このままじゃ不味い!!ごほ!決死隊を出す!!」
「まずは!ぐっ!!この個性攻撃を止めるぞ!!」
激しい痛みに耐えながらも、この惨状を引き起こしたヒーローを殺す為に山荘を出てヒーロー達へと決死の攻撃をしかけようとし、
『『個性合体!!スパイラル!マッド!!』』
「「「「「ぎゃあああ!!!!」」」」」
泥のようになりドリルで撹拌される地面に飲み込まれ、その全ての仲間が動きを封じられていた!!
「ごほ!!……あ……うわ……ごほ!!」
何だこれは!!何だこれは!!何だこれは!!
状況的には毒ガスか?
冗談じゃない!!
「毒ガス的な個性攻撃しかけてきて!!止めるために飛び出した大勢の敵を地形破壊攻撃で殲滅するとか!!ヒーローのやることかぁ!?!?!?」
こうして後世、群訝山荘の決戦と呼ばれる戦いが始まった。